研究課題の概要 |
病気と遺伝子の関連解析により日本人の「ありふれた病気」の発症に関わる遺伝子領域を探求し、遺伝子背景が均一な実験動物モデルを他の系統と交配して作
成した遺伝子負荷雑種動物を利用し、遺伝子と表現型との関連を解析してヒトにおける「ありふれた病気」の発症に関わる遺伝子にせまる。 |
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総評 |
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「日本人ゲノムの多型情報の集積と多遺伝子性疾患の疾患感受性遺伝子の同定に関する研究」は、非常に優れた研究であり、今後も研究を継続すべきである。 |
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研究の進捗状況についても目標は十分達成しており、順調に進捗している。日本人のSNPsに関するゲノム多型情報を収集するためのスクリーニング体制は
整ってきた。個別疾患に関しては、高血圧血管障害については概ね達成しており、リウマチ性疾患の解析については研究目標は順調に達成していると考えてい
る。モデル動物を用いた研究では、プロスタサイクリン合成酵素およびトロンボキサン合成酵素の遺伝子欠損・過剰発現マウスが作製でき、個体を用いた解析は
順調に進んでいる。当初の目標設定は適切であり、最終目標の変更は必要ない。 |
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研究成果の科学的価値については、これまで行うことが困難であった候補遺伝子のSNPs発見のスクリーニング体制、解析体制およびスコアリングの体制が
整ってきたことにより、循環器疾患や代謝性疾患の疾患感受性遺伝子の同定を行う体制ができた点で科学的価値が高い。特に、わが国では遺伝統計学的アルゴリ
ズムとプログラムの開発例は極めて少ないので価値が高く、波及効果も期待でき、情報発信も十分に行われている。研究体制においても、代表者の指導性が十分
発揮され、一体的・体系的に研究が行われている。 |
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評価結果 |
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循環器疾患の疾患感受性遺伝子候補遺伝子を中心とした日本人SNPの収集と多型解析 |
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進捗状況 |
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日本人のSNPsに関するゲノム多型情報を収集するためのスクリーニング体制は整った。循環器疾患のうち、モデル疾患群について多型情報に関して遺伝型を決定し、SNPsの使い分けについての基礎的事項の検討が行えたので、解析手法の体制整備の目標は達成された。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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こ
れまで行うことが困難であった候補遺伝子のSNPs発見のスクリーニング体制、解析体制が整ってきたことにより、循環器疾患の疾患感受性遺伝子の同定を行
う体制ができた点で科学的価値が高い。解析方法は循環器疾患に限らず共通性が高いことから、その有用性を明らかにすることにより、「ありふれた病気」の解
析全体の発展が見込め、さらに他の疾患への波及効果が大きい。 |
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代謝性疾患の疾患感受性遺伝子候補遺伝子を中心とした日本人SNPの収集と多型解析 |
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進捗状況 |
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日本人のSNPsに関するゲノム多型情報を収集するための機器の体制は整えられつつある。産生過剰型痛風と遺伝型の家系の解析を通じて、家系解析規模のマクロサテライトとSNPsの使い分けと統計的解析方法の体制整備の目標は達成された。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
・ |
研究成果 |
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こ
れまで行うことが困難であった候補遺伝子のSNPs発見とスコアリングの体制が整ってきたことにより、代謝疾患の疾患感受性遺伝子の同定を行う体制ができ
た点で科学的価値が高い。代謝疾患に共通する解析方法を明らかにすることにより、「ありふれた病気」の解析が他の疾患においても進行することにより波及効
果が大きい。 |
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代謝性疾患発症リスク因子として関係するY染色体における日本人SNPの収集と多型解析 |
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進捗状況 |
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本
研究の重要な目標の一つである、日本人集団のY染色体をより詳細に分類することについては、現在までに6種類のハプロタイプに分類できることを見出してい
る。またハプロタイプごとのY染色体における構造の違いについても研究が進行しており、目標全体としての達成度は良好である。研究全体としては概ね順調に
進捗している。 |
・ |
目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
・ |
研究成果 |
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Y
染色体と男性表現型に関する研究はほとんど類例がなく、きわめて独創性の高い研究であると考えられる。Y染色体上の肥満に関係する遺伝子やDNA多型が明
らかになれば、男性の肥満の予防や創薬(ゲノム創薬)に大きく貢献することができる。研究成果は、専門誌への発表を中心として各種学会やシンポジュウム等
で公表している。 |
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疾患原因としての遺伝子塩基トリプレットリピートの伸長に関連する日本人SNPなどゲノム多型の収集と解析 |
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進捗状況 |
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日本人脆弱X遺伝子FMR1内に存在するCGGリピートの伸長に関連するゲノム多型が存在するかどうかの解答を出すことができるところまで辿り着き、概ね目標は達成しており、順調に進捗している。 |
・ |
目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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本
研究によって得られたゲノム多型は、“自閉症遺伝子”を同定する際のマーカーとして使える可能性がある。研究成果の情報発信を行なうだけでなく、ゲノム多
型情報を集積するために不可欠な「臨床医と基礎研究者の連携を可能にする体制」作りと「患者の家族の疾患に対する理解と研究への協力」を得ることを期待し
たい。 |
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血管調節障害に基づく疾患の患者ゲノムの収集と病因解析 |
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進捗状況 |
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概ね目標を達成しており、順調に進捗している。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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研究成果の科学的価値について今後の成果の発展によって判断されるものと考える。今後の成果や研究の発展次第であるが、論文、学会発表のみならず、社会への還元を期待したい。 |
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心不全を中心とした患者ゲノムの収集と病因解析 |
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進捗状況 |
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同意再取得などの目標は達成しており、順調に進捗している。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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研究成果の科学的価値について新規性のある結果が得られた。健常者群との対比ができれば臨床応用に結びつく可能性がある。今後、論文、学会発表のみならず、社会への情報発信も期待したい。 |
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リウマチ性疾患を中心とした患者ゲノムの収集と病因解析 |
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進捗状況 |
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研究目標は概ね達成しており、順調に進捗している。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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研究成果の科学的価値は高く、学会発表、論文発表により、倫理指針以前からの継続研究として適切に発表している。 |
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ゲノム多型情報と臨床情報のデータベース化と解析方法の確立 |
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進捗状況 |
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目標は概ね達成しており、プログラムが完成した後は順調に進んでいる。研究全体についても、順調に進捗していると考えている。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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研究成果の科学的価値について非常に価値のあるものと考えている。特に、わが国では遺伝統計学的アルゴリズムとプログラムの開発例は少ない。今後の研究成果の情報発言に期待したい。 |
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モデル動物を用いた心機能不全の遺伝子解析 |
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進捗状況 |
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発現変化遺伝子の同定法について、差分cDNAライブラリーから得たクローンの配列決定から完全長正規化cDNAアレイライブラリーの検索に実験法は着実に進んでいる。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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本
研究では、心筋症モデル動物の病的心臓に存在する副次的な遺伝子発現の影響を除去するために、培養細胞を用いて単純化した病態モデル実験系を構築した。こ
のモデル実験系は、心筋症発症の初期過程における遺伝子変化遺伝子の検索や細胞機能異常など分子・細胞レベルの発症メカニズムを解明するために有効な手段
となる。構築したモデル実験系を用いて解析を行い、細胞機能異常や疾患感受性遺伝子などが同定されれば、診断法や治療法の開発に貢献できる。 |
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モデル動物を用いた心血管病変発症進展に関わる遺伝子解析 |
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進捗状況 |
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プロスタサイクリン合成酵素およびトロンボキサン合成酵素の遺伝子欠損マウスならびに過剰発現マウスの作製をほぼ終了し、遺伝子欠損マウスの個体を用いた解析を行いほぼ達成できている。 |
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目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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本
研究で作製、解析している遺伝子改変マウスは、国内外で唯一我々が持っており、特にPGI合成酵素遺伝子欠損マウスは血管障害を発症することから、このモ
デルマウスの遺伝子発現変化を調べることは、動脈硬化等の血管病変の発症、進展に関与する遺伝子を探索する為に有用である。 |
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免疫不全モデル動物を用いた遺伝子解析 |
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進捗状況 |
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2
種類の免疫異常モデルマウスの開発に新たに成功し、それらの病態解析も併せて進めている。更に、小型魚類メダカを用いた胸腺変異体の網羅的ゲノムワイドス
クリーニングを開始し、新たな免疫系変異動物モデルの蓄積を進めている。これらの進捗状況から、本研究は当初目的以上の成果をもたらしているといえる。 |
・ |
目標 |
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目標は適切に設定されており、最終目標の変更の必要性はない。 |
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研究成果 |
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す
でに得られている研究成果のうち、転写因子Stat3の胸腺上皮細胞特異的欠損マウスから明らかになった、とりわけ、胸腺上皮細胞内Stat3の胸腺器官
構築の維持への関与についての成果は高い科学的評価を受けている。得られた成果については、国際的にひろく受け入れられている科学専門誌への掲載を積極的
に進めている。 |
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第 期にあたっての考え方 |
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日本人SNPの集積と疾患感受性遺伝子の探求 |
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日本人SNPの収集 |
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日本人SNPの集積については 期において得られた成果を活用し、また、急速に増大している公開データベースの活用とそれを保管する新規日本人SNPの集積と検証を行い、疾患感受性遺伝子の探求にむけての情報基盤の整備を続行することが適切である。 |
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さらに、 期
において集積された患者および対照検体を用いて、多型解析をいくつかのモデル疾患について集中的に行い、その解析手法についても多型情報をどのように扱う
かについてパイロットモデル作成とその検証を繰り返しながら、手法の確立とモデル疾患における疾患感受性遺伝子の探索をめざすべきである。 |
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候補遺伝子の選別に際しては、既存の遺伝子情報に加えて、モデル動物より新規に得られる候補遺伝子(領域)さらに、機能解析や他施設による全ゲノムスクリーニング結果などを活用し、効率よく目的遺伝子に達することができる方法を選択することが望ましい。 |
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各種疾患患者のゲノム情報の収集 |
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モデル疾患において多型情報を有効な解析手法で検討して疾患感受性遺伝子にせまり、検体の利用システムの効率化を計って、研究の効率よい推進をめざすべきである。 |
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ゲノム多型情報と臨床情報のデータベース化と解析方法の確立 |
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これまでに得られた解析手法の確立を推進するとともに、モデル疾患において有効に目的に迫れる解析手法の構築と検証を行うべきである。新規に得られるSNP情報を含めて、疾患感受性遺伝子探索に有用なゲノム多型情報データベースの構築を行い、活用すべきである。 |
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モデル動物を用いた疾患感受性遺伝子の解析 |
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モデル動物を用いた研究は、本研究においては解析を行う候補遺伝子(領域)の選別に有用な情報を与えると考えられるが、 期の研究においては、この観点からの研究全体に対する貢献はやや不足していたと考えられる。そこで 期においてはこの観点からの研究手法の再検討を行い、新体制に反映させる必要がある。 |
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期
において、糖尿病自然発症マウスを他の系統のマウスと交配し雑種第二世代を用いた検討にて、血糖値、インスリン値、糖負荷試験等の多数の表現型を調べるこ
とにより、二つの系統の遺伝的背景に存在する多数の糖尿病の疾患感受性遺伝子を抽出することが可能であるという結果を得ており、また、ヒトで疾患感受性遺
伝子を戦略的に抽出するために用いられている罹患同胞対解析と関連解析は、人種差やSNPsを用いるゲノムワイドの関連解析が難しいこと等の理由により困
難を伴っている。したがって、ゲノム構造と遺伝子塩基配列がヒトと極めて類似し情報が得られるマウスから、創薬の標的となる疾患感受性遺伝子を抽出し同定
することは、ゲノム多様性研究の中心的課題のひとつと考えられる。このような理由から、モデルマウスを用いる実験系は候補遺伝子(領域)の選別に有用で
あって、この方法の意義をさらに追求する必要があると考えられる。 |
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さらに、ゲノム多型解析結果で得られる候補遺伝子の変異と疾患との関係について動物個体レベルでの検証も行うべきである。 |