「ナノオーダーの超小型発光素子に道」‐シリコン微細加工技術と酸化亜鉛を応用してナノオーダーの発光アレイを実現‐[第235号]

‐第235号‐
平成15年4月7日

 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)物質研究所(所長:渡辺 遵)の羽田 肇(電子セラミックスグループ・ディレクター)と太陽誘電株式会社(代表取締役社長:川田 貢)WINグループ先端デバイス部(部長 兼物質・材料研究機構客員研究員:藤本正之)らのグループは、文部科学省科学技術振興調整費の研究課題「セラミックスインテグレーション技術による新機能材料創製に関する研究」(平成12年度~平成16年度、研究リーダー:羽田 肇)の一環として、結晶異方性エッチングと機械化学研磨(Chemical Mechanical Polishing(CMP))技術を駆使したシリコン微細加工によるナノメーターオーダーのピットをアレイ状(格子状)に形成することで、酸化亜鉛を埋め込んだ高精細酸化亜鉛ナノピット発光アレイを実現することに成功した。
 この技術により、従来と比べ小型化が見込まれ、かつ超高精細な表示システム実現が可能であるため、今後、携帯機器、PDAのディスプレイ等への応用が期待され、市場の新領域掘り起こしの牽引役たる重要素子となることが期待されている。
 本成果は、4月9日から東京ビックサイト(東京お台場)で開催される国際セラミックス総合展2003にて公開する予定である。

問い合わせ先
 研究振興局 基礎基盤研究課 材料開発推進室長 奈良 哲
 電話:03‐5253‐4101(直通)

ナノオーダーの超小型発光素子に道‐シリコン微細加工技術と酸化亜鉛を応用してナノオーダーの発光アレイを実現‐

平成15年4月7日
独立行政法人物質・材料研究機構

1.概要

 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)物質研究所(所長:渡辺 遵)の羽田 肇(電子セラミックスグループ・ディレクター)と太陽誘電株式会社(代表取締役社長:川田 貢)WINグループ先端デバイス部(部長 兼物質・材料研究機構客員研究員:藤本 正之)らのグループは、文部科学省科学技術振興調整費の研究課題「セラミックスインテグレーション※1技術による新機能材料創製に関する研究」(平成12年度~平成16年度、研究リーダー:羽田 肇)の一環として、結晶異方性エッチング※2と機械化学研磨(Chemical Mechanical Polishing(CMP))※3技術を駆使したシリコン微細加工によるナノメーターオーダーのピットをアレイ状(格子状)に形成することで、酸化亜鉛を埋め込んだ高精細酸化亜鉛ナノピット発光アレイ※4を実現することに成功した。
 この技術により、従来と比べ小型化が見込まれ、かつ超高精細な表示システム実現が可能であるため、今後、携帯機器、PDA※5のディスプレイ等への応用が期待され、市場の新領域掘り起こしの牽引役たる重要素子となることが期待されている。
 本成果は、4月9日から東京ビックサイト(東京お台場)で開催される国際セラミックス総合展2003にて公開する予定である。

2.研究背景と目的

 携帯電話などの小型ディスプレイの高精細化が進展する中で、自動車等の高彩度表示装置等に利用されている発光素子は、従来、厚膜印刷による蛍光体発光部分と駆動用半導体チップとを別々に構成するため、小型化、コストの低減化には限界があった。
 そこで、当グループでは、半導体プロセスとの一体化による小型化及びコストの低減化が期待できるナノメーターオーダーのシリコン微細加工技術と、自動車等で利用される低電圧動作紫外線発光素子で他の紫外発光をする材料(GaN)などに較べて安価な酸化亜鉛に着目した。具体的には、シリコン基板上にピットを格子状に形成し、これに高品位酸化亜鉛結晶薄膜を埋め込み、高精細蛍光発光アレイを作る方法で小型・高精細表示可能なディスプレイの開発を進めてきた。(写真1に発光素子の使用機器例、現行の蛍光発光管構造及びプロセスとの比較を示す。)

3.今回の研究成果

 研究を進めてきた結果、(100)面シリコン基板に異方性エッチング技術でサブミクロンスケール配列、ナノメーターオーダーの逆ピラミッド型ピットアレイを形成し、これに半導体プロセスで多用されているCVD法(化学気相成長法)※6で酸化亜鉛薄膜を成膜後、機械化学研磨技術により原子レベルに限りなく近く表面平坦化処理を施すことで、高品位酸化亜鉛結晶薄膜を埋め込んだ高精細酸化亜鉛ナノピット蛍光発光素子を実現した(写真2)。今回作製したサンプルでは、1cm2に2,500万個(5,000×5,000個)のドットにて390nmの波長を持つ蛍光発光を確認することができた。(写真3に走査電子顕微鏡を用いて電子線を照射し、発光した様子を示す。)
 今回、ナノオーダーの蛍光発光アレイを実現可能とした主なポイントは、

  1. シリコン表面上に逆ピラミッド型の微細キャビティを形成する際に、シリコン結晶異方性エッチングを利用したこと
  2. エッチングしたシリコン基板上に高品位酸化亜鉛結晶薄膜を成膜し、酸化亜鉛の余剰部分を削り取る際、塩酸によるエッチング効果とアルミナ砥粒による研磨効果を用い、Chemical Mechanical Polishing(CMP)と呼ばれる研磨方法を活用したこと

 の2点である。

4.成果の波及効果

 蛍光発光素子は酸化亜鉛の厚膜印刷焼成により基板上に形成され、その駆動回路とともに自動車等の視高認性の必要な高彩度表示装置として利用されているが、さらなる小型化・微細化は困難とされていた。
 今回新たに開発されたセラミックスインテグレーション技術は、酸化亜鉛発光素子がシリコン基板に直接埋め込まれた構成を取っているため、その基板上に半導体プロセスにより駆動回路を形成することが可能であり、コンパクトかつ安価で、極めて高精細なナノピット蛍光発光アレイのシステム的な実現に向けて道を拓いたと言える。
 今後、携帯電話、PDAなどの小型化・高精細化が求められるディプレイや、シリコンデバイスと一体化(集積化)された超小型バリスタ、超小型圧電アレイなどへの応用が大いに期待される。
 本技術をさらに高度化することにより、酸化亜鉛だけに限らずあらゆるセラミックス材料に適用することが可能と考えられ、新しいナノセラミックスデバイスの世界を拓く第1歩と位置づけられる。

用語説明

1)セラミックスインテグレーション

 近年、機能性セラミックスは急速な用途拡大が実現され、さらに高度な技術が求められており、単一かつ均質な材料ではこの要請に応えられなくなっている。このような中で、セラミックスインテグレーションとは、各種機能材料の統合化、複合化による多機能実現を目指す新しい材料・設計技術のことである。

2)結晶異方性エッチング

 結晶の方位により、エッチング物質との反応性が違うことを利用したエッチング方法。

3)機械化学研磨,Chemical Mechanical Polishing(CMP)

 表面で起こる化学的な反応と、機械的な研磨を組み合わせた高平坦度の研磨方法。

4)発光アレイ

 列状に並んだ発光体。今回のものはさらに二次元化し、格子状になっている。

5)PDA(Personal Digital Assistance)

 PDAは、スケジュールやアドレスなどの個人情報を管理する機能を搭載していることが必須な携帯情報端末のことであり、片手で扱えるサイズのデジタル機器の総称である。

6)CVD(Chemical Vapor Deposition)法(化学気相成長法)

 化学反応により、物質を薄膜堆積させる方法で、半導体プロセスで使用されている。

(問い合わせ先)
 〒305‐0047 茨城県つくば市千現1‐2‐1
 独立行政法人物質・材料研究機構
 広報室 電話:029‐859‐2026

(研究内容に関すること)
 独立行政法人物質・材料研究機構
 物質研究所 電子セラミックスグループ
 ディレクター 羽田 肇 電話:029‐860‐4433 E‐Mail:HANEDA.Hajime@nims.go.jp

お問合せ先

研究振興局基礎基盤研究課材料開発推進室

(研究振興局基礎基盤研究課材料開発推進室)

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