Q3 日本の大学の現状について、「授業に出席しなくても単位が取れる」「勉強しなくても簡単に卒業できる」などの声を耳にしますが、これについて大学はどのような対策を講じているのでしょうか。

 これまでの我が国の大学に対する評価の中に、大学では適切な卒業認定が行われておらず、学部卒業者として期待される教育内容がきちんと身に付いていない場合があるのではないかとの指摘があります。大学は人材養成の役割を担うことから、そうした指摘を受けることがないよう、学生に対して教育目標を明示し、その目標に向けた計画的な学修を可能とする環境を提供した上で、適切な成績評価・卒業認定を行うことにより、学生の卒業時における質の確保を図るという充実した教育活動を行うことが、大学の社会的責務として求められています。

授業の設計と教員の教育責任

 我が国の大学教育は単位制度を基本としており、1単位あたり45時間の学修を必要とする内容をもって構成することが標準とされています。ここでいう1単位あたりの学修時間は、授業時間内の学修時間だけではなく、その授業の事前の準備学修・事後の準備復習を合わせたものとなっています。
 こうした単位制度のもとでは、大学生は、単に大学の教室で授業を受けるだけでなく、教室外での自主的な学修を行うことが求められます。また、各大学では、それぞれの授業で単位数に応じた授業時間を適切に確保することが必要となるほか、学生の授業外での学修を促すことも重要といえます。
 このため、大学は学生に対し、シラバス等により、それぞれの授業の年間スケジュールや毎回の講義内容を詳細に明示し、講義の前提として読んでおくべき文献を指示することなどにより、学生の準備学修・復習について適切な指示を与えることが求められます。また、大学での授業内容についても、単に授業に出席しさえすれば授業内容が全て理解できるようなものとするのではなく、授業外の学修を行うことを前提として設計することが求められます。大学の国際化が進展する中、1単位あたりの学修時間を確保するための取組は、我が国の大学で授与された学位や単位等が他の国で適切に評価されるための重要な基礎であり、我が国の大学教育の国際的な質保証にもつながるものといえます。
 このような中、各大学においては、シラバス等において各回の詳細な授業内容や授業外の学修に関する具体的な指示を与えるといった取組が行われています。
 また、こうした授業等の改善も含め、教員の教育活動に対するインセンティブを高める観点から、教員の業績評価及び顕彰に取り組む大学も見られます。
 文部科学省においても、平成19年に大学設置基準を改正して、大学は学生に対して、授業の方法及び内容、一年間の授業の計画をあらかじめ明示するものとするなど、大学の取組を促す方策を講じています。

(参照条文)

○大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抜粋)

第21条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。
三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合については、その組合せに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
3 (略)

第25条の2 大学は、学生に対して、授業の方法及び内容並びに一年間の授業の計画をあらかじめ明示するものとする。

「シラバス」とは

 授業科目の詳細な授業計画のことをシラバスと言い、授業名、担当の教員名、講義の目的、到達目標、各回の授業内容、成績評価の方法や基準、準備学習の内容や目安となる時間についての指示、教科書・参考文献、履修条件などを記載することが期待されます。シラバスは、学生に科目選択のための情報を提供する役割のほか、授業期間全体を通じた授業の進め方を示すとともに、各回の授業に求められる予習についての具体的指示を提供するという役割があり、後者の役割を充実していくことが重視されています。

全ての授業科目でシラバスを作成している学部を持つ大学

シラバスの具体的内容(学部段階・平成21年度)

教員の教育面における業績評価・顕彰を実施している大学

履修科目登録の上限設定

 「授業の設計と教員の教育責任」の項でも触れたように、我が国の大学における1単位の授業科目は45時間の学修を必要とする内容をもって構成されることが標準とされていることから、一定期間に受講できる授業科目の数には自ずから一定の限界が生じます。したがって、履修登録された科目に対応した適切な学修時間の確保のためには、過剰な授業科目の履修登録を防ぐことが必要となります。
 このため、文部科学省においても、平成11年度に大学設置基準を改正し、各大学は、学生が1年間あるいは1学期間に履修科目として登録できる単位数の上限を設定するよう努めることとするなどにより、各大学の取組の促進に努めています。
 こうした履修科目登録の上限設定に関する各大学の取組は進んできており、その実施大学数は、平成15年度に399大学(全大学の約58パーセント)であったものが、平成23年度には562大学(全大学の約76パーセント)に増加しています。
 各大学は、引き続き、こうした履修科目登録の上限設定等の取組を通じて、適切な学修時間の確保に努めることが求められます。

学部段階において履修単位の登録上限を設定している大学

 (参照条文)

○大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抜粋)

第27条の2 大学は、学生が各年次にわたつて適切に授業科目を履修するため、卒業の要件として学生が修得すべき単位数について、学生が一年間又は一学期に履修科目として登録することができる単位数の上限を定めるよう努めなければならない。

成績評価基準の明示とGPA制度の活用

 大学の社会的責任として、学生の卒業時における質の確保を図るためには、まず、養成しようとする人材像を定めるとともに、そうした人材を養成するための教育課程を体系的に編成することが求められます。その上で、各授業科目の教育課程の中での位置づけを明確にするとともに、各授業科目で学生が何を学び、何を身につけることが求められるのかを明示することが求められます。
 そして、大学が教育課程を通じて着実に人材を養成していくための具体的な方策として、シラバス等における成績評価基準の明示や、その基準に基づく客観的な成績評価を行うことが重要といえます。
 その際、GPA制度を導入し、GPAの値が一定値以下の学生に対し進級・卒業制定、退学勧告等の指導を行うことや、逆にGPAの値が一定値以上となった学生を表彰する、あるいは学生の早期卒業を認めるといった方策を採ることは、学生の学修意欲を喚起する観点から有効といえます。
 また、個々の学生のGPAだけを算出するのではなく、授業科目別に履修者全員のGPの平均値を算出し、その比較等を行うことで、成績評価が著しく易しい、あるいは著しく厳しい授業科目がないかどうかを分析することもできます。各大学でそうした分析が行われることにより、各授業科目における成績評価基準の平準化、あるいは更なる明確化、厳格化に向けた検討も進むものと考えられます。
 こうしたGPA制度は、平成23年度現在、学部段階で453大学(約61パーセント)で導入されていますが、学修指導や奨学金・授業料免除の基準としての活用が主であり、進級・卒業等の要件や授業科目の成績評価基準の平準化といった面での活用は、あまり進んでいません。今後はそうした面でも積極的にGPA制度を活用していくことが、大学教育の質保証の観点から求められるといえます。

学部段階においてGPA制度を導入している大学

学部段階におけるGPA制度の具体的運用方法(平成23年度) 

学部段階で、GPAの算出の際に不可の科目のGPを含めている大学

(いずれも大学院大学22大学(国立4、公立2、私立16)は対象外です。)

(参照条文)

○大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抜粋)

第25条の2 第2項 大学は、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たつては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがつて適切に行うものとする。

「GPA制度」とは

 アメリカで行われている学生の成績評価方法の一種です。その一般的な取扱いの例とされているものは、以下のとおりです。

  1.  学生の評価方法として、授業科目ごとの成績評価を5段階(A、B、C、D、E)で評価し、それぞれに対して4、3、2、1、0のグレードポイントを付与し、この単位当たり平均(GPA、グレード・ポイント・アベレージ)を出す。
  2.  単位修得はDでも可能であるが、卒業のためには通算のGPAが2.0以上であることが必要とされる。
  3.  3セメスター(1年半)連続してGPAが2.0未満の学生に対しては、退学勧告がなされる。(ただし、これは突然勧告がなされるわけではなく、学部長等から学習指導・生活指導等を行い、それでも学力不振が続いた場合に退学勧告となる。)

 なお、このような取扱いは、1セメスター(半年)に最低12単位、最高18単位の標準的な履修を課した上で成績評価して行われるのが一般的となっています。

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高等教育局大学振興課大学改革推進室

(高等教育局大学振興課大学改革推進室)

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