国立研究開発法人日本原子力研究開発機構見直し内容


文部科学省
経済産業省
原子力規制委員会

1. 政策上の要請及び現状の課題

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「本法人」という。)は、原子力基本法第二条に規定する基本方針に基づき、原子力に関する基礎的研究及び応用の研究並びに核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を総合的、計画的かつ効率的に行うとともに、これらの成果の普及等を行い、もって人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に資する原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを目的とする法人である。
 原子力は、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画である「エネルギー基本計画」(平成30年7月閣議決定)において、安全性の確保を大前提としつつ、長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源と位置付けられており、我が国にとってエネルギー安全保障の観点から重要なエネルギー源の一つである。また、原子力は、地球規模の問題解決並びに放射線利用等による科学技術・学術・産業の発展に寄与する観点からも重要な役割を担っている。
 本法人は、その第3期中長期目標期間において、国立研究開発法人として、また、我が国における原子力に関する唯一の総合的研究開発機関として、原子力に関する基礎的研究・応用の研究から核燃料サイクルに関する研究開発、安全規制行政等に係る技術支援、東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所(以下「東京電力福島第一原子力発電所」という。)の廃炉に関する研究開発まで、幅広い分野で顕著な成果を創出してきた。各種の研究施設等の維持・マネジメント等を含め、これらの取組の重要性は、次期中長期目標期間においても引き続き高く位置付けられるべきものである。
 近年、持続可能なエネルギー基盤の在り方に関する国際的な議論に加え、COVID-19禍で急速に進んだ社会のデジタル化等の影響もあり、我が国における原子力を取り巻く政策的課題は更に多面化・複雑化している。平成30年7月に策定された第5次エネルギー基本計画においても原子力関連技術のイノベーション促進の重要性が明記されているとおり、原子力に関する科学技術(以下「原子力科学技術」という。)に寄せられる政策的期待も高まりつつある。令和2年10月には、我が国として2050年カーボンニュートラル実現を目指す政府方針が示され、これを受け、令和3年6月には、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が関係省庁において策定されたところである。また、令和3年3月に策定された「科学技術・イノベーション基本計画」では、政府の標榜するSociety 5.0の実現に向け、研究開発におけるデジタル・トランスフォーメーション(以下「DX」という。)を通じたイノベーション創出の重要性も謳われているところであり、原子力科学技術についても例外なくDXを通じた科学的・社会的貢献が期待される。あわせて、新技術の社会受容性等の観点を含め、一層多様化・複雑化する社会課題に向き合い、従来の延長線上にない新たな価値創出につなげていくため、分野横断的な研究開発や社会の多様なステークホルダーとの対話・共創を通じた「総合知」の創出・活用に取り組んでいくことも重要である。
 さらに、世界的な潮流として、新型炉開発をはじめとして、国の支援の下、民間主導の原子力イノベーションの重要性も高まっている。我が国においても文部科学省及び経済産業省の共同プロジェクトとしてNEXIPイニシアティブの取組が令和2年度に開始されており、原子力機構には、国際的な連携・協力を図りながら民間主導の技術開発の基盤を支えていく役割が一層期待されている。また、国内の大学等では、研究開発や人材育成の基盤の脆弱化が進んできた近年の背景もあり、大学等における研究開発や教育に際して原子力機構の有する基盤活用の重要性も一層増している。
 こうした国内外の動向に鑑み、文部科学省では、産学官のステークホルダーからの知見や助言も得つつ、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会の下に設置された原子力研究開発・基盤・人材作業部会及び原子力バックエンド作業部会において、「国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の次期中長期目標・計画の策定に向けた提言」(令和3年7月13日)を両作業部会共同で取りまとめたところである。次期中長期目標期間では、本提言も踏まえつつ、引き続き、エネルギー基本計画や「科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)、「原子力利用に関する基本的考え方」(平成29年7月20日原子力委員会)及び「技術開発・研究開発に対する考え方」(平成30年6月12日原子力委員会決定)等の国の政策に基づき、原子力政策や科学技術政策に貢献することが求められている。
 その際、本法人の業務及び組織については、中長期目標期間終了時に見込まれる中長期目標期間の業績についての評価結果、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)をはじめとする政府方針及び前述の本法人を取り巻く状況を踏まえ、適正、効果的かつ効率的な業務運営の下で「研究開発成果の最大化」という国立研究開発法人の目的が達成できるよう見直すことが必要である。あわせて、サイバーセキュリティ基本法に基づき策定された「政府機関等の情報セキュリティ対策のための統一基準群」(平成28年8月31日サイバーセキュリティ戦略本部決定。平成30年7月25日改定。以下「統一基準群」という。)や「サイバーセキュリティ対策を強化するための監査に係る基本方針」(平成27年5月25日サイバーセキュリティ戦略本部決定。平成28年10月12日改定)等を踏まえ、情報セキュリティ対策を講じることが求められている。

 

2.講ずるべき措置

 上述した政策上の要請及び現状の課題を踏まえ、以下の措置を講ずる。

(1) 中長期目標期間

 本法人は、エネルギー基本計画等の長期的な国の政策に対応して研究開発を行う国立研究開発法人であり、長期的視点を含む研究開発の特性を踏まえて中長期目標を策定する必要があることから、中長期目標期間を7年とする。

(2) 中長期目標の方向性

 次期中長期目標の策定に当たっては、以下に示す事項を踏まえた上で、本法人の果たすべき役割を具体的かつ明確に記載するものとする。また、目標の達成度に係る客観的かつ的確な評価を行う観点から、達成すべき内容や水準等を分野の特性に応じて具体化した指標を設定することとする。あわせて、社会的課題の解決や多様な価値の創造に貢献できるよう、「総合知」の創出・活用の観点も重視していく。

○ 安全性向上等の革新的技術開発によるカーボンニュートラルへの貢献

・ 軽水炉の安全性向上や利用率向上等に係る研究開発、高速炉や高温ガス炉等の新型炉に関する研究開発、核燃料サイクルに関する研究開発を進めることで、持続的なエネルギー基盤・成長基盤の構築や2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に原子力科学技術固有の貢献を果たす。

○ 原子力科学技術に係る多様な研究開発の推進によるイノベーションの創出

・ 高速炉や高温ガス炉等の新型炉に関する研究開発、JRR-3やJ-PARC等の技術基盤を活用した幅広い基礎基盤研究を進めるとともに、その成果の社会実装や、原子力以外の分野を含む産学官の共創によるイノベーション創出に向けた取組を強化する。
・ あわせて、原子力科学技術の推進基盤の強化・高度化に向け、研究開発環境のDXを進めることで、革新的な原子力イノベーションの持続的創出につなげていく。

○ 産業界や大学等と連携して我が国全体の研究開発や人材育成に貢献するために必要なプラットフォーム機能の充実

・ 大型の原子力研究施設の維持、高度化及び共用、知識基盤等の整備及び共同利用を進めるとともに、国内外の研究機関や大学、産業界とも連携した原子力人材の育成や、核燃料サイクル事業をはじめとする民間の原子力事業者への支援・連携強化に取り組む。
・ 核不拡散・核セキュリティの強化に向けた取組をはじめとした国内外への貢献を着実に果たす。

○ 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組の着実な推進

・ 東京電力ホールディングス株式会社等の関係機関との密な協働の下、廃炉現場の課題解決につながる基礎基盤研究を推進する。その際、本法人の行うバックエンド活動とも緊密な連携を図る。


○ 高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する技術開発の着実な実施

・ 幌延深地層研究センター等における研究成果を十分に活用しつつ、技術開発を総合的、計画的かつ効率的に進めることで、処分に係る技術的信頼性の更なる向上を目指す。

○ 安全を最優先とした持続的なバックエンド対策の着実な推進

・ 本法人の「施設中長期計画」(平成29年4月1日策定。令和3年4月1日最終改定)及び「バックエンドロードマップ」(平成30年12月26日策定)に基づき、安全の確保を最優先としつつ、技術的実現可能性やコスト等の様々な観点も踏まえ、持続的なバックエンド対策を進めるために必要な体制を強化する。
・ 長期間にわたる廃止措置マネジメントに必要な情報(リスクの把握・対応策、予算、人材育成・知識継承等)を含む具体的計画を策定するとともに、研究施設等廃棄物の埋設実現に向けた具体的対策(立地対策、廃棄体受入基準等)を進める。


○ 原子力安全規制行政及び原子力防災に対する支援とそのための安全研究の推進

・ 原子力安全規制行政への技術的支援に係る業務を行うための技術的能力を向上させるとともに、当該業務の実効性、中立性及び透明性を確保しつつ、規制技術支援機関(TSO)としての貢献を果たす。
・ 原子力災害時における原子炉工学、放射線防護等の専門家を派遣する指定公共機関として、技術力の向上と必要な体制維持に取り組む。

○ 財務内容の更なる改善

・ 社会ニーズに随時機動的に応えつつ研究開発活動を更に活性化させ、その成果の社会還元を効果的・効率的に進めていくため、競争的研究資金等の外部資金の獲得や国内外の民間事業者、研究機関等との連携強化、知的財産の戦略的な創出・活用等により、安定した自己収入の確保など財務内容の更なる健全化を図る。

○ 組織運営・マネジメントの更なる改善

・ 原子力を含む我が国のエネルギー政策は、政府において定期的に見直しが図られる見込みであることに鑑み、原子力を取り巻く国内外の動向に随時向き合い、時宜を逸することなく必要な研究開発活動等を組織横断的かつ機動的に実施できる法人運営が求められる。
・ 研究開発活動と自らの保有する施設の廃止措置及び放射性廃棄物処理処分等のバックエンド対策を両立して推進していくことが重要であることから、その実効性を確保するため、理事長のリーダーシップの下、法人運営の在り方を不断に見直すとともに、法人の職員一人一人の意識改革につなげていく。
・ あわせて、組織運営・マネジメントの更なる合理化・効率化に向け、業務環境のデジタル化を進める。

○ 広報広聴機能及び双方向コミュニケーション活動の強化

・ 原子力に関する唯一の総合的研究開発機関としての専門的知識及び経験を活かし、立地地域や国民に対する丁寧かつわかりやすい情報発信や双方的・対話的なコミュニケーション活動を推進する。その際、DXの導入等にも積極的に取り組むことで、一層効果的な成果の普及促進につなげていく。

○ 情報セキュリティ対策の推進

・ 引き続き、統一基準群に沿って策定した情報セキュリティ・ポリシーに基づき、サイバーセキュリティ戦略本部が実施する監査の結果等も踏まえつつ、情報セキュリティ対策を推進する。

(以上)

お問合せ先

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構見直し内容について

研究開発局原子力課
 

(科学技術・学術政策局研究開発戦略課)