名古屋大学元大学院生による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん)の認定について

【基本情報】

番号

2021-06

不正行為の種別

捏造、改ざん

不正事案名

名古屋大学元大学院生による研究活動上の不正行為(捏造、改ざん)の認定について

不正事案の研究分野

化学

調査委員会を設置した機関

名古屋大学

不正行為に関与した者等の所属機関、部局等、職名

名古屋大学 元大学院生

不正行為と認定された研究が行われた機関

名古屋大学

不正行為と認定された研究が行われた研究期間

平成28年~令和2年

告発受理日

令和2年11月16日

本調査の期間

令和3年1月13日~令和3年8月6日

不服申立てに対する再調査の期間

報告受理日

令和3年11月29日

不正行為が行われた経費名称

戦略的創造研究推進事業
科学研究費助成事業

 

【不正事案の概要等】

◆不正事案の概要  

1.告発内容及び調査結果の概要
 令和2年11月16日に、第一著者から捏造及び改ざんに当たるものと考えられるデータの不適切な処理を行ったとの申告を受けた責任著者からの申し立てを受け、予備調査を行った結果、本調査を行うこととし、調査専門委員会を設置した。本調査の結果、論文1編について捏造・改ざん(特定不正行為)を認定した。

2.本調査の体制、調査方法、調査結果等について
(1)調査専門委員会による調査体制
 4名(内部委員2名、外部委員2名)

(2)調査の方法等
 1)調査対象
  ア)調査対象者:名古屋大学 元大学院生 その他責任著者2名
  イ)調査対象論文:1編(海外の学術誌2020年)
 2)調査方法
  関係資料の収集及び精査、調査対象者への聞き取り及び書面による調査

(3)本事案に対する調査専門委員会の調査結果を踏まえた結論
 (結論)
  1)認定した不正行為の種別
     捏造、改ざん
  2)「不正行為に関与した者」として認定した者
     名古屋大学 元大学院生

 (認定理由)
  〇データ改ざんについて
   データ改ざんについて自ら申告したものであり、データの一部を滑らかにする操作を行ったことや、精度が高くない導出方法で求めた実験結果を一定率に収めるようにデータ操作を行ったことから改ざんを認定した。
  〇データ捏造について
   データ捏造について自ら申告したものであり、実際には測定していないデータを測定したものとして記載したことから捏造を認定した。

3.不正行為に直接関連する経費の支出
 科学研究費助成事業 378,813円(表紙掲載費、表紙ポスター購入費)

◆研究機関が行った措置

1.論文の取下げなど
 再測定により正確なデータが確認され、論文誌へ論文訂正が行われた。

2.被認定者に対する大学の対応(処分等)
 被認定者はすでに修了しているため処分対象にはならない。

◆発生要因及び再発防止策

1.発生要因
 元大学院生が認めるとおり、論文執筆にあたり、本件不正行為は少しでもデータを美化したいこと、測定装置を使用する手続きを厭ったことにより、極めて短絡的に行われたものである。データの改ざんでは、元大学院生が、測定法の性質を理解しないまま、理想のデータに近づけるために故意に行った。これらは、本来研究者として当然にわきまえるべき研究倫理の理解不足、及び意識の低さから行われたと考えられるため、論文執筆時点では、元大学院生の研究倫理に対する理解及び意識は極めて稚拙であった。
 また、元大学院生の測定法の性質に関する理解の低さも一つの要因であったと考えられることから、理解不足に関する教育的配慮が十分ではなく、指導教員によって学生に対して行われるべき、能力に応じた十分な指導がされていなかった可能性が高い。よって、責任著者間での学生教育指導の分担や、実験データに対する日常的なディスカッションや研究室内セミナーでのデータ確認・学生指導の方法に注意するべき点があったと考えられる。
 なお、論文原稿を共著者間で推敲する上で、実験データが差し替えられていたことに気がつかなかったことは事実であり、論文公開前に実験結果を真剣に吟味し、また共著者間での論文作成のルールを作るなどの研究チーム内のマネージメント体制を高いレベルで構築していれば、今回の研究不正を防止できた可能性が高い。

2.再発防止策
 これまで全ての研究者に研究倫理教育に係るe-Learningの受講を義務付け、また全ての学生に研究倫理教育に係るe-Learning、又は研究倫理教育の科目の受講を義務付け、研究不正の防止に取り組んでいたが、学生の理解や意識を必要なところにまで高めることに至っていないことが主な要因であると考えられる。教育内容の理解度を深め、定着化させる最も効果的な場は、研究チームなど、学生にとってなるべく身近な単位であることから、全学での教育、部局での教育を続けることはもちろんのこと、研究チームなどで研究内容に則した事例を取り上げるなどして具体的に何が不正行為に当たるのかを正しく理解させるための教育をさらに充実させる必要がある。そのため、研究室責任者に向けて、各研究室責任者が教育をさらに充実させることを自覚するための項目をe-Learningに加えることや、本件で見られたノイズ処理の考え方などを含め、不正事案の実例を教育内容に含めることにより学生の理解を容易にすることも効果的であると考えられる。さらに、現在e-Learningによって行っている倫理教育に対する理解度の測定を充実させる必要がある。
 また、外部から大学院に進学した学生については、前所属での研究倫理教育の不足や、本人が正しく学習をしていなかった可能性を考え、個々の学生の理解度に配慮した丁寧な教育を行う必要がある。
 論文公表にあたって責任著者は共著者と協力して公表するデータの基となる生データ・実験ノートを再度確認し、公表しようとする内容の正確性を担保する。また、本件では、データが書き換えられた事実に責任著者が気がついたのは、論文掲載を経て元大学院生が自らの不正を申し出た時点であり、それまで見落とされていたのは、論文の修正箇所を共著者間で明確にするためのルールを決めていなかったことが一つの要因であると考えられることから、データの修正方法の共有を含め、ミスを防ぐための方法論を研究チーム内で共有することが重要である。研究分野によって、研究手法や論文執筆のプロセスも異なるため、全分野に渡る共通の倫理教育項目だけでなく、個々の研究チーム内で最も適切なルールを作ることも考慮に入れて研究活動を行うように、全学でのe-Learningにおいて注意喚起する。
 科学的な事実を解明する公正な研究が行われるように、部局の研究倫理教育責任者は、定期的に研究資料等が適切に保存・管理されているかを確認し、その結果を研究倫理推進総括責任者に報告する仕組みを整備し、再発防止を図ることを求める。

 

◆配分機関が行った措置

 特定不正行為(捏造・改ざん)が認定された論文は、戦略的創造研究推進事業(ERATO)及び科学研究費助成事業の成果として執筆された論文であり、かつ、科学研究費助成事業について捏造・改ざんと直接的に因果関係が認められる経費の支出があった。このため、資金配分機関である日本学術振興会において経費の返還を求めるとともに、日本学術振興会及び同じく資金配分機関である科学技術振興機構において、実施する事業への申請及び参加資格の制限措置(元大学院生:令和4年度~令和7年度(4年間))を講じた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究環境課

研究公正推進室
電話番号:03-6734-3874
メールアドレス:jinken@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局研究環境課研究公正推進室)