2.我が国のソフト・パワーの増強

1.日本文化の海外発信国際貢献を通じたソフト・パワーの涵養

1 文化的存在感の向上と文化多様性の保護・促進

 明治以来、東西の芸術文化を融合し、新たな創造性を培ってきた我が国として、今後一層その振興を図り、世界の文化の発展に寄与していくことが求められる。また、我が国は、文化財保護に関しては世界に抜きん出た存在であり、その持てるノウハウを駆使し、国際的な枠組みの中で、格段のリーダーシップを発揮すべきである。これらのことは、我が国のソフトパワーとしての重要な一翼をなす文化的存在感の向上につながる。
 文化多様性については、本年秋のユネスコ総会で文化多様性条約が採択される見込みである。我が国も文化多様性の保護及び促進に積極的に参加していくことが、国際社会における地位の向上と、文化を通じた世界平和への貢献につながる。
 そのために、アジア諸国を対象とした文化多様性保護及び促進のシンポジウムや、我が国とアジア諸国との共同制作を通じた多様性の保護及び促進といった活動を実施するなど、総合的に文化多様性保護・促進を進めていくべきである。

2 日本文化の発信と文化財国際協力の推進

 世界各国で行われる国際映画祭や芸術祭などの機会を活用して、我が国の伝統文化や映画など我が国の魅力ある文化を積極的に海外に発信していくことが必要である。
 我が国では、従来国際文化交流に関する各種の取組を行っているが、フランスや韓国と比べると国家予算における文化に関する予算の割合が低く、厳しい財政状況やソフト・パワーとしての国際文化交流や文化外交の重要性等が増大していることを踏まえ、関係予算等の一層の充実を図ることが必要である。
 国をはじめ、地方、芸術団体、企業から草の根活動まで、多層的な国際文化交流を継続的に行うためには、海外のニーズや国内の状況を把握し、国内の関係機関等に情報を提供するなど、連携協力する体制を構築し、我が国の国際文化交流を効果的かつ効率的に推進するべきである。
 また、人類共通の財産である他国の文化財の保存修復について、我が国に蓄積された人材、技術、経験を活用し、国内外の連携を図りながら、人材育成をはじめとした国際協力を促進することが重要である。

2.科学技術・学術交流を通じたソフト・パワーの涵養

1 研究者交流の推進や地域共通課題に関する国際共同研究の推進

 科学技術・学術交流を通じ、諸外国との友好関係を発展させることが重要である。特にアジア諸国との間の科学技術・学術交流の重要性を新たに評価し、今後のアジア地域におけるパートナーシップの強化を図るべきである。また、国際宇宙ステーションや大型加速器など、国際的な協力が必要なビックプロジェクトへの参画において、我が国に対するメリットのみならず、アジアにおける我が国の果たすべき役割など、明確な戦略を確立することが必要である。

2 情報発信の抜本的改善

 これまでの我が国の情報発信手段は、国内プレスに形式的に情報提供しているケースが多かったが、今後は海外に情報を発信する意識を向上し、我が国のプレゼンスを高めていくことが極めて重要である。情報発信においては、その効果を最大限に上げるための海外、国内メディアの活用や、情報発信のタイミングを考えるなど、プレスとの連携体制の確立が急務である。
 また、インターネット社会における多くの情報の中で、いかにアピール度の高い情報発信ができるかを検討すべきである。政府機関がWEB等を活用し、少なくとも日英両語で常に最新の信頼できる情報を発信できる環境を整備することを期待する。

3.国際社会におけるプレゼンスの強化

1 リーダーシップの発揮

 我が国が有する国際戦略をより明確に国際社会に発信していくためには、国際情勢を敏感に分析し、事業を実施するために最も適切な国際機関を慎重に選択する必要がある。国際機関の事業を評価し、成果が見られなければ他のアプローチや枠組を用いるなど、「選択と資源の集中」を徹底することが重要である。例えば、我が国が良好な関係を構築している日米同盟や、ユネスコ・国連大学・OECD、また、アジア・太平洋地域を包括するAPEC(エイペック)を活用してハイレベルなコミットを行うことで、我が国からの発信力を高めていくことが重要である。
 また、条約などの国際規範の設定は国際社会において大きな存在感を示し、我が国がこれらの国際規範の設定に大きな役割を果たしていくことは、リーダーシップの発揮という観点から極めて重要である。

2 我が国の顔の見えるODA協力

 我が国のODAは、アジア諸国を中心にこれまで多大な成果を挙げてきたにもかかわらず、国際社会において必ずしも高く評価されていないという指摘がある。また、受益国が恩恵を感じていない、受益国の国民が我が国の支援であることを知らないなどの声も聞かれる。こうした状況を改善し、我が国が国際コミュニティにおけるプレゼンスを強化していくためには、ODAの実施に当たって我が国の顔が見える協力を進めていくという戦略的思考及び視点とともに、NGOとの協力が重要である。
 その意味からも、留学生の受入等を通じた開発途上国の人材養成への支援は、対日理解、両国の友好関係の促進だけでなく、国際社会における我が国の知的存在感を増大させるなどの点で非常に有効であり、このような知的国際貢献にODAが活用されることが重要である。
 また、我が国がこれまでに蓄積してきた教育に関する様々な知見・経験を活かして、教育関係者が途上国の教育開発に積極的に参画していくことも重要である。

4.地域研究の促進

 我が国が世界各国と友好関係を保ち、ともに発展していくためには、世界各地域に関する総合的な情報の分析とその蓄積を行う地域研究を促進することが重要である。また、各地域がそれぞれ抱える課題、すなわち環境保全や地域開発などのニーズを把握し、それらに対して我が国が的確に対応することは、世界各国から我が国に対する信頼が増すとともに、我が国の安全保障上の観点からも、有益である。
 そのため、アジア、アメリカ、イスラム圏をはじめ、欧州、太平洋地域を含めた世界の広い地域の現代的な課題に対応し、かつ、その背景にある多様な社会・文化を対象とする地域研究を進めていくことが求められている。あわせて、大学・大学共同利用機関等で実施されている学術的な地域研究においても、それらを踏まえつつ、地域研究に関するネットワークの形成や研究情報を集約・共用する仕組みの整備などを図ることが必要である。
 加えて、各国の研究者が交流し、情報や成果を交換するとともに、共同して研究を行う場を設定するなどの国際共同研究の観点からの検討が必要である。

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-- 登録:平成21年以前 --