第3章 対象別事項

 研究開発に関する評価が多様な側面からなされるようになったことから、各評価を個別に行うのではなく、収集した情報や評価結果を相互に活用することにより、作業の重複を避け、効率的に評価を実施することが必要である。例えば、研究開発課題の評価結果は、研究開発施策、研究開発を行う機関等、あるいは研究者等の業績の評価の際の情報となり得るものであり、課題の評価実施主体は、評価結果に関する情報の提供を積極的に行う。

3.1 研究開発施策の評価

 研究開発施策の評価の実施に当たっては、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」や「文部科学省政策評価基本計画」等に基づく政策評価と整合するように取り組む。

3.1.1 評価システム

 文部科学省内部部局は、評価の実施に当たって、研究開発施策を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を施策の見直しや運用の改善などに適切に反映するという循環過程を構築する。なお、評価を適切に実施するために、施策を企画立案する際に、達成目標を明確にするなど、評価を念頭に置くことが重要である。
 研究開発施策の評価に当たっては、評価の階層構造が存在することを考慮し、様々な評価を有機的に連携させる。例えば、研究開発課題を運営する制度に関しては、その制度の下で行われる課題の評価結果を総覧しつつ、分野間の配分や制度運営の適切性などの視点も含め、評価を行う。その際、課題の評価者からの意見聴取等に配慮する。

3.1.2 評価方法

 研究開発施策の評価に関しては、新たに導入されたところであり、文部科学省内部部局は、適切な評価手法を検討しながら進める。
 研究開発施策の所管部局は、以下の諸点を踏まえ、施策の評価を行う。

  1. 関連する研究開発課題や研究開発を行う機関等の評価結果を踏まえつつ、研究開発施策が国の方針に照らして適切であるか、所期の効果を挙げているか、関連する施策との連携を保ちながら効果的・効率的に推進されているかなどの評価を行う。また、分野間の比率や優先順位等も考慮する。
  2. 事前に出来る限り多様な視点から研究開発施策の必要性、有効性を見極める評価を行うとともに、諸情勢の変化に柔軟に対応しつつ、常に活発な研究開発が実施されるよう、定期的に中間評価、さらに、事後評価を行い、施策の改善に役立てる。また、必要に応じて、追跡評価を行い、成果の活用状況や波及効果等を把握するとともに、過去の評価の妥当性を検証し、関連する施策の見直し等に適切に反映する。
  3. 研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるために、科学的・技術的観点に関しては外部専門家から、社会的・経済的観点に関しては外部有識者等からの意見聴取や、外部機関による分析を加味することに努める。その際、評価結果を研究開発施策等の企画立案に適切に反映することを容易にするために、審議会を積極的に活用する。
  4. 国民の理解を得るため、評価結果等をインターネットを利用するなどして広く公表するとともに、必要に応じて国民の意見を反映させる。

3.2 研究開発課題の評価

3.2.1 共通事項

3.2.1.1 分類

 研究開発課題は、公募により複数の候補の中から優れたものが競争的に選択され、実施される「競争的資金による研究開発課題」、国が定めた明確な目的や目標に沿って重点的に推進される「重点的資金による研究開発課題」及び研究開発を行う機関に経常的に配分された資金により実施される「基盤的資金による研究開発課題」に区分される。

3.2.1.2 評価時期

 評価実施主体は、研究開発課題について、原則として事前評価及び事後評価を行う。
 5年以上の研究開発期間を有する、あるいは期間の定めが無いものについては、当該研究開発課題の性格、内容、規模等を考慮し、例えば3年毎を一つの目安として定期的に中間評価を行う。
 また、研究開発終了後、一定の期間を経過した後に副次的効果を含め顕著な成果が確認されることもあるため、学会等における評価や実用化の状況を適宜把握し、必要に応じて追跡評価を行う。追跡評価では、成果の活用状況や波及効果等を把握するとともに、過去の評価の妥当性を検証し、関連する研究開発施策の見直し等に適切に反映する。
 なお、10億円以上の費用を要することが見込まれる研究開発課題については、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」等に基づき、行政機関が事前評価を行うことが義務付けられており、本指針に基づいて評価を行う。

3.2.1.3 評価方法

 評価実施主体は、研究開発課題の性格、内容、規模等に応じて適切な手法や項目を設定する。

3.2.1.4 評価者名の公表における配慮

 評価実施主体は、評価者名の公表に当たって、研究者間に新たな利害関係を生じさせないため、必要に応じ個々の研究開発課題に対する評価者が特定されないよう配慮する。

3.2.1.5 評価における負担の回避

 評価実施主体は、評価項目を厳選する、評価の対象とする研究開発成果(論文・特許等)を代表的な数点に絞る、競争的資金制度等での少額の研究開発課題では事前評価による審査を中心とし、事後評価は実績の評価等最小限度に留めることを考慮するなど、評価に伴う過重な負担を回避する。

3.2.1.6 その他

 民間研究機関や公設試験研究機関等が国費の支出を受けて実施する研究開発課題については、評価実施主体は、国費の負担度合い等、国の関与に対応して適切に評価を行う。
 研究者の当該研究開発課題への関与の程度を明らかにし、効果的・効率的な研究開発の推進を図るため、研究代表者及び研究分担者のエフォートを明らかにし、競争的資金制度における課題の選定、研究開発課題の企画立案等の際に活用する。

3.2.2 競争的資金による研究開発課題

3.2.2.1 評価方法

 競争的資金による研究開発課題について、評価実施主体は、高い資質を有した専門家によるピア・レビューを原則として評価を行う。また、課題の性格に配慮して適切な評価項目等を設定する。
 事前評価に当たっては、少数意見も尊重し、斬新な発想や創造性等を見過ごさないように十分に配慮する。また、応募実績の無い者や少ない者(若手、産業界の研究者等)に対しては、研究内容や計画に重点をおいて的確に評価し、研究開発の機会が適切に与えられるようにする。
 グループ研究開発の場合は、参画研究者の役割分担や活動状況、実施体制、責任体制の明確さ(研究代表者の責任を含む)についても評価する。

3.2.2.2 優れた研究開発の継続への配慮

 優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題については、次の競争的資金(異なる競争的資金制度によるものを含む)等が継続して配分されるなど、切れ目なく研究開発が継続できることが重要である。そのため、評価実施主体は、例えば、研究開発終了前の適切な時期に前倒しで評価を行い、その評価結果を次の申請時の事前評価に活用する。

3.2.2.3 評価体制の整備

 競争的資金の配分機関等は、研究開発課題の評価プロセスの適切な管理、質の高い評価、優れた研究開発の支援を行うため、評価部門を設置し、国の内外から若手を含む研究経験のある人材を適性に応じ一定期間配置するなど評価体制を整備する。

3.2.3 重点的資金による研究開発課題

3.2.3.1 評価方法

 重点的資金による研究開発課題は、用いられる資金の額が高額のものが少なくないため、評価実施主体は、原則として外部評価を活用するとともに、科学的・技術的観点からの評価に加え社会的・経済的観点からの評価を行うなど、より慎重な評価を行う。
 その際、研究開発課題の計画が研究開発施策と整合しているかなど、適切に評価を行う。また、評価結果は、計画の見直し等に適切に反映する。なお、適切な評価を行うために、達成目標・達成時期を明確にするなど、計画する際に評価を念頭に置くことが重要である。

3.2.3.2 大規模プロジェクト及び社会的に関心の高い研究開発課題

 大規模プロジェクト及び社会的に関心の高い研究開発課題の評価に当たっては、文部科学省内部部局及び研究開発を行う機関等は、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるため、審議会等を活用するとともに、必要に応じて第三者評価を活用する。
 国民の理解を得るため、早い段階から大規模プロジェクト等の内容や計画等をインターネット等を通じて広く公表し、必要に応じて国民の意見を反映させる。
大規模プロジェクトについては、巨額の国費を投入するため、その内容に関し、計画・体制・手法の妥当性、責任体制の明確さ、費用対効果、基盤技術の成熟度、代替案との比較検討等、多様な項目について評価を行うなど、特に入念に事前評価を行う。当該プロジェクトが実施されなかった場合の損失も評価項目の一つとなり得る。
 中間評価により、計画の進捗状況を評価する。その際、計画外事象の発生の有無及び対応の適否を考慮する。評価結果は、プロジェクトの目標・計画の見直し等に適切に反映する。
事後評価により、所期の目標に照らしてプロジェクトの成果を評価する。その際、論文・特許の質等を含む科学的・技術的成果、成果の産業化等の社会・経済への貢献、副次的成果、得られた波及効果等を評価項目とする。さらに、成否の要因についての分析を行う。評価結果は、将来計画等に適切に反映する。
 また、追跡評価を適時に行い、成果の波及効果等の把握に努め、目標や過去の評価の妥当性を検証し、関連するプロジェクトや研究開発施策の見直し等に適切に反映する。
 国際共同プロジェクトについては、国際的な役割分担、国際貢献、国益上の意義や効果等についても評価する。

3.2.4 基盤的資金による研究開発課題

 評価に当たっては、機関の長が機関の設置目的等に照らして、評価時期も含め、適切かつ効率的な評価のルールを整備して、責任をもって実施する。
 論文発表等を通じた当該研究開発分野の研究者間における評価等を活用することや、必要に応じて機関評価の対象に含めることなどにより、効率的で適切な方法により行う。この場合、必ずしも外部評価を求めるものではない。
 評価結果を踏まえ、効果的な資源の配分に努めるとともに、必要に応じて機関評価に活用し、機関における経常的な研究開発活動全体の改善に資する。評価結果の公表に関しては、機関長の定めるルールの下で適切に行う。

3.3 研究開発を行う機関等の評価

3.3.1 評価時期

 評価実施主体は、研究開発をめぐる諸情勢の変化に柔軟に対応しつつ、常に活発な研究開発が実施されるよう、3年から5年程度の期間を一つの目安として、定期的に評価を行う。

3.3.2 評価方法

 評価実施主体は、機関の設置目的や研究開発の目的・目標に即して、機関運営面と研究開発の実施・推進面から評価を行う。
 機関運営面については、研究開発の目的・目標の達成や研究開発環境の整備等のための運営について、効率性の観点も踏まえ評価を行う。
 研究開発の実施・推進面については、機関が実施・推進した研究開発課題の評価と所属する研究者等の業績評価の総体で行う。なお、機関評価の実施に当たっては、改めて個別の課題及び研究者等の業績の評価を行うことは必ずしも必要としないことに留意する。
 同一機関内で異なる階層の組織単位における機関評価が行われる場合には、効果的・効率的な評価の実施のため、その評価がより上位階層の組織単位の評価に活用できるよう、評価項目を一致させるなど、各評価実施主体が連携をとって行う。
 また、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるために、外部有識者を評価者に含める。

3.3.3 評価結果の取扱い

 機関長は、評価結果を、機関運営の改善や機関内での資源配分に適切に反映する。

3.3.4 留意事項

 機関運営は、機関長の裁量の下で行われるものであり、評価結果を責任者たる機関長の評価につなげる。
 なお、資源配分機関の機関評価に当たっては、機関運営面に加えて、配分した資金がどのように活用され、どのような成果が得られているかを把握し、資源配分へ適切に反映する。

3.4 研究者等の業績評価

 評価に当たっては、研究者等が所属する機関の長が機関の設置目的等に照らして、評価時期も含め、適切かつ効率的な評価のルールを整備して、責任をもって実施する。
 研究者の多様な能力や適性に配慮し、研究開発活動に加え、研究開発の企画・管理、評価活動、また、産業界との連携等の関連する活動にも着目して評価を行う。
 さらに、研究支援者の業績を評価する際、研究開発を推進するためには、研究支援者の協力が不可欠であることから、研究支援者の専門的な能力、研究開発の推進に対する貢献度等を適切に評価する。
 評価結果は、個人情報の保護の点から特に慎重に取り扱うよう留意しつつ、その処遇等に反映するなど、機関長の定めるルールの下で適切に活用する。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付評価推進室

(科学技術・学術政策局計画官付評価推進室)

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