国立研究開発法人物質・材料研究機構見直し内容

令和4年8月26日
文部科学省

1. 政策上の要請及び現状の課題

(1)政策上の要請

 物質・材料科学技術は、新物質・新材料の発見、発明に象徴されるように科学技術の発展と、それによるイノベーション創出を先導し、新たな時代を切り拓くエンジンとなるとともに、融合と連携を通して幅広い分野に波及することにより、国民生活・社会を支える多様な技術の発展の基盤となるものである。また、国際競争が激化する中で我が国の優位性を維持、強化するための鍵となるとともに、Society 5.0や低環境負荷な社会システムの実現などにおいて重要な役割を果たすことが期待されている。
 国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下「機構」という。)は、我が国唯一の物質・材料科学技術分野における基礎研究及び基盤的研究開発等の中核的機関としての役割を果たす国立研究開発法人として、科学技術の進展及び社会の要請に的確に対応しつつ、人材の育成並びに研究開発及びその成果の普及等に努める。また、我が国の科学技術政策の基本方針となる「科学技術・イノベーション基本計画」においてSociety 5.0の未来社会像として示される「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」の実現に向け、「総合知」を積極的に活用し、新たな価値創出や社会・経済的な課題解決への取組において重要な役割を果たす。更に、新たに策定された「マテリアル革新力強化戦略」において重要な柱として掲げられるデータ駆動型研究開発の促進に向けて、マテリアル分野において世界最高レベルの研究開発基盤を有している強みを活かし、社会実装、研究開発、産学連携、人材育成、研究設備・データ基盤共用を我が国の中核機関として総合的に推進していくことが求められている。
 機構は、「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」(平成28年法律第43号)に基づく特定国立研究開発として、科学技術イノベーションの基盤となる世界最高水準の研究開発成果を生み出すことに加え、我が国のイノベーションシステムを強力に牽引する中核機関となることが求められている。加えて、文部科学大臣が、科学技術に関する革新的な知見が発見された場合等において、当該知見に関する研究開発その他の対応を迅速に行うために必要な措置を求めた場合には、その求めに応じることとされている。このため、研究開発の実施に当たっては、機構自らの研究開発成果の最大化を図ることはもとより、大学や産業界等との積極的な連携と協働を通して、社会に貢献する技術シーズを絶え間なく創出・育成し、産業界に橋渡しをすることで、シーズ創製から社会実装までの研究進展の過程に幅広く対応するとともに、これまで蓄積してきた科学的知見を基に、研究情報、研究人材、研究インフラが集積する世界的な研究開発拠点となることを目指し、我が国全体の物質・材料研究分野における研究開発成果の最大化に貢献できるように取り組むものとする。
 また、機構は、他機関の取組・役割を踏まえつつ、研究開発等の特性(長期性、不確実性、予見不可能性、専門性等)を踏まえ、国際的な視座に立って、法人の機能の一層の向上を図る。また、柔軟かつ速度感ある運営に努め、経営資源を効果的かつ効率的に活用し、機構が保有するポテンシャルを最大限に活用するため、理事長のリーダーシップの下、国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発課題を設定するとともに、柔軟かつ効率的に研究開発課題に取り組める研究体制と内部統制を含めたマネジメント体制を強化するものとする。
 さらに、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成 25 年 12 月 24 日閣議決定)をはじめとする既往の閣議決定等に示された政府方針、物質・材料研究分野をめぐる国内外の最新動向等の機構を取り巻く環境を踏まえ、「適正、効果的かつ効率的な業務運営」という独立行政法人の業務運営の理念の下、「研究開発成果の最大化」という国立研究開発法人の第一目的の達成に向け、不断に経営改革に取り組むものとする。
 以上により、機構は、マテリアル・イノベーションの継続的な推進力として、イノベーション・ナショナルシステムの牽引役を果たすことを強く認識しつつ、その政策効果として、優れた論文の創出、グローバル人材の輩出、技術シーズの創出、強力な知財確保、共用研究設備やデータ基盤の全国研究者による活用など目に見える形で科学技術、産業の両側面から我が国の国際競争力の強化に貢献するものとする。

(2)現状の課題

 機構は、物質・材料科学技術に関する基礎研究及び基盤的研究開発等の業務を総合的に行う我が国唯一の研究開発機関として、また、イノベーションを強力に牽引する中核機関である特定国立研究開発法人として、我が国のマテリアル革新力を高めることにより世界の社会課題解決を先導しつつ持続可能な社会への転換を図るとともに、非連続な革新的材料技術の創出により将来にわたる我が国の産業競争力の確保につなげるため、研究開発の成果の最大化及びその他の業務の質の向上に向けて取り組む必要がある。特に、新たに策定された「マテリアル革新力強化戦略」で位置づけられるデータ駆動型研究開発の促進に向けて、マテリアルデータの収集・蓄積・利活用のための基盤構築のため、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業の枠組みの中で、機構がセンターハブとしての中核的な役割を果たし外部との連携を進めるとともに、創出されたデータを蓄積・利活用するためのシステムの運用を担うデータ中核拠点としての活動を強力に進めていく必要がある。
 上述の観点から、以下に示すような課題に取り組む必要がある。

 〇研究開発業務
  • 社会課題の解決に貢献するための研究開発の推進
  • 技術革新を生み出すための研究開発の推進
 〇中核的機関としての業務
  • マテリアルデータプラットフォーム構築のための中核拠点の形成
  • マテリアル人材が集う国際的な拠点の形成
  • 物質・材料研究に係る産業界との連携構築
 〇成果の社会還元、広報活動
  • 研究成果の社会還元
  • 広報・アウトリーチ活動の推進
 〇業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善
  • 適正かつ効果的なマネジメント体制の確立
  • 健全な財務内容の実現


 機構の業務及び組織については、中長期目標期間終了時に見込まれる中長期目標期間の業績についての評価結果、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)や、「科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定)、「統合イノベーション戦略2022」(令和4年6月3日閣議決定)、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和3年12月24日閣議決定)、「デジタル田園都市国家構想基本方針」(令和4年6月7日閣議決定)、「マテリアル革新力強化戦略」(令和3年4月27日統合イノベーション戦略推進会議決定)をはじめとする既往の閣議決定等に示された政府方針、さらに、マテリアル分野を取り巻く環境を踏まえ、「適正、効果的かつ効率的な業務運営」という独立行政法人の業務運営の理念の下、「研究開発成果の最大化」という国立研究開発法人の第一目的が達成できるよう、以下のとおり見直し、次期中長期目標の策定等を行うこととする。
 

2.講ずるべき措置

 上記で述べた機構に求められる政策上の要請及び現状の課題を踏まえ、以下の措置を講ずる。
 

(1) 中長期目標期間

 機構は、物質・材料研究を総合的に行う国内唯一の研究開発法人として、物質・材料科学技術の基礎研究及び基盤的研究開発等の業務を担い、我が国の物質・材料科学技術の水準向上に貢献し研究開発成果の最大化を第一目的とする国立研究開発法人である。当該分野の研究は、社会からの要請や大学・産業界のニーズを踏まえつつ取り組む必要があり、研究のフェーズとしてシーズ育成段階からプロジェクト研究を経て産学連携や社会実装のフェーズに至るまでには相当期間を要するものもあるため、長期性・不確実性・予見不可能性といった研究開発の特性を踏まえて中長期目標を策定する必要があることから、前回同様に、中長期目標期間を7年とする。

(2) 中長期目標の方向性

 次期中長期目標においては、以下に示す事項を踏まえた上で、機構の果たすべき役割を記載することとする。また、目標の達成度に係る客観的かつ明確な評価を行う観点から、達成すべき内容や水準等をそれぞれの分野の特性に応じて具体化した指標を設定することとする。

社会課題の解決に貢献するための研究開発の推進

 機構においては、現在直面している様々な社会課題の解決に資するため、マテリアル技術・実装領域の観点からブレークスルーをもたらす有望な技術シーズを創出し、社会実装につなげるための研究開発を戦略的に行い、グリーンでレジリエントな社会システムの実現を目指す。また、産業界や大学とも協働したオープンイノベーション研究を推進し、我が国全体の研究力の向上を図り、国際競争力の確保に貢献する。このため、エネルギー・環境材料、高分子・バイオ材料、磁性・スピントロニクス材料、構造材料などの研究領域に焦点をあて、重点的に研究開発を実施する。

技術革新を生み出すための研究開発の推進

 マテリアルズ・インフォマティクスは、今後の研究開発の基盤となるものであり、従来の研究手法より飛躍的に研究効率を向上させ、「データ駆動型社会」を構築するために必要不可欠な基盤技術である。また、ナノ材料や量子基盤技術は、超スマート社会の実現に向けたインフラ技術をさらに飛躍的に発展させる鍵となる分野である。これらの技術分野は、未来社会の仕組みを大きく変革していく可能性を秘めている。
 機構においては、これら取組による将来の技術革新に資するため、未来社会を切り拓く新機能材料の開発、多元素系・複合系・準安定相といった未踏領域の開拓、先進的な計測・解析技術やデータ駆動型等の革新的手法の開拓など先導的な研究開発に取り組む。このため、機構が保有する電子・光機能材料開発に関するセラミックス合成や結晶成長等の技術、量子スケール・ナノスケールでの新奇機能・新現象探索や構造制御等の技術、マテリアル開発における共通基盤となるオペランド解析等の先端計測・解析技術やデータ科学手法等の技術といった強みを活かしつつ、重点的に研究開発を実施する。

マテリアルデータプラットフォーム構築のための中核拠点の形成等

 科学技術・イノベーション基本計画等に謳われているデータ駆動型研究を推進し、我が国のマテリアル革新力の強化に貢献するためには、データを集積し、利活用するための基盤となるデータプラットフォームの構築が必須である。機構は、世界最大級の材料データベースMatNaviの更なる強化やスマートラボラトリを活用した研究開発の効率化に向けた取組に加え、先端研究を支える装置群を共用化し整備・運用することで、データ駆動型研究のための強力な研究基盤の提供及び共用装置からの高品質データの収集等を行う世界に類のないマテリアルデータの中核拠点を形成するなど、データプラットフォーム構築のための体制を強化する。

マテリアル人材が集う国際的な拠点の形成

 機構は、我が国の物質・材料研究を支える知識基盤の維持・発展に貢献するため、世界最高水準の成果創出に向けて、優秀な研究人材を国内外から獲得し、その養成と資質の向上に取り組む。そのため、機構が推進する革新的材料開発力強化プログラム(M-Cube)の1つであるMGC(マテリアルズ・グローバルセンター)としての人材ネットワークを構築するとともに、機構が進めてきた研究環境のグローバル化や最先端研究設備等の強みを活かした国際的なマテリアル研究の拠点としての取組を推進する。加えて、大学・企業との人材交流及び国際的な頭脳循環を活用し、性別・国籍などそれぞれの属性に応じて適切・有効な施策も実施し、機構が優秀な人材の集う人材育成の中核的な役割を果たすことで、国全体としての多様で優秀なマテリアル人材の育成・確保にも取り組む。

物質・材料研究に係る産業界との連携構築

 機構で創出した研究成果を産業界に橋渡しし、社会実装を促進させるため、機構は産業界との連携構築及び深化に取り組む。機構の研究シーズと企業ニーズが融合した組織対組織の連携スキームとして、共通の研究課題の下で複数企業との共同研究を行う「業界別水平連携」によるMOP(マテリアルズ・オープンプラットフォーム)の形成や、世界をリードするグローバル企業との二者間の連携を深化させる企業連携センター等を通じて、柔軟かつ迅速に対応しうる多様な企業連携の仕組みを用意する。

研究成果の社会還元

 特定国立研究開発法人の一つである機構は、我が国全体のイノベーションシステムを強力に牽引する中核機関として、研究成果の社会への還元の役割を果たすべく、組織的かつ積極的に事業会社への技術移転に取り組む。さらに、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)に基づき、機構の研究開発の成果に係る成果活用事業者等に対する出資並びに人的及び技術的援助等の積極的な取組を通じ、外部専門機関等との連携を取りながらスタートアップ段階の企業の支援を一層促進する。

広報・アウトリーチ活動の推進

 機構は、得られた研究開発成果及びそれを生み出すための充実した研究環境について、国内外の研究機関・大学または関係する産業界へ発信し、国際的に活躍できる研究機関としての機構の知名度を向上させる。これにより、国内外の優秀な研究者及び研究をサポートする専門技術人材の獲得を目指し、それが更なる研究開発成果の創出につながっていくという好循環が生み出されるよう、専門家向けの広報体制を新たに構築し、研究情報の対外発信力の強化を図る。また、これまでの活動で大きな効果が確認できた「広報ビジュアル化戦略」を引き続き展開する。

適正かつ効果的なマネジメント体制の確立

 機構は、国家的・社会的なニーズへの対応に加え、有望なシーズ発掘、企業等のニーズ、適切な研究環境の構築などに機動的に対応するため、理事長のリーダーシップの下、柔軟に研究体制の整備を行う。また、情報セキュリティ対策の強化を含む適切な管理体制を構築するなど、効果的かつ効率的なマネジメント体制を確立する。

健全な財務内容の実現

 機構は、予算の効率的な執行による経費の削減に努めるとともに、引き続き、施設利用料や特許実施料等の自己収入の増加等に努める。

 

お問合せ先

国立研究開発法人物質・材料研究機構見直し内容について

研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付