OIST発ベンチャー第一号の誕生-創薬に新しい基盤技術を

平成26年7月30日

沖縄科学技術大学院大学
文部科学省

  この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の構造細胞生物学ユニット代表のウルフ・スコグランド教授が開発したタンパク質等の分子構造の3次元可視化技術を活用したOIST発ベンチャー第一号として、沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(代表取締役社長:亀井朗)が6月25日に設立されました。同社は、OISTが所在する沖縄県恩納村を拠点に国内外の市場に向けて受託解析事業を展開します。同社の設立は、スコグランド教授の技術の事業化を目指した文部科学省の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)の成果であり、7月23日には、沖縄県内のベンチャーを支援する、おきなわ新産業創出投資事業有限責任組合(無限責任組合員バイオ・サイト・キャピタル株式会社(BSC)代表取締役谷正之)が、同社へ10百万円を出資しました。今後沖縄プロテイントモグラフィー株式会社は、OIST発の最先端技術を核として、沖縄県の自立的発展に寄与するグローバル企業を目指していきます。

技術

 「これはブレイクスルーを起こす新しい技術です。創薬のための新しい基盤技術に成長していければと思っています」と語るのは技術開発者のスコグランド教授です。今回OIST構造細胞生物学ユニットから沖縄プロテイントモグラフィー株式会社に移転されるのは、電子線トモグラフィーと呼ばれる電子顕微鏡を用いた3次元再構成法と、同教授が独自に開発した3次元構造解析プログラム(COMET)を組み合わせた、タンパク質などの生体高分子の多様な構造を1分子レベルで可視化する基盤技術(プロテイントモグラフィー技術)です。現在の解像度は、1.5nmに達しており、今後も飛躍的な向上が見込まれています。一般に製薬会社ではヒトの細胞の表面にあるタンパク質の構造解析を通じて、そのタンパク質に結合するような化合物を設計し、宿主細胞に侵入しようとするウイルスやバクテリアの侵入を食い止める医薬品の開発を目指しています。スコグランド教授の技術では、タンパク質などの生物試料を結晶化することなく観察できます。そのため、解析期間が大幅に短縮し、費用も安価におさえることができます。また、1分子レベルでの可視化が可能なため、結晶化が困難な大型のタンパク質複合体を含め、これまで解析が不可能であったタンパク質の構造やその変化も明らかにすることができます。タンパク質構造解析の究極の目的は、治療に適した新しい医薬品をデザインすることです。本技術を創薬プロセスのあらゆるステージで活用することによって、プロジェクトを評価する判断材料を製薬企業などに提供し、医薬品のより効率的な開発に寄与できるといえます。

事業化に向けた取組

 OIST初のベンチャー企業誕生は、平成24年度文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)においてスコグランド教授のプロジェクト「分子分解電子線トモグラフィーによる巨大分子の3次元可視化」が採択されたことで第一歩を踏み出しました。「STARTは大学とベンチャーキャピタルがパートナーシップを組んで技術の事業化に取り組むこれまでにない画期的な制度です。ベンチャー第一号の誕生に向けて、約2年間、バイオ・サイト・キャピタル株式会社(BSC)と二人三脚で準備をしてきました。市場性の評価、顧客の開拓、CEOの選定など、彼らの支援がなければ実現しなかったと思います」と、OISTで事業開発・技術移転事業を担当する市川尚斉マネージャーは語ります。また、STARTの事業プロモーターを担ったBSCの谷正之社長は、「スコグランド教授の熱意と技術の革新性を評価しました。これはオンリーワンの技術であり、その技術を活用し、沖縄を拠点にグローバルなビジネスを展開するベンチャー企業の設立を目指してきました」と振り返ります。BSCは沖縄プロテイントモグラフィー株式会社へ2名の役員を派遣しており、今後は株主として同社の事業展開を支援していくことになります。

沖縄プロテイントモグラフィー株式会社の事業

 同社の事業モデルは、受託による分子構造解析サービスとなり、顧客から受け取った各種サンプル(タンパク質)の分子構造を3次元で可視化した解析結果を顧客に納品します。亀井社長はCEOを引き受けるにいたった経緯について、「友人を通じてOISTベンチャーの話を知り、関係者と話す中で、技術の圧倒的な新規性と大きな市場の可能性を感じ、チャレンジしてみることにしました。まだ誰も見たことのない微小な世界が見えるようになる夢を感じさせるプロジェクトです。最先端の技術は浸透するまでに時間がかかりますが、着実に進めていきたいと思います」と抱負を語っています。

 OISTは、国際的に卓越した科学技術に関する教育及び研究を実施することにより、沖縄の自立的発展と、世界の科学技術の向上に寄与することを目的としています。OISTで研究開発された知的財産を活用したビジネスを展開することで、企業の集積を促し、沖縄に国際的な知的産業クラスターを形成することを視野に、今回のベンチャー企業設立をその一つの事例として位置づけ、着実な成長を目指していきます。

参考

社名:沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(略称:沖縄PT)
設立:平成26年6月25日
本社:沖縄県うるま市
事業所:沖縄県恩納村
資本金:10百万円(資本準備金10百万円)
役員:代表取締役社長 亀井 朗 
 取締役 福田 伸生(BSC)
 取締役 原 一広(BSC)
 取締役 平井 昭光(弁護士)
 技術顧問 ウルフ・スコグランド(OIST)
事業内容:高分子構造解析・可視化技術を用いた受託事業 ほか

沖縄科学技術大学院大学について

平成23年11月に設置された沖縄科学技術大学院大学は、沖縄において世界最高水準の科学技術に関する教育研究を行い、沖縄の自立的発展と世界の科学技術の向上に寄与することを目的としています。平成24年9月には18の国と地域から集まった第一期生が入学し、学際的で先端的な教育・研究活動に勤しんでいます。また、OISTでは現在までに、47の研究ユニット(研究員約360名、内、外国人175名)が発足し、神経科学、分子・細胞・発生生物学、数学・計算科学、環境・生態学、物理学・化学の5分野において、研究活動を展開しています。このほか、国際ワークショップやコースの開催など、学生や若手研究者の育成にも力を入れています。

大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)について

文部科学省は平成24年度から大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)を開始しました。これまで大学発の技術シーズは、リスクが高く実用化まで時間がかかるとして投資が敬遠される傾向にありました。このような状況を打破するため、START事業では、ベンチャー起業前から国の支援と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、リスクは高いがポテンシャルの高いシーズに関して、事業戦略・知財戦略を構築し、市場や出口を見据えて事業化を目指します。全国から選ばれた12の事業プロモーター(主にバイオ・サイト・キャピタルのようなベンチャーキャピタル)が、研究成果の事業化に向けてプロジェクトをマネジメントします。沖縄科学技術大学院大学のプロジェクトが採択された平成24年度は、168件の応募に対して27件が採択されています。

おきなわ新産業創出投資事業有限責任組合について

バイオ・IT・環境関連分野で沖縄県を拠点に世界市場に進出する有望ベンチャー企業を発掘・育成し、新産業創出の中核となる企業群の創出を図り、もって沖縄経済の持続的発展に貢献することを目的として平成22年1月に設立されたベンチャー投資ファンドです。公益財団法人沖縄県産業振興公社と沖縄県内金融機関等が出資しています。沖縄県産業振興公社とファンドを運用するバイオ・サイト・キャピタル株式会社によるハンズオン支援(営業支援や役員派遣を含む経営支援)に特徴が有ります。

バイオ・サイト・キャピタル株式会社について

本社:大阪府茨木市
営業所:沖縄県うるま市
常勤役員:代表取締役 谷 正之、取締役 福田伸生
平成14年2月に設立されたバイオ・サイト・キャピタルは、創業期のベンチャーへの投資とインキュベーション施設の運営を併営しているユニークなベンチャーキャピタルです。4本のベンチャー投資ファンドを運営するほかに、大阪府北部の彩都において生化学実験の可能な賃貸研究施設を公設民営方式で運営しています。沖縄県内では前述のファンドの運営のほかに、沖縄県うるま市にある沖縄ライフサイエンス研究センターの指定管理者に選任されています。

参考図

 分子構造解析電子顕微鏡

分子構造解析電子顕微鏡 Titan Krios

 スコグランド教授 

OIST構造細胞生物学ユニット ウルフ・スコグランド教授

 沖縄プロテイントモグラフィー株式会社が提供する画像解析技術

上記図は沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(沖縄PT)が提供する画像解析技術によって得られた免疫グロブリンの立体像です。上段(黄色)で示しているのは、得られた像を縦軸を中心にして90度毎に回転させています。下段は、その像にX線結晶構造解析によって得られたリボンモデル(緑・青)を重ねた像です。タンパク質は非常に柔軟な構造を持っており、個々の分子の違いを解析することは生体内でのタンパク質の機能を理解する上で非常に重要です。沖縄PTの提供する技術では、一つ一つの分子を観察・解析することができる非常に有効な技術です。

免疫グロブリンGの3次元構造

 この回転しているイメージは、沖縄プロテイントモグラフィー株式会社(沖縄PT)が提供する画像解析技術(Protein Tomography)とX線結晶構造解析法と呼ばれる2つの異なる手法で得られたタンパク質の3次元構造です。この試料は免疫グロブリンGという抗体で、ヒトの免疫システムにおいて最も多く存在するものです。この2つのイメージは完全に重なっていませんが、これはタンパク質の構造が非常に柔軟であるためです。タンパク質は絶えず運動しており、それによって他の分子と反応するのに適した構造をとることができます。本技術で得られた灰色の雲状のイメージは、このタンパク質のとりうる構造の一つを示しています。この手法では、多数のタンパク質分子を凍結させ、 灰色で表示したような3次元のイメージを構築するため、それぞれは そのタンパク質のある瞬間の構造を示しています。一方、黄色のリボンモデルで表示したX線結晶構造解析法では、全てのとりうる構造の平均を表しています。この手法ではより高分解能の結果が得られますが、そこにタンパク質の柔軟性は含まれません。タンパク質のさまざまな部位は、いかなる瞬間においても全く異なった構造をもつと考えられています。これらの2つの手法を組み合わせることで、分子のより詳細な構造と、その動きを理解することができます。

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沖縄科学技術大学院大学(※沖縄科学技術大学院大学ウェブサイトへリンク)
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TEL: 098-966-8711(代表)TEL: 098-966-2389(直通)FAX: 098-966-2887
E-Mail: kaoru.natori@oist.jp

文部科学省
科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課:中澤 恵太、名倉 勝
TEL: 03-6734-4023  FAX: 03-6734-4172
E-Mail: start@mext.go.jp

お問合せ先

科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課

(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)

-- 登録:平成26年07月 --