国立研究開発法人防災科学技術研究所見直し内容

令和4年8月26日
文部科学省
 

1. 政策上の要請及び現状の課題

 (1)政策上の要請

 国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。)は、防災科学技術[1]に関する基礎研究及び基盤的研究開発等の業務を総合的に行うことにより、防災科学技術の水準の向上を図ることを目的とする法人である。防災科研は、数多くの自然災害の脅威にさらされている我が国において、災害の発生時等に災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく指定公共機関[2]として必要な措置を講じることとされているなど、防災への寄与において重要な役割を果たしている。
 「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)では、Society 5.0の未来社会像である「持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せを実現できる社会」に貢献するため、サイバー空間とフィジカル空間の融合による持続可能で強靭な社会への変革、新たな社会を設計し、価値創造の源泉となる「知」の創造、新たな社会を支える人材の育成に取り組むこととしている。また、頻発化・激甚化する⾃然災害に対し、少子高齢化などによる災害対応人材の不足も課題となっており、先端ICTの積極的な活用による効率化に加え、⼈⽂・社会科学の知⾒も活⽤した総合的な防災⼒の向上によりレジリエントな社会を構築することが、防災科学技術の方向性として示されている。
 「国土強靭化基本計画」(平成30年12月14日閣議決定)においては、大規模自然災害に対する国・地方公共団体・民間など関係機関の災害対応力の強化等のため、優れた技術や最新の科学技術を活用することにより、防災・減災及びインフラの老朽化対策における研究開発・普及・社会実装を推進することとされている。また、Society 5.0の実現とともに、研究機関や民間事業者における基礎技術から応用技術に至る国民の安全・安心に係る幅広い分野での社会実装に向けた研究開発の促進、国土強靱化に係る研究施設の機能強化、他目的の研究開発の国土強靱化の各分野への活用の推進により、効率的・効果的な研究開発に努めることとされている。
 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和4年6月7日閣議決定)においては、防災分野を含む準公共分野のデジタル化が掲げられており、防災分野においては、組織を超えたデータ連携に資するプラットフォームの構築や、広域的な被災状況を迅速に把握・共有するための仕組み等の研究開発を進めることが示されている。また、気候変動・レジリエンス分野について、気候変動やそれに伴う極端気象の激甚化・広域化、及び地震・津波・火山等の自然災害への対応に必要な新たな技術・価値(インテリジェンス)を創出するため、研究機関等において、観測・予測データの共有・利活用や分野横断的な研究開発を促進するデータ・解析プラットフォームの形成等を推進することとされている。
 「デジタル田園都市国家構想基本方針」(令和4年6月7日閣議決定)においては、防災・減災、国土強靱化の強化をより効率的に進める観点から、災害対応現場のデジタル化を一層推進するため、産学共創の下、防災・減災に資する適切な情報提供やデジタルツイン[3]などの最先端技術の開発等に向けた更なる環境整備を図ることが明記されている。
 防災科研は、これまで我が国における防災科学技術の中核的機関としての役割を果たしてきたところであるが、上記のような政策上の要請を背景として、その役割や取組も適切かつ柔軟に変化していくことが求められる。このため、次期中長期目標期間においては、従来の役割に加え、「総合知」[4]による防災科学技術の研究開発の中核的機関として、自然科学的手法に加え、社会科学的手法によるものも含め、デジタル技術を活用して、観測された様々なレベルの情報(DIKW[5])やシミュレーションの結果等を統合・可視化し、社会を構成する主体のニーズに合わせた情報プロダクツ[6]の創出を可能とする防災・減災分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を通じて、レジリエントな社会の実現に貢献することが重要である。
 防災科研がこれらの取組を進める際においては、文部科学省及び防災にかかわる関係省庁との緊密な連携の下、災害の予測・予防、応急対応、復旧・復興の各フェーズにおいて、国、自治体、企業、国民等の各主体のニーズを踏まえていくことが求められている。また、災害現場をフィールドとして、創出した成果の実証と研究開発へのフィードバックを繰り返しながら、防災科研がその成果を提供することを通じて、我が国の各主体における災害への対応能力を向上させる役割を果たしていくことが求められている。
 


[1] 天災地変その他自然現象により生ずる災害を未然に防止し、これらの災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及びこれらの災害を復旧することに関する科学技術(国立研究開発法人防災科学技術研究所法(平成11年法律第174号)第2条)

[2] 独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するもの(災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第2条第5項)

[3]現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組みを指しており、現実空間とデジタル空間、そして両者の情報連携の3要素によって構成されている。狭義では、現実世界とデジタル空間のリアルタイムかつ双方向の情報交換によって、利用者に現状の分析や将来予測の機会を与える動的なモデルがデジタルツインとされている。一方、広義では、現実世界とデジタル空間の間に情報交換が無い静的な3Dモデル等もデジタルツインと呼称される場合がある(令和3年版情報通信白書)。

[4] 第6期科学技術・イノベーション基本計画において、「人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積を図るとともに、自然科学の「知」との融合による、人間や社会の総合的理解と課題解決に資する「総合知」の創出・活用がますます重要」とされている。また、「各研究開発法⼈は、それぞれのミッションや特徴を踏まえつつ、中⻑期⽬標の改定において、総合知を積極的に活⽤する旨、⽬標の中に位置づける」こととされている。

[5]サービス・業務の遂行に必要となる Data(データ)、Information(情報)、Knowledge(知識)、Wisdom(知恵)を指し、その関係性を示した思考モデルが活用されている(デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン実践ガイドブック(令和4年4月20日、デジタル庁)。

[6]各種観測データから得られるハザード・リスク情報に社会科学的な知見を加えたシミュレーションを行い、災害状況の把握や予測、対応において、利活用しやすい形に加工したもの。
 

(2) 現状の課題

 

 我が国は数多くの自然災害の脅威にさらされており、今後、南海トラフ地震や首都直下地震等による国難と言える災害の発生のおそれがあることとともに、火山噴火や豪雨等による大規模自然災害、あるいはこれらが相次いで発生する複合災害が発生するおそれも指摘されている。このような大規模自然災害から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活及び国民経済を守るため、発災前の予測・予防力の強化のみならず、効果的な災害対応手順の一般化、発災後の事業継続等の対応力、早期の復旧・復興力の向上等に資する取組を更に推進していくことが喫緊の課題となっている。
 防災科研は、現行の第4期中長期目標期間において、防災科学技術の中核的機関として、理事長のマネジメントの下、社会情勢の変化に適切に対応しながら、基礎・基盤的な研究開発、地震・津波・火山観測網の整備や災害情報基盤の研究開発など、あらゆる自然災害の研究開発にかかる成果を着実に創出してきたところである。次期中長期目標においては、国民からの期待に更に応えていくため、これらの研究開発の取組を統合、発展させ、防災科学技術の総合知の拠点としての取組を更に強化する必要がある。また、創出した成果を各主体における実装につなげる情報共有・流通のための基盤を整備し、我が国におけるレジリエントな社会の実現に貢献するため、以下に示すような課題に取り組む必要がある。

  • 他機関が保有するものも含む、観測データをはじめとした防災・減災分野の各種データの統合・集積、オールジャパンでの研究データの適切な共有・利活用体制の構築
  • 自然現象を対象とした自然科学的な解明とともに、災害を社会現象としてとらえる社会科学的知見も取り入れた総合知の活用を通じた、災害による被害の効果的な軽減策の推進
  • 地球規模で進行する気候変動のリスクに対応し、頻発する自然災害への対応に関する研究や、社会環境の変化への適応に向けた実証的な研究の推進
  • 基盤的観測網や大型実験施設・設備等の適切な運用・利活用の促進
  • 国・自治体・企業・国民等、社会の各主体の防災・減災の取組に関する社会的な期待発見
  • 多様な防災・減災活動に役立つ情報プロダクツの創出や提供による防災市場の拡大
  • 競争的研究費や共同研究費等の外部資金、研究開発成果の活用等による外部組織との共創の推進
  • 研究開発で得られた知見・技術の災害現場における実証、研究開発へのフィードバック
  • 研究開発成果の防災行政への提供を通じた、防災行政の高度化の推進
  • 研究不正等の防止や事業の適切な執行を進めるための内部統制の確立
  • 働き方改革や制度改善等による、女性研究者、若手研究者、外国人研究者等が中長期的なビジョンを持って活躍できるダイバーシティの確保
  • 情報セキュリティ対策の推進や情報システムの適切な整備・管理
 

2.講ずるべき措置

 上述した政策上の要請及び現状の課題を踏まえ、以下の措置を講ずる。

(1) 中長期目標期間

 防災科研は、国民の生命・財産・暮らしを守るレジリエントな社会の実現を目指し、地震・津波災害、火山災害、風水害・土砂災害・雪氷災害等の気象災害などの自然災害を対象とし、研究開発成果の最大化を第一目的とする国立研究開発法人である。様々な時空間スケールの現象を扱うため、長期性・不確実性・予見不可能性といった研究開発の特性を踏まえて中長期目標を策定する必要があることから、中長期目標期間を7年とする。

(2) 中長期目標の方向性

 次期中長期目標においては、以下に示す事項を踏まえた上で、防災科研の果たすべき役割を記載することとする。また、目標の達成度に係る客観的かつ明確な評価を行う観点から、達成すべき内容や水準等をそれぞれの分野の特性に応じて具体化した指標を設定することとする。あわせて、多様な社会課題の解決に貢献できるよう、「総合知」の創出・活用の観点も重視する。
 その際、次期中長期目標期間においては、防災に関わる各主体のニーズを的確に把握しつつ、あらゆる種類・規模の災害に対して持続可能な社会(レジリエントな社会)の構築に防災科研がどのように貢献したかということが重要になる。そのため、目標全体において、今後の防災科学技術が達成すべき目標のキーワードとして、「レジリエントな社会」という表現を用いることとする。
 
■レジリエントな社会の実現に向けた防災科学技術の研究開発
○デジタル技術を活用した防災・減災に関する研究開発
 防災・減災DXの拠点として、防災科研が、我が国の社会科学的な知見を含む防災・減災に係るデータ統合・流通の基盤を整備し、観測データ・研究データの統合・集積を進めるとともに、シミュレーション技術の活用、自治体等の災害対応機関の意思決定に資する情報プロダクツの生成、センシング・モニタリング技術の開発や利活用の促進を一体的に実施し、防災・減災に係る各主体に応じた防災・減災DXの構築を目指す。これにより、レジリエントな社会の実現を目指すための総合知による中核的機関としての役割を果たす。  

○各種自然災害の予測・予防、応急対応、復旧・復興に関するオールフェーズの研究開発
 地震・津波災害、火山災害、気象災害等の予測・予防、応急対応、復旧・復興に係る研究開発を担う機関として、知の統合の核となる基礎・基盤的な研究開発を推進する。
 具体的には、地震・津波災害、火山災害、気象災害等を引き起こす各現象や、複合災害を含めこれらの現象を構成する要素の相互関係の解明に加え、それらの現象の観測等に係る基礎・基盤的な研究開発、基盤的観測網や実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)等の大型実験施設を活用した研究開発を着実に進める。あわせて、観測データ・研究データを基にした予測・予防に資するマルチハザード・リスク評価に関する研究開発、災害過程の科学的解明による応急対応・復旧・復興に資する研究開発を進め、自治体の枠組みを超えるような国難級の大規模災害にも、効果的・効率的な対応を可能とする成果を創出する。
 また、幅広いステークホルダーにレジリエンス能力向上の重要性を認知させ、防災への備えはコストではなくベネフィットであるという認識を社会全体で共有できるようにするため、自然や社会の状態を踏まえたレジリエンスの定量評価手法を開発し、広く社会に提案する機能を充実させるとともに、様々なハザードに共通して対応し、あるいは各々のハザードに応じて対応する標準的な手順を明らかにする研究開発等を進める。これらにより、南海トラフ地震や首都直下地震等による国難と言える災害や頻発化・激甚化する気象災害等に対応するための社会基盤の構築に寄与する。
 
■レジリエントな社会を支える研究基盤の適切な運用・利活用
 地震・津波災害、火山災害などの各種ハザードを網羅する世界に類を見ない観測網の整備・運用と、近年の観測技術やデータ分析・同化等の進展も踏まえた利活用を推進する。また、観測網の最適かつ持続可能な在り方について、政府全体の動向も踏まえつつ、検討を進める。また、実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)、大型降雨実験施設、雪氷防災実験施設等の各種大型実験施設・設備の運用・利活用を引き続き進める。
 これらに当たっては、それぞれの分野の状況を踏まえながら、我が国の基盤的な観測網のデータや実験施設・設備の適切な利活用について、中核的機関として、他の研究機関との協力を進めるなど積極的な役割を果たす。
 さらに、デジタル技術を活用した研究開発を推進するためには、データ統合や情報共有・流通に関する基盤も必要不可欠であり、それらの研究基盤の整備を進め、防災情報・データ流通においても、我が国の中核的な役割を担う。
 
■レジリエントな社会を支える中核的機関の形成
 産学官民のステークホルダーとの共創をさらに深化させ、防災科学技術の成果の発信に努める。知的財産や情報プロダクツの生成・提供などにより、社会における防災科研の研究開発成果の活用を促進し、防災・減災の市場の創出・拡大を図り、各主体のレジリエンス能力の向上に対する取組を支援し、自助・共助を行いやすくする環境整備を進める役割を果たす。
 我が国の防災科学技術の中核的機関として、関係機関の成果も含めた我が国全体の研究開発成果の最大化に向け、昨今の状況変化に応じた国家的課題や社会的要請を踏まえ、大学や高等専門学校、他の国立研究開発法人、民間研究機関等と協働してオールジャパンでの研究開発を積極的に推進する。「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成 20 年法律第 63 号)に基づき、防災科研の研究開発の成果を事業活動において活用し、又は活用しようとする者(成果活用事業者)に対する出資並びに人的及び技術的援助を行い、防災科研の成果の一層の普及を図る。
 我が国の災害に関する知見を踏まえつつ、政府および国内外の防災関連機関と連携・協力して、グローバルな課題に関する研究を推進し、その成果と提言について国際的な発信を強化し、持続的な国際協力体制を構築する。
 災害対策基本法に基づく指定公共機関として、研究開発成果を平時・災害時の対応に積極的に提供し、防災行政の活動を支援するとともに、提供した研究開発成果の効果や新たな研究課題を防災科学技術にフィードバックすることによって、我が国の防災行政能力の高度化に資する研究開発機能としての役割を果たすとともに、実装段階も含め各主体との連携を一層深める。
 広く国民や企業等が正しい状況把握と適切な判断や行動を行うための防災能力の向上に資する取組を行うとともに、ステークホルダーを意識した広聴・広報やアウトリーチ活動等を積極的に進める。
 
■効果的かつ効率的な組織運営及び組織体制の見直し
 頻発化・激甚化・広域化する自然災害の被害軽減に向け、研究開発成果の創出の観点から適確に寄与するため、部門間の連携強化や業務・組織改革を行うなど、理事長のリーダーシップの下で一体的な組織運営を行う。
 また、限られた人的資源の中で国立研究開発法人としての目的・役割を果たしつつ、職場環境の改善や付加価値の創出等につながるよう、役職員のコミュニケーションや個々の研究者の活躍機会を充実しつつ、防災科研全体の業務・組織について不断に点検し、必要に応じて内容を見直す等の効果的かつ効率的な運営を進める。あわせて、更なる効果的かつ効率的な組織運営や研究DXの推進に向け、職員の業務・研究環境のデジタル化を進める。
 さらに、防災科学技術の研究活動を効果的・効率的に進めていくため、研究支援業務や業務環境の改善に関する取組を進める。
 
■財務内容の更なる改善
 研究開発活動を更に活性化させるため、競争的研究費等の外部資金の獲得、産業界や他の研究機関との連携強化及び知的財産の戦略的な活用等、自己収入の確保に努める。
 
■人材確保・育成に係る取組の推進及び公表
 研究開発成果の最大化と効率的な業務遂行を果たすため、若手職員・女性職員が活躍できる職場環境の整備、外国人研究者の受入れを含めたダイバーシティの確保を積極的に行うとともに、教育機関等との連携により、優れた人材の育成に係る取組を一層推進する。防災科研における人的資本の充実に向け、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)第24条において作成が求められる「研究開発等の推進のための基盤の強化のうち人材の活用等に係るものに関する方針」について、その内容を適時見直し、防災科研としての考え方や方策を適切に公表するとともに、職員が健康で働きやすい職場環境の構築に努める。
 
■情報セキュリティ対策及び情報システム整備・管理等の推進
 引き続き、「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」[7]等に沿って、高度化・複雑化するサイバー攻撃への技術的対策や新たなツール利用にかかるセキュリティ研修などの人的対策等を推進する。
 また、デジタル庁が定めた情報システムの整備及び管理の基本方針にのっとり、PMO を設置して適切に情報システムの整備・管理を行う。

 

[7]サイバーセキュリティ本部が作成する国の行政機関等のサイバーセキュリティに関する対策の基準(サイバーセキュリティ基本法(平成26年法律第104号)第26条第1項第2号)において、国の行政機関及び独立行政法人等の情報セキュリティのベースラインや、より高い水準の情報セキュリティを確保するための対策事項が規定されている。

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国立研究開発法人防災科学技術研究所見直し内容について

研究開発局地震・防災研究課防災科学技術推進室