京都大学元特定研究員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について

【基本情報】

番号

2022-03

不正行為の種別

捏造、改ざん

不正事案名

京都大学元特定研究員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について

不正事案の研究分野

生物学

調査委員会を設置した機関

京都大学

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

京都大学大学院 理学研究科 元特定研究員、教授

不正行為と認定された研究が行われた機関

京都大学

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

平成16年~平成24年

告発受理日

令和2年11月27日

本調査の期間

令和3年2月8日~令和4年2月21日

不服申立てに対する再調査の期間

報告受理日

令和4年5月19日

不正行為が行われた経費名称

科学研究費助成事業、戦略的国際科学技術協力推進事業

 

【不正事案の概要等】

◆不正事案の概要

1.告発内容及び調査結果の概要
 令和2年11月25日に、理学研究科元特定研究員及び教授の論文について、画像加工などの不正の疑いがある旨の通報があった。予備調査の結果を受けて本調査を行うこととし、調査委員会を設置した。本調査の結果、論文5編について、捏造及び改ざんが行われたと認定した。
 
2.本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)調査委員会による調査体制
 1)部局調査委員会
  名称:京都大学理学研究科研究公正調査委員会(令和3年1月27日設置)
      8名(内部委員4名、外部委員4名)
 2)本部調査委員会
  名称:京都大学研究公正調査委員会(常設)
      12名(内部委員6名、外部委員6名)
 
(2)調査の方法等
 1)調査対象
  ア)調査対象者:理学研究科 元特定研究員、教授
  イ)調査対象論文:7編(海外の学術誌:2008年(1編)、2009年(1編)2010年(1編)、2011年(3編)、2012年(1編))
 2)調査方法
  通報内容、被通報論文、提出資料について精査すると共に、調査対象者及び共著者へ聞き取り調査を実施した。
 
(3)本事案に対する調査委員会の調査結果を踏まえた結論
 (結論)
  1)認定した不正行為の種別
   捏造、改ざん
  2)「不正行為に関与した者」として認定した者
   理学研究科 元特定研究員
  3)「不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者」として認定した者
   理学研究科 教授
 
  (認定理由)
  元特定研究員は、調査対象論文7編のうち5編において、画像の加工が確認された合計11の図について、捏造・改ざん(特定不正行為)を行ったと認定した。
  教授は、不正行為には関与していないが、論文の責任著者として各論文の全体に責任を負う立場であったことを踏まえ、不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者として認定した。
 
 (当該論文の共著者の関与について)
  調査対象論文の元特定研究員以外の共著者については、不正行為があった論文の図の作成への関与は認められず、不正行為には関与していなかったと判断した。
 
3.認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
 科学研究費助成事業及び戦略的国際科学技術協力推進事業による研究成果であるが、不正行為を認定した論文の作成過程において、直接関係する経費の支出は認められなかった。

◆研究機関が行った措置

1.論文の取下げ
 不正が認定された論文5編のうち1編についてはジャーナルが懸念表明を公表済みであり、4編については責任著者により論文取り下げあるいは訂正の手続きを進めているところであるが、大学として、不正が認定された論文5編について、撤回勧告を行う予定である。
 
2.被認定者に対する大学の対応(処分等)
 大学の就業規則に基づき、今後処分を検討する。

◆発生要因及び再発防止策

1.発生要因
  ・元特定研究員は、図の見栄えをよくするために、画像処理ソフトを用いて画像データの加工処理を行うことや、結果が同じであれば、別々の実験の画像を組み合わせて1点の図とすることも悪いこととは思っていなかったと証言しており、また、研究データの適正な管理に関する認識や、研究データの適正・公正な使用方法に関する認識も欠如していた。
  ・責任著者である教授は、元特定研究員の研究能力の高さ、資質について全面的に信頼を置いており、不正行為が行われる可能性については念頭になく、論文作成の過程で、生データと比較して元特定研究員が作成した論文の図をチェックしていなかったことから、不正行為を防ぐことができなかった。
  ・研究を主導する監督者として責任を負う立場にあった教授が、元特定研究員に対する研究倫理指導を怠り、元特定研究員の研究活動を十分に把握し管理することができていなかった。
 
2.再発防止策
(1)理学研究科における再発防止策
 ①理学研究科全構成員に対して、研究公正に関する全学的取り組みの周知・徹底を強化することはもとより、各専攻等における研究公正に係る監督者(専攻長等)が、各専攻等で全教員が参加する会議などの機会を利用して、研究公正に対する意識の向上や論文作成時における責任著者と共著者の役割についての理解を再確認する講習を行う。さらに、各研究室主催者(PI)からポスドク等の教員以外の研究者に対して同様の研究公正講習を行う。また、副研究公正部局責任者と各専攻長による研究公正に対する取り組み状況について意見交換を行う。
 ② 研究上のデータ及び資料の保存をより徹底するために、毎年定期的に全構成員に対して注意喚起をする場を設ける。また、学生への研究公正チュートリアル等の機会を利用して、ポスドク等の教員以外の研究者も含めて研究データ・資料保存の重要性、研究データの取り扱いに関する注意点を強調して講習を行う。
 ③ 理学研究科の大学院生が若手研究者として研究生活をスタートするにあたり、基本的な規範を学ばせる取り組みとして、指導教員から研究公正に対する意識の向上や論文作成時における責任著者と共著者の役割を含む規範教育の徹底に加え、研究倫理・研究公正に関する全学共通の大学院共通科目の受講をガイダンス等において引き続き強く推奨する。
 ④ 教員人事選考の過程において、採用前の所属機関における、研究倫理教育(研究公正研修)の受講状況の確認を必須とし、採用候補者の調査報告書にその確認状況を明示する。
 ⑤ 新規採用者は、着任後概ね二週間を目途に大学が指定するe-Learningによる研究公正研修を受講することを徹底する。
 ⑥ 定期的に外部から専門家を招いて研究公正の講演会を行い、公正な研究活動を推進するための意識の向上に努めるとともに、講演会の講演内容をポスドク等の教員以外の研究者も含めて全構成員が視聴できる体制を構築する。
 
(2)全学的な再発防止策
 ① ガイダンスでの学生への「公正な学術活動」の啓発(学部・大学院入学時のガイダンス、卒業研究年度のガイダンス実施等)
 ② 授業中の学術マナー教育
 ③ 大学院生への論文執筆教育(修士・博士論文執筆前の対面によるチュートリアルの実施、研究倫理・研究公正に関する大学院共通科目の受講)
 ④ 教員への対応(e-Learning等による研究公正に関する研修の受講義務づけ、新規採用教員研修における啓発等)
 ⑤ 研究データ保存に係るルールの周知徹底等
 ⑥ 環境の整備(啓発・教育資料作成、剽窃チェックツールの整備、データ保存等のシステム整備、実施状況の検証等)
 ⑦ 学術研究活動における行動規範の教職員等への浸透を図るために大学が作成した研究公正に係るリーフレットを過去の不正事例が分かるよう全面的に改訂、配布し周知徹底を図るとともに、日本語版・英語版に加え、中国語版も作成した。
 ⑧ ⑦の改訂にあたっては、論文不正に直接関与していなくても責任著者等は不正行為のあった論文の責任を負う場合があることを強調して注意喚起した。
 ⑨研究データ保存・管理の必要性・重要性について教職員等への浸透を図るために大学が作成した研究データ保存に係るリーフレットについて、研究者等の責務を明確にするとともに研究者が容易に理解できるよう全面的に改訂、配付し、周知徹底を図った。また、日本語版・英語版に加え、中国語版も作成した。
 ⑩ 研究者(大学院生を含む)を対象として、研究者の視点に立った研究公正に係る講演を実施した。
 ⑪ 部局における研究データの保存に責任を負う部局長に対し、必要な講習等を通じて、研究データの適切な保存に係る体制強化を促す。

 

◆配分機関が行った措置

 科学研究費助成事業及び戦略的国際科学技術協力推進事業について、捏造・改ざんと直接的に因果関係が認められる経費の支出はなかったため、返還を求めるものではないが、捏造・改ざんが認定された論文は科学研究費助成事業及び戦略的国際科学技術協力推進事業の成果として執筆された論文である。このため、資金配分機関である日本学術振興会及び科学技術振興機構において、実施する事業への申請及び参加資格の制限措置(元特定研究員:令和5年度~令和9年度(5年間)、教授:令和5年度(1年間))を講じた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)