我が国の研究機関における研究支援体制の今後のあり方に関する調査 2)研究支援産業を巡る環境整備に関する調査[第180号]
‐第180号‐
平成10年9月24日
我が国の国立試験研究機関及び大学のみならず、民間企業においても研究支援に関しては、十分にサービスが行き届いていないのが現状である。国立試験研究機関及び大学については外部活用による研究支援産業からのサービス調達の可能性が高まると想定されるほか、民間企業においても研究開発の拡大にともない効率化を図る必要があり、研究支援産業の健全な発達・改善が期待されるところである。このため、本調査では、我が国の研究支援産業の現状及びそのあり方についてアンケート調査やヒアリング調査を実施した。その結果、研究支援者派遣サービスやポスドク採用制度の支援体制等の整備の必要性、特許出願・ベンチャー化・産学連携等の支援体制の整備の必要性が分かった。そのため、今後、これら環境整備や支援体制整備の必要性を中心に、研究者側のニーズと研究支援サービス会社側の提供条件とのギャップ等に注目して、新たな研究支援サービスの実現に向けた調査が必要である。
本調査は、科学技術振興調整費により平成9年度から平成10年度にかけて実施しているものであり、今回は平成9年度の調査結果について報告するものである。
1.調査の目的
本調査では、我が国の研究開発を支えるべき研究支援産業の現状を把握するとともにそのあり方及びそのための環境整備を講じる上で必要な基礎資料を得ることを目的とし、調査を行った。
2.調査方法
本調査は通商産業省工業技術院より社団法人研究産業協会に委託して実施した。
(1)研究支援産業環境調査委員会による検討
学識経験者、民間企業の研究開発・企画関係者から構成する委員会を設置し、調査方針、調査方法、調査結果等に関する検討を実施した。
開催実績
- 第1回 平成9年9月10日(水曜日)開催
事業計画、アンケート調査案、ヒアリング調査案について審議
- 第2回 平成9年12月3日(水曜日)開催
アンケート調査中間結果概要、ヒアリング調査実施状況、調査結果の解析とまとめ方について審議
- 第3回 平成10年2月27日(水曜日)開催
調査結果の報告、調査報告書について審議
(2)新制度研究プロジェクトの研究代表者に対する郵送によるアンケート調査
今後、研究支援産業界からサービス調達の可能性が比較的高まると想定される新制度研究プロジェクト(今回は、提案公募型研究開発)の研究代表者に対し、現状の研究環境(提案公募型研究開発を中心とした)課題、その改善に必要な研究支援サービスのニーズについて、郵送によるアンケート調査を実施した。
アンケート調査実績
- 提案公募型研究開発研究代表者を対象とする郵送アンケートの状況
|
調査数 |
回答数 |
回収率 |
新規研究者 |
323 |
143 |
44% |
継続研究者 |
328 |
132 |
40% |
終了研究者 |
216 |
43 |
66% |
合計 |
867 |
418 |
48% |
(3)(2)の対象者以外の国内研究者に対するインターネット利用によるアンケート調査
全国の理工学系研究者から国立・私立大学の研究所長等の研究管理者までの幅広い研究者を対象とし、全般的な現状の研究環境課題、研究支援サービスのニーズについて、インターネットを利用したアンケート調査を実施した。
アンケート調査実績
|
調査数 |
回答数 |
回収率 |
科研費の研究代表者 |
310 |
67 |
22% |
全国の理工学系研究者 |
305 |
105 |
34% |
研究所長・研究センター長 |
248 |
47 |
19% |
合計 |
863 |
219 |
25% |
(4)(2)及び(3)のアンケート調査を補完するためのヒアリング調査(一部講演形式)
提案公募型研究開発の代表者を主に対象とし、提案公募型研究開発や科学技術基本計画による研究環境の変化などについて、アンケート調査を補完する情報を入手するため、ヒアリング調査を実施した。
調査実績
- 訪問先: 20ヶ所
- 講演形式によるヒアリング: 3回(講演者6名)
- 講演テーマ:
「大学における提案公募型研究」
「大学における研究成果活用」
「大学における産学連携」
「大学や研究機関におけるベンチャー化」
(5)研究支援サービス業界への郵送によるアンケート調査
国立研究所、大学等の研究支援ニーズに対して、サービスを提供する研究支援産業界側の現状等について調査するため、研究支援サービス産業の代表的な業種として検査分析サービス業界と技術情報サービス業界を対象とし、公的機関との間での受託・委託、共同研究、人材派遣等について、現状、要望等の郵送によるアンケートを実施した。
アンケート調査実績
|
調査数 |
回答数 |
回収率 |
検査分析サービス業界 |
506 |
177 |
35% |
技術情報サービス業界 |
203 |
63 |
31% |
合計 |
709 |
240 |
34% |
3.調査結果(概要)
(1)研究開発環境の現状
1)研究員と外部人材活用
- 研究員の現状人員とプロジェクトで必要な人員(平均人数)
研究代表者が平成9年度の提案公募型研究開発の研究プロジェクトで計画している現状の研究員数と、現在のプロジェクトで必要な研究員数を研究者と研究支援者に分けて調査した。「必要な人員」とは、「現状の人員」に、「現状の予算内で増員したい人数」をプラスした人数として回答を依頼した。その差し引きから「不足人員」を求めた。
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現状人員 |
必要な人員 |
不足人員 |
研究者 |
9.9 |
13.0 |
3.1 |
研究支援者 |
7.6 |
10.8 |
3.2 |
合計 |
17.5 |
23.8 |
6.3 |
- 研究終了後の雇用研究員の再就職状況
研究終了後の研究代表者へ、提案公募型研究開発制度で採用された研究員がどうなったかを質問した結果が下表である。
|
独自採用のポスドク |
NEDO派遣の研究者 |
雇用した実験補助者 |
ポストが確保できた |
9 |
17 |
8 |
他のプロジェクトの研究員になった |
6 |
8 |
9 |
民間企業へ就職した |
3 |
6 |
6 |
ポストが無く探している |
2 |
1 |
3 |
その他 |
5 |
5 |
3 |
合計 |
25 |
37 |
29 |
- 「ポストが確保できた」、「他のプロジェクトの研究員になった」、「民間企業に就職した」の合計を回答総数で割ったものを再就職率とすれば、ポスドクの場合72%、NEDO派遣者で84%、実験補助者で79%と比較的高い。別途質問した結果では、採用した実験補助者や資料整理補助者のプロジェクト終了後の継続雇用は48%であり、52%は継続雇用できていない。
- 研究者が研究に集中できる環境整備の一貫として、事務支援者が必要との意見が51%あった。
- 人材派遣に対する就業形態や時間給などに対する希望としては、機器分析の実験補助者の場合、6ヶ月未満の週単位勤務であれば、1日7.6時間、週3.9日、年26.5週で、時間給は1,000~5,000円/時間であった。
2)研究設備の外部利用
- 研究費の50%を設備費に使われているが、一方では人件費を増やしたいとの希望があり、今後いかに設備コストを下げてアウトソーシング費用を確立するかが課題になろう。プロジェクト1年目の研究者による大型施設の外部利用の現状は、約17%であった。
- 民間企業の設備に対する利用希望は、バイオ関連実験設備で約25%、材料の合成精製設備で約17%であった。
- 導入した設備の補修、修繕に関しては、装置メーカへの外注65%、保守や補修のサービス専門会社への外注9%、研究者や研究支援者が自ら行うが25%であった。
3)研究支援サービス全般の活用状況
- 最近2年間に利用したことがある研究支援サービスは、990件(サービスの種類×研究室数)であるが、今後ニーズが発生するとの回答は、約2,900件あり、増える傾向にある。
- 期待される研究支援サービスとしては、特許出願・審査・権利維持の代行、研究支援者の人材派遣、国際会議やセミナー開催の企画・事務の支援、予算管理の事務支援、機器レンタルの技術支援などであった。
4)検査分析サービスへのニーズ
- 「材料や素子の元素・組成分析」、「材料の物性分析測定」、「生化学的分析」のニーズが26%、24%、22%を占めて多かった。
検査設備が無い場合、研究所内での借用、機器分析センターなどの共用施設利用が多く、外注は少ない。
- 民間の検査会社へ委託している研究室は、約30%で、79研究機関の年間委託金額は平均149万円/研究機関である。
5)技術情報サービスへのニーズ
- 情報の入手には学会誌や研究機関内で入手することが多く、現状では、外部利用は少ない。
- 技術文献・特許・研究動向等の技術調査が必要であるとの回答が多く、また、技術文献調査、特許調査、先行技術調査等への希望が多い。
6)特許出願支援サービスへのニーズ
- 特許出願を予定しているとの回答は68%、特許の権利は発明者へ帰属すべきとの回答が39%であるが、出願費用や権利保持費用を個人負担してもよいとの回答は11%しかない。
- 特許の費用負担や事務代行などをしてくれるサービス機関を望むとの回答は94%と多い。
- 事業化が見込まれる特許の技術シーズは295の回答数で、年間465件の出願が見込まれるとの回答があった。
- 特許出願を積極的に行っていない理由としては、「申請に時間と手間がかかる」、「費用がかかる」、「特許に関する知識が乏しい」、「特許取得のサポート体制がない」、「学術論文のような評価がされない」、「特許によって独占すべきでない」の意見があった。
- これらの課題に対する解決策の一つとして、TLO(Technology Licensing Organization)の整備が検討されており、TLOに関する調査では、設立されたら79%が活用するとの回答で、ライセンス収入配分では、研究室と個人との比率を50‐50とすべきが47%で、研究室の比率を多くすべきとの回答が42%であった。
(2)研究支援産業界に対するアンケート調査の結果
- 検査・分析サービス産業の約40%、技術情報サービス産業の約30%が、大学、国公立研究所から受託を受けており、いずれも今後の受託増大を希望。
- 人材派遣に関しては、「積極的に対応したい」は、検査・分析サービス産業で10%、技術情報サービス産業で、20%と少なく、「場合によっては対応したい」は、検査・分析サービス産業で64%、技術情報サービス産業で、55%と多い。
- 人材派遣に際しての希望給与としては、検査・分析サービス産業で6,700円/時間、技術情報サービス産業で9,100円/時間であった。
- 全体としては、研究者側のニーズと研究支援サービス提供者の条件とのギャップは大きい。
4.結論
- (1)新制度の研究プロジェクトによって提案公募型研究開発のような競争的研究資金の活用ができるようになったり、外部人材を活用しての研究が可能になったりして、研究者の活性化や研究への集中等が一段と重要になってきており、研究支援者派遣サービスやポスドク採用の支援体制等の整備が必要。
- (2)委託契約による研究テーマが増え、一定期間内に所定の研究目標を達成せねばならず、研究の効率化を図る必要性が高まり、技術支援サービスや事務支援サービス等の外部利用環境の整備も必要。
- (3)大型研究費の導入にともない、研究成果の社会還元を一層強く求められるようになってきており、特許出願、ベンチャー化、産学連携等の支援体制整備が必要。
- (4)今後は、これら環境整備や支援体制整備の必要性を中心に、研究者側のニーズと研究支援サービス会社側の提供条件とのギャップ等に注目して、新たな研究支援サービスの実現へ向けた調査が必要である。
本件に関する問い合わせ先:通商産業省 工業技術院 企画調査課
〒100 東京都千代田区霞が関 1‐3‐1
電話 03‐3501‐1511 担当:斉藤 (内線4571)