独立行政法人日本学生支援機構見直し内容

 令和5年8月25日
文部科学省

1.政策上の要請及び現状の課題

(1)政策上の要請

 独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)は、奨学金事業、留学生支援事業、学生生活支援事業を通して、次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な優れた人材を育成するとともに、国際理解・交流を図ることを目的とする、学生支援のナショナルセンターである。
第4期中期目標期間においては、令和元年に大学等における修学の支援に関する法律が成立し、授業料等減免と給付型奨学金を併せて実施する「高等教育の修学支援新制度」が令和2年度に開始される等、学生支援の重要性や、その中での機構の役割は年々高まっている。
我が国においては、急速な少子化・人口減少が進み、2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるラストチャンスと言われる中、次元の異なる少子化対策の実現に向けた「こども未来戦略方針」(令和5年6月閣議決定)において、高等教育費の負担軽減として、令和6年度から、
・授業料等減免及び給付型奨学金の多子世帯や理工農系の中間層への支援対象の拡大
・大学院修士段階における授業料後払い制度の導入
・貸与型奨学金における減額返還制度の見直し
等が掲げられており、機構は、奨学金事業の充実を通じて、その中心的な役割を果たす必要がある。
 また、コロナ禍で停滞したグローバルレベルでの人流に回復の兆しが見られ、世界各国が国境を越えた人材獲得を進める中、我が国はコロナからの回復にすら遅れを取っている状況にあり、人的交流の活性化が急務となっている。
教育未来創造会議においてとりまとめた「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)」(令和5年4月教育未来創造会議決定)において
・各国の学生の留学を巡る諸情報の収集・分析・リクルーティング戦略立案機能の強化
・単位認定を伴う中長期留学や海外大学で学位取得を目指す学生への支援の充実
等が掲げられており、機構においても、留学生支援事業による必要な対応が求められている。
 さらに、我が国における障害のある学生(以下、「障害学生」という。)の数は十年で約4倍に増加している中、令和3年に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律が成立し、令和6年度から、私立学校を含む全ての大学等において障害学生に対する合理的配慮の提供が法的義務となる状況において、機構においても障害学生支援の更なる推進に取り組んでいく必要がある。

(2)現状の課題

 このような現状を踏まえ、機構は以下に示すような経営課題に対応していくことにより、様々な社会的要請に応え、学生支援に資する施策を実施することが求められる。
 
・奨学金について、政府方針に基づく事業規模の拡大や前述の制度改正に着実に対応し、意欲と能力がありながら、経済的理由により修学が困難な学生等を的確に支援すること。
・前述の制度改正や企業による代理返還制度等を含め、奨学金制度の周知・広報を進めるとともに、奨学金の適切な利用について理解増進を図ること。
・国際情勢が刻一刻と変化する中、留学生交流を推進する上で、戦略的な外国人留学生の受入れ及び日本人留学生の派遣が求められていることを踏まえ、事業執行に必要なデータ等のみならず、諸外国の動向等の戦略立案に必要な情報収集や情報分析等を行う体制を強化すること。
・意欲と能力のある学生が留学の機会を得られるよう、政府方針を踏まえ、留学に係る奨学金制度や大学等の留学生交流の支援、多様な情報発信を進め、外国人留学生の受入れや日本人学生等の留学支援を推進すること。
・障害学生が年々増加し、全ての大学等において障害学生に対する合理的配慮の提供が法的義務となる状況の中、大学等における障害学生支援の取組を促進すること。
・学生の就職・採用活動の早期化・長期化の是正及び学生の学修時間の確保に十分留意しつつ、採用形態・キャリアパスの多様化やグローバル化の推進を念頭に産学で合意された新たな類型に基づくインターンシップをはじめとした学生のキャリア形成支援に係る取組の促進を図ること。
・高度化・複雑化する業務に適切に対応するため、職員の処遇の適正化及び労働環境の一層の改善等を通じ、多様な専門性を持つ人材の確保・育成を図るとともに、職員のモチベーションの向上に向けて継続的に取り組むこと。また、そのために、経営層のガバナンスの下で、業務の特質に応じた体制を整備する等、適切な業務運営に努めること。

2.講ずるべき措置

 上記で述べた機構に求められる政策上の要請及び現状の課題を踏まえ、以下の措置を講ずる。

(1)中期目標期間

 機構が実施する学生支援業務は、奨学金の貸与や支給など長期的視点に立って行われる必要があることから、中期目標期間を5年とする。

(2)中期目標の方向性

 今中期目標期間に行ってきた事務・事業を継続して実施することを基本とし、以下の内容については、次期中期目標において重要事項として位置づける。

○奨学金事業
・給付型奨学金の多子世帯や理工農系の中間層への支援対象の拡大、大学院修士段階における授業料後払い制度の導入、貸与型奨学金における減額返還制度の見直し等、政府方針に基づく高等教育費の負担軽減に係る新たな施策を着実に進める。
・経済的支援を必要とする学生等に対して、奨学金の支給及び貸与を的確に実施するとともに、ユーザビリティの向上に努める。
・大学等と連携し、奨学生としての学業精励の自覚を促すとともに、返還意識の涵養を図る。また、減額返還制度、返還期限猶予制度等のセーフティネットの理解・活用を促進し、返還が困難な者の返還負担を軽減しつつ、返還金の着実な回収や延滞の防止に努める。
・SNS等の多様な媒体や、スカラシップ・アドバイザー派遣事業、コールセンター機能等を活用しつつ、前述の制度改正や企業による代理返還制度等の新たな制度を含め、学生・保護者・学校関係者・返還者等への分かりやすい情報の提供に努める。
・給付や返還が完了した奨学生とのつながりやネットワークの構築に向けた取り組みを進め、制度への理解増進や寄附金等による支援の拡大等、事業の活性化につなげる。
 
○留学生支援事業
・外国人留学生の受入れについて、政府方針を踏まえつつ、諸外国の留学に関するデータの収集や現地の教育の状況、留学を巡る社会経済的状況、政策動向等の情報収集・分析を行うための体制を強化する。
・日本人学生の海外留学について、政府戦略を踏まえ、各種奨学金制度や情報提供、留学後のフォローアップ等の適切な実施により、日本人留学生の派遣を強化する。
・外国人留学生の受入れについて、上述の情報収集・分析機能を踏まえ戦略の立案機能を強化し、関係機関との連携の下、学生の早期からのリクルートや広報・情報発信、各種奨学金制度の適切な実施、卒業・修了後の就職支援等までの留学前から就職・帰国後までの一貫した支援を行う。
・支援を受けた留学経験者とのつながりやネットワークを強化し、留学の魅力に係る情報発信の強化や寄附金等による海外留学支援の拡大等、事業の活性化につなげる。
・日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律に基づく、認定日本語教育機関に係る情報の海外への発信を実施する。
 
○学生生活支援事業
・学生生活、学生生活支援に関する調査・分析を行い、先進的な取組や喫緊の課題について大学等の理解・啓発に資するよう情報提供等を実施する。
・障害学生支援における問題の把握・分析・情報提供等を総合的に実施し、大学等における支援体制の全体的な底上げを図る。
・キャリア教育・就職支援の推進のため、各大学等の教職員の資質向上や大学等と企業等のネットワーク構築に資するよう、全国規模のガイダンスや様々な課題に対応したワークショップ等を実施するとともに内容の充実を図る。また、産学連携による教育的効果の高いインターンシップをはじめとして、産学協議会により示された新たな類型に基づく学生のキャリア形成支援に係る取組が推進されるよう、専門人材の育成に向けたセミナーの開催や好事例の収集・発信等を行い、各大学等と企業等との取組を支援する。
 
○業務運営及び財務内容等に関する事項
(人材の育成・活用の促進)
・業務が多様化・複雑化する中、奨学金事業における金融・債権管理・税制等の専門性や、留学生事業における諸外国の情報収集・分析及びリクルーティング戦略立案等を行える多様な専門性を持つ人材の育成・確保に向け、職員の処遇の適正化及び労働環境の一層の改善等の取組を進める。
・大学等と連携し、職員が学生等や学校関係者と接する機会を拡大し、学生支援業務の意義や貢献を実感することや、業務への自発的な関わり等が推進される職場環境の構築等を通じて、職員のモチベーション向上に向けて継続的に取り組む。
 
(運営体制の整備・業務の効率化)
・業務が高度化・多様化する中、政府方針に基づく奨学金の制度改正等に着実に対応するため、効率的な業務運営に努めつつ、必要となる運営体制や職場環境を整備する。その際、複雑化する政策課題に対応するため、引き続き、組織間の連携により柔軟な業務運営に努める。
 
(情報セキュリティ対策の推進)
・引き続き、「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」に基づき機構が定めた情報セキュリティ対策の基本方針及び対策基準等に従って、高度化・複雑化するサイバー攻撃への対策等、必要な情報セキュリティ対策を推進する。
 
(寄附金の活用の促進)
・学生支援の更なる充実のため、寄附金募集に係る広報等を推進し国内外からの寄附金の拡大を図るとともに、災害支援金をはじめとした、多様な困難を抱える学生等への支援策への活用を引き続き促進する。
 

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高等教育局学生支援課