研究活動上の不正行為(盗用等)について(2016-05)

【基本情報】

番号

2016-05

不正行為の種別

盗用、二重投稿、不適切なオーサーシップ

不正事案名

研究活動上の不正行為(盗用等)について

不正事案の研究分野

理学療法学

調査委員会を設置した機関

大学

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

教授(当時)

不正行為と認定された研究が行われた機関

大学

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

平成25年9月11日~14日(学会発表日)
平成26年9月29日~10月4日(学会発表日)

告発受理日

平成27年6月15日

本調査の期間

平成27年9月23日~平成27年12月27日

不服申立てに対する再調査の期間

なし

報告受理日

平成29年2月9日

不正行為が行われた経費名称

該当なし

 

【不正事案の概要等】

 

◆不正事案の概要

  1. 告発内容及び調査結果の概要
       本件は、平成27年6月に外部(顕名)から、平成25年9月に行われた教授(当時)が主演者である学会発表において、他の研究成果から解析データが盗用されたことを指摘する情報提供があり、これを受け、研究活動不正行為の防止及び調査に関する規程に基づき、予備調査の後、調査委員会を設置し、同教授を含む関係者からの聴取、先行研究との比較等により事実関係の調査を行ったものである。同教授の全論文・学会発表を対象とした調査の結果、研究活動における不正行為である盗用、不適切なオーサーシップ及び二重投稿が行われたものと認定した。

    【情報提供者から報告のあった不正の態様及び特定不正行為であるとする理由】
    (1) 不正の態様
       先行する他者の研究で示されたデータを無断で転用した疑い。
    (2) 研究活動における特定不正行為であるとする理由
       教授(当時)による学会発表の抄録において示されていた解析データの値が、適切な引用なく、先行する他者の研究のものと全て一致していること。
     
  2. 本調査の体制、調査方法、調査結果等について     
    (1) 調査委員会における調査体制
         6名(内部委員2名、外部委員4名)

    (2) 調査の方法等
      1) 調査対象
        ア) 対象研究者: 教授(当時)
        イ) 対象論文等: 情報提供者から不正行為の疑いがあると指摘があった学会発表1編を含む、調査対象研究者の全論文・学会発表(それぞれ79編、102編)。
        ※予備調査の結果、情報提供者から指摘があった学会発表以外にも不正疑義のある業績が見つかったことから、調査対象研究者の全論文・学会発表を調査の対象とした。

       2) 調査方法  
         調査対象研究者を含む関係者からの聴取、研究に関係する機関における研究データの取扱いに関するルール等の確認、盗用等の元となった業績と調査対象研究者の業績との比較、解析データの比較等の調査を行った。

    (3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論

    (結論)
        情報提供者から指摘があった学会発表(平成25年9月)において、特定不正行為である「盗用」(他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究成果又は用語を当該研究者の了解若しくは適切な表示なく流用すること)が行われたものと認定した。また、調査対象研究者の全論文・学会発表を精査した結果、情報提供のあった学会発表1編の他に、これと同一内容の学会発表(平成26年9月~10月)が1編存在することが判明し、これも盗用に当たると認定した。

    (認定理由)
    ・先行研究の筆頭演者・著者から、先行研究のデータ(全身振動刺激(Whole Body Vibration)実施前の各種解析データ)の使用について承諾を得られていなかったこと。
    ・データの使用及び研究成果の発表について、先行研究が行われた研究機関から、しかるべき手続を経て許可が得られていなかったこと。
    ・先行研究への関与・貢献が、客観的に確認できなかったこと。
    ・調査結果に対する不服申立てにおいて、調査結果を覆すに足る科学的根拠を伴った説明がなされなかったこと。

    ※調査対象研究者から二度にわたり不服申立てがあったが、いずれも調査結果を覆すに足る科学的根拠を伴った内容ではないことから、却下するに至った。また、同じ内容の主張を繰り返す、論理的に両立しないことが明白な複数の主張を同時に展開する等、引き延ばしや認定に伴う各措置の先送りを意図していると判断されたため、以降の不服申立てを受け付けないこととした。


    (特定不正行為以外に調査の過程で判明した不正行為)
       調査対象研究者の全論文・学会発表を精査した結果、上述の「盗用」以外に、以下の不正行為が認められた。

       1) 不適切なオーサーシップ(学会発表1編、論文1編)
        共著者として関わった先行研究においてデータ採取には関与していないにもかかわらず、当該先行研究で示されたデータを用いた研究発表についてしかるべき許可を得ずに、筆頭演者・著者として学会発表1編(平成24年)及び論文1編(平成25年)を発表していることから、不適切なオーサーシップに当たると判断した。なお、調査対象研究者は、先行研究に参加しており、当該先行研究に関与した一部の著者からはデータ転用について承諾を得ており、過失である可能性も残されたため、「盗用」には該当しないと判断した。
       ・運動介入前後における各種解析データの使用及び研究成果の発表について、先行研究が行われた外部機関から、しかるべき手続を経て許可・承諾を得られていなかったこと。
       ・先行研究における十分な関与・貢献が確認できず、自らが筆頭演者・著者となり、データを転用して新たに学会発表及び論文を発表する妥当性が確認できなかったこと。
    なお、論文1編には、研究の実施に際して外部機関に設置された倫理審査委員会の承認を得た旨の記述があったが、当該機関に事実確認を行ったところ、倫理審査を受けていないことが判明し、虚偽の記載であることが確認された。

       2) 不適切なオーサーシップ(学会発表3編及び論文2編)及び二重投稿(左記論文2編の内の1編) 
         外部機関において行われたデータ採取及びデータ解析に関与していないにもかかわらず、データが帰属する当該外部機関の了承を得ずに、筆頭演者・著者として当該データを基に学会発表3編(平成23年、平成26年)及び論文2編(平成24年、平成26年)を発表していることから、オーサーシップに不適切な点があると判断した。なお、調査対象研究者は、当該研究には参加しており、データ使用についても一部の共著者からは承諾を得られていたことから、「盗用」には該当しないと判断した。
        ・全身振動刺激前後における各種解析データの使用及び研究発表について、当該研究が行われた外部機関及び被験者から、しかるべき手続を経て許可・承諾が得られていなかったこと。
        ・調査対象研究者が筆頭演者・著者となるに足るだけの関与・貢献を確認できなかったこと。
    これに加えて、論文2編については、目的から結果に至るまでほぼ同一内容であったことから、後に発表した論文1編は二重投稿論文であると判断した。
        ・後に発表した論文は、先行論文と解析データが一致するなど、目的から結果に至るまでとほぼ同一の内容であることが外形上認められ、かつ、先行論文に関する適切な表示が見られなかったこと。
        ・論文掲載誌の発行元が、二重投稿を禁じていたこと。

      3) 二重投稿(論文1編)
          先行研究である論文を英訳し、目的から結果に至るまで同一内容の論文を、先行論文の存在を表示することなく発表しており、論文1編(平成14年)が二重投稿論文であると判断した。なお、調査対象研究者は、先行論文の筆頭著者ではないが、転用について筆頭著者から承諾を得ており、研究自体にも相応の関与・貢献があったことが外形上認められたため、「盗用」には該当しないと判断した。
         ・解析データが一致するなど、目的から結果に至るまで、先行論文とほぼ同一の内容であることが外形上認められ、かつ、先行論文に関する適切な表示も見られなかったこと。
         ・論文掲載誌の発行元が、二重投稿を禁じていたこと。

    4) 二重投稿及び不適切なオーサーシップ(論文1編)
        先行研究である論文を英訳し、目的から結果に至るまで同一内容の論文を、先行論文の存在を表示することなく発表しており、論文1編(平成24年)が二重投稿論文であると判断した。なお、調査対象研究者は、先行論文の筆頭著者ではないが、転用について筆頭著者から承諾を得ており、研究自体にもある程度の関与・貢献があったことが外形上認められたため、「盗用」には該当しないと判断した。
        ・運動負荷試験に関する各種解析データが一致するなど、目的から結果に至るまで、先行論文とほぼ同一の内容であることが外形上認められ、かつ、先行論文に関する適切な表示も見られなかったこと。
       ・論文掲載誌の発行元が、二重投稿を禁じていたこと。
    これに加えて、以下の理由により当該論文のオーサーシップに不適切な点があると判断した。
        ・先行研究における十分な関与・貢献が確認できず、自らが筆頭著者となり新たに論文を発表する妥当性が確認できなかったこと。

     
  3. 認定した特定不正行為に直接関連する経費の支出について
      学内個人研究費から、「盗用」と認定された学会発表に伴う旅費が支出されたが、「盗用」を認定した論文の作成過程において、直接因果関係が認められる経費の支出はなかった。
     

◆研究機関が行った措置

  1. 競争的資金等の執行停止等の措置
       競争的資金等直接の因果関係が認められる経費の支出はなかったことから、執行停止等の措置は講じていない。ただし、予備調査の結果、情報提供者から指摘があった学会発表以外にも不正疑義のある業績が見つかったことから、調査対象研究者の全論文・学会発表を調査対象とするとともに、調査開始時点においては、競争的資金及び学内個人研究費を一時的に執行停止とした。 
     
  2. 調査対象研究者に対する大学の対応(処分等)
       調査開始時点において、教育研究活動を担うに十分な資質・能力・実績が、調査対象研究者にあることを客観的に確認できない状況にあったことから、調査開始とともに暫定的に以下の措置を行った。
    ・全授業の担当の停止
    ・科学研究費助成金を含む外部研究費を用いた研究業務の停止
    ・個人研究費を用いた研究業務の停止
    ・入学者選抜関連業務の担当停止
    ・その他、十分な教育研究業績がその遂行に必要と考えられる業務の停止

    懲罰委員会規程に基づき懲戒審査を行い、上述の研究活動における不正行為以外に、本調査とは別に確認された旅費の架空請求(民間企業からの受託研究費から支出)も懲戒事由とし、平成28年10月12日付で懲戒解雇処分とした。
     
  3. 論文の取下げ
       学長から調査対象研究者に対し、平成28年11月8日付けで、不正と認定した論文の取下げ勧告を行った。
     

◆発生要因及び再発防止策

  1. 発生要因
        大学では、平成27年4月に研究活動不正行為の防止及び調査に関する規程を制定し、研究不正行為を定義し、調査体制の整備やその手順等を定めるとともに、研究倫理教育の実施体制を整備したが、不正行為が行われた当時においては、大学の管理体制が十分であったとは言えず、調査対象研究者の研究倫理の欠如により引き起こされたものである。すなわち、他機関が所有する実験データ・成果に対する使用許諾や、研究成果を使用するに当たっての適切な引用手続等、自立した研究者であれば当然身につけているべき基本的なルールを、調査対象研究者が身につけられていなかったことが発生要因である。
     
  2. 再発防止策
        今回の事例を踏まえ、以下の取組を強化する。
    ・関連規程等の再整備・内容周知(体制の更なる強化のために、規程の再整備を行う)
    ・研修会等を通じての研究倫理教育の実施(今回の事例をケーススタディの教材として用い、類似事案の再発防止に努める)
    ・学外研究に対する管理体制の強化(学外の機関において倫理審査を受け研究に従事する場合、本学への事前・事後報告を義務付ける)
     

 

 

◆配分機関が行った措置

  本件は競争的資金による経費の支出がなく、かつ平成25年度に不正が行われた事案であることから、研究機関及び研究者に対する競争的資金の返還並びに研究者に対する競争的資金への申請及び参加資格の制限は行わない。

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)