第1部 研究開発評価の在り方に係る特筆課題

 経済の再生を図り、国際競争力を強化するには、科学技術を基盤としてイノベーションの実現を強力に推進していくことが必要不可欠であり、科学技術に対する社会からの期待は大きい。しかし、平成23年の東日本大震災の発生時においては、我が国が直面した社会的・経済的な諸課題に対して、科学者や技術者が社会からの期待に十分に応えることができず、大学をはじめとする研究開発機関で行われている研究開発活動に対する国民からの信頼は、逆に低下した。国際的には、厳しい社会経済情勢や財政状況の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、科学コミュニティ自らが研究開発活動の意義や在り方について考え、改善し、行動し、説明していかなければならないという考え方が示されてきている。
  我が国においても、このような国内外の動向を踏まえ、研究者が自ら社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集等による課題解決を可能としていく研究開発システムが構築されていくように、研究開発評価の在り方についても改善・改革を図っていく必要がある。


  平成28年1月に策定された第5期科学技術基本計画においては、未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創造に向けて、未来に果敢に挑戦する研究開発と人材の強化や世界に先駆けた「超スマート社会」の実現(Society 5.0)に取り組むとされている。また、経済・社会的課題への対応として13の重要政策課題が提示され、それらの課題の解決に向けた取組を推進することとされている。さらに、若手研究者の育成・活躍促進など人材力の強化、イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進やオープンサイエンスの推進など科学技術イノベーションの基盤的な力の強化、オープンイノベーションを推進する仕組みの強化などイノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築等が謳われている。


  本指針の対象となる文部科学省内部部局(巻末(2)参照。以下同じ。)及び研究開発機関等(巻末(5)参照。以下同じ。)においては、未知への挑戦を促し、科学技術イノベーションの創出につなげていくような研究開発の在り方を積極的に追求していく必要がある。学術研究及び基礎研究(※1)についても、社会経済情勢や国際的動向等を踏まえた上で、その目標や意義を明確化し、説明することが強く求められる。学術研究及び基礎研究の意義は、最新の科学技術・学術の知見をもとに新しい学理・学術領域の創出や既存の学理の再体系化を促すことによって、科学技術・学術の進歩に資することである。さらに、技術の背後にある基礎学理を明らかにすることは、その技術に信頼を与え、それを広く活用することを可能とするものであり、科学技術イノベーション創出の源泉となる。ここにも、学術研究及び基礎研究の重要な意義がある。こうした目標や意義について、研究者が自ら常に意識し、それに沿った成果を効果的に創出し社会に還元するよう努力しなければならない。


  (※1)第5期科学技術基本計画においては、「研究者の内在的動機に基づく独創的で質の高い多様な成果を生み出す学術研究」と「戦略的・要請的な基礎研究」が明確に区分されている。


 また、研究開発の多くは、大学院生を含む若手研究者の活動の中で行われていることから、研究開発施策と高等教育施策等の人材育成施策は有機的な連携を図っていくことが大切であり、個々のプログラム、プロジェクト、課題等の評価のみならず、人材育成の視点等、研究開発をとりまく諸情勢までを踏まえたマクロな視点から研究開発施策について評価を行っていくことも重要である。


 他方、国、資金配分機関とともに、研究開発機関等の研究開発の現場においても、評価の頻度・負担が増大してきており、評価活動に伴う弊害を改善する取組を真剣に進めていくことの重要性が高まっている。


 評価は、何らかの意思決定(資源配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であり、その目的に応じて個々の評価システムが構築される必要があるが、これまで研究開発評価の導入やシステム化を優先的に図ってきた結果、逆に意思決定のプロセスが不明確化する事態も生じている。研究開発プログラムの企画立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任と権限を有する主体を明確化し、当該主体が適切な意思決定を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から、評価の在り方を再構築していく必要がある。また、従来、評価に係る負担が研究開発活動の現場に向かいがちであったものを、研究開発プログラムの企画立案やマネジメントの在り方等、文部科学省内部部局や資金配分機関の取組に対する評価を適切に行っていくことの重要性が増している。


 加えて、いかなる評価システムが構築されても実際に評価を行うにふさわしい人材が乏しければ適切に機能しないことからも明らかなように、評価に責任と権限を持つことができる、評価に関わる資質能力を備えた人材を育成していくとともに、当該人材が活躍できる環境やキャリアパスを整備していくことも重要な課題である。


 従前より、国として、あるいは科学コミュニティとして、研究不正を防ぐために様々な取組がなされてきたにもかかわらず、研究活動における不正行為や研究費の不正使用の事案が社会問題として大きく取り上げられる事態となっている。研究不正は、真実の探求を積み重ねて新たな知を創造していく営みである科学の本質に反するものであり、人々の科学及び科学コミュニティに対する信頼を大きく揺るがし、科学の発展を妨げ、冒涜(ぼうとく)するものである。したがって、各研究開発機関等の科学コミュニティを中心として、国を挙げて事前防止に取り組んでいかなければならない極めて重大な課題である。
 研究開発評価システムにおいても、研究開発機関等における研究不正に対応するための規程や組織としての責任体制の整備状況を確認すること等を通じて、研究活動の大前提である研究不正の事前防止に貢献していくことが重要である。公正な研究開発活動を通じて、研究者等が互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、研究開発の質を高めていくような環境を築いていかなければならない。


 このような我が国の研究開発の諸課題、社会経済事情、国際情勢等を踏まえ、以下の四つの特筆課題については、国、研究開発機関等、研究者、評価者等としても研究開発評価に係る基本的一般的事項とは別に、特に留意すべき課題として把握し、研究開発評価の実務・現場においても適切に改善を図っていく必要がある。

【1】科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進
【2】挑戦的(チャレンジング)な研究、学際・融合領域・領域間連携研究等の推進
【3】次代を担う若手研究者の育成・支援の推進
【4】評価の形式化・形骸化、評価負担増大に対する改善


【1】科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進

 東日本大震災によって顕在化した、社会の期待に十分応えられなかったという科学技術の課題への対応を図るため、研究者自身が社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集等により、効果的に課題解決のための研究開発を実施していくような研究開発システムの構築に向けて改革を図っていく必要がある。
 また、厳しい社会経済情勢や財政状況の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、科学コミュニティ自らが自律的により効果的・効率的な研究開発活動を進めていくために、研究開発評価システムを再構築していく必要がある。
 そのため、文部科学省内部部局及び研究開発機関等において、以下の取組を積極的に進めていくことが期待される。その際、研究開発機関等においては、これらを踏まえた研究開発評価システムを自ら設計・運用し、評価結果を資源配分、組織運営、研究者等(巻末(7)参照。以下同じ。)の処遇等へ適切に反映する取組を進め、文部科学省内部部局においては、これを適切に支援する。

1.研究開発評価に際して全体として特に期待される取組

 (a)長期間にわたって実施される研究開発においては、まず短期目標を定め、その時点の到達度を評価してから次の段階に進む方法の導入や、一定期間ごとに有望な研究開発課題に絞り込んでいく方法の導入、あるいは、一定期間ごとの中間評価の実施等により、研究開発期間中の情勢の変化や目標の達成状況、進捗状況の把握をしやすくする必要がある。また、こうしたタイミングで目標の再設定や、体制の変更、加速・中止も含めた計画変更の要否を検討することが重要である。


 (b)イノベーションを生むためには、研究開発を実施する主体の長のマネジメント力、成果の最大化のための体制作り、有機的な連携や多様な専門知の結集による実用化までを考慮した取組等を適切に評価に反映する必要がある。
 特に、研究開発マネジメントの評価では、研究開発を実施する主体の長及びそれをサポートする者について、それぞれの役割と権限が明確にされているか、また、実施主体の長のパフォーマンスについて評価することが重要であり、例えば、成果創出のためにどのようにリーダーシップを発揮しているかといった観点での評価が必要である。
 また、組織のミッションや、実施主体の長やその長をサポートする役割の者等が置かれている立場によって、実施主体やその長等の役割、権限、責任が異なり、それに応じて評価項目・評価基準も変わっていくことに留意が必要である。
 さらに、実施主体の長がどのように選定・任命されたか、誰がその任命責任を持っているかを明確にするなど、実施主体の長を任命する側の役割と権限の妥当性についても評価すべきである。


  (c)論文発表数や論文被引用度は客観的・定量的な評価指標であり得るが、論文関係の数値だけに頼り安易にこれらの数値を上げること自体が目的化することは適当ではなく、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、必ずしも論文至上主義に偏しすぎないようにする。

2.研究開発プログラムの評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び資金配分機関は、科学技術イノベーションの創出や課題の解決に向けて、研究開発プログラムの企画立案段階からの必要な関係者の参画・関与や透明性の確保に努めるとともに、代替案の比較検討や社会・経済的な影響の評価にも努める。

3.研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発の開始段階等における幅広い関係者との協力に基づいた、国際水準をも踏まえた課題設定、出口戦略の作成、産業構造の変化への対応等の取組を適切に評価へ反映する。


 (b)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発基盤の強化の観点から、研究開発課題の性質に応じて、ベンチャー企業のような、実績は少ないが技術力や実用化へ向けた熱意がある研究開発組織・機関と連携協力して推進する研究開発を積極的に評価する。

4.研究開発機関等の評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体(巻末(6)参照。以下同じ。)は、学際・融合領域・領域間連携研究(巻末(9)参照。以下同じ。)、国際連携等の横断的取組や挑戦的(チャレンジング)な研究(巻末(10)参照。以下同じ。)への取組を評価へ反映する。


 (b)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、課題解決のためのシステム化を促進するため、知の探求のみならず社会ニーズに対応した知の活用を促し、成果の受渡しや成果の実用化、「組織」対「組織」による本格的産学官連携に向けた取組(※2)等、社会実装に至る全段階を通じた取組を評価へ反映する。


(※2)産学官連携活動に関する取組の評価に当たっては、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」(平成28年11月30日イノベーション促進産学官対話会議)を踏まえることとする。

5. 研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

 (a)研究開発機関等は、研究開発活動の費用対効果の観点等も含め、研究者等の活動及び成果がコストに見合わないと判断されるような場合は、研究開発活動の改善を促す措置とあわせて、改善が見込み難い場合の対処方法等についても組み込んだ研究開発評価システムを構築する。その際、科学技術・学術の展開に対する影響度など研究の質及び新規性についても適切に評価を行い、多方面からの評価軸を設定するなど多様性に配慮したものとすること、また、全てを加点方式により評価するシステム(※3)の導入等、被評価者の能力向上につながるものとして肯定的に受け入れられ、研究開発活動の改革や進展を促進するものとすることに努める。


  (※3)十分に達成できなかった評価項目等について減点していく形で評価する方式ではなく、研究開発活動の取組状況や実績等で積極的に評価することができる成果を加点していき、積み上がった加点事項を中心に評価する方式。


  (b)学術研究及び基礎研究活動の重要性・必要性等について国民や社会からの理解と支持を得ていくためにも、研究開発機関等は、研究者自らが研究目的と研究期間について明確に意識しながら所属機関等の使命や領域・課題等に応じた適切な目標を提示し、得られる結果の学術的意義や社会的価値を説明していくなどの取組を積極的に評価し、推進する。


  (c)オープンイノベーションの推進に向けて、産学官連携活動の強化がますます重要となってきている。このため、産学官連携活動や外部資金の獲得状況、企業における業績・経験等についても適切に評価に反映する。


【2】挑戦的(チャレンジング)な研究、学際・融合領域・領域間連携研究等の推進

 (1)研究目標が達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出ると社会的・経済的・学術的にインパクト(巻末(13)参照。以下同じ。)があり、領域の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える可能性が高い挑戦的(チャレンジング)な研究や、
 (2)一つの学問領域では解決が困難な課題に対して二つ以上の学問領域を統合・融合・連携協力して横断的に取り組むことで、新しい研究領域を開拓する学際・融合領域・領域間連携研究 を今後一層促進することが重要である。これらの研究については、関係者での合意ができるまでは評価基準が不明確であることや、既存の研究領域の研究開発課題(プロジェクト)に比して過度に低く評価される傾向もあることから、このような状況を改善していくとともに、ピアレビュー以外の手法を織り込んだ評価手法を設定すること等を通じて、挑戦的(チャレンジング)な研究や学際・融合領域・領域間連携研究等の推進につながるような研究開発評価システムを積極的に構築していく必要がある。


  特に挑戦的(チャレンジング)な研究に関しては、社会情勢の変化や研究開発の進捗状況等に応じ、目標やアプローチ等の妥当性について、研究開発開始後も検証を進め、必要に応じて見直しを実施する必要がある。


 また、直接的な研究開発成果における目標の達成度に加え、関連する制度、体制、運営といった研究開発過程(プロセス)が成果の最大化に向けて適切に組み合わされたかという視点での評価も必要である。また、技術的な限界・ノウハウ・うまくいかなかった要因等の知見、副次的成果や波及効果、研究開発プログラム全体として得られる成果の大きさ等も積極的に評価するなど、挑戦的(チャレンジング)な研究であることを前提とした評価項目・評価基準を設定する必要がある。


1.研究開発プログラムの評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、挑戦的(チャレンジング)な研究や学際・融合領域・領域間連携研究等が適切に評価されるような、事前評価・事後評価等の方法、評価基準、マネジメントの仕組みを、各研究開発プログラムの目的を踏まえて適切に導入する。


 (b)本来は挑戦的(チャレンジング)な研究の推進自体を目的としない研究開発プログラムにおいても、当該目的・評価基準では推し量れない挑戦的(チャレンジング)な研究が提案される可能性はある。その場合、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、当該目的・評価基準では必ずしも優位ではないがリスクをとっても実施する価値があると考えられる案件を採択することを妨げないような審査基準等を設定し、中間評価や事後評価においても、挑戦的(チャレンジング)な案件であることを前提として評価するなどの取組を推進する。


  (c)評価者の立場からすると、挑戦的(チャレンジング)な研究についてはその性質上、あらかじめ統一的・客観的で明確な評価基準をもって評価ないし判断することは困難である。そのため、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、挑戦的(チャレンジング)な研究の推進に際しては、PD(プログラムディレクター)(巻末(14)参照。以下同じ。)、PO(プログラムオフィサー)(巻末(15)参照。以下同じ。)、研究開発課題(プロジェクト)のリーダー等に、研究開発の具体的推進に係る相当の裁量権限と責任を委ねるような仕組みや評価の枠組みを採り入れることを考慮する。


  (d)本来は新しい研究領域の開拓自体を目的としない研究開発プログラムにおける研究開発課題(プロジェクト)の審査においても、学際・融合領域・領域間連携研究が提案された場合に不利にならないよう、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、審査・評価に際しての取扱いを明確にするなど、研究の芽を適切に拾い上げることに努めるとともに、研究の進展に応じて、評価の基準・方法等を適切に見直す。


2.研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、挑戦的(チャレンジング)な研究の事前評価においては、研究開発成果が技術的課題その他に大きなインパクトをもたらす可能性があるものかどうか、研究開発計画が既存の研究開発領域に変革をもたらし新たな研究開発領域を創出する可能性がある研究かどうか、想定される研究開発成果がリスクに見合っているか等を重視するとともに、研究開発課題(プロジェクト)のリーダー等がその目的を実現するマネジメント能力を有しているかについても適切に評価する。


 (b)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、挑戦的(チャレンジング)な研究の研究開発実施段階においては、研究開発の進捗や諸情勢の変化等を踏まえて適時に評価を行い、研究開発課題(プロジェクト)に対する助成等の中止も含めて適切な形で目標・計画を見直す。


  (c)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、特定の社会的課題の解決等を目的として多様な学際・融合領域・領域間連携研究を進める研究開発プログラムの下で推進する研究開発課題については、目標達成への道筋や必要な技術課題群の明確化を行い、それらを踏まえた評価を行うことに十分配慮する。


【3】次代を担う若手研究者の育成・支援の推進

 昨今、ポストドクターや博士課程学生を含む若手研究者について、その研究活動のみならず生活基盤そのものが競争的資金等の研究開発課題の評価や機関内の研究拠点等の評価に強く左右される状況となっている。また、若手研究者の経歴・年齢・国籍等の属性は多様化している 。そのため、研究開発評価も、このような若手研究者の育成・支援の推進を図るものとしていく必要がある。


1.研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発課題の評価に際して、ポストドクターや博士課程学生に提供されている処遇や研究環境、若手研究者が自立した研究者へ育って多様なキャリアへ進むことを支援するような研究代表者の所属機関での組織的な活動を適切に確認する。


  (b)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、若手研究者が応募する競争的資金制度では、若手研究者を育成するために、評価者からのコメントを通知する。


 (c)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、多様で優れた研究者の活躍を促進する観点から、研究開発プログラム等の目的を十分踏まえた上で、若手研究者、女性研究者、外国人研究者が研究代表者である優れた研究開発課題を積極的に評価する。


  (d)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発課題の評価において、参画している個々の若手研究者に評価資料の作成負担がかかるような評価活動を行うのではなく、研究代表者を中心とした評価活動を行うことで、若手研究者が研究に専念できるよう配慮する。


  (e)若手研究者の活躍を促進する観点から、研究開発の進捗や成果が計画を上回り、スピードアップやスケールアップが期待できる場合には、研究開発の進捗等を踏まえて適時に評価を実施し、計画の加速等の見直しを行うことが重要である。


2.研究開発機関等の評価に際して特に期待される取組

 (a)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、博士課程における研究指導体制・環境や多様なキャリア育成の方策を評価することにより、大学等(巻末(3)参照。以下同じ。)の教育研究活動の改善を推進する。同時に、大学等が博士課程学生の修了後の進路把握を継続的に行うことを促進する。


  (b)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、研究開発機関等の活動状況の評価において、研究実績だけでなく、若手研究者の研究環境や各種の育成・支援方策、ポストドクターの研究開発機関等内部での位置付け、キャリアパス展開のための方針の策定や各種の取組を積極的に評価する。


 (c)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、研究開発機関等による優れた若手研究者、女性研究者、外国人研究者の研究代表者としての積極的な登用等、成果の最大化や多様な視点・着眼点の確保のための取組を積極的に評価する。

 3.研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

 (a)研究開発機関等は、個人業績評価による若手研究者への影響を確認しながら、若手研究者が励まされ、創造性を発揮しやすくなるような評価方法を検討する。


  (b)研究開発機関等は、不適切な評価によって若手研究者を短期的に結果の出やすい研究に誘導することなく、挑戦的(チャレンジング)な研究の実施を促進するような評価方法を検討する。例えば、毎年の評価でなく数年ごとに評価する方法を取り入れることや、単に実績だけを評価するのではなく長期的な視野、学際的な視野に立って、各人の活動目標の設定や達成状況、将来の研究展開の可能性や研究領域開拓の展望、若手研究者の成長度合いを積極的に評価すること、従来の領域別のピアレビュー以外の観点や手法を織り込んだ評価手法を設定すること等の方策を検討して、若手研究者による挑戦的(チャレンジング)な研究活動を奨励するような評価法を構築する。


  (c)研究開発機関等は、若手研究者の経歴・年齢・国籍等の属性が多様化している状況を踏まえ、それらの人材が不当に不利益を被ることのないような評価制度、評価結果が処遇内容に反映される仕組みを構築する。


  (d)研究開発機関等は、業績評価結果を若手研究者の人事や処遇、資源配分へと反映するなど、評価結果の活用方策を事前に設定する。


  (e)研究開発機関等は、安定的な資金を確保する努力を行うことでテニュアトラック制度を構築し、任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアを獲得できるように努めるとともに、若手研究者の採用時における評価基準についても論文のみに偏重し過ぎることのないようにする。同時に、多様なキャリアパスに求められる能力を育成するなど、教員・研究者以外へのキャリアパス展開の支援も推進する。


 (f)研究開発機関等は、評価が人事や処遇に結びつく場合には、評価基準の明確な設定や評価実施の透明性の確保を行うことで、若手研究者が意欲をもって研究を行い、切磋琢磨(せっさたくま)する環境を整備する。


  (g)研究開発機関等は、指導的立場にある教員・研究者の業績評価において、ポストドクターや博士課程学生の指導や多様なキャリア開発支援の実績が評価されるよう評価の視点を拡大する。


  (h)研究者が自ら行うべき研究活動に専念し、効果的・効率的に研究成果の創出を図っていくためにも、研究支援者や技術者等は極めて重要である。研究開発機関等は、研究を支える人材の育成と安定的確保が可能となるよう、研究支援者や技術者等の役割、活動、能力等を適切に評価する。


【4】評価の形式化・形骸化、評価負担増大に対する改善

 科学技術基本法制定(平成7年)及び科学技術基本計画策定(平成8年)以降の研究開発評価に関する指針の策定等に基づく研究開発評価の本格的な導入・実施と並行して、これまでに、政策評価法に基づく政策評価(平成13年)、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人評価(平成13年)、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価(平成15年)、大学の認証評価(平成16年)が導入されてきたことや、研究費の基盤的資金から競争的資金等の外部資金へのシフト等により、評価の頻度・負担の増大による弊害(エネルギーの消耗、研究時間の不足、評価の形骸化、徒労感の発生、研究活動への悪影響等)が発生してきている。「評価の形式化・形骸化」は「徒労」、「責任不在の評価」は「弊害」を生むことについて関係者間で認識を共有し、合理的かつ実効的な研究開発評価の在り方に向けて真剣に改善を図っていく必要がある。

1.研究開発評価に際して全体として特に期待される取組

 (a)評価は、最も評価対象・評価事項等に理解・精通している者が行う評価、すなわち「自己評価」が基本かつ重要であり、評価システムが質の高い自己評価を基盤として再構築されることが望ましい。そのために、自己評価に当たっては、客観的で信憑(しんぴょう)性の高いものとすることに十分留意するとともに、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究者側からの研究意義等についての積極的な主張を歓迎する。質の高い自己評価をベースとした第三者評価(巻末(16)参照。以下同じ。)や外部評価(巻末(17)参照。以下同じ。)については、例えば、それぞれの研究開発段階での自己評価の正当性の観点から行うことや、会議形式での評価と書面形式での評価を適切に組み合わせるなど、多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて柔軟に合理的な評価手法を設定する。


 (b)大綱的指針において、「評価を受けること及び評価をするということは、本来受動的なものではない。個々の研究開発のみならず、当該研究開発が関連する政策・施策等について、その目的に照らして、目標、研究開発過程(プロセス)及びそこから生み出される結果、成果や波及効果等が正当に評価され、次の政策・施策等につながることは、研究者の意欲向上につながるだけでなく、組織の長や政策立案者にとっても、政策・施策等をよりよく進めることを促進し、さらなる挑戦を促すものである。」とされている。 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価は何らかの意思決定(資源配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であることを再確認し、画一的な評価システムを形式的に導入するのではなく、その目的に応じて個々に適切な研究開発評価システムを構築する。また、過去を振り返ることや評価対象のランク付けのみを目的化することを避け、改善策や今後の対応等に重点を置くなど、評価結果を政策・施策等に活かしていく。


  (c)評価を導入・システム化してきた結果として、逆に責任・権限関係や意思決定のプロセス等が不明確化する事態も生じている。文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究開発プログラムの立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任・権限を有する主体を明確化し、当該意思決定を行う主体が適切な判断等を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から評価の在り方を再構築する。また、そのような責任・権限体制が整備・確立されているかどうかについて適切に評価する。


 (d)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究開発に係る各種の評価システムの必要性や有効性、評価の頻度や方法の妥当性等を踏まえ、実効的かつ合理的な評価の在り方を検討するとともに、評価の質を高めるよう努める。その際、「必要性」・「有効性」・「効率性」を含め、以下のような評価の観点や項目全てについて網羅的に評価するのではなく、むしろ、それぞれの研究段階、研究特性、研究方法等を踏まえて、評価の観点や項目の重み付けを行い、評価すべきことをしっかりと評価することが本質的に重要であることに十分留意する。
  ○施策・制度との「関連性」
  ○研究の内容や成果の「質」、「独創性」、「先進性」、「新規性」
  ○資源が適正に配分され、成果がそれに見合うものであるか
  ○研究活動全般の将来を十分に見据えた影響力、波及効果 等


(e)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、評価に関わる人材(評価に関する専門的能力を有する人材、評価の設計を担当できる専門人材を含む)の育成方策について検討するとともに、評価に関わる人材の能力アップを図り、キャリアパス展開を推進する。また、このために必要な経費を競争的資金の一部から確保することについても検討する。なお、評価に関わる人材として求められる能力・素養としては、以下のようなものが挙げられる。
  ○評価の目的を的確に把握する能力
  ○評価対象の実態を深く把握・分析する能力
  ○評価対象のみに限定されないマクロな視点や把握力
  ○評価に際して不足している知見・情報等を適切な者から補える能力
  ○評価に際しての中立性・公正性
  ○評価に際して適切な責任・権限を行使できること
  ○評価に際して留意すべき一般的事項や専門的事項に一定程度精通していること 等


  (f)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、科学コミュニティや科学技術政策における課題の解決を促進するための一手段として、研究開発評価システムを設計して評価結果を活用することを推進する。


2.研究開発プログラムの評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び資金配分機関は、競争的資金の全体構成や基盤的資金とのバランス等、社会情勢等を踏まえた研究開発プログラムの在り方について適切に評価するとともに、存続・廃止や在り方等による影響が特に大きいと考えられる研究開発プログラムについては、負担が過大とならないことにも十分留意しつつ、適切にモニタリングや追跡評価を実施していくことを検討する。また、追跡評価は、評価者・被評価者双方に相当の負担やコストが発生する実情を踏まえ、追跡評価の対象とする研究開発プログラム・研究開発課題等を限定するとともに、追跡評価の負担の軽減や廃止についても適切かつ柔軟に対応する。


3.研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、それぞれの研究開発の位置付け、研究開発方法、研究開発機関の特性等を踏まえて資源配分や評価の手法を最適なものとし、成果の最大化を図る。


4.研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

 (a)研究開発機関等は、研究者等の業績評価を実施する目的や評価結果の活用方法を改めて明確にする。活用方法には、待遇(昇進、賞与・一時金や給与等)への反映のみならず、研究資金や資源(スペースや時間等)の配分、教員の教育・研究能力開発の支援など多様な可能性があることに留意する。また、業績評価の有効性を検討し、定期的な見直しを行う。


  (b)大学等は、教員や研究者の研究教育活動が多様であることや年齢・経歴等の属性が多様化している現状を踏まえ、複合的な視点を含む評価方法を採用することに留意するとともに、大学等において主流である学術研究については、学問領域の特性に配慮しつつ、自ら研究課題を探索し発見する取組を評価する。


5.PD・PO制度の改善及び評価システムの合理化、柔軟化

 PD、PO等、評価に際して相当の責任・権限を有する者は、評価に関する知見・経験が豊かであるのみならず、当該案件に相当の時間や労力をかけることが可能であるとともに、内容や事情等にも精通している必要がある。文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、そのような評価に際して責任・権限を担える人材を育成するとともに、当該責任・権限を行使できる体制を構築し整備していくことが重要である。  文部科学省内部部局及び資金配分機関は、政府全体の方針を踏まえて、PD・PO制度についても実効的・合理的な研究開発評価を実施する観点から、以下のような点等に留意して改善を図る。


(a)資金配分機関等におけるPD、PO等への責任及び権限の付与、明確化、強化


(b)PD、PO等を雇用・任命・指名・選任する者(文部科学省内部部局及び資金配分機関等)の責任、権限及びプロセスの明確化


(c)PD、PO等の活動や判断を支える体制及び環境の整備
  ○PD、PO等の位置付けの改善(常勤化又は相応の待遇の確保)
  ○活動の継続性の確保(例えば、5年程度を目安に研究開発内容や制度の 特性に応じた就任期間の設定、活動終了後の責任の継続)
  ○PD、PO等のプログラム等の企画・立案への関与・参画
  ○裁量権の拡大
  ○適切なエフォートの確保
  ○必要な活動経費の支援
  ○必要な事務支援体制の提供  等


  (d)競争的資金制度等の予算等で、これらのPD、PO等の活動に必要な経費を適切に確保・執行する。


  (e)競争的資金制度等ごとに、文部科学省内部部局、資金配分機関、研究実施者(研究リーダー)とPD、PO等の役割分担(責任・権限)を明確化する。


 (f)上記のようなPD・PO制度の改善がなされた場合における研究開発評価システムの合理化や柔軟性の容認・確保(従来型の事前・中間・事後評価に代えて、研究実施者による自己評価及びPD、PO等の責任・権限による評価・行動・説明等を基本とする新たな評価システムへ)    等

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科学技術・学術政策局 企画評価課

(科学技術・学術政策局 企画評価課)

-- 登録:平成26年04月 --