研究活動上の不正行為(盗用)の認定について(2015-07)
【基本情報】
番号
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2015-07
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不正行為の種別
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盗用
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不正事案名
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研究活動上の不正行為(盗用)の認定について
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不正事案の研究分野
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ボランティア、社会福祉援助技術
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調査委員会を設置した機関
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学校法人
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不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名
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教授
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不正行為と認定された研究が行われた機関
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大学
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不正行為と認定された研究が行われた研究期間
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-
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告発受理日
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平成27年3月2日
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本調査の期間
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平成27年3月3日~平成27年5月28日
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不服申立てに対する再調査の期間
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なし
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報告受理日
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平成27年12月25日
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不正行為が行われた経費名称
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科学研究費助成事業学術研究助成基金助成金
※盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかった
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【不正事案の概要等】
◆不正事案の概要
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- 告発内容及び調査結果の概要
本件は、平成27年3月1日付けで、出版社のホームページに、教授(以下、「同教授」という)による著作に「剽窃(ひょうせつ)」が認められたため絶版とする旨の告知がなされたことに端を発する。当告知に関し、平成27年3月2日に学外者から指摘があり、大学はこれを公益通報として受け付け、直ちに調査を行うこととした。更に調査の過程において、当該事案以外にも、同教授による研究活動上の不正(盗用)を疑う事案が認められたため、これについて追加調査を行った。
調査の結果、研究活動における不正行為である「盗用」が行われたものと認定した。
【通報者から申立てのあった不正の態様及び不正行為であるとする理由】
(1)不正の態様
同教授が、他者の論文を適切な引用なく流用(盗用)した疑い。
(2)研究活動における不正行為であるとする理由
論文5編及び書籍2冊、箇所数にして35箇所、そのうちの1編の論文に至っては、同一の著作類から、複数ページにわたり断続的に約42行分を、適切な引用なく流用していること。
- 本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)「公益通報の事象に関する調査委員会」における調査体制
内部委員8名
※研究活動における不正行為防止等に関する規程が未整備であったため、公益通報規程により対応。
(2)調査の方法等
1)調査対象
ア)調査対象者:教授
イ)対象論文等:公益通報により指摘のあった同教授の著書(以下の<6>)、及び、研究活動上の不正(盗用)を疑う事案が認められた論著(以下の<1>~<5>、<7>)。
<1>『社会福祉学』掲載論文
<2>『最新社会福祉学研究』掲載論文
<3>『福祉文化研究』掲載論文
<4>『日本学論叢(ろんそう)』掲載論文
<5>書籍1
<6>書籍2
<7>学位論文
2)調査方法
ア)本人からの聴き取り
事実関係について、当人の見解を聞き取り、必要に応じて関係資料の提供を受けた。
イ)書面調査
当該研究活動にかかる書籍、論文等と、盗用元であることが疑われる書籍、論文等とを対比し、評価した。
盗用元と疑われる書籍、論文等の特定に当たっては、専門分野が近似する委員が関係書籍・論文を精読し、先行研究との類似性などを点検し、あわせて、盗用を検出するアプリケーションソフトを利用し、全文をチェックした。出版社が認定した「剽窃(ひょうせつ)」にかかわる書籍については、原著者の手紙の写しを同教授より入手し、原著者の見解も参考とした。
(3)本事案に対する公益通報の事象に関する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
調査委員会の後、懲戒審査委員会を招集し、以下のとおり判断した。
( 結論 )
調査の結果、調査対象論文5編及び書籍2冊、箇所数にして35箇所において、「盗用」(他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究成果又は用語を当該研究者の了解若しくは適切な表示なく流用すること)が行われたものと認定した。
( 認定理由 )
(1)盗用を認定した事案には、参考文献として明示することもないまま、他者の考察を、独自の見解であるかのように披露しているものが存在する。
(2)論文5編及び書籍2冊(学位請求論文を含む)、箇所数にして35箇所、『最新社会福祉学研究』掲載論文に至っては、同一の著作類から、複数ページにわたり断続的に約42行分を引き写しており、これらすべてが「不注意」によって引き起こされたとは考えにくい。
(3)大学教員が、学生に対して、論文執筆に際しての遵守事項を指導することは通常であり、その中でも、「他者の知見と自らの論を明確に分かたず表現することは厳に慎むべき」といった事項は、基本的なこととして言及される「常識」といえる。当然、同教授がこの認識に欠けることはあり得ず、前項(2)の判断も踏まえ、いずれの事象も無自覚になされたものではなく、明らかに故意をもってなされたと理解するのが自然である。
※ 懲戒審査委員会は、この判断をもって、同教授に懲戒処分を科すこととし、その理由を明示した。懲戒処分について異議のあるときは、本人は学長等を通じて、発令の日から2週間以内に理事長に対して異議の申立てをすることができる定めであるが、特に異議なく受諾された。
- 認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
盗用があったと結論付けたもののうち、科研費に基づく研究活動上の実績として挙げられている著書が存在するが、これも含め、「盗用」を認定した著書・論文の作成過程において、科研費や基盤的経費と直接因果関係が認められる経費の支出はなかった。
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◆研究機関が行った措置
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- 競争的資金等の執行停止等の措置
賞罰規程により、停職3か月(期間:平成27年6月1日~同8月31日)の処分とした。(平成27年6月1日発令)
- 論文等の取下げ勧告
「盗用」を認定した論文等について、取下げを勧告することとした。これに伴い、自らの研究業績(著書、論文等)について、訂正を行わせることとした。
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◆発生要因及び再発防止策
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本学における研究不正防止体制は、平成26年5月26日に研究倫理規程が制定されるまで、具体的な指針を持たないまま、研究者の学問的良心と当該学会での切磋琢磨(せっさたくま)に信をおき運営がなされてきたと言える。そういった環境下、同教員の不正は、研究に関する規範意識に緩みという個人的要因と相まって成されたものである。
本学は、平成26年8月26日文部科学大臣決定の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を踏まえ、平成27年4月1日に研究活動における不正行為防止等に関する規程を制定した。同規程で定める管理運用体制は、最高管理責任者である学長のもと、コンプライアンス推進責任者である各学部長、各研究科長、学生部長、附属図書館長、教育開発センター長、研究開発推進センター長、学生支援部長、研究開発推進センター事務部長が、研究倫理教育責任者を兼ね、研究倫理教育に責任を持つ。今後は、この体制をもって、不正行為の防止を徹底する。その他、以下のような取組をもって教員の規範意識の向上を図る。
1)CITI Japanのe-ラーニング教材を導入。
2)日本学術振興会作成の「科学者の行動規範」に基づく研修プログラムや『科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―』(通称「グリーンブック」)の活用。
3)盗用を検出するアプリケーションソフトウェアを追加導入。
4)本学全教員の研究業績の一覧が確認できる「研究教育業績データベース」を更改し、不正に関する相互チェック体制の強化を図る。
5)特に高い倫理性をもって諸活動に精励する教員は称揚し、及び、不正には厳正に対処するための規程整備を行う。
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◆配分機関が行った措置
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科学研究費補助金学術研究助成基金助成金について、盗用と直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかったため、返還を求めるものではないが、科学研究費補助金学術研究助成基金助成金の成果として執筆された論文であることから、当該資金への申請及び参加資格の制限の対象となる。このため、資金配分機関である日本学術振興会において、資格制限の措置(平成28年度~平成32年度(5年間))を講じた。
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科学技術・学術政策局研究環境課
研究公正推進室
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