「日本発の高温超伝導二ホウ化マグネシウムの超伝導機構解明」[第237号]

‐第237号‐
平成15年5月1日

 東北大学大学院理学研究科の高橋隆教授らの研究グループは、新高温超伝導体、二ホウ化マグネシウム(MgB2)の超伝導起源の解明に世界で初めて成功し、5月1日付け英国科学誌「ネイチャー」に発表する。
 MgB2は、2年前に青山学院大の秋光純教授らによって発見され、日本発の新高温超伝導体として、基礎科学および産業応用の両面から大きな注目を集めている。MgB2は、金属化合物で最高の超伝導転移温度(絶対温度39度、セ氏零下234度)を持ち、17年前に発見された酸化物高温超伝導体に比べ、より高い加工性、より大きな電流を流せる優れた特性を持っている。しかし、その超伝導がどのような起源で起きているのかについては不明な点が多く、超伝導機構解明の研究が世界中で進められていた。
 今回、東北大学のグループは、高エネルギー紫外線をMgB2結晶に照射して超伝導電子を結晶外に取り出し、そのエネルギー状態を世界最高の分解能で精密に調べた。その結果、シグマ電子と呼ばれる、結晶内のホウ素原子面内を2次元的に運動する電子が高温超伝導の起源である事を見いだし、MgB2が「2バンド超伝導」と呼ばれる、他の金属超伝導体や酸化物超伝導体とは異なる新しい機構で超伝導を発現していることを明らかにした。
 なお、この研究は、H13年度から行われている科学技術振興調整費により実施している先導的研究等の推進「ホウ素系新超伝導物質の材料化基盤研究」および日本学術振興会科学研究費の一環の成果による。

問い合わせ先
 研究振興局 基礎基盤研究課 材料開発推進室長 奈良 哲
 電話: 03-5253-4100(直通)
 03-5253-4111(内7491)

日本発の高温超伝導体二ホウ化マグネシウムの超伝導機構解明 ‐新高温超伝導物質探索に向けて大きな前進‐

平成15年5月1日
東北大学大学院理学研究科

概要

 東北大学大学院理学研究科の高橋隆教授らの研究グループは、新高温超伝導体、二ホウ化マグネシウム(MgB2)の超伝導起源の解明に世界で初めて成功し、5月1日付け英国科学誌「ネイチャー」に発表する。
 MgB2は、2年前に青山学院大の秋光純教授らによって発見され、日本発の新高温超伝導体として、基礎科学および産業応用の両面から大きな注目を集めている。MgB2は、金属化合物で最高の超伝導転移温度(絶対温度39度、セ氏零下234度)を持ち、17年前に発見された酸化物高温超伝導体に比べ、より高い加工性、より大きな電流を流せる優れた特性を持っている。しかし、その超伝導がどのような起源で起きているのかについては不明な点が多く、超伝導機構解明の研究が世界中で進められていた。
 今回、東北大学のグループは、高エネルギー紫外線をMgB2結晶に照射して超伝導電子を結晶外に取り出し、そのエネルギー状態を世界最高の分解能で精密に調べた。その結果、シグマ電子と呼ばれる、結晶内のホウ素原子面内を2次元的に運動する電子が高温超伝導の起源である事を見いだし、MgB2が、2バンド超伝導と呼ばれる、他の金属超伝導体や酸化物超伝導体とは異なる新しい機構で超伝導を発現していることを明らかにした。
 今回、MgB2の超伝導機構が明らかにされたことは、MgB2の産業応用への実用化の基盤を与えるのみならず、より高い転移温度を持つ新超伝導体の探索に大きな指針を与えるものである。
 なお、この研究は、文部科学省振興調整費および日本学術振興会科学研究費の援助で行われた。

1.研究の背景

 2年前に、青山学院大の秋光教授らによって発見された新高温超伝導体二ホウ化マグネシウム(MgB2)は、従来の理論で金属化合物超伝導体の限界とされていた絶対温度30度の転移温度を大幅に更新し、約40度という高い温度で超伝導を示すことから、基礎および応用科学の両面から大きな注目を集めて来た。17年前にスイスのベドノルツとミューラーによって発見された銅酸化物高温超伝導体に比べ超伝導転移温度は低いものの、加工性の高さや大電流を流せるなどの優れた特性を持つことから、超伝導線などへの実用化のポテンシャルが高く、現在、世界中で研究が急ピッチで進んでいる。
  MgB2は、マグネシウムを中心としてホウ素が六角形状に配置した、いわゆるハチの巣型構造(図1(PDF:127KB)PDF)をもつ。その高い超伝導転移温度が、従来の金属超伝導の枠組みで説明できるのか、それとも全く別の新しい機構を考える必要があるのかについて、今日まで世界中の研究者を巻き込んだ精力的な議論が成されてきたが、決定的な実験結果がないことから、決着が付いていなかった。
 超伝導状態においては、2個の電子が対を作ると同時に、そのエネルギー状態に「超伝導ギャップ」と呼ばれる特徴的な構造が現れる。この電子対の「超伝導ギャップ」の形状は、超伝導の起源と機構に直接関係している。従って、MgB2の超伝導機構を明らかにするためには、このエネルギーギャップの形状を決定する必要がある。しかしながら、これまで数々の実験がなされてきたものの、ギャップの形状を決定することはできなかった。

2.今回の研究成果

 今回、東北大学のグループは、角度分解光電子分光と呼ばれる先端的物理実験手段を用いて、MgB2の超伝導ギャップの直接観測に世界で初めて成功し、MgB2の超伝導機構と起源を解明した。角度分解光電子分光では、MgB2結晶に高エネルギー紫外線を照射し、紫外光によって真空中に放出された超伝導電子のエネルギーを、世界最高の分解能で測定した。その結果、結晶中のホウ素面内を2次元的に運動するシグマ電子と、それと垂直方向に運動するパイ電子では、全く大きさの異なる超伝導ギャップを持つことを見出した。ギャップの大きさは、パイ電子に比べてシグマ電子が、3~4倍大きい。このような超伝導ギャップの特徴は、従来の金属超伝導体や17年前に発見された酸化物高温超伝導体には見られないもので、「2バンド超伝導」と呼ばれる新しい超伝導機構がMgB2で働いており、ホウ素のシグマ電子がその超伝導機構の起源となっていることを示す決定的証拠である。

3.研究の意義と今後の展開

 今回の研究成果は、2ホウ化マグネシウム(MgB2)という比較的ありふれた化合物で発見された高温超伝導が、従来とは異なる「2バンド超伝導」と呼ばれる新しい機構で発現していることを見出したことにある。1957年に提案され、多くの金属系超伝導体に適用され成功を収めてきた「BCS理論」では、実現される超伝導転移温度に上限があり、加工性等で優れている金属系超伝導体の産業応用を目指す上での「心理的壁」となっていた。しかし今回のMgB2における2バンド超伝導の確立は、金属系超伝導体においても、MgB2のような電子状態を持つ物質群を探索することで、「壁」を越えたより高い超伝導転移温度を持つ超伝導体を実現できる事を示しており、今後の新金属系高温超伝導体探索の指針を与えたという点で、大きな意義がある。
 もう一つの意義は、高い超伝導転移温度を実現する鍵が、二次元的な電子の運動であることを示したことである。1986年に発見されて未だに超伝導機構が明らかにされていない銅酸化物高温超伝導体が、やはり同じ二次元的な銅と酸素のネットワークで高い転移温度が生じることとの共通点は、非常に興味深い。今後、二次元性を考慮した物質探索によって、さらに高い転移温度の実現が期待できる。
 また、日本発の新高温超伝導体MgB2の超伝導機構と起源が、同じ日本の研究グループ(東北大)によって解明されたことは、日本の基礎科学の力を示すという点で意義深いと考えられる。

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