創造的研究成果を促す研究者の人材マネージメントのあり方に関する調査[第227号]

‐第227号‐
平成14年1月28日

(委託先:財団法人 未来工学研究所)

1.調査の概要

 本調査は、科学技術振興調整費により、平成11年度から12年度にかけて実施したものであり、今回は平成12年度の調査結果について報告する。

 目的:研究機関が独自能力を発揮し優れた成果を生み出していくためには、人材の最適なマネージメントがキーポイントとなる。そのため、欧米と日本の民間・国立研究機関等における研究者やマネージャーの意識・行動等を比較分析し成果に影響を与える諸要因を明らかにすることにより、我が国の国立研究機関等における今後の人材マネージメントのあり方の検討に資する基礎資料とすることを目的に調査を行った。

2.調査結果

(1)日、英、米研究者意識の相違

  • 英米は日本よりも評価結果のフィードバックがよく行われ、業績による報酬格差も大きいが、評価のフィードバックの徹底と業績格差の拡大は、日本だけでなく英米の研究者も求めている。
  • 日本の研究者は年齢意識が強いが、研究者の創造性低下や技術陳腐化といった能力要因でなく、人事制度や組織風土要因に起因している。
  • 研究者の総合的な満足度は、米国国研、英国民間、英国国研、日本民間、日本国研の順となっている。
     日本では、特に研究支援体制および研究に専念できる体制に対する不満が大きい。

(2)研究者のキャリアと研究業績の日米比較

  • 日本国研では組織内異動は特許など実践的業績にプラスとなっているが、論文や学会発表など学術的業績にはマイナスとなっている。一方、米国では、流動化が研究業績に及ぼす影響が日本より小さい。
     米国では、ポスドクで採用された研究者が長年の厳しい審査を経てテニュアを獲得する制度が確立しているため、転職経験のない研究者の中に優秀な人が多く、また、能力開発の機会などの点でも優れているため、転職により流動化した人よりも長期勤続した人の方が高い業績をあげていると考えられる。
  • また、日本では出向等による海外の大学・研究機関の経験が業績にプラスとなっている。米国を中心とした海外の大学や研究機関には一流の研究者が多く、これらの研究者と共に研究することが能力開発や動機づけの効果を持つと考えられる。したがって、必ずしも任期付き雇用のような形で流動化せずとも、日本の研究所がこれまで採用してきた他機関への出向が研究業績の向上に寄与すると考えられる。

(3)リーダーシップ

  • 日本民間が国研に比べより多くのリーダーシップを発揮しており、職位別には中間層とトップ層でリーダーシップのあり方に大きな差は無い。研究機関や職位に関係なく、その有効性が最も認められたのは管理者のイノベーションの推進者としての役割を果たす「変革型のリーダーシップ」である。

(4)情報交流のパターンと研究業績の日米比較

  • 日米ともに外部との情報交流が研究業績に重要な影響を与えている。日本ではリーダーや管理職が、米国では研究者個人が中心的役割を果たしており、日本の一線の研究者の情報交流の頻度は米国の研究者と比較してかなり低い。

(5)研究者の年収と人事評価・報酬制度の日米英比較

  • 日英米三国のいずれも年収は研究者の年齢と業績の多寡により決定されている。但し、日本は年齢の影響度が米英より強く、米国国研は業績の影響が日英より強い。

3.結論

 平成11年度及び平成12年度に亘る調査の結果、以下のような結論を得た。

  • 評価制度の変革が不可欠で、特に評価制度の透明性と評価結果のフィードバックが重要である。研究テーマの選択や評価には組織内外の専門家のレビューが重要であり、外部のコミッティによる外部評価の導入・強化による成果に応じたオープンな評価制度と公正な評価に基づく明確な報酬制度の確立と運用が望まれる。
  • 高い研究業績への金銭的報酬の増加はたしかに望まれているが、それより更に重要なのは、研究費の重点配分、研究上の自由の拡大、研究設備やサポート体制の充実、階層にとらわれずに発言・討論できるオープンな職場風土など、高業績の研究者をより良い研究環境におくことである。
  • 人材の評価をエイジフリーに見直し、管理者と研究者の二重キャリア制度の再構築が必要である。また、研究者が研究活動に専念できるようサポート体制(技術者)の充実が必要である。
  • 情報交流促進のためのマネージメントを積極的に行う必要がある。特に管理職以外の一線の若手研究者の外部との情報交流・研究交流の促進が必要であり、組織内人事異動や期限付き外部異動(出向)も有効である。
    研究者の流動化は、他研究機関の成功事例の分析を行い、促進させるための施策の整備が必要である。

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