中間評価報告書

科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業
中間評価報告書



平成27年8月
科学技術イノベーション政策における
「政策のための科学」中間評価委員会


1.評価の目的等
 この中間評価は、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(以下「本事業」という。)について、進捗状況等を総合的に評価し、本事業の目的が十分達成できるよう、評価結果に基づいて文部科学省に適切に助言を行い、本事業の進め方の検討に資することを目的として行ったものである。評価は、本事業の基本構想 及び基本方針 等、文部科学省からの事業報告、科学技術イノベーション政策のための科学推進委員会(以下「推進委員会」という。)による評価結果報告及び各プログラムの外部評価委員会からの評価結果報告等に基づき行った。

2.本事業の目的・推進方策
 科学技術イノベーションを展開していくためには、客観的根拠(エビデンス)に基づき、合理的なプロセスにより政策を形成することが求められており、本事業はこうした社会の要請に応えることを第一義の目的としている。
 本事業の推進により、科学技術等に対する理解を深め、科学技術イノベーション政策の経済・社会への影響を可視化し、国民への説明責任を果たすことが必要である。また、定量的・定性的なデータによる客観的根拠とそれに基づく政策形成の成果(知見、手法、人材等)が、社会の共有資産として、国民の政策形成への参加の基盤となることも期待される。
 このような目的及び意義を踏まえ、本事業では、「科学技術イノベーション政策のための科学」の深化と、より客観的根拠に基づく政策形成の実現に向けた「政策形成プロセス」の進化を「車の両輪」として推進していくこととしている。本事業の具体的な内容として、推進委員会の統括・助言の下、「政策課題対応型調査研究」、「データ・情報基盤」、「公募型研究開発プログラム」及び「基盤的研究・人材育成プログラム」の4つのプログラムを推進してきた。

3.本事業の取組・成果等
 本事業の具体的な推進方策及び各プログラムの進捗状況については、事業全体を統括する役割を担う推進委員会及び外部委員による個別プログラムの中間評価委員会で決定された評価報告書で報告されているように、この4年余りで期待どおりの成果が創出されており、高く評価できる。
 具体的には、基盤的研究・人材育成プログラムでは、5拠点(6大学)において修士課程約250名、博士課程約60名の大学院生が受講する規模に成長し、政策形成に携わる機関へ就職をする修了者も出てきており、事業理念に沿った人材が育成されつつある。また、事業を進めていく中で、エビデンスに基づいた政策形成実践の重要性が、広く研究者及び政策形成に携わる者に認識されるようになり、人的ネットワークも広がってきている。実際の政策形成への貢献としても、第5期科学技術基本計画の策定プロセスにおいて拠点事業の担当教員が人的貢献を行っている例も見られるところである。
 政策課題対応型調査研究やデータ・情報基盤、公募型研究開発プログラムの成果についても、本事業で整備・開発したデータや手法等が現実の政策形成に貢献し始めており、要素技術としての研究成果が出つつある。さらには、これらの成果については、例えば、科学技術白書等において、経済成長への科学技術の貢献に関する要因分析が記述されるなど、科学技術イノベーション政策の経済・社会への影響の可視化等に寄与している。
 一方で、本事業は、事業全体としての成果が見えにくいという性格を有することにも留意しなければならない。本事業の当初の目的である「単なる研究のための研究に終わることなく、政策立案から実施までのプロセスの合理的なデザインをも視野に入れた新しい科学の構築及び合理的なプロセスによる政策形成の実践」といった大きな方向性を見失わずに、長期的視点で継続的に事業を進めていくべきである。

4.本事業の課題と今後の方向性
(1)政策形成への貢献について
 本事業により得られた成果は、現実の政策形成に活用され始めており、現在策定が進められている第5期科学技術基本計画の検討にも貢献しているところであるが、現状では、個別の成果や人材を通じての貢献が主である。今後は、これらの個々の研究成果や人材をシステムとして統合し、実際の政策形成に活かしていくこと、そして、これらの研究や政策形成等を担う人材のネットワークをより強化していくことが重要である。また、これに当たっては、中核的拠点機能(詳細は後述のとおり)を担うSciREXセンターなどにおける、研究成果や人材を現実の政策形成に接続する場の設定・活用が必要である。これについては、現在既に取組が進められている政策リエゾンの設置や、SciREXセミナーの実施のようなものも有効であると考えられる。
 これにより、生きた政策課題に積極的に取り組み、現在の政策形成に貢献するとともに、今後策定されるであろう第6期科学技術基本計画などの政策的に重要な計画や課題に、システムとしての成果の創出により具体的に貢献できるように本事業を推進していくことを期待する。
 なお、これらの成果に関しては、政策担当者や国民に分かりやすく説明する機会を広げ、その必要性への理解を深めるということも必要である。

(2)長期的視点や多様性の重要性について
 本事業は、理系と文系、真理を探究するような科学と社会への実装を指向するような科学とをつなぎ、それらに跨がる領域を対象として人材の育成や研究を進め、それを政策形成に活かしていこうとする、新しい取組であると考えられる。これは、今後科学技術イノベーション政策を推進していくに当たって、非常に重要となるものである。
 「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」というものは、様々な言葉で表現されている。実際、本事業においては、これまで複数の機関が多種多様な事項に取り組んでおり、このことは、本事業が多様性を重視されるべき性格のものであることを意味していると考える。これにより、用語や概念の明確な定義が必要であったり、個別のプログラム・プロジェクトの実施において、対象とする範囲など、課題の設定やその連携等に配慮が必要であったりという面はあるが、新しい分野であるため、試行錯誤は避けられず、事業展開の多様性を大事にすべきであり、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」を進めるに当たって、対象・課題の多様性を尊重し、様々な可能性を包含しつつ継続的に推進することが必要である。すなわち、事業全体として多種多様な事項について試行を繰り返し、用語・概念の解釈の曖昧性をなくして定義を明確にしながら、長期的に全体の目的・目標に向かって進むべきである。
 例えば、科学技術を社会に適用する場合には、当然のことながら経済学や法学も関係する。本事業開始時に示されている基本構想においても自然科学と人文社会科学の融合について述べられているように、科学技術というものは、複数の学問領域など、多種多様なものを交錯させながら取り組むことに意味があり、そのような状態で試行錯誤することで取り組むべき方向性が見えてくる場合もある。本事業では、幅広い領域を融合しながら、それぞれが相互に連携して取り組みつつ、その背景となる、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」とは何かという考え方を明確化し、その理念を確立していくことが望まれる。
 本事業の背景となる考え方については、推進委員会の評価報告において「基本的理念」や「思考の基盤」として表現されている。多様性を持った取組を行うに当たって、それぞれを貫く、背景となる考え方を確立していくことが重要である。これまでの推進体制では、理念構築等に関わる議論ができなかったとの反省が出ているが、これをどのようなものとして確立していくか、今後、新たな推進体制を設計し、さらなる議論が望まれるところである。


(3)今後の事業の展開について
 本事業のこれまでの取組については、推進委員会により事業全体が、また、外部評価委員会により各プログラムが厳正に評価されており、今後の方向性について具体的な方策が示されている。本事業の推進に当たっては、本評価結果及びこれらの評価結果を踏まえ、適切に計画・実行し、さらにその結果の検証に基づき改善していくような地道な取組が必要である。なお、この際には、前述の事業の背景となる考え方を念頭に置くことが肝要である。また、事業の背景となる考え方を、各プログラムの実施者とも共有しながら、新たな推進体制を構築し、各プログラムを推進していくべきである。
 本事業を通じ、中長期的に、将来的な社会課題に対応していける政策担当者や研究者などの多様な人材が育成され、更に、強固で広範なネットワークが形成され、エビデンスに基づく政策形成に大きく貢献することができることを強く期待する。
 また、科学技術イノベーション政策を進めるに当たり、エビデンスに基づき、政策の企画立案とその評価・改善等を行うことが必要となるが、これとともに、政策の前提条件を評価し、それを政策の企画立案等に反映するプロセスを確立しなければならない。現在、本事業の成果がエビデンスに基づく政策形成の実現へ貢献し始めているところであるが、今後、本中間評価の結果等を踏まえ、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」がさらに持続的に発展していくことを期待する。

a.人材の育成
 人材育成に関しては、科学技術イノベーションに取り組む現場で活躍できるように、自ら課題を設定し、解決策を企画できる素養を備えている人材が幅広く育成されることが求められる。基盤的研究・人材育成プログラムについての外部委員からの評価では、各拠点とも概ね良好な評価を得ており、今後も人材育成がさらに展開されることを期待する。また、育成された人材が、実際にその能力を存分に発揮できるように、政策形成や研究を支援できる体制を整えることが望ましい。なお、こうした観点からは、人材育成の対象を大学院生のみに限定せず、より幅広い対象である学部生や、そのような現場での活動が想定される社会人をも対象としていくことも一つの方法である。
 また、本事業については、これまで述べてきたとおり、多様性を持っているということが要点となっている。この多様性の観点から、新規拠点についても整備を進めていくことが望まれる。
 加えて、人材育成を進めるに当たっては、「科学技術イノベーション政策のための科学」という学問分野を確立させることが必要である。これについても、今後、新しい推進体制の下でのさらなる議論が望まれるところである。

b.データ・情報基盤の整備や公募型の研究開発
 データ・情報基盤や公募型研究開発プログラムについては、本事業の目的の達成に資するデータ・情報の整備や研究開発を、引き続き実施していかなければならない。特に、本事業の推進に当たっては、現実の政策形成に資するべく知見と成果を蓄積するとともに、研究の裾野を広げて多様性を確保することが必要である。

c.中核的拠点機能の充実と各プログラム間の連携のさらなる強化
 平成26年度から、推進委員会から示された基本的考え方 に基づき、それまでの政策課題対応型調査研究の成果を踏まえて、中核的拠点機能の整備が行われている。中核的拠点機能の整備は、事業全体を効率的かつ強力に推進する観点から、様々な関係者が集まる常設的な議論の場の設定、各プログラムの事業実施の方向性の収斂と中長期的に得られた知見と経験の蓄積、各人材育成拠点の連携協力などを目指して行われたものである。
 個々のプログラムの成果をつなぎ、システムとしての成果を創出し、実際の政策形成に結び付けるためには、各拠点や関係機関等の連携をさらに強化する必要があり、このためには、SciREXセンターが担っている中核的拠点機能の一層の充実・強化に努めるべきである。また、例えば、連携した研究プロジェクトの推進に当たっては、クロスアポイントメント制度の活用等を行うことも考えられる。
 SciREXセンターには、研究者や研究機関等を結び付けるネットワークの形成を行い、成果の橋渡しのハブとしてより一層機能することが望まれる。

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:平成27年08月 --