独立行政法人日本芸術文化振興会見直し内容

   令和4年8月26日
文部科学省
 

1.政策上の要請及び現状の課題

(1)政策上の要請

 独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」という。)は、芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動その他の文化の振興又は普及をはかるための活動に対する援助を行い、あわせて、我が国古来の伝統的な芸能(以下「伝統芸能」という。)の公開、伝承者の養成、調査研究等を行い、その保存及び振興を図るとともに、我が国における現代の舞台芸術(以下「現代舞台芸術」という。)の公演、実演家等の研修、調査研究等を行い、その振興及び普及を図り、もって芸術その他の文化の向上に寄与することを目的としている(独立行政法人日本芸術文化振興会法第3条)。
 「文化芸術基本法」(平成13年法律第148号)が平成29年6月に改正され、文化芸術の振興にとどまらず、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業その他の関連分野における施策を法律の範囲に取り込むとともに、文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承、発展及び創造に活用することが目指されるなど、文化芸術の重要性は一層高まっており、本法人にも法の基本理念(同法第2条)の実現に寄与することが求められている。
 「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律」(令和2年法律第18号)が制定され、文化資源の積極的な活用を図り、国内外の幅広い来訪者にその魅力を分かり易く紹介することで、我が国の文化観光に資することが求められている。
 それらを踏まえ、振興会が各種事業を実施するにあたっては、国立の劇場として世界から憧れられる存在となるべく、国内外に我が国が誇る文化芸術の魅力を発信することを意識し、普及・啓発を進め、国内においても新たな担い手が形成され、伝統文化の保存・継承とともに新たな芸術活動の創造が進む好循環を形成することが必要とされている。
 劇場の運営については、昨今、いまだに世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症の拡大により、人々の価値観が変化している中、国内外の感染状況を十分見極めた上で適切な対策を講ずるとともに、「新しい生活様式」に対応した劇場のあり方を確立していくことが必要とされている。
 また国立劇場、国立演芸場、伝統芸能情報館については、令和5年10月末をもって閉館し、PFI事業による再整備を進めることになっている。再整備期間中においても我が国古来の伝統的な芸能の保存振興を図るために、国立劇場等が果たしてきた機能を継続していくとともに、今後他の劇場施設についても老朽化が見込まれることから、長期的な視点で改修計画を検討することが必要とされている。

(2)現状の課題

 振興会は以下に示すような現状課題に対応していくことにより、様々な社会的諸要請に応え、芸術その他の文化の振興を図ることに資する施策を実施することが求められる。
 
・我が国の文化芸術活動に対する援助に関する中核的な拠点として、アーツカウンシル機能(専門家による助言、審査、評価等)の強化を図ること。
・振興会がより幅広く多くの国民に鑑賞機会を提供していくため、新たな観客層の開拓・育成等を図ること。
・再整備された国立劇場が、我が国が誇る文化芸術の魅力を世界に発信し、文化観光の中核的拠点として機能するように、国立劇場としてふさわしいあり方を検討すること。
・現代舞台芸術分野においては、国内で優れたアーティストが切磋琢磨する環境を醸成すること。
・振興会が所蔵する公演映像等の各種資料についてデジタルアーカイブ化を推進し、動画配信・公開・利用を促進するとともに、我が国の優れた舞台芸術公演について、外部の関係機関と連携協力体制を構築しつつ、情報発信を行うセンター機能を導入すること。
・伝統芸能分野の課題解決に向けて振興会が主導的な役割を果たし、そのうえで伝統芸能分野の養成研修については、応募者の増加と研修生の就業定着を図ること。
・公演事業における収支の改善を図るとともに、多様な財源の獲得に努めること。
・法人が使命を果たしていくうえで必要な人材の専門性を一層高度化させるため、外部機関との交流及び外部人材との連携や多様な働き方の活用を進めること。

 

2.講ずるべき措置

(1)中期目標期間

 振興会が実施する業務は、芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動その他の文化の振興又は普及をはかるための活動に対する援助を行い、あわせて、我が国古来の伝統芸能の公開、伝承者の養成、調査研究等を行い、その保存及び振興を図るとともに、我が国における現代舞台芸術の公演、実演家等の研修、調査研究等を行い、その振興及び普及を図り、もって芸術その他の文化の向上に寄与することを目的として事業を実施しており、長期的視点に立って行われる必要があることから、中期目標期間は5年とする。
 

(2)中期目標の方向性

 今中期目標期間に行ってきた事務・事業を継続して実施することを基本とし、以下の内容については、次期中期目標において重要事項として位置付ける。

〇文化芸術活動に対する援助の効果的な実施
1.アーツカウンシル機能が行う助成事業は、文化芸術に対する国の支援施策や社会状況を踏まえ定期的に再整理するとともに、適切な組織体制の再編・強化を行い、芸術団体に対して長期的・統一的な視点から自律的・持続的発展を目指す伴走型支援が可能となるように見直しを図る。
2.文化芸術に対する国の支援施策や社会状況を踏まえた、専門人材の計画的配置をすすめる。その際には、他の独立行政法人等の専門機関や団体と連携して人員を配置するなど、アーツカウンシル機能の強化に向けた協働体制を確立・強化する。
 
〇伝統芸能の公演及び現代舞台芸術の公演に関する見直し
1.我が国における伝統芸能の保存・振興及び現代舞台芸術の振興・普及の中核的な拠点として、幅広く多くの人が鑑賞することができるよう、公演の配信を含むデジタル媒体の活用により、新たな観客層の開拓等に努める。
2.ナショナルシアターとして我が国の劇場・音楽堂等を牽引する役割を果たすとともに、文化振興を観光振興と地域の活性化に着実につなげていくため、関係省庁、独立行政法人、地方公共団体等との連携をより一層強化していく。
 
〇伝統芸能の伝承者の養成及び現代舞台芸術の実演家その他の関係者の研修に関する見直し
1.現在は個別に業務を行っている歌舞伎俳優・歌舞伎音楽、大衆芸能、能楽、文楽の各分野を横断的に所管する体制を整備し、戦略的な広報を行うことで、養成事業に関する国民の認知度を高めるとともに、伝統芸能分野の課題について、振興会が主導して伝統芸能分野の関係団体等とともに改善方策を検討し、研修生に対する支援を充実させ研修生の修了後の就業定着を図る。
2.新国立劇場において、意欲的・先進的なグローバルコンテンツを制作し、世界に発信することで、国際的なプレゼンスの向上を図る。現代舞台芸術の研修については、世界に羽ばたく実演家を養成するため、研修環境のさらなる充実を進める。また、新国立劇場で活動するアーティストの活動環境の改善を図り、国内外のトップレベルアーティストが集まり切磋琢磨する環境構築を推進する。
 
○伝統芸能及び現代舞台芸術に関する調査研究等の成果の活用
  調査研究成果のより一層の活用を図るべく、新たな舞台映像コンテンツの制作、映像配信に係る権利処理、広報・宣伝等を行うため、外部機関と連携して、有料配信も可能な映像制作や、教育のデジタル化に資するための映像コンテンツ等を制作し、配信やデジタル教科書への素材提供等を行うことにより、伝統芸能及び現代舞台芸術の普及とともに、新たな財源の確保に努める。また、舞台芸術分野における国立の機関としての役割を果たすために、舞台芸術に関する外部機関とのネットワーク構築を推進する。
 
○財務内容の改善に関する見直し
1.公演収支を分析し、ターゲットを明確にした誘客につながる魅力的な公演プログラムの制作や入場料金の見直しを行うとともに、収益の確保と経費削減につながるよう公演規模や公演形態の見直しを図る。また、その他の収益事業についても収支を分析し、随時見直しを図る。
2.「新しい生活様式」を踏まえた事業展開に伴う収益の獲得や、保有財産の有効活用、SDGsへの貢献を果たすためのクラウドファンディングを活用した資金獲得など、運営費交付金等の国費のみに頼らない財務構造へのシフトを目指す。
 
○その他業務運営に関する見直し
1.法人の目的・使命を果たし、国際的プレゼンス向上を推進するため、外部人材との連携を図るとともに、クロスアポイントメント制度や兼業等の多様な働き方の活用を促すことに加え、外部機関との人事交流を積極的に行うことにより、施設経営、デジタル、国際発信など多様な分野に対応できる人材を養成・確保する。
2.施設ごとではなく、法人として横断的に業務管理できるよう組織を見直し、業務の量や質を考慮した人員配置を実施する。
3.適時適切に社会的要請に応えられるよう、中期目標管理法人の有識者会合による日本芸術文化振興会の業務運営や活動全般の確認結果も踏まえ、望ましい対応の方向性を検討する。

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文化庁企画調整課