長寿社会における生涯学習政策フォーラム2012in鳥取(基調講演・事例発表)議事録

【司会】 皆様、お待たせいたしました。定刻となりましたので、文部科学省とNPO法人ファザーリング・ジャパン主催のファザーリング全国フォーラムinとっとり分科会8、長寿社会における生涯学習政策フォーラム2012in鳥取を開催いたします。
私は、本日、進行を務めさせていただきます文部科学省の合田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。この先、着席して、失礼いたします。
私の隣は、本日、後半のパネルディスカッションでコーディネーターを務めていただきますファザーリング・ジャパンの理事で、イクジイプロジェクトのリーダーを務めておられます村上誠様です。

【村上氏】 ただいま御紹介にあずかりましたファザーリング・ジャパンの理事、そしてイクジイプロジェクトをさせていただいている村上と申します。よろしくお願いします。
イクジイをやらせていただいていますが、まだ孫がいる年ではありませんで、今回は妻と息子たちも一緒に来ております。なぜイクジイをやっているかということですけれども、私自身は、千葉の市川市出身で、今、私の親と同居をしています。そこにもう41年、ずっと住み続けていて地域とのつながりがある中で、父と母も地域活動をずっとしていました。母が3年半ぐらい前に脳出血で倒れてしまって要介護者になったのを機に、自身のワーク・ライフ・バランスを見直しまして、私自身、家のことをやるようになり、父も母の介護をやるようになって、そして、今年、母は亡くなってしまったのですけれども、父はイクジイを、長男、次男の世話をずっとしてくれていて、その親に助けられて、子育てをしているなという実感があります。その経験をもとに、今、世の中で核家族化が進んでいて、孤立の子育ての問題で母親の育児ノイローゼとか虐待などいろいろな問題が出る中で、やっぱり地域で育てていく必要があるだろうなということを実感していまして、イクジイプロジェクトをやらせていただいています。
「イクジイ」は、実は今年の流行語大賞の50にノミネートされていて、トップテンは週明けの月曜日、12月3日に発表になるのですが、50の中にエントリーされているぐらい注目されている言葉でございます。
今、高齢者に差しかかった団塊世代の方々が、仕事が終わられて地域に出てきた中で、その団塊の方々は本当に元気な方が多くて、その方々が今まで培ってきたキャリアとかスキルをそのまま眠らせてしまうのは非常にもったいないことですし、高度成長を支えてきた方々の力というものを次世代のためにつなげていきたいなと考えていて、イクジイを進めています。
今回は、既にこの鳥取の地と、そして千葉の柏市で活動されている事例も含めて、そして孫育て・ニッポンの棒田さんから地域の孫育てについての事例紹介等がありますので、そこから何か皆さんに気づきを持って帰っていただけたらなと思いますので、2時間、どうぞよろしくお願いいたします。

【司会】 本日は、「地域で粋なイクジイが日本を変える」をテーマにいたしまして、最初に基調講演、それから事例発表が2つ、その後、パネルディスカッションという中身で行う予定でございます。2時間とちょっと長い時間にわたりますけれども、このフォーラムを通じまして、参加者の皆様がいろいろな気づきですとか、示唆を得まして、それぞれの家庭、地域、団体などの活発な取り組みにつなげていっていただければと思っております。
それでは、このフォーラムの開催に当たりまして、主催者を代表いたしまして、文部科学省生涯学習政策局社会教育課長の伊藤学司よりごあいさつを申し上げます。

【伊藤課長】 皆様、改めてこんにちは。文部科学省の伊藤でございます。よろしくお願いいたします。
今日は、このフォーラムの分科会として、私どもとファザーリング・ジャパンさんとの共同開催で「地域で粋なイクジイが日本を変える」ということでございますが、「イクジイ」という言葉も流行語として是非というふうに思ってございますけれども、更にそれに「粋な」ということをつけさせていただきました。イクジイは格好いいぞ、粋だぞという社会をこれからつくっていかなければいけないと思ってございます。
お手元の配付資料の方にも入れさせていただきましたこの黄色い冊子ですが、これはこの3月に文部科学省の有識者会議の方でおまとめを頂いたのですけれども、「長寿社会における生涯学習の在り方について ~人生100年 幾つになっても 学ぶ幸せ「幸齢社会」~」、幸せなよわいを重ねる社会、こういう報告書を出してもらいました。御案内のように、今、日本では65歳以上が3,000万人、人口の4分の1が65歳以上、そしてこの比率はますます高まっていくわけでございます。
この社会において2つ、本当に重要なことがあるなと思ってございます。
一つは、そういった年を重ねる高齢者の方々が、幾つになっても本当に年をとってよかったな、幸せだなというふうに、生き生きと最後まで健康余命、幸せ余命というものを伸ばしていっていただきたい、幸せな人生を進んでもらうために充実した環境をつくっていかなければいけない、この点が1点でございます。
もう1点は、そういう幸せな、元気なお年寄り方の力をおかりして、これからの日本を支える子供たちの教育というものを、高齢者の力を使って社会全体で子供たちをはぐくんでいく、こういう社会をつくっていく。こういう2点の観点で、イクジイがこれからますます地域で頑張っていただくことは、本当に重要なことだと私どもは思ってございます。
先ほど、実は控室で村上様の4箇月のお子さんを抱っこさせていただいたのですが、私は下の子供が11歳ですから、こういう小さな子供を抱くのは10年ぶりぐらいで、いいなあとしみじみ思いました。恐らく10数年後にはイクジイになるのかなと思ってございますけれども、そういったときに、子供を抱いて、子供から笑顔をもらいながら、自分も元気に、そして幾ばくか貢献をしながら日本全体がよくなる、そういう社会をこれから皆さんと一緒につくっていければなと思ってございます。
本日は2時間、基調講演とパネルディスカッションを、主催者の一人ではございますが私自身も大変楽しみに、勉強させてもらいたいという思いで参加をし、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。
どうぞ本日はよろしくお願いいたします。

【司会】 それでは、これからプログラムに入らせていただきます。配付資料は机の上に茶色の封筒を置いていますけれども、後ろの方の方で、資料が手元にないという方はいらっしゃいませんでしょうか。もし資料がないようでしたら、手を挙げていただきましたらお届けいたしますので、よろしくお願いします。
では、資料のプロジェクターの準備等を行いますので、少々お待ちください。
それでは、最初のプログラムですけれども、NPO法人孫育て・ニッポン理事長の棒田明子様による基調講演を行います。
簡単に、棒田様の経歴を御紹介させていただきます。
棒田様は、子育て、孫育て、また絵本、おもちゃ、子供とのコミュニケーションといったことを専門分野とされておられまして、NPO法人孫育て・ニッポンの理事長、またウエブサイト「孫育て上手」や「ユウchan」編集長を務めておられます。さらにNHKの教育テレビ「となりの子育て」とか「団塊スタイル」など、テレビやラジオにも多数出演されており、ほかにも雑誌や新聞への執筆、全国各地での講演など、幅広く活動をしておられます。
現在は、孫育てだけでなく、「こそだて」が、個人の「個」ではなくて多数の「多」、「個育て」から「多育て」に変わるように、ハッピークリエーターとして様々な団体と協力してプロジェクトを推進されておられます。
また、御自身も高校2年生、中学2年生のお二人の男の子のお母さんとして、子育てに奮闘しておられるところです。
本日は、「地域で粋なイクジイが日本を変える」をタイトルといたしまして、基調講演をしていただきます。
それでは、棒田様、よろしくお願いいたします。

【棒田氏】 皆様、こんにちは。ただいま御紹介いただきました棒田と申します。
昨日の夜、鳥取に入りまして、寒いなあと感じました。本当は朝、早起きして、米子の海岸を少し歩きたかったのですが、強風にめげてしまいまして、30秒か40秒ぐらいだけ日本海の風に当たって、ホテルの中に逃げ込んでしまいました。
いろいろと御紹介いただきましたが、今日のファシリテーターの村上さん同様、私も子育て真っ最中です。高校生と中学生で、2人とも野球をやっているので、毎朝、早起きをしてという感じです。
なぜ子育て中の私が孫育てというところに興味、関心を抱いたかといいますと、事の発端は、私も祖母と同居をしていました。祖母と同居をしていたときには、ほとんど祖母の有り難みに気づいていなかったのです。でも、自分が子供を産んで母親になって子供をあやしたりしたときによみがえってきた記憶は、実は母よりも祖母と一緒にいた時間であったり、母も仕事をしていたので、地域で育てられたということです。
母が急な仕事で遅くなる、祖母はもう疲れて寝てしまった、おなかがすいたときにはどうしたかというと、裏のおばちゃんに、お母さんまだ帰ってこないんだけど、おなかすいちゃったんだけどさあと言って、私が子供のころは、裏のおうちに行けば御飯を食べさせていただけた。
プラスアルファ、祖母は明治生まれのとても厳しいおばあちゃんだったので、悪いことをしたときに、母は知らなかったと先日聞いたのですけれども、うちの祖母は電信柱にくくりつけるのですね。
覚えていらっしゃいますか。昔、電信柱があって、斜めに黄色いポールのようなものがあったのは御存じですか。あれに私、後ろを縛られて、一応動けるのですよ、斜めなので。若干動ける猶予はもらえるのですが、何をやったか私は覚えていないのですが、3回ぐらいくくりつけられたことがあります。1回ではないのですね。相当悪いですよね。
そのときも、助けてくれたのは、実は母でも父でもなく、近所のおばちゃん、おじちゃんなのです。夕暮れになって、ちょっと寂しくなってくると、話しかけてくれるおばちゃんがいたり、口をあけてごらんと言われて、あめだったりチョコレートを入れてくれたり。
そして、私がこういう活動をする前から結構心に残っている言葉というのは、地域のジイからもらった言葉が大きいのです。生きているうちに頭を使え。それから一日でも長く生きている人は尊敬すべきだと、この2つは、私が育っていく中で、実は物すごく大きな意味を持っている言葉です。
そんな観点から、自分も子育てしていく中で、おじいちゃん、おばあちゃんたちの持っている愛情のかけ方、地域の方たちが見守ってくれる温かさというのは、私たち親世代にはできないことがやはりたくさんある。似て非なる愛情だなというところを感じましたので、会社勤めをしていたのですが、会社をやめてNPOの代表になって現在に至ります。
本日お話ししていくのは、日本の世の中がどのように変わってきたのか。単純に子育て・孫育て、子育てを手伝ってほしいと思って立ち上げた団体なのですが、世の中の変化で、実は家庭の中だけのジイだけではなく、地域でのジイの力というのが本当に必要だなというところがあからさまになってきましたので、そのあたりについて御説明させていただきたいと思います。
時間があるようで、実はないですね。それで、データの説明等々、かなり駆け足になるかと思いますが、資料が出ているかと思いますので、わからなかったところは、パネルディスカッションのときに質疑応答も受けたいと思います。ちょっと早口になるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
まず、一番初めの資料ですが、労働人口の変化です。団塊世代は、2006年ぐらいのときには514万人いたのですが、現在、大体350万人、既に164万人の方が御退職されています。これがあと4年しますと、何と236万人、約半分ということで、278万人の方たちが地域社会に戻ってくるという考え方ができます。
そして、退職してからの平均余命ですけれども、御存じのとおり平均寿命が長い日本は、退職する年齢が60歳から65歳に引き上げられたとしても、プラスアルファ20年ぐらいは生きられるのですね。20年間、毎日ゴルフをしていたら、さすがに私は飽きると思うので、毎日ゴルフではなくて、何か違うことに目を向けていただけないかなと思っています。
実際にアンケート調査で、社会の役に立ちたいと思っているのは、いろんな世代がありますけれども、60年代の男性が現在トップです。女性陣よりも多いですね。
そして、社会貢献活動の中でやりたいことは、社会福祉に関する活動というのがトップになっております。その後続くのが自然・環境保護に関する活動、それから町内会などの地域活動ということで、私は、自然・環境保護に関する活動というのも、実はこれは地域からやってくれたら合わさるのになあと思っています。
地域の話を少しだけ触れますと、今の子育て世代のお母さん、お父さんたちは、地域というのが実は子供たちのふるさとになるという意識が低いのですね、自分たちが移り住んできたというだけで。でも、いずれ子供たちが大きくなって、自分たちの息子や娘たちが子供を産んだときに、その場所がふるさとになるということを少し意識して子育てをしませんかという話を毎回するようにしています。
自然・環境保護とか町内会とか、上の世代の人たちも実はこの辺かなり意識があるようなので、両方の世代がつながっていくと、今後はふるさとづくりというのがもしかすると一つのキーワードになっていくのではないかなと考えております。
「団塊のジイの力を子育てや地域へ」ということで、団塊世代の力を「子育て」、それから「地域へ」という2つに大きく分類をしてみました。「子育て」というところは家庭内の子育て、それから「地域」というのは自分の血縁関係の孫、子供という形だけではなく、血縁関係のない方たちもという意味での「地域」という言葉を使っております。
今どきのジイたちの特徴ですが、とにかく娘の子育てを支援したいのです、息子の子育てではなくて。
それから、孫が欲しくても孫がいないという人たちが出てきました。これは、まさに出生率です。2011年は1.39です。1.39という数字は2011年、2012年と変わっていないのですが、実は子供が生まれている数というのは明らかに減っています。数字にごまかされないようにしていただきたいのですが、1.39で日本は何とか昨年の数字をキープしましたという報道は出ていますが、子供の数自体は減っています。
では、家庭内イクジイというのは、今、どんなふうに変わってきているのか。まず住環境が物すごく変わってきています。昔の日本は、同居すると言うと、だれの家族と同居していましたか。娘家族でなく長男の家ですよね。もともとの日本の家系というのは、やはり男性社会の直系でつながっていたというのがこれまでの日本の文化ですが、現在は異なってきていますね。基本的に、皆様から見て左側の方ですが、娘さんや息子さんとの住宅の距離というのが1時間以内というのが今、どんどんふえてきています。
それから、右側の資料ですけれども、ママに聞いた質問ですが、親との居住スタイルは何が一番理想ですかというのは、第1位が近居です。移動時間が30分以内、何かあったときには助け合う近居ということで、今、子育てをするママたちには、本当に一番のベビーシッターさんであり、ちょっと言葉は悪いのですが、家政婦さんである可能性が高くなってきています。なおかつ義理の御両親というよりは、自分の親との近居を望んでいるというのが、ここ5年ぐらいで日本の子育てと住宅環境というのが大きく変わったところです。
実際に、これは今年度、育G調査というのを電通さんが行った結果です。息子の孫と娘の孫と、どちらの方がかかわる回数が多いかという部分を見てみますと、やっぱり丸で囲っているように、左側の黒い方が息子さんとの孫、グレーの方が娘さんとの孫ということで、明らかにお嬢さんの孫の方にかかわっているのですよね。
「孫に会えない祖父母たち」という言葉が、今あります。もしかするといずれ私もそうなるかもしれません。お子さんが息子さんだけという方は会場にいらっしゃいますか。
お嫁さんが気を使ってくれない。要するに娘との近居がどんどん増えているということで、やっぱりお嫁さんに遠慮するバアもいるのですね。ジイは余計に言えないということで、孫になかなか会えないということなのです。会場の中には娘さんを持っていらっしゃる方が多いということなので、逆に、なるべくパパの方の実家にも孫を連れて遊びに行きなよという言葉を、是非お声がけいただければなと思います。
これは物すごく面白い結果なのですが、ジイに聞いています。孫と過ごす意味は。半数以上が自分の楽しみなのです。第2位が祖父としての義務、第3位、娘や息子の育児支援18.5%。これは電通さんの調査ということで、余り記事にならないものは調査してくれないのですね、はっきり言うと。おばあちゃんたちの意識調査というのも一緒にかけてくださいとお願いをしたのですが、おばあちゃんたちはやっているのがもう当たり前なので、ジイの調査だけになりました。
1位、2位、3位なのですけれども、多分女性陣に同じ質問をすると、第3位である娘や息子の育児支援というのが、多分70%ぐらいで第1位に上がってくると思いますが、ここでもやっぱり男性は夢とロマンの人たちなのかなという、私はやはり女性なので、別に敵対するつもりは全然ないのですけれども、やっぱりジイもおいしいところ取りかというのが正直なところです。
でも、逆な言い方をすれば、2割ぐらいの人たちの、娘や息子の育児支援と答えられている方と、その上の23.1%の祖父母としての義務と書かれている、この数字の裏には、私がいろいろな方たちとお話をしていく中で「罪滅ぼし」という言葉を本当によく聞きます、ジイたちから。自分たちは子育てに一切かかわらなかったので、娘や息子たちが子育てに頑張っているのだったらサポートしてあげたい、かかわってみたらば、子供ってこんなにかわいかったのだなと改めて感じていらっしゃるジイたちが、今、増えてきています。
そして、なぜ今、祖父母力が必要であるかと、注目を集めているかというと、まず1つ目の理由は、子供のころから今までに身近に子供と接したことがありましたかという調査です。基本的に約半数の方たちが子供とのかかわりがないまま親になっているというのが現実です。
それから、下に書いたのですが、ひょっとしたら「家事能力も低い?」とクエスチョンマークをしました。というのは、受験戦争の世代なのですね、今の親は。勉強だけしていれば、家事、手伝いはほとんどしなくてもいい世代なのです。なので、掃除、洗濯、炊事は結構苦手です。子供が生まれて初めて家事をする女性というのも決して少なくありません。
1組だけですけれども、いつも悪い例で使わせていただいている私の後輩、33歳と35歳の夫婦ですが、冷蔵庫の中に入っているものは水とビールだけです。そういう夫婦が決して珍しくないということも、ちょっと頭の片隅に置いておいていただければなと思います。
そして、なおかつ育児経験もない、家事能力もない女性たちが、せめて体力があればよかったのですが、でも、出産年齢も上がっています。20代はもう減少、増えているのが30歳から34、プラス35歳から39歳。昔、第1子の出産年齢は、1975年当時は25.7歳です。寝不足だといって、赤ちゃんにおっぱいをあげて、ほとんど眠れないのよと言っても、もしかしたら20分の仮眠で元気になれた。今、私は44ですけれども、徹夜をしたら絶対2日間はリハビリにかかってしまうので、徹夜はしないと心に決めています。それぐらい実は子育てには体力が必要です。今、東京都は本当に30歳を超えてしまっているのです、第1子の出産年齢が。そういう状況ですと、まず体力もないという部分で、もう三重苦四重苦の子育てというのが現状になっております。
仕事に対する意識調査。女性の理想ライフコースです。特に現実の人生とは切り離して考えた場合は再就職、子供を産んで一度仕事をやめて、また子供が大きくなったら再就職というのを理想としている方が35.2%なのですが、現実を考えると、再就職がぐぐんと減って36.1%、増えるのが両立コースです。仕事はやめないでそのまま継続する。そして専業主婦のコースを見ていただきたいのですけれども、数値が19.7%から9.1にまで落ち込んでしまいます。
明らかに日本の経済不況というのも、まさにデータにあらわれていると思いますが、これは女性だけ意識が変わったのかというと、男性が恐ろしいほど変わっています。男性がパートナーに望むライフコース。もう専業主婦というのはあり得ないでしょという感じですね。そして再就職というのは余り変わっていませんが、一番今、伸び率が高いのは両立コースになります。このあたりは、ある程度制度が整ってきた部分というのも後押ししているかと思いますけれども、やはり世帯収入の低さというのも裏にはあるかと思います。
実際に仕事をしている女性の数は、出産する1年前の数値というのは1998年以前も2005年以降も大きくは変わっていませんが、出産2年後もお仕事をしている方が2005年以降は43%という形で、15%以上の伸びになっています。
どんな形で仕事を続けているかというと、出産後、退職しないで育児休暇をとって仕事をしている方、育児休業の取得率が18.1%から40.5%に急増しています。本当は男性もこれぐらい伸びてくれるといいのですが、まだまだ1桁の下の方というのが現実のようです。
これはまとめになるのですが、では家庭内のイクジイ力として何が必要なのかというと、親のサポート、孫の心のオアシス、それから多世代によるかかわりと暮らしの知恵、遊び、文化の継承というものが上げられると思います。
では、話題を家庭の中から地域に移していきたいと思います。
子育て世代と祖父母世代の悩みというのは、実はひもといていくと同じであることがわかりました。共通の悩み、いざというときに頼りになる人がいない。子育て世代は、自分で2人の子供を抱いて手を引いて逃げるといっても、実際逃げるのは大変ですよね。それから意外と子供をかわいがってくれる人の数が少ない。それも異世代になると本当に少ないのです。そして、働くママの急増で、日中、地域にいるのはじぃじ、ばぁば世代だけということです。そして祖父母世代の悩みは、いざというときになると頼りになる人がいないということと、一番初めにお話ししましたけれども、孫がいない、若しくは近くに孫が住んでいないという形で、本当は子供が好きだし、子供にかかわりたいけれども、近くにいないということも出てきています。
では次の資料に行きます。なぜ地域のイクジイが必要なのか。
皆様に御質問します。皆様、いとこは何人いらっしゃるか、数えていただけますか。自分のいとこです。ざっと頭に思い浮かべて、10人以上いる方。多いですね。5人から10人。
ちょっと若返ると5人から10人ですね。
では、お子様が小学生以下の方はどれぐらいいらっしゃいますか。その方たちのいとこは、何人いらっしゃいますか。3人以上いとこがいる人。よかった。ここは幸せですね。5人以上いとこがいる人。何人いらっしゃいますか。

【会場発言】 6人です。

【棒田氏】 6人。これからどんどん日本の世の中は変わってきていますので、いとこがいない家族が出てきます。それはどういうことかというと、ママもパパも一人っ子という御家庭がふえてきます。そうすると、兄弟がいないので、この子供にはいとこもいませんし、おじさん、おばさんがいないのです。
昔はこの一番下の子供たちというのは、自分の親兄弟、それから事によると親族という形で、大人になっていくときに、上のいろんな家族のスタイルを見ることができていたわけです。それを今の子供たちは見ることができません。まるっきりいない状況で育っていく。ここにジイ、バアしかいないという状況が生まれてきています。
少子高齢化、核家族化の問題はかなり国の問題としても問われていますけれども、子供が大人になるまでに出会う大人の数というのを問題視しているというのは物すごく少ないわけですが、実はこの斜めの関係の人たちというのは、成長を喜んでくれる人、それから何か困ったことがあったときに声をかけてくれる人たちです。わかりやすく言うと、お年玉のぽち袋をくれていた人たちです。その数が減っていくというのは、実は物すごく子供たちにとっては大きな影響があるのではないかと思います。
村上龍さんの「13歳のハローワーク」が売れるのも当たり前ですよね。昔は子供たちをこれだけの人が見られていたのです。でも、今の子供たちは見られていないのです。そこをだれが肩がわりをするのかというと、これが地域のジイ、バアたちの役割ではないかなと思っています。
実際に、東日本大震災のときに頑張ったのは、地域のジイ、バアたちでした。実際に避難したとき、乳幼児、女性の方たちは地域のジイ、バアと一緒に避難しました。町の外で仕事をしている20代から60代の男性、それから働いている女性たちは、実際に避難所に入れたのは3日から4日後です。
これは現地の子供たちに聞いた声なのですが、どんなときに安心したか。1番は、パパやママと会えたとき。2番目は、自分の名前を呼んでくれたときです。自分の名前を呼んでくれる人、顔と名前を覚えてくれている人が地域にどれだけいるのかによって、災害時の子供たちの心の安定も図れます。
イクジイの持つ力、組織力、統括力、体力、経験、これが実は被災地の避難所で、きちんとこの機能が働いたところは、自衛隊の物資があっという間に避難所、国が指定している避難所以外の場所にも届きました。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、黒板のところに書いてある安渡小273人というのが、国が指定した避難所に避難している人数です。そのほかの大徳院60人とか神社に80人、古学校地区に110人、これを足していくと273よりも明らかに多いですよね。でも、ここは物すごく地域連携がきちんと図れていたところなので、この周りの地区にもあっという間に自衛隊がすべて物資を運ぶことができました。この組織力とか統括力を発揮したのは、もともと大槌町の役場にお勤めになっていたOBの方です。自分たちが一番よくわかっている、自分たちにできることは何だろうかということで、即働いてくださいました。
人生におけるきずなの危機というものを研究している方がいらっしゃいます。人生におけるきずなの危機は、今、2回あると言われています。1回目のきずなの危機が思春期のころ、中学校、高校生ぐらいの子供たちです。家族や地域が自分たちの場所だったところから、家族は友達に変わり、地域というところから少し離れた社会に出ていく、ここできずなの分断が行われてしまい、きずなの危機に陥ると言われています。そして、2回目のきずなの危機というのが65歳前後と言われています。仕事という場所から家に戻り、社会というところから地域へと居場所が変わっていくところです。
今、この図でピンク色の赤い三角矢印を入れたのは、まず一番上は赤ちゃんの誕生のところです。そして2番目、大人期のところにある三角は、子供を出産、子育てする時期です。そして3つ目、65歳前後というのが孫を授かるような時期です。
今、孫育て・ニッポンは、この3つの赤い部分を家庭の中だけでなく、地域でも何とかつなげられないかと考えています。この3つが地域におりると、実はきずなの危機というのが防げるかなと考えています。
実際に、日経ビジネスさんで毎月1回、「育G新聞」というのを発行させていただいているのですが、まだジイになる前から世代間交流の下宿プロジェクトという形で空き家を利用した世代間交流を進めていたり、それから通常、町内会若しくは子供会でやっているものは子供の交流が小学生からということなので、ゼロ歳児から入会できる子供会を立ち上げている方がいらっしゃったり、絵本読みがいたり、それから後で事例紹介をしてくださる、地元でソーシャルベンチャーを立ち上げている若手ジイというのもいます。
そのほかには、他人の子供も見ましょうということで、実際にサクランボ狩りとか遊びに出かけたり、それからグランパ雲南さんたちは、いろんなところに出向いてやっている。そして、自分たちの好きなことを生かして、おもちゃドクターという形で活躍されていたり、畑と料理教室をやっているジイも実際いらっしゃいます。
これは、私が住んでいる港北ですけれども、好きなことでつながるというのが一番かなということで、囲碁、将棋、それから運動では、走れる人は走ろう会、走るのがおっくうな人は歩こう会という形で、これだったら世代が幾らでもつながるのでということ、それから防災拠点を利用して、防災拠点となる中学校と町内会が防災訓練を毎年一緒に行っています。入学式のときに中学生には、君たちはもう担い手となる方です。助けてもらう方ではありませんので働いてくださいねというお話をきちんとしていきます。
それから、地域でイベントは結構多いのですが、行政さんがやってくださるのは1枚1枚のビラでしかなくて、いつ、どこで、何が起きているのかがよくわからないので、私どもの方でイベントカレンダーをつくって全戸配布しています。これには子育て中の人から一般社会人、そして高齢の方たちが参加できるもの、プラスアルファ、要介護の人たちが参加できるような情報までも入っています。
最後のまとめになりますけれども、団塊世代の、特にジイの力を子育てや地域に活用するにはどうしたらいいか。これは横浜市でも取り組みが行われています。子育てという方から入ること、それから生涯学習など社会経験というところから入るところ。それで、見えてきたものは、女性陣はきっかけと仲間があると、何となくスタートするのですが、特に男性を引っ張ってくるには、きっかけと仲間、それにプラスアルファ、ある程度実行する場所というのがあった方が、どうやら動きやすいようです。そして、そこに必ずくっついてくるものとして、喜び、楽しみがないと継続性がないということが、私が5年ほどかかわっていて見えてきていることです。
紹介にもありましたけれども、「個育て」でなく、多くの人がかかわって他人の子供も一緒に楽しく育てましょうという、私ども孫育て・ニッポンは「多育て」を推奨しています。この多育てというのは、まさにイクジイがポイントになってくるのかなと思います。地域にかかわる粋なイクジイを「イキジイ」と呼んでいます。そしてプラスアルファ、生き生きとした生きる姿を子供たちに見せてほしいなと思っております。
実際にこの後、福井さんとか、それから柏で取り組まれている実践例の報告があると思いますので、そのあたりからもたくさんのヒントを頂いてお持ち帰りいただければと思います。
御清聴いただきましてありがとうございました。

【司会】 棒田様、ありがとうございました。
続きまして、今度は日ごろよりそれぞれの地域や団体などで、イクジイを初めとして高齢者の学びですとか、その成果を生かす社会参加といったものを促進し、地域全体の活性化にもつなげるという先進的な取り組みを行っている2つの事例につきまして、それぞれ紹介いただこうと思っております。
初めに御報告いただきますのは、NPO法人KiRALi代表理事、福井正樹様です。
簡単に、福井様の経歴を紹介させていただきます。
福井様は、東京都の出版社にて雑誌、書籍の編集に携わりました後、平成10年に義父の介護のために鳥取市へ一家で移住されました。その後、鳥取市内でコンサルタント会社の役員を務められた後、平成22年に子育て支援とかイクメンの啓発推進要請、またワーク・ライフ・バランスの推進などの事業を行いますNPO法人KiRALiを立ち上げられまして、現在まで代表理事を務めておられます。また、教育委員会や男女共同参画センターなどで、イクジイとか男性の育児支援などに関する多数の講演活動なども行っておられます。
本日は、「鳥取の「イクジイ」啓発推進」というタイトルでお話をしていただきます。
それでは、福井様、よろしくお願いいたします。

【福井氏】 皆さん、こんにちは。今、御紹介いただきましたNPO法人KiRALiの福井でございます。
「イクジイ」という言葉に私が出会ったのが2年ぐらい前ですか、今、先ほどお話しいただいた棒田明子さんとファザーリング・ジャパンの仲間として知り合いになって、そこで初めて知ったわけです。概念的には何となくありましたが、「イクジイ」という言葉であらわされると、地域に密着した子育てということでは、これは鳥取にぴったりかなという感覚を受けました。鳥取に限らず島根もそうですし、いわゆる地方にぴったりなのかなという感覚を受けて、興味を持って棒田さんのもとに弟子入りしまして、棒田さんにいろいろ教えてもらいながら模索していたら、行政でもイクジイ啓発推進をしていこうという気運が盛り上がってきて、啓発推進のお仕事を少ししてきました。それを御紹介したいと思います。
まずは、「イクジイ」の概念を知っていただきたいと思いますが、今、棒田さんがお話をされました。イクジイとは何なのかという概念をしっかりと知っていただくことがとても大切なのだなと、事業をやっていて思っております。
孫育ての幸せ。今、棒田さんもお話しになったと思いますが、孫を育てることの幸せというのをおじいちゃんになったときにかみしめることができるのです。例えば必死で働いていて定年間際で、まだおじいちゃんになっていない人、僕のことですよね。僕は56歳なので、あと4年で定年の年ですが、僕はNPO法人を経営しているので定年はないのですが、僕ぐらいの年で企業にお勤めになっていて一生懸命働いてきて、僕の年齢は高度経済成長時代、バブルも経験している世代ですので、働くことが男の仕事みたいな感覚を持っている人たちが多い。それでイクメンもできていない。できていないといって悪い意味ではなくて、できなかった。ですから孫が生まれたら、孫を育てることの幸せをかみしめてくださいねと、それはあなたの老後の人生にとっても役に立ちますよということを、まず知っていただきたいのです。
そのためには、いろんな育児体験もやっぱりしていただいた方がいいですよね。最初から赤ちゃんというとハードルがすごく高いので、でも小学校に近い6歳というのも、これもまた逆の意味でハードルが高いので、割とうまく扱える2歳、3歳とか、かわいくて扱いやすい世代の子供たちで育児体験をしてみるといいですよね。でもそれはこちらから提供してあげないとなかなかできないので、その提供が重要だと思っています。
そういうときに、昔、自分が育てられた、例えば私の世代が子供を育てた育児の常識と現代の子育ての常識の違い、育児ギャップと言いますが、そういうところの特徴もやっぱり、実はおじいちゃんにもわかってほしい。
実はイクジイ講座をすると、おばあちゃんが結構来るのです。おじいちゃんはなかなか出てこない。イクメンよりイクジイの方が出にくいぐらいですから、おばあちゃんは結構来るのですが、おばあちゃんがいっぱい来たときに話をしていると、僕が一生懸命今の育児はという話をしていると、違う違う、私たちのときはこうだったみたいな、棒田さんも育児ギャップの話をよくされますが、そこもやっぱりちゃんと押さえておくところですよね。
これも、僕も棒田さんに教えてもらって、はたと気がついたのですが、今の地域に欠けているものを定年後の世代で補てんしていく、地域に欠けているものは何ですかということですね。これを僕は地域力と呼んでいます。
それから、地域全体で子育てすることが大事だということに、実際どんな実証効果があるのかということも少し知っていただく必要があるなと。
これは、鳥取という地域でいうと、とにかく子供が少ないのですよ。人口も少ないが子供も少ない。それで鳥取でもやっぱり都市部集中になっていますね。鳥取市、倉吉市、米子市、境港市と、市が4つありますが、そこに若い働く世代は全部集中していて、鳥取は北側がもう海ですので、この4つの市はほとんど海にへばりつくようにしてあって、南側の山の方、中山間地に入っていくと子供が極端に少ない。
私の妻の出身地は、智頭町という岡山県の県境に近いところにありますが、非常に大きな町で、でも町の面積の90%ぐらいは山です。そこに小学校が5つあったのですが、この春に1つに統合になった。妻の出身小学校も廃校になりました。建てかえたばっかりのとてもきれいな小学校なのに廃校になるという現状から見ると、地域力を上げていくことは、やっぱり子供を増やしていくことだし、若い人がそこの地域に帰ってくる、地域力を高めて、そこに若い人が帰ってきやすい風土をつくっておくことが、実は地域を守る一番の手なのですよという話をします。それが、例えば2世代かかるかもしれません、3世代かかるかもしれませんが、それを今やっておかないと、もう二度とここには若い者は帰ってこない、子供は生まれないよという話を効果として挙げていきます。さりとて地域に足りない子育て人材を埋めるおじいちゃんを、最初から子育ての穴埋め人材に使えるわけではありません。これは相当訓練していかなければいけないのです。
先ほど2階の会場で、ファザーリング・カーニバルでグランパ雲南というじいちゃんたちが読み聞かせをしたのを見られた方はいらっしゃいますでしょうか。
お隣の島根県の雲南市という、ここは山の中なのですが、そこではたとこれに気づいたおじいちゃんたちが読み聞かせやマジックやいろんなことをやって子供たちに喜んでもらおうという、これは出たがり、目立ちたがりのおじいちゃんにとっては最高のアイテムですよね。
そのグランパ雲南の代表から御連絡を頂いて、僕らは今、その後にファザーリングバンドといってバンドをやってきたのですが、楽器が欲しいと言うのです。楽器を鳴らす人がいないので、自分たちの読み聞かせに厚みが出ない、楽器を弾ける人を入れたいのですがということで、グランパ雲南さんは僕より一世代上で、60代半ばから70代の前半ぐらいの人たちなのですよね。最も楽器を弾ける人がいない世代です。今はタンバリンしかいないと言っていましたが、最近、ギターを弾くおじいちゃんが入ったみたいです。というふうに、彼らが一番夢中になれるアイテムで、一生懸命やると子供が喜んでくれる、周りのパパやママからもすごいと言ってもらえる、そういうアイテムをやっぱり与えて差し上げて、地域に足りない子育て人材をつくっていくのが大事だと思います。で、パパやママのサポーター、心強いサポーターになろうねということもおわかりいただくように話をしていきます。
イクジイに欠かせないスキルやアイテム。欠かせないスキル、欠かせないアイテムというのは、これは、実はお立場で若干違ってくるとは思いますが、基本的なスキルはやはり要りますよね。アイテムも幾つか持っていた方がいいです。それもいろいろ紹介していきます。こういうことで子供と一緒に遊べますよ、こういうことで子供に興味を持ってもらえますよというアイテムを一生懸命探してきて、この後、写真を見ていただきますが、このアイテムを僕らが探すときに、おじいちゃん向けに合うアイテムは何かなあとは探さないのです。おじいちゃん向けにと考える時点で既にバイアスがかかりますから、まずインターネットは駄目だろうなとか、パソコンは使えないよねというバイアスをかけると、アイテムはどんどん減っていくのですよね。でも、今、子供たちがとっても関心がある分野は、実はおじいちゃんたちが余り得意な分野ではなかったりするので、子供たちの関心がある分野ができるおじいちゃんを探してくる、そこにアイテムを与える。
おじいちゃんというと、木工細工とか、昔のめんことかべいごまとか、たこづくりなどをよくやっていますよね。あれには余り子供は飛びつかないのです、おじいちゃんは自己満足しますけれども。そのアイテムがあってもいいけれども、プラス、やっぱり今の子供たちに受けるアイテムを身につけさせてあげると、おじいちゃん、とても得だよという話をよくします。
実際に、これはデイケアセンターでやりました。この人たちが地域の力になるか、デイケアセンターに通っていらっしゃる人たちと実験的にさせていただきました。何をしたかというと、アイパッド、タブレット型PCを使った高齢者のお遊びです。30人ぐらいのおじいちゃん、おばあちゃんがおられましたが、全員、アイパッドを見るのもさわるのも初めて。パソコンを知っているおじいちゃんが1人いて、キーボードがないといって騒いでいましたから、キーボードはないのですよと話をしましたが、僕は今の概念みたいなことをお話しさせていただいて、実際にデイケアセンターでおじいちゃんたち、おばあちゃんたちがどんな反応を示すかなということで、アイパッドを実験的に使ってみた写真です。
これを見てください。79歳のおじいちゃんです、車いすに乗っておられます。アイパッドを見るのも聞くのも初めて。この人がキーボードがないと言った人ですが、パソコンはちょっとやったことがあるみたいで、1時間ぐらい、最初はグーグルマップから始めました。おじいちゃん、どこで生まれたのですかと言ったら、鳥取市の隣に旧気高郡というところがあって、そこのどこどこだと言われて、それをグーグルマップで探していく作業を一緒にやりました。すごく楽しいのですよね。ああ、これがあの山だ、これがあの川だみたいな感じです。
自宅を探して、次は、では、おじいちゃん、旅行に行ってみようかと。どこに行きたいですか、一番は、スフィンクスが見たい。エジプトですよね。グーグルマップだとあっという間に行けます。ぴゅうっとこうやったら行けるよとやったらスフィンクスが出てきて、こうやったら大きくなるよと言ったら、どっと大きくなる。もうとりこですね、すぐに。
実はおじいちゃんたちに1時間ほどレクチャーをした後に、近所の保育園の子たちを御招待して、保育園の子たちに来てもらって、今度、この子供におじいちゃんがアイパッドを教えているのです。こうやったら大きくなる、こうやったらスフィンクスが見られるとおじいちゃんたちが機械を使って教えると。子供たちは、もう尊敬のまなざしで見るのですよね。それでおじいちゃんは得意満面です。
これは、このおじいちゃんにとってとても楽しい時間だったみたいで、帰りにすごく感謝されましたが、デイケアセンターでそれをやっても、高齢者の方にもやっぱり非常に効果があるということがよくわかりました。本当に教える人と教わる人という感じが出ていますよね。
次に僕がやったのは、実は最後のまとめでも話をしますが、鳥取県では、公民館がまだ非常に生きている地域でございます。地方は結構公民館が生きていて、地域の拠点になっています。ただ、地域の拠点といえども、若い人は公民館に余り来ません。高齢者の方が多い。ここを逃す手はないということで、実は公民館の主事さんたちにお声をかけて、昨年度、県内の公民館22箇所を回らせていただいて、近隣の公民館の主事さんを集めて、実はイクジイというのがあって、こうこうこうして地域の力を使っていくのですよ、公民館の事業としても、このイクジイを増やしていくような事業や、イクジイのネットワークをつくっていくようなことをやられたらどうですかと言うと、いろんな公民館で、いや、うちもあります、おじいちゃんが集まってそばを打っていますとか、交通安全を見張っていますとか、現にあるのです。そういうところにいろんなアイテムを提案して差し上げて、地域でどんどん興味を持ってやっていただくように、まずは公民館の主事さん、主任さんたちにイクジイの概念を知ってもらうセミナーを22回やりました。結構効果は高かったですね。この後、もっと進んでいけばいいなと思っております。
これはグランパ雲南です。これは県の男女共同参画センターさんの事業で、男性のための男女共同参画ということでイクジイをテーマにやりました。このジジイたちが工夫しているのですよ。これは絵本です。野菜の断面を見て、中を見てみようかな。こう開くとカボチャが出てきて、開くとカボチャの断面が、切ったのが見れるのですが、実際にカボチャを持ってきて、包丁とまないたを持ってきて切るのです。カボチャを切りますね。切って、こう開くときに、横のジジイが絵本を開くのです。ぴったり、あ、同じだ、カボチャだねといってやるわけです。愛すべきおじいちゃんたちです。これは本当に工夫しているなあと思いました。
こっちが代表の郷原さんですが、何でこの工夫を考えたのと聞いたら、「だって受けたいじゃんと。これやると受けるんだよ。」と言われます。すごいなあ、そういう受けたいとか喜んでもらいたいという気持ちが、子供たちに接しているとすごく芽生えてくるのだなあと思いました。
これは、手品をしています。黒いハットをかぶって。なかなか堂に入った、いい手品をされていました。こういうのも、子供たちは喜びます。
これは、2人組で絵本の読み聞かせをしているものです。
これは、お座敷ワールドカフェ。ワールドカフェは御存じでしょうか。グループワークのアイテムの一つですが、普通、グループワークだとグループに分かれて、グループの中で完結してしまうのですが、グループ同士が移動し合う。もうばらばらになって、またもとの自分のグループに戻ってきて、みんな何をしゃべったか共有できるというグループワークです。これはイクジイについてのグループワークではなくて、僕が男女共同参画の事業で呼ばれて行ったのですが、ジイばっかりでした。ここでグループワークをやっていくと、このワールドカフェの模造紙にしゃべったことをいろいろ書いて移動していくのですが、結構地域の子供が少ないことへの関心とか、地域の子育てについてのいろんな御意見とか、地域にいる自分たちは何かできないかという御意見がおじいちゃんたちからいっぱい出てきます。これは目からうろこでしたね。ああ、こんなふうに思っているのだと思って。でも、アイテムがない、仕組みがない、参加できる足がかりがつかめないということがあったので、やはり公民館を主軸にいろんなアイテムをお与えして、それで楽しみを覚えていただいてイクジイネットワークをつくっていくべきなのだろうなと思った、これは一つのきっかけのワールドカフェです。
ワールドカフェと言った時点で、全員、首をかしげていましたから、カフェみたいな。コーヒーではなくてお茶だというのがいいですよね、お座敷ワールドカフェをやりましたが、結構盛り上がりました。
ワールドカフェというのは御存じないかもしれませんが、トーキングアイテムというのがあって、一つのテーブルに1個お人形が置いてあるのですよ。それを持っている人がしゃべれる。しゃべったら次に渡すと、その持った人がしゃべるのですが、トーキングアイテムを全く無視です、おじいちゃんたちは。持っている人が地域のことをしゃべり出すと、周りがわあっとしゃべるのですよ。なかなかそれを規制するのが大変だったのですが、余り抑えないで、十分しゃべっていただいて、でも、おじいちゃん、しゃべりながら手も動かしてくださいね、しゃべったことを書いてくださいねと言って、このワールドカフェ自体、イクジイワールドカフェをやったら面白いだろうなと思いました。
今度は公民館職員ではなくて行政職員さんへのイクジイ講座です。これは県の中央、琴浦町というところで、関係部署の行政職員さんに集まっていただいてイクジイ講座をしました。これもやっぱり行政の方にわかっていただいて、市町村単位で動いていただくことがとても必要だと思いました。行政職員の方は結構興味津々ですね。
啓発を推進するために何が大切なのかということを少し最後にまとめてみました。やはり公民館の主事さんたちにレクチャーして、公民館を拠点としてやることが鳥取では非常にいいかなと。地域の拠点を攻めるということですね。
実は、鳥取ではないのですが、最近、広島県さんの方からイクジイの講座の御依頼がすごく多くて、先般も広島の安佐南区というところの保健福祉センターさんから3回連続のイクジイ講座なのですが、とても迷って御連絡がありました、お金がないのですがと。僕は講演をするときNPOの仕事としてやっていますので、非常に心配そうにかけてこられたので、「1円もないのですか」と言ったら、いや、「交通費ぐらいは出せます」と。「では、行きます」ということで、1月から3回連続講座で、公民館でやります。講座、グループワーク、最後の週が野外遊びです。バーベキューをするか、かまで飯を炊くか、野外遊びを子供と一緒に何かやってみようという。やはりその地域の拠点を攻めるのは、すごくいいなと思います。
僕は最初ジイたちを集めようと思っていたのですよ、こういう講座をするから来てねと。来ないですよね。これはやはり来ないなというのがわかりました、この前やったので。ジイのいるところへ行く。ジイが集まっているところに行く。さっきのデイケアセンターもそうですよね。絶対ジイ、バアしかいませんから、ああいうところへ行って、おじいちゃん、おばあちゃんと触れ合ってみる。僕ら自体がおじいちゃん、おばあちゃんと触れ合うこともすごく大切なので、触れ合ってみる。あとはおじいちゃんが集まる公民館へ行く。
公民館へただ行っても、僕みたいなこんな風体のおやじが公民館に行っても、イクジイ講座をしたいのですと公民館職員に言っても全くわかってもらえませんので、その前段として、公民館職員さんにきちっとレクチャーをしてわかっていただく。そして公民館の上部組織の行政職員さんにも、まずわかってもらうという攻め方をしていって、啓発を重ねていきたいと思っております。
あとは、さっきも言いましたように、あらゆるアイテムを使う。おじいちゃんに合っていそうもないアイテムもオーケーかもしれません。得意な人もいるかもしれません。絵本、アイパッド、木工等々。
木工は結構やられる人がいますが、アイパッドはいいですよ。本当にいろんなことができるし、漢字を書くこともできます。御存じですか、アイパッドのゲームで漢字を書いていくと、間違えているとブーといってバツが出てくる。合っているとピンポーンと丸が出たりするのを子供とおじいちゃんが一緒にやるというアイテムを使うと、これで結構すぐ仲よくなれたりするので、こういうアイテムを使っていくことが啓発を推進するためにとっても大切だなあと思います。
鳥取県の事情だけではなくて、これは都市部と地域で若干違うと思いますが、まだ公民館の組織がきちっと残っていて、そこに高齢者の方が集まってこられるような地域では、やはり公民館を拠点に新しいアイテムを御提供して差し上げて進めていくのが、啓発を推進するとてもいい方法かなあと経験的に思いましたので、これを発表させていただきました。ありがとうございました。

【司会】 福井様、ありがとうございました。
それでは、続けて御発表いただきます。
多世代交流型コミュニティ実行委員会代表の常野正紀様です。
簡単に常野様の経歴を御紹介させていただきます。
常野様は、大学卒業後、主にシステム設計や構造設計などの生産技術に関するお仕事をされてこられましたが、65歳から様々な地域活動に携わるようになられまして、小・中学校を中心に、学校評議員やボランティアグループ活動、学校支援地域コーディネーターなどを務めてこられました。現在は多世代交流型コミュニティ代表といたしまして、地域での活発な活動を続けておられます。
本日は、「“鎮守の森”再建構想」というタイトルで御発表いただきます。
それでは、常野様、よろしくお願いいたします。

【常野氏】 今、紹介にあずかりました常野でございます。
私はずっと技術畑で、こういう動きを今までとったことがありませんでした。ですから、個々の展開も、問題点を探せ、それに対して何をやっていったらいいのかという非常にかたい展開なのですけれども、最初は我々、初めてやるという形から、問題点を探して、何をしなければいけないか。それから、個々にやっていったときにどんなことがわかったのかということを、きょうは発表させていただきます。
鎮守の森は、皆さん御存じのように、昔、どこの町、どこの村にもあったものだろうと思います。しかし、そこでは子供が生まれると、鎮守の森にお参りをして、子供たちはそこで遊んで、そして大人たちもあわせながら大きな祭りをやって、そしてなおかつそこが防災の拠点にもなるという、本当に安心できる地だったろうと。こういうことを夢見ながら考えていかなければいけないかなと思っているわけですが、実質的に鎮守の森はどんどんどんどん減っている。その中でも一番大きな問題は、要するに人のきずなというものが今日どんどんどんどん薄くなっている。老人と子供のきずなも同じですけれども、そういう形で減ってきていると。
現状の状況を確認しました。非常にしつこくなって申し訳ないのですが、まず少子化の問題。これは、1974年に2.08人を下回って問題だと言われて、2005年には、日本の総人口は減ってくるよということで問題だという形になりました。
それと同じく、もう一つの問題は高齢化の問題です。私ももう71歳ですが、でも、医学は進むし、なかなか死ねないだろうと思っています。そういう状況で、これからの高齢化は一層進んでくると。
これは柏の例なのですが、一番上が65歳以上の人員、それから45歳から64歳まで、これを合わせると、平成17年にはほぼ半分ぐらいになってくると。そして一番下にある子供はどんどん減ってくる。この状況を頭の中に入れながら個々の考え方を進めていくということで、少子高齢化を踏まえた形で物事を展開していかなければいけないという一つの問題意識を持ちました。
次は核家族化なのですが、今の状況でも大体60%ぐらいの家庭が核家族になってくるだろうと言われています。これも都市化の問題とかいろいろあるわけですが、ただ、ここで私たちがすごく問題視したのは、下に書いている、核家族化は、多人数で同居する大家族と比べて、親子3代による家事、育児の分担がどんどん難しく、子育ての観点からは、親世代が子供と接する時間が少なくなってきている。先ほどの例にも出ておりました。
ですから、この中で一番大事なことは、祖父母との交流が子供たちの育成に重要な内容であって、多世代が子供を見守るということをよく考えていかなければいけないのではないかと。そういうところから展開をしていくということです。
これも柏の例ですけれども、昭和40年度に世帯4名ですが、17年になると2.6名に減ってくると。これは子育て、育成に必要な大人の見守りと、その機能が失われつつあるということなので、今の新聞紙上、テレビのニュースから考えていくと、子供たちが今、ここで本当に育っていかないと、将来の日本というのはいろんな形で変わってくるなという問題意識を持ちました。
ここで、我々は何を考えていかなければいけないかということで、もう一度少子高齢化を考えていきますと、これは暗い過去、暗い問題だけで考えていたのでは何も進まないということから、地域が一つの家族になったら、子供たちを見守る大人の数は絶対にふえてくるでしょうと、そういう一つの大きな仮説を立てました。昭和60年度では、子供1人に対してかかわれる高齢者の数が0.24人だったものが、平成17年には1.22と膨大にふえてくる状況になります。ですから、地域が一つの家族になるということを併せて考えていくと、日本の未来の展望は変わってくるであろうと。
ここで、チャンスだと、悔しいけれどもチャンスだと考えようと。そして、それに向かってみんなで動いていこうということで進めてまいりました。
ただ、そうなりますと、今度は、一つの家族と考えたときに、どんなことをしていかなければいけないのか、どんなことをクリアしていかなければいけないのかということで出てきたものが、家というものは、ただそこにあるだけで、これだけで機能を持っているということです。
同じところに帰属している。先ほど話に出ました。何々君と言うより、何々ちゃんと名前を言わなければ、本当のきずなは生まれてこない、そういう形の動きに家族というものをしていくのですよと。
常にそこにある。あちこち動かれたのでは困ります。
相手がだれだかわかる。これも先ほど言いましたように、子供の名前ではっきり言えるような地域の関係というもの。
それから、密接に関係しているというのは、まず家族は助け合い、助けたり助けられたりということが必要であるし、そこにいれば安全だということと、そしてなおかつ、いつまでもそこにある。これは途中で消してはいけません。
いつまでもそこにあるというのは、大人になったときに、自分の子供を連れてこられるようなところではないといけないということで、こういうことを夢見ながら進めていかなければいけない。
それから、そこには大広間というものがあるだろうと。これは人の集まる場所ということを意識して、今、私たちは「茶論(さろん)」をつくっています。それを大広間という考え方にしました。そこでは、人が集まれば得意なことがわかるし、興味がわかったらお友達ができるし、人と人とのつながりが、共通の友達という形で進めていって、要するに輪をどんどんどんどん広げていく。そして協力できる、ちょっと手伝ってよという形の動きがとれるようなこと。
何か活動するときに、高齢化社会ですので、みんな息切れしているのですよ。あと5人いればこれができるけれどもといってやめてしまうこともあるわけです。そういうときには、こういう力を使えばいいのかなと考えております。
それから、そこには昔から長老がいるでしょうし、隠居さんがどこかにいるはずなので、ですから、家があって大広間があるのだったら、そこで隠居さんがいてほしいと。それが家族全体を把握して、それから人と人とをつなぐ、コーディネートできるということですね。それから頑張りを認める。これは客観的な物事の判断ができて、人がつなげられて、家族全体を把握している、地域全体を把握できるという人がいなければいけない。キーマンになる人を考えなければいけない。
技術屋の悪いところで、しつこくしつこく来るのですが、高齢化社会と、共働き世代の増加ということと、核家族化というのが現代の日本の姿です。そうすると、老人と子供と子育て世代がここにあるわけです。その中に、非常に端的な表現をしました。それは、老人は孫に接する機会が減ったので寂しいと思っている。先ほど言いましたね。私は男の子ばっかりなので、なかなか孫と会わせてくれないのですよ。あと、この人は時間と経験を持っている。今までもうやっていますから知識と経験はすごく豊富なのです。
一方、子供を考えてみますと、親以外の大人と接する機会が少ないのです。子供と話してみますと、学校の先生と塾の先生という子がたくさんいました。これも寂しいという言葉で表現しました。大人からの刺激が少なく、経験が不足していますよと。これはいろんなことで感じます。
今度、子育て世代の人たちを考えてみますと、経済情勢の厳しさから、核家族化になって家事の負担が増加しているわけです。手伝う人がいないから家事の負担が増加していると。主婦は大変だと思います。ですから老人、子供を十分に見守れないという問題がある。
では、どうするのかということで、この地域の関係が希薄化しているのを何とか改善していきたいなということで、寂しさをつなぐという形の動きをとっていけないだろうか。要するに老人、高齢者と子供を結びつけたい。それは何で結びつけるのかというと、時間と経験を持っている、それが見守りして子供と接触して、その子供の生き方、成長ということから生きがいを見いだすという形の循環を図っていきたいと、地域の循環を図っていきたいという考え方をしました。
その結果、当然大人も子供も寂しくない状況になるだろうし、そして生きがいがある人生を得た老人を生み、それから大人から刺激を与えられて経験を得られる。子供たちのこれからの選択肢の幅が少しでも広がればいいなという考え方をしています。
子育て世代は、社会をよりよくするために専念しているけれども、子供たちと接触するわけですから、今度、そこに親の参加の機会が出てくる。今動いている状況でも、お父さんと一緒に来る、お母さんと一緒に来るということが今ふえてきています。それで、老人と子供をつなぎ、双方にメリットを与えながら地域が循環すると。
実は、ここまでの動きというのは、最初に集めた地域の人間が、学校の校長から、企業の人から、農業の人から、それから個々の団体の代表者ということで、全部で50人ぐらい集まって審議したのですが、こういう人たちを説得するということは一回では終わりませんでした。事あるごとにこの話をして、常野と話をすると嫌だ、毎回同じことを聞かされる。だから、聞かなくてもいいからエッセンスだけちゃんと理解してくれという形の動きをとりました。
そこで、これで動こうというのが「地縁のたまご」という非常にあいまいな名前をつけましたが、それについてこれから説明します。
マイナスとマイナスを掛け合わせてプラスにするということですが、私たちのいるところは高柳というところなのですが、ここでの2つの問題。地域の子育て力が低下しているし、高齢者の生きがいが低下しているということで、これをみんなの前で定義づけました。
それで、私たちが考えた課題解決のための戦略というのは、地域で子供を育てることが高齢者の生きがいにつながるということ。これは、地域の子供を自分の孫のように慈しみながら育てる、こんな地域をつくっていきたいということにしました。ですから、このテーマを「地縁の他孫(たまご)事業」と。先ほど言いましたように、なかなか私の孫にも会えないですから、その状況の中で孫を育てるというのは大変なので、人の孫を育てなければ、地域の子供たちを育てられませんから、もう思い切って全部が自分たちの孫である、自分たちの子供であるという考え方をとろうという形の展開を図りました。
いざ展開していきましたら、やっぱり多くの問題がありました。私たちは足りないものばかりでした。まず、地域ぐるみで子育てをするための組織がない。それから住民がいつでも集えるような居場所がない。それから効率的な事業運営のための技術革新がないし、事業を推進するためのお金がない。この状況にぶつかりました。
では、これをどうやって持っていくのかということで、実行委員会をつくりまして、大体1年半ぐらいかけて長老の育成講座、まちづくりのセミナーの講座ということをやりました。これは後でまた説明します。それからコミュニティカフェ、人が集まれる場所をつくろうと。それから、会員管理のIT化ということ、ホームページで広報活動を行う。資料を出してまとめて渡すというのは大変なのです。紙代、印刷代があるのと同時に、ガソリン代まで必要なのです、あちこち持って歩かないといけないものでね。それで、もう少し形を変えようと。収益構造は、カフェでの事業収益、ホームページの広告、まだこれはできていませんけれども、農作物の移動販売とか、そういうことを何でもやってみようと、子供たちのためだと、孫のためだということで進めることにしました。そして、この創設で試行をしました。
ここでは、組織づくりですけれども、これは東大の牧野先生にいろいろと教えていただきまして、私のところの近隣センターに、先ほど言いました学校の校長初め50人ぐらいの人たちに何度も来てもらいました。そして、そこで牧野先生からの話と私のくだらない話と、それを毎回聞いてもらうわけです。洗脳したと言うとよくないかもわかりませんけれども、わかってもらったということですよね。
そこでやったのは、円卓会議です。これは組織化なのですが、地域が抱える問題点の掘り起こし、問題解決の方法を審議して、これですごくよかったのは、事業コンセプトを地域で共有化できたということです。運営のための仕組みはいろんな形で構築できました。
それから、長老の育成という形で、地域のコーディネーターなのですが、この地域の中に長老をつくる仕組みをつくって、これは管理コーディネーターをつくることができたという、運営力の強化です。これは6回やりまして、延べ182名の高齢者に参加していただきました。
それから、実際面の動きをとるまちづくりセミナーでイベント運営の企画立案、実践という形で、これは公募をして、こういう形のことをこれからやりますから、是非参加してくださいということで、15回で290名、約300名の人間が集まりました。今、これが活発に動いています。
実は、私も子育てをしたことないのですが、子育ての世代のときは企業戦士で、うちにも帰らずに仕事をしておりましたので、今、一生懸命子供たちのことを理解しようと思ってもなかなかできないということで、すごく新鮮な勉強をさせてもらっています。
これは端的な例なのですが、どんなことを変えてこれから動いていくのかなということで、正月に、小学校2校で大体250名ぐらい参加しまして、もちつきをするのです。今までこのもちつきは、もちをついて小学生に食べさせて、おいしかったかいと言うだけの動きでした。それを今度は変えようと。子供たちを育てるということは、今までの動きと違っていかないといけないと。小学生を主体に、準備、もちつき、後片づけを小学生自身が行うイベントとして考えていきましょうということ。その結果、何があったかというと、子供を楽しませるだけではなく、楽しみながら経験できるという形のもの。大人は、今まで実践する人だったのですけれども、見守る人に変えていこうと。これは、精神的な形が大きく変わりました。子供との関係ががらっと変わったのです。
そこに写真がありますけれども、2人ペアになっているのは、6年生が2年生の面倒を見ながらもちつきをする、そういう関係もできてきて、大人はつまらなそうにそこに立っていますけれども、今まではおれがついたのだよと言っていたのが、最近つけなくなりまして、大変にはなってきているのだろうと思いますけれども、そんな形です。
中学生は、またちょっと変わったことを考えていきました。それは、中学生・東大交流シャッターペイントです。私どもは牧野先生のところからいろんな支援を受け、教えてもらいながら動いている関係上、東大の大学院との関係がありまして、ここではキャリア教育の中で、中学校の職業体験活動というものがあります。この活動を一アイテム、校長と話をして学校からもらいまして、そして、我々の茶論のロゴマーク、そこに出ているようなものですが、こういうものをつくってくれと頼みまして、そして制作を実行してもらいました。
この内容は、デザイン制作から、円卓会議でプレゼンテーションをして承認、実行という、実際の仕事と全く同じプロセスでいこうと。これも実はプレゼンテーション1回で合格できませんでした。学校の職業体験というのは2日間しかないので、学校と話をしまして、あと2週間かけて、休みの日でもやっていただきたいということで、次の円卓会議で承認を得ました。それで、質の高い職業体験を提供することができて、やはり中学生レベルでは、実務レベルでかなりのことができることがわかりましたし、中学生もすごく満足してくれました。周りの生徒が、こんなこともできるのかと非常に感心したという状況でした。
次には居場所づくりですけれども、これに非常に時間がかかりました。居場所を借りるということと、その中をある程度改装するということで、一度、市の方にお願いしまして、市の方からお金を頂くということだったのですが、去年の3月8日に決まりまして、常野君、決まったよと、どうもおめでとうと言ったところ、11日にどかんとあの災害が起きました。すぐ電話がかかってきまして、あの費用は全部災害復興に回すから駄目だと言われまして、ほかの方法でということになりました。
カフェというのは、人・地域のつなぎ場所ということで、ここに来ればやりたいことが見える、仲間が増える、こういう場所をつくろうかと。これは5月6日にオープンしたばかりです。
ここでは、イベント情報を得るために、ここに出ておりますが、周りの壁を全部掲示板にしました。市の建物を借りたもので、画びょうを使ってはいけないとかいろいろ言われたのですが、その上にベニヤと、それからクロスを張りまして画びょうでできるようにして、それで使いました。ですからこの壁、天井だとか、どうしても駄目なところは市の方でやってもらいましたけれども、あとのところは全部、地元の有志が下のすそ壁をつくってみたり、テーブルは小学校の図書館のテーブルをもらってきたり、それからいすは地域でつくったりという形で手づくりができたということです。
ですから、ここに来ると、友達、きずな、生きがいを見つけることができると。残念ながら今、女性ばっかりです。女性の方が断然多いです。男性が来るのは、ここで今来ても30人ぐらいでしょうね。女性はいつもそのぐらい集まっているという感じです。
こんな形でいつもやっていまして、ここは火、木、土、日と4日間の開催です。月、水、金は何をやっているかといいますと、イベントをやっているのです。だれかがリーダーになりながら、そこで人を集めて何かを教えているということです。ですから、実質的にほとんど毎日、ここは開いているという状況にあります。
それから、技術革新ということなのですが、表現はいろいろとあるだろうと思いますが、ホームページを何とかつくりました。地域の情報を発信できて、これは簡単にしてもらいまして、地域の小・中学生でもこの中に投稿できるような形、これはそのままは入れません。必ずスクリーニングして入れるという形になります。子供たちが主体的に参加できる仕組みにしていきたいということで、これをやっております。今回もかなりの領域に子供たちに入ってもらいました。
収益構造は、朝市を始めました。柏は残念ながらホットスポットの問題で、放射能の問題で、ずっと遅れました。今年の7月から始めましたが、これからどんどんどんどん増やしていきながらやっておりますけれども、今までの農協経由の個々の農作物のつくり方と、ここでやるつくり方と、全然変わりました。市場調査で、欲しいものが全然違うのですね。今までは大体一つの季節ではみんな同じものをつくって農協に出していましたけれども、ここにみんな同じものを持ってきたのでは、どうにもなりませんので、農家自体が工夫してくれました。これから、これをどんどんどんどん発展させていこうかなと思っています。この奥にあるのが茶論で、その前の駐車場を使っています。
今後の展望。ちょっと時間過ぎて申し訳ないですけれども、運営の仕組みづくりというところでは、地域で子育てをする体制の組織化ができたし、スタッフが継続的に養成される仕組みもできました。それから子育て、生きがいを得られるイベントが出て、いろんなアイデアが出ました。我々が非常に喜んだのは、子供は宝の子供だから、これを磨こうと言っていたのですけれども、いざやってみたら、この子たちはみんな力だよと、地域の力になるよということが確認できました。
運営の礎となる場の構築というのは、ただただここに人が集まってもらうということが一番の内容だろうと思います。今は活動できる高齢者をここで一生懸命探しています。みんな集まってもらって、いろんなことをやってもらう。それからイベントのモニタリングというのは地域性がありまして、個々の実施した後の反省会を非常にまじめにやるのです。飲む前に反省会を1時間、それから何かをするというところがございまして、いろんな改善ができています。農作物も、もっともっとスタートさせながらいきますし、それから組織の新陳代謝も考えていかなければいけない。
かつての鎮守の森と今のものは違うよということを、ここでまた話しました。鎮守の森を中心に、そこを囲むように森があって、そしてその中で子供たちが育っていったけれども、今やろうというものは違うよということをもう一回ここで言っております。地域は一つの家族だという思いがあるのだと。その思いの中で大人たちが一本ずつの木になって、その中で子供を育てていくという、この考え方にしてもらいたいということで、私は木で、私たちは森になって、この森で多くの子供たちが育つことを願いますという形で進めてまいりました。
私たちは、これで子育てをして、子供たちがハッピーになり、それから高齢者がハッピーになるのと同時に、是非この子たちが自分の子供を連れてきて、自分の土地で子育てをしたいと思えるようなところまで頑張っていこうではないかと。ですから、決して急ぎません。私がいなくなってから達成できるような形になっても構わないけれども、絶対に後戻りだけはしないようにしようということをみんなで合い言葉にしながら、今、動いています。
まだまだガタガタです。こういうところで非常にきれいごとで発表しましたが、まだまだ悩みばかりです。しかし、心地よい悩みになることを期待しながら頑張ってまいりますので、いろんな形で皆さん方の御支援をいただければと思っております。
どうも御清聴ありがとうございました。

【司会】 常野様、ありがとうございました。
それでは、この後は村上様にコーディネーターをしていただきまして、御講演いただきましたお三方を交えましてのパネルディスカッションですけれども、その前に、5分ほど休憩を設けたいと思います。
35分に開始いたしますので、よろしくお願いいたします。

〔休憩〕

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課環境・高齢者担当

(生涯学習政策局社会教育課環境・高齢者担当)

-- 登録:平成25年01月 --