令和6年8月26日
文部科学省
地球温暖化、エネルギー問題、食料問題などの地球規模の課題が深刻化している中で、地球を地球システムという人類の共有財産(グローバル・コモンズ)として守り、育てていくことが重要となっている。GX(Green Transformation)社会の実現に向けて脱炭素・循環型社会の重要性が増すとともに、社会全体のDX(Digital Transformation)化が進むなど、社会構造が大きく変容してきている。さらに、世界的に科学技術・イノベーションが国家間の覇権争いの中核となる中、研究開発の強化や技術流出の防止等により、技術・産業競争力の向上や、我が国独自の優位性ひいては不可欠性の確保に向けた取組を進める必要性が高まっている。
このような複雑に絡み合う社会状況・国際状況が変化する中で、科学研究を通じて、地球規模課題の解決のみならず、国民そして人類全体の将来社会への発展に貢献することが求められている。
このため、理化学研究所(以下「理研」という。)は、世界最高峰の自然科学系の総合研究機関として、多様かつ卓越した科学研究の拠点を形成し、その総合性を活かして、地球規模課題への対応をはじめとする国や社会の要請に呼応する世界最高水準の研究開発成果を生み出し(新たな価値を創出し)、我が国の科学技術・イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として活躍することが求められている。これにより、戦略的不可欠性の高い技術を創出、確保するとともに、将来の社会経済の転換、産業構造の変革機会の創出に貢献する。その際、特定国立研究開発法人である理研でなければ出来ないこと、理研であるから高い成果を挙げられると見込まれることに注力する。
上記の政策上の要請を踏まえ、理研が、世界最高峰の自然科学系の総合研究機関としての強みを活かし、学理を深化し拡げることや、科学技術・イノベーション基本計画等に掲げられた地球規模課題や社会課題に対応し、世界最高水準の研究成果を生み出し、我が国の科学技術・イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として活躍するため、以下の事項について、一層の機能強化をしていく必要があると考えられる。
1.卓越した科学研究と総合力の発揮(つなぐ科学)
分野を越えた知の糾合や新たな科学の創出により、地球規模課題の解決や将来社会への発展に貢献するため、総合研究機関の強みを活かした取組をより一層強化することが必要である。
2.国際頭脳循環のハブ形成
世界トップレベルの総合研究機関である理研は、国際頭脳循環のハブとして、世界の最先端研究の研究ネットワークの一角を占め、日本と世界をつなぐゲートウェイの役割を担い、その中で研究成果を出していくことが必要である。
3.研究環境
多様かつ卓越した科学研究の拠点を形成するため、世界中の優秀な研究者を呼び込むことが必要である。このため、世界中の優秀な研究者に魅力的な先進的研究環境を提供・展開するとともに、流動性と安定性を高いレベルで両立した研究者キャリアパスを実践することが必要である。
4.卓越した研究力をもとにフラッグシップとなる最先端大型研究基盤の整備・産学共用
理研は、産学の研究上重要であり、研究所の卓越した拠点ともなる最先端大型研究基盤の整備・高度化と共用をより一層推進するとともに、研究のDXの先駆的基盤を整備することが必要である。
5.研究セキュリティ・インテグリティの確保
基礎研究は、研究のオープン化や国際化の下で行われているが、世界的に科学技術・イノベーションが国家間の覇権争いの中核となっている中で、研究者の意図しない技術漏洩等のリスクを最小化するため、適切な研究セキュリティ・インテグリティの確保を実践していくことが必要である。理研は、研究セキュリティ・インテグリティの確保に向けた取組として、国内の研究機関の中で先駆けて担当部門を整備しているが、人材の専門性を高めていくことが必要である。
上記で述べた理研に求められる政策上の要請及び現状の課題を踏まえ、以下の措置を講ずる。
理研は、研究開発成果の最大化を第一目的とする国立研究開発法人であり、我が国唯一の自然科学系の総合研究機関として、卓越した科学研究を通じて、学理を深化し拡げることや、地球規模課題や社会課題の解決への貢献を目的としている。
理研における研究は、世界的に新たな研究領域の機動性ある重点的な開拓、地球規模課題への対応をはじめとする国や社会からの要請に応じた研究などであり、長期性・不確実性・予見不可能性といった研究開発の特性を踏まえて中長期目標を策定する必要があることから、前回同様に、中長期目標期間を7年とする。
次期中長期目標においては、以下に示す事項を踏まえた上で、理研の果たすべき役割を記載することとする。また、目標の達成度に係る客観的かつ明確な評価を行う観点から、達成すべき内容や水準等をそれぞれの分野の特性に応じて具体化した指標を設定することとする。
理研は、世界最高峰の自然科学系の総合研究機関として、多様かつ卓越した科学研究の拠点を形成し、その総合性を活かして、地球規模課題への対応をはじめとする国や社会の要請に呼応する世界最高水準の研究開発成果を生み出し、我が国の科学技術・イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として活躍することが期待されている。その際、特定国立研究開発法人である理研でなければ出来ないこと、理研であるから高い成果を挙げられると見込まれることに注力する。
1.経営の高度化
〇戦略的経営の強化
理研の総合力を一層強化し最大限に活かせるよう、経営層と研究現場、研究分野を越えた組織間を円滑につなぎ、運営方針が組織全体に的確に浸透する研究運営体制として領域を構築する。
〇知的アセットのマネジメント機能の強化
研究開発成果の最大化に向けて、研究者が存分に研究に専念できる環境を構築する。特に、国際連携や産学連携の戦略性の強化、研究成果に関する知的財産管理や社会実装・起業への支援、理研の活動や研究開発成果を効果的に発信する取組が重要であるため、法務・コンプライアンス、国際連携、広報などに高度な専門人材を配置するなどの知的アセットのマネジメント機能の抜本強化を行う。また、研究所のブランド力・価値を高めるため、ターゲットを明確にした戦略的なプロモーションを進める。
2.現状の課題に対する対応
〇卓越した科学研究と総合力の発揮(つなぐ科学)
理研は、我が国の科学技術・イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として、卓越した科学研究を通じて、学理を深化し拡げることや、科学技術・イノベーション基本計画をはじめとする国家的・社会的要請に対応するため、戦略的な研究開発を行い、世界最高水準の研究開発成果の創出を目指す。
これまで培ってきた以下の研究分野について、卓越した科学研究を通じて、更に発展させる。
また、研究分野を越えた知の糾合や新たな科学の創出により、地球規模課題の解決や将来社会への発展に貢献するため、総合研究機関の強みを活かすとともに理研の最先端の研究の研究基盤等を活用する、以下の枠組みにより、つなぐ科学を推進する。
・総合力を最大限に活かして、社会状況や科学技術を取り巻く環境にあわせて変化する政策課題に機動的かつ横断的に対応することを目的とした研究を実施する仕組み
・最先端の学理をつなぎ、学理の再構築・再体系化や新たな研究領域を開拓することを目的とした研究を実施する仕組み
さらに、AIの進展に伴い、AIとあらゆる研究分野が融合することにより、科学研究が飛躍的に発展し加速することが見込まれる。これらの研究を効果的に推進するための理研全体の仕組みを設ける。
(研究分野)
・革新知能統合研究
・数理創造研究
・生命医科学研究
・生命機能科学研究
・脳神経科学研究
・環境資源科学研究
・創発物性科学研究
・量子コンピュータ研究
・光量子工学研究
・加速器科学研究
・開拓研究
〇日本と世界のトップレベル研究機関をつなぐゲートウェイの構築
理研は、世界の最先端研究の研究ネットワークの一角を占め、国際頭脳循環のハブとして、先進的な科学研究に取り組み、日本と世界のトップレベル研究機関をつなぐゲートウェイの構築の役割・機能を果たすことが求められている。このため、研究の先進性を有する国の研究機関との組織的な連携、海外での研究拠点の形成や、海外で活躍している卓越した研究者の招聘、若手をはじめとした研究者の海外での積極的な研究活動の機会創出などを戦略的に推進する。これらの推進に当たっては、研究セキュリティ・インテグリティを確保していくことが重要である。
〇世界最高水準の研究成果を創出する魅力的かつ先進的な研究環境の整備
理研は、世界最高峰の研究機関として発展していくため、世界最高水準の研究成果を創出する魅力的かつ先進的な研究環境を整備することが求められている。このため、研究者が中長期的な視野にたって、研究に専念できる環境が確保されるよう、流動性と安定性を高いレベルで両立した、他の研究機関の模範となる、魅力的かつ先進的な研究人事システムを整備する。これにより、若手研究者ポストを中長期的に増加させるとともに、卓越した研究者を持続的に確保する。あわせて、女性研究者や外国人研究者等が存分に研究活動に従事できるような研究環境の整備などを行い、ダイバーシティを計画的に推進する。
〇卓越した研究力をもとにフラッグシップとなる最先端大型研究基盤の整備・産学共用
理研の卓越した拠点であり、産学の研究上重要でもある、スーパーコンピュータ、大型放射光施設の最先端大型研究基盤を着実に整備し、共用を推進するとともに、高度化・利活用研究を進める。また、スーパーコンピュータと量子コンピュータとのハイブリッドコンピューティングによる計算可能領域の拡張に向けた取組を進める。さらに、ライフサイエンス分野の研究を支えるバイオリソース基盤を着実に整備・提供するとともに、高度化、利活用研究を推進する。以下の各研究基盤によるこれらの取組を通じて、理研内外での優れた研究開発成果の創出及びその最大化を目指す。また、研究のDXの先駆的基盤として、科学研究向けのAI基盤モデルの整備・高度化を行い、理研の卓越性を社会変革のエンジンとして国内・国際社会へ広く提供し、多様な分野における科学研究の革新とともに、日本の成長機会を創出する。
(研究基盤)
・計算科学研究
・放射光科学研究
・バイオリソース研究
〇研究セキュリティ・インテグリティの確保
研究セキュリティ・インテグリティの確保は、全ての研究者にとって自由に安心して研究に打ち込める環境を整備するためのものである。このため、国の方針等を踏まえ、機微技術・情報の流出防止措置などの研究セキュリティ・インテグリティの確保を徹底するための適切な対応を講じる。
3.その他重点事項
〇関係機関との連携強化等による研究開発成果の社会展開の推進
知識集約型社会における成長の源泉となる学知を生み出し、研究開発成果の活用及び社会展開を推進するため、産業界との組織対組織の連携による産学協創を推進するとともに、研究開発成果の橋渡し機能を強化する。特に、ディープテックスタートアップ創出のエコシステムの構築に向けて機能強化する。また、産業界等を対象に、理研の最先端の技術、研究開発成果、研究基盤や研究設備などの研究資源を提供する。それらの取組を通じ、将来の社会経済の転換、産業構造の変革機会の創出に貢献する。
大学等との連携については、クロスアポイントメント等を効果的に活用する。また、理研の持つ研究インフラの開放を通じた研究の場の提供、転出者に対する継続的な研究活動の支援を通じた新たな連携の創出等により、大学等との連携を拡大し、アカデミア全体の活性化に貢献する。
〇人件費の適正化
適切な人件費の確保に努めることにより世界最高水準の研究機関として発展すべく、政府の方針を踏まえ、必要な措置を講じる。優秀な研究者や研究推進支援人材(研究マネジメント人材、知財マネジメント人材等)については、科学技術・イノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として、国際競争力を確保するため、国際水準を踏まえた弾力的な給与を設定する。その際、国民に対して納得が得られる説明に努める。
〇財務内容の改善に関する事項
理研は、予算の効率的な執行による経費の削減に努めるとともに、積極的に、自己収入や競争的研究費等の外部資金の確保や増加、活用等に努める。
研究振興局基礎・基盤研究課