国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構見直し内容

令和4年8月26日
文部科学省
原子力規制委員会

1. 政策上の要請及び現状の課題

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下「本法人」という。)は、量子科学技術に関する基礎研究及び量子に関する基盤的研究開発並びに放射線の人体への影響、放射線による人体の障害の予防、診断及び治療並びに放射線の医学的利用に関する研究開発等の業務を総合的に行うことにより、量子科学技術及び放射線に係る医学に関する科学技術の水準の向上を図ることを目的とする法人である。
 「量子技術イノベーション戦略」(令和2年1月統合イノベーション戦略推進会議決定)において、量子技術は、我が国の経済・社会等を飛躍的・非連続的に発展(Quantum Leap)させる鍵となる革新技術(コア技術)と位置付けられ、同戦略では、量子技術に関する成果を産業化・事業化等に結び付けるための方策の一つとして、基礎研究から社会実装まで取り組む「量子技術イノベーション拠点」(以下「量子拠点」という。)を整備することとされている。
 特に、量子技術と生命・医療等に関する技術を融合した「量子生命技術」は、健康長寿社会を実現する上で極めて大きな波及効果が期待されており、本法人は当該技術領域の推進を担う量子拠点として指定されている。また、同戦略策定以降の量子産業の国際競争の激化等の量子技術を取り巻く環境の変化等を踏まえて策定された「量子未来社会ビジョン」(令和4年4月統合イノベーション戦略推進会議決定)においては、量子コンピュータ等の量子デバイスの基幹材料である量子マテリアルの研究開発や安定的な供給等の中核を担う「量子機能創製拠点」として本法人が指定され、量子拠点としての機能を拡大し、その役割を果たすことが求められている。
 放射線の医学的利用については、本法人が我が国を主導して重粒子線がん治療の研究開発や、認知症の診断、治療に向けたイメージング技術や薬剤の開発を進めてきた。今後は、「健康・医療戦略」(令和2年3月閣議決定。令和3年4月一部変更)において掲げる健康長寿社会の実現のため、QST病院を有する強みを生かし、上述の量子生命技術とも融合しつつ、がん、認知症等の克服や健康寿命の延伸等に向けて、予防、診断から治療まで統合的な取組を進めることが期待される。
 本法人は、原子力規制委員会の技術支援機関(TSO)として放射線影響及び被ばく医療に係る分野の研究並びに原子力災害対策に取り組むことが期待される。
 また、原子力規制委員会により「基幹高度被ばく医療支援センター」に指定されていることから、「原子力災害対策指針」に基づき、原子力災害医療体制の充実に向けて、高度被ばく医療支援センターにおいて中心的・先導的な役割を担う機関として、被ばく医療に関する研究開発や人材育成に取り組むことも期待される。
 令和2年10月には、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すための政府方針が示され、令和2年12月に関係省庁で策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」や「第6次エネルギー基本計画」(令和3年10月閣議決定)には、核融合に関する取組が明示的に位置付けられている。本法人は、引き続き、国際協定等に基づく核融合の国際共同研究開発を着実に推進していくことが求められる。また、「持続可能な開発目標(SDGs)」(平成27年9月国連持続可能な開発サミット)をはじめとして、持続可能な社会に対する認識が近年国際的にも急速に高まっており、本法人としても、環境に優しい次世代材料・デバイスや資源循環技術等を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することが期待される。
 「新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源の整備等について」(平成30年1月18日科学技術・学術審議会量子科学技術委員会量子ビーム利用推進小委員会報告)を踏まえ、官民地域パートナーシップにて整備を推進してきた次世代放射光施設(NanoTerasu)については、次期中長期目標期間において運用開始が予定されている。本法人は国の運用主体として、産学官の連携により、各ビームラインの性能を最大限活用した幅広いユーザーの利用を推進するとともに、革新的な材料・デバイス等の創製・産業応用を推進することが求められている。
 本法人は、国立研究開発法人放射線医学総合研究所に、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の業務の一部を統合し、平成28年4月に新たに発足した法人である。これまで、その第1期中長期目標期間において、統合前の両法人が実施してきた研究開発の分野において顕著な成果を創出するとともに、理事長の強力なリーダーシップの下、複数の部門が連携して取り組む次世代の重粒子線がん治療装置の実現に向けた研究開発の推進や、「量子生命技術」といった新たな技術領域の開拓に取り組むなど、統合による効果を最大限に発揮した成果も創出してきた。
 次期中長期目標期間においては、上述のような本法人を取り巻く環境や果たすべき役割の変化を踏まえ、国内外の産学官の幅広い機関との連携により、第1期中長期目標期間において確立した本法人の基盤を更に強固にしつつ、得られた研究成果を着実に展開することで、経済・社会に新たな価値を提供し、我が国の経済成長、社会課題解決等に貢献することが期待される。また、多様な分野の研究開発等を推進する本法人の特色を生かし、異分野間の連携・融合を促進し、新たな研究・技術シーズを創出することも期待される。なお、この際には、自然科学のみならず、人文・社会科学も含めた「総合知」も活用するなど、目指すべき未来社会像に向けて、複線シナリオや新技術の選択肢を持ち、常に検証しながら進めていく必要がある。さらに、これらの本法人の使命を果たしていく上で必要となる人材の育成・確保に取り組むことも重要である。
 本法人の業務及び組織については、中長期目標期間終了時に見込まれる中長期目標期間の業績についての評価結果、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)をはじめとする政府方針及び上述の本法人を取り巻く状況を踏まえ、適正、効果的かつ効率的な業務運営の下で「研究開発成果の最大化」という国立研究開発法人の目的が達成できるよう見直すことが必要である。あわせて、「情報システムの整備及び管理の基本的な方針」(令和3年12月デジタル大臣決定。以下「整備方針」という。)、サイバーセキュリティ基本法に基づき策定された「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」(平成28年8月サイバーセキュリティ戦略本部決定。令和3年7月改定。以下「統一基準群」という。)や「サイバーセキュリティ対策を強化するための監査に係る基本方針」(平成27年5月サイバーセキュリティ戦略本部決定。平成28年10月改定)等を踏まえ、情報システムの適切な整備及び管理を行うとともに情報セキュリティ対策を講じることが求められている。

2.講ずるべき措置

(1) 中長期目標期間

 本法人は、研究開発成果の最大化を第一目的とする国立研究開発法人であり、長期的視点を含む研究開発の特性を踏まえて中長期目標を策定する必要があることから、中長期目標期間は令和5年(2023年)4月1日から令和12年(2030年)3月31日までの7年とする。

(2) 中長期目標の方向性

 次期中長期目標の策定に当たっては、以下に示す事項を踏まえた上で、本法人の果たすべき役割を具体的かつ明確に記載するものとする。また、目標の達成度に係る客観的かつ的確な評価を行う観点から、達成すべき内容や水準等を分野の特性に応じて具体化した指標を設定することとする。
 
○量子科学技術及び放射線の医学的利用に関する研究開発
 量子技術イノベーション戦略や量子未来社会ビジョン等の国家戦略で示された施策や核融合に関する国際協定等に基づく国際約束を着実に実行するため、多様な分野の技術の研究開発や高度化、社会実装に向けた取組を強力に推進するとともに、特に、以下に掲げる事項に重点的に取り組む。
 
・健康長寿社会の実現に向けて、量子技術等による生命現象の根本的な原理解明に資する知見を創出するとともに、その知見に基づき、がん、認知症等の革新的な診断・治療技術等の研究開発を推進する。また、産業界との緊密な連携の下、重粒子線がん治療、標的アイソトープ治療(TRT)、量子イメージング等の技術の高度化・普及に向けた取組を着実に進める。さらに、QST病院の機能を拡大・活用しつつ、個々の研究開発を融合し、予防から診断、治療までを統合した次世代の医療技術の実現に向けた取組を進める。
 
・我が国の経済成長を支える生産性革命や新産業創出等に向けて、量子コンピュータ、量子計測・センシング、量子ネットワーク等の実現に不可欠となる高度な量子機能を発揮する量子マテリアルの研究開発や安定的な供給基盤の構築を行う。また、高度な量子機能材料を活用しつつ、量子コンピュータ、量子生命技術も含む量子計測・センシング等に関する研究開発を推進する。スピントロニクスやフォトニクスを融合した量子技術も活用し、Society5.0社会、DXの基盤となる次世代情報通信デバイスの実現に向けた取組を進める。
 
・カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー等の持続可能な環境・エネルギー等の実現に向けて、国際協定等に基づく核融合研究開発を着実に推進するとともに、環境に優しい次世代材料・デバイスや資源循環技術の研究開発、量子技術等を活用した人工光合成などのバイオミメティクス技術に資する研究開発に取り組む。
 
 また、上述の重点的な取組を進めるにあたって、複数部門間の連携・融合を促進しつつ、社会・経済・環境が調和した持続可能な社会(SDGs)の実現に向けて、本法人全体で一体的に取り組むとともに、異分野の連携・融合による新たな研究・技術シーズの開拓に積極的に取り組む。なお、この際には、自然科学のみならず、人文・社会科学も含めた「総合知」も活用するなど、目指すべき未来社会像に向けて、複線シナリオや新技術の選択肢を持ち、常に検証しながら進めていく。
 
○放射線影響に係る研究
 技術支援機関(TSO)として、放射線による健康リスクの評価に係る知見をより充実させるための放射線影響に係る研究の推進及び当該研究分野の人材育成に取り組む。
 
○被ばく医療に係る研究
 技術支援機関(TSO)として、線量評価手法の開発・高度化を含む被ばく医療に係る研究の推進及び当該研究分野の人材育成に取り組む。
 
○原子力災害対策における、基幹高度被ばく医療支援センター、指定公共機関及び技術支援機関(TSO)の役割
 原子力災害医療の中核機関として、自らの対応能力の維持・向上に取り組む。我が国の原子力災害医療体制全体における中心的・先導的な役割を担い、同体制のより効果的な運用に資する人材育成・技術開発・技術支援に取り組む。
 
○国内外の外部機関との連携強化等、研究成果の最大化に向けた基盤的取組の推進
 次世代放射光施設(NanoTerasu)など本法人が運用・保有するプラットフォームや最先端の研究設備、研究ネットワークを最大限に活用し、産学官の外部機関との共同研究、人材交流等の連携を推進し、研究成果の社会実装を促進するための産学官連携マネジメント体制を構築する。
 核融合の国際共同研究開発や放射線に関わる安全管理、規制あるいは研究に携わる国際機関の活動への協力・人的貢献などの国際連携を推進する。
 研究員・実習生の受入れ等により、量子科学技術及び放射線の医学的利用に関する研究開発の次世代を担う人材の育成に取り組む。また、研究成果や期待される社会実装等に関する適切な情報発信により、幅広い分野からの参入促進や人材の確保を図るとともに国民の理解促進、リテラシー向上を推進する。
 
○運営の効果的かつ効率的な実施及び組織の見直し
 理事長の強いリーダーシップの下で、個別の研究分野の特性に応じた組織運営に留意しつつも、法人全体としてのガバナンスを的確に機能させるため、経営戦略の企画・立案やリスク管理等の理事長のマネジメントの支援機能を強化する。また、本法人が複数の拠点を有する観点から情報技術の活用を推進し、効果的かつ効率的な業務運営を実施する。さらに、年齢・性別等の多様性にも配慮しつつ、法人内部での人材育成、適切な人材配置に加えて、クロスアポイントメント制度等を活用した外部機関との連携・交流を推進し、本法人の使命を果たしていく上で必要となる人材の育成・確保に努める。なお、本法人の運営に当たっては、社会情勢や他国の技術動向等を踏まえた柔軟な対応を行う。
 
○財務内容に関する取組
 競争的研究資金の獲得や産学官連携等を通じた外部資金獲得等による自己収入の増加を推進し、研究開発活動の活性化や運営基盤の強化を図る。また、QST病院についても、各種医療制度の枠組みの中で適切な範囲において収入確保を図り、機構の安定的運営に貢献する。
 
○情報技術の活用及び情報セキュリティ対策の推進
 研究成果の最大化と業務運営の質の向上に資するためのデジタル技術の導入を積極的に検討し、信頼性・安全性にも考慮しつつ情報技術の活用を促進する。その際、整備方針にのっとり、情報システムの適切な整備及び管理を行うとともに、引き続き、統一基準群に沿って本法人が策定した情報セキュリティ・ポリシーに基づき、サイバーセキュリティ戦略本部が実施する監査の結果等も踏まえつつ、情報セキュリティ対策を推進する。
 

お問合せ先

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構見直し内容について

研究振興局基礎・基盤研究課量子研究推進室