第169号
平成9年11月13日
本調査は、平成6年12月に内閣総理大臣決定された「科学技術系人材確保に関する基本指針」において科学技術を身近にとらえ考えるための多様な機会を提供することの重要性が示されたことを踏まえ、科学館や博物館等の社会教育施設で実施されている青少年向けの科学技術普及啓発事業を対象に、創造性の育成という観点から、これら事業を活性化していくための具体的施策について検討を行うため、科学技術振興調整費により、平成7、8年度の2カ年で実施した。今回は、その2年目である平成8年度の調査の概要について報告するものである。
本調査は、財団法人日本科学技術振興財団に委託し、同財団内に調査委員会を設置して、以下の方法で実施した。
我が国において青少年向けの科学技術普及啓発事業を実施している者としては、科学館、学会、青少年団体、企業、自治体などが挙げられる。平成7年度の調査では、これら科学技術普及啓発事業実施者のうち、科学館、学会を対象として、科学技術普及啓発事業の実施状況調査を行うとともに下記の観点から自己評価を行ってもらい、これをもとに分析を行った。
平成8年度の調査では、残る青少年団体、企業、各省庁、自治体などを対象に、平成7年度と同様の分析を実施した。
上記の事業者に対し、各自の実施している事業から離れて、創造性の育成要素、創造性向上に効果的な方法、創造性向上のために克服すべき課題についてアンケート調査を行った。
科学技術普及啓発事業実施上の創造性育成を妨げる問題点に対処するための、新しい技術を中心とした施策の有効性につき、科学館関係者に対するアンケート調査及び国内及び海外の事業実施者に対するヒアリング調査を行った。また、普及啓発事業の実施主体の連携方策を検討し、モデルとなる事業を検討した。
青少年団体、企業、自治体などで実施されている科学技術普及啓発事業の全体(252事業)の傾向については、小学生、中学生を対象としたものが多く、高校生、大学生を対象としたものは少ない。
自然観察会(69%)、キャンプ(61%)、工作教室(60%)の順に多い。
開催頻度については年1回が最も多く、回答の半数を超えている(51%)。次いで年2~6回(19%)の事業が多い。単発的に実施されている事業が多いことが分かる。
開催規模については、事業1回当たりの対象者数30人未満のものが24.6%を占めているおり、この傾向は科学館も同様である。一方で、開催時間は9時間以上のものが38.9%を占めて最も多いが、これは宿泊を伴う事業が多いためと考えられる。
全般的に見て、各事業と関連が深いのは、「疑問・興味・関心の喚起」、「基本的知識の付与」といった、青少年が科学技術に関心をもつための動機づけのための初期的な段階の項目である。一方で「数学的手法の表現力養成」、「批判精神・批判力の養成」といった創造性育成の後期段階にある項目にはあまり重点が置かれていない。
事業とそれぞれの創造性育成要素との関係を、幼児、小学生、中学生、高校生、大学生の各対象者別に見てみると、どの対象者においても同じような傾向となっていることから、今後、対象者の成長や発達段階に応じて重点を置くべき要素を違えるなど、対象者ごとに目標が異なるきめ細かな事業形態を工夫する必要があると考えられる。
各事業形態ごとに創造性育成要素との関連性を調べた場合でも、「疑問・興味・関心の喚起」や「基本的知識の付与」といった創造性育成の初期項目に比較的重点が置かれている傾向が見られた。しかしながら、事業形態によっては、例えば「新しい価値観、世界観の形成」など一部の要素に重点を置いたり、研究発表会、コンクール、ガールスカウト活動等各要素のバランスのとれた事業がある。
青少年団体等から回収した創造性育成に効果があると考えられている代表的な事業(252件)について11の項目のそれぞれについて成功度を評価してもらった。全体では「万全」「概ね良好」と回答した割合が11項目中9項目で半数を超えているものの、「施設・設備の状況」「展示・視聴覚技術・教育手法」の2つについては50%を割っている。・これを各事業形態別に見てみても同様の傾向が伺えるが、その中でも、勤労体験・実体験は「万全」「概ね良好」と回答した割合が全項目において50%を超えているが、実験教室においては4項目で成功度が50%を割っている。
各事業ごとに創造性を高めるために有効な手法(工夫点、配慮点)について聞いたところ、工芸・工作教室、キャンプのような参加型のものは、「個々の子どもに対応する」「トライアンドエラーを可能にする」などが特に有効と考える意見が多かった。
創造性育成効果を高めるために必要な方策について聞いたところ、工作・工芸教室、実験教室、パソコン教室、自然観察会などで、「実施指導者の資質向上及び確保」など人材面での方策の必要性を指摘する意見が多かった。
科学館が直面している課題(13課題)を抽出し、科学館の事業担当者(131人)に各課題の克服に今後実施を予定している国の施策(12施策)が有効と思うかを調査した。
その結果、以下のようにいうことができる。人材面の課題では、「事業企画人材の増強」及び「実施指導者の確保」には「視察研究セミナーの充実」が有効とする回答がそれぞれ69.4%(126点)、70.2%(124点)を占め、「ボランティア等の人材起用」に対しては、科学技術実験教室の開催にボランティアとして携わる人員を登録・組織化し、実験教室の場に所要の機材と共に派遣する「サイエンスレンジャー制度」が有効とする回答が多かった(72.5%)(140点)。
技術面の課題では、「情報サービス機能強化」のために「科学館ネットワークの強化」(64.9%,109点)や「マスメディアとの連携強化」(61.1%,102点)を有効とした回答者が多かった。
制度・連携面では「実施主体関の連携強化」に対して「科学館ネットワークの強化」が有効との回答が多く(60.0%,111点)、「地域・学校との連携強化」に関しては「教師・学生の体験学習会の開催」をあげた回答者が圧倒的に多い(72.5%,141点)。
企画・情報面では、「高校生・大学生向け事業の実施」については、「教師・学生の体験学習会の開催」を有効とする回答が多かった(59.5%,100点)
本調査の2年間の総括として、2年間のアンケートやヒアリング結果などで得られた情報を基に、青少年の創造性育成効果向上のために必要な各種方策を踏まえたモデル事業を策定した。
モデル事業の策定に当たっては、現在行われている事業を
の4グループに類型化し、2年間の調査結果から各グループ毎に創造性育成効果自体が必要な方策を抽出して、モデル事業を策定した(詳細は図表‐7)。
問い合わせ先:
科学技術庁科学技術政策局計画課
〒100 東京都千代田区霞が関2‐2‐1
電話:03‐3581‐9983 担当:岡本
-- 登録:平成21年以前 --