名古屋大学元大学院生による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について

【基本情報】

番号

2021-11

不正行為の種別

捏造・改ざん

不正事案名

名古屋大学元大学院生による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について

不正事案の研究分野

化学

調査委員会を設置した機関

名古屋大学

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

名古屋大学 元大学院生、教授、准教授

不正行為と認定された研究が行われた機関

名古屋大学

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

平成25年~令和2年

告発受理日

令和2年8月17日

本調査の期間

令和2年9月30日~令和3年8月5日

不服申立てに対する再調査の期間

報告受理日

令和4年2月2日

不正行為が行われた経費名称

戦略的創造研究推進事業
科学研究費助成事業

 

【不正事案の概要等】

◆不正事案の概要

1.告発内容及び調査結果の概要
 令和2年8月17日に、自身が責任著者を務める科学雑誌に掲載された論文についてその一部のデータが捏造された疑いがある旨の申し立てを受け、予備調査を行った結果、本調査を行うこととし、調査専門委員会を設置した。本調査の結果、論文3編において捏造・改ざん(特定不正行為)を認定した。
 
2.本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)調査専門委員会による調査体制
   8名(内部委員4名、外部委員4名)
 
(2)調査の方法等
 1)調査対象
  ア)調査対象者:名古屋大学元大学院生、教授、准教授 その他共著者3名
  イ)調査対象論文:7編(国内の学術誌:2020年(2編)、海外の学術誌:2016年、2019年(2編)、2020年(2編))
 2)調査方法
   申立内容の精査、投稿論文精査、データファイル精査、調査専門委員会からの質問に対する回答の精査、関係者へのヒアリング、現地調査と実験試料の測定、画像データの評価
 
(3)本事案に対する調査専門委員会の調査結果を踏まえた結論
 (結論)
  1)認定した不正行為の種別
    捏造、改ざん
  2)「不正行為に関与した者」として認定した者
    名古屋大学 元大学院生
  3)「不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者」として認定した者
    名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授、名古屋大学大学院理学研究科准教授

 (認定理由)
  元大学院生は、第一著者となっている2論文および共著者である1論文において、研究不正であると認定されたすべての研究データの収集・解析を担当したこと、実験ノートなどの研究情報の破棄や隠ぺい工作と考えられる行為を行ったこと、また、不正行為の疑いを覆すに足る証拠を示せなかったことから捏造・改ざんを認定した。
  教授及び准教授は、元大学院生を指導・監督する立場であり、責任著者として論文の作成・公表においても指導・確認の責務が課せられていたが、実験やデータ評価の安易さや再現性の確認を追求する姿勢の弱さのため、責務を全うできなかった。そのため、不正行為に関与していないものの、不正行為のあった研究に係る論文等の責任を負う著者として認定した。
 
 (不服申立て)
  本調査の結果を調査対象者に通知したところ、教授及び准教授から異議申し立てがなされ、その内容について審議した結果、調査結果を覆すべき内容には当たらないことから、再調査は行わないと判断した。ただし、調査結果について、異議申立者の意見を踏まえ一部表現の見直しは行った。
 
3.認定した不正行為に直接関連する経費の支出について
 不正行為を認定した論文について以下の支出があった。
 ・戦略的創造研究推進事業(ERATO)47,892円(英文校閲費)
 ・科学研究費助成事業(特別推進研究) 61,022円(英文校閲費)
 ・科学研究費助成事業(特別研究員奨励費) 46,380円(学会参加費、学会旅費)

◆研究機関が行った措置

1.論文の取下げ
 不正が認定された論文3編については、撤回済み。撤回した論文の内容が記載された和文学術誌掲載の論文2編についても撤回を申し入れ、うち1編は撤回受理済み。
 
2.被認定者に対する大学の対応(処分等)
 元大学院生は大学の規則上、処分の対象外となっているが、博士論文について不正認定された論文が学位の副論文となっているため、学位授与の正当性等について検討中。
 教授及び准教授については、学内規則に即して懲戒処分に関する調査・審議を進めている。

◆発生要因及び再発防止策

1.発生要因
 改ざん/捏造されたスペクトルデータ等の作成日時から、元大学院生は調査対象論文の投稿以前から研究不正を行っていたと考えられ、したがって論文作成が契機となって本件が起きた可能性は低い。またヒアリング等において元大学院生は、准教授あるいは教授からの成果に対するプレッシャーはなかったと証言しており、また、プレッシャーが要因になったことを示唆する証拠もない。
 元大学院生は、教授及び准教授から当該の成果を海外の学術誌に投稿すると告げられたとき、大変なことになったと思ったと証言しているが、すでに不正を加えていたデータに対してつじつまを合わせるため、改ざん/捏造をエスカレートさせた可能性もある。いずれにせよ、元大学院生には、本来研究者として当然わきまえるべき研究倫理が欠如していた。
 2人の責任著者は、論文を構成する理論および実験結果等の内容の全てを把握するとともに、それらに研究不正が含まれることがないように注意を尽くす義務を負っている。本件においては、この点が不十分であったと考えられ、実験結果等の確認に対する注意義務を怠ったと言わざるを得ない。明確な切り分けは難しいが、今回の膨大かつ長期に渡る研究不正を見ると、指導教員としての監督責任を果たせていなかったと言わざるを得ない。日ごろからの研究指導において、再現実験の実施や、普段から処理前の生データと実験ノートに向き合って実験結果等を慎重に検討していれば、早期に本件の研究不正に気づけた可能性は高い。このため、両名は不正行為に関与しなかったと認定されたものの、元大学院生の研究不正を防止する監督義務があり、これを怠ったことも本件の間接的な発生要因と言える。元大学院生は、今回、研究不正が明らかになったすべてのデータを1人で測定し、データ処理や作図を実行している。この間、責任著者である教授及び准教授が元大学院生を信頼していたこともあり、科学的コミュニケーションが十分に取られておらず、責任著者の指導・監督が十分でなかったことが不正行為発生の一因と考えられる。
 大学の規定では、研究資料等の保存期間は論文発表後10年間とされているが、教授の研究室では、卒業時には実験の生データや研究試料を担当スタッフに引き継ぐとともに、実験ノートの現物または電子化したものを残すことがルール化されていた。電子化後には、スタッフの許可を得たうえで実験ノートの現物を廃棄することも認められていた。このための研究室マニュアルも作成されており、毎年の年度初めに行う研究室ガイダンスにて口頭で伝えられていた。ところが本件では、恐らく捏造を隠ぺいするためであると思われるが、元大学院生は電子化された実験ノートを残さず、現物を廃棄した。元大学院生の一方的なルール不履行が研究データ喪失の原因であるが、実験ノートの現物を廃棄してもよいという研究室ルールが、遠因となった可能性もある。
 
2.再発防止策
 ・これまで、全ての研究者に研究倫理教育に係るe-Learning の受講を義務付け、また全ての学生に研究倫理教育に係るe-Learning、又は研究倫理教育の科目の受講を義務付け、研究不正の防止に取り組んでいる。しかしながら今回このような事案が発生し、再発を防ぐためにも、研究責任者は研究者教育と研究倫理教育の重要性を再確認し、研究活動が活性化される健全かつ快適な研究環境の整備にさらに努める必要がある。今後は、従来の内容に加えて、本件などの深刻な実例をとりあげ、研究不正に関与した場合に自らが被るペナルティについても説明するなど研究者教育と研究倫理教育をさらに充実させる。また、研究不正やその可能性のある行為を目にした場合の通報窓口・相談窓口について再度周知する。
 ・実験ノートの作成・保管、生データの保管や試料の管理など、研究情報の保管の重要性を改めて周知徹底する。研究室ごとに明文化・マニュアル化し、機会あるごとに学生に周知する。各研究室で取り決めた内容を部局で把握し、助言や指導を行う。
 ・日頃から、実験データにおいてはその再現性の確認を徹底させる。論文公表にあたって責任著者は共著者と協力して公表するすべてのデータの基となる生データ・実験ノートを再度確認し、公表しようとする内容の正確性を担保する。また、教授、准教授と院生、学生は、研究について率直な意見交換を重ねるなどコミュニケーションを図る。
 ・科学的な事実を解明する公正な研究が行われるように、部局の研究倫理教育責任者は、定期的に研究資料等が適切に保存・管理されているかを確認し、その結果を研究倫理推進総括責任者に報告する仕組みを整備し、再発防止を図ることを求める。
 ・本件の研究不正は、調査対象論文の論文査読の過程だけでなく、学位論文審査や修士論文審査においても見出すことができなかった。これらの審査方法や手続きに問題がなかったか検証し、問題があれば改善する。

 

◆配分機関が行った措置

 特定不正行為(捏造・改ざん)が認定された論文は、戦略的創造研究推進事業(ERATO)及び科学研究費助成事業の成果として執筆された論文であり、かつ、戦略的創造研究推進事業(ERATO)及び科学研究費助成事業について捏造・改ざんと直接的に因果関係が認められる経費の支出があった。このため、資金配分機関である科学技術振興機構及び日本学術振興会において経費の返還を求めるとともに、実施する事業への申請及び参加資格の制限措置(元大学院生:令和4年度~令和10年度(7年間)、教授:令和4年度~令和6年度(3年間)、准教授:令和4年度~令和6年度(3年間))を講じた。 

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)