第7回国際成人教育会議「マラケシュ行動枠組み(仮訳)」(2022年6月17日)について

第7回国際成人教育会議「マラケシュ行動枠組み」(2022年6月17日)の日本語(仮訳)です。

第7回国際成人教育会議
2022年6月17日、マラケシュ
原文:英語

第7回国際成人教育会議「マラケシュ行動枠組み」 成人学習及び成人教育の変革力を活かすために

 
前文
 
1. ユネスコ加盟国142カ国の代表及び市民社会組織、社会的パートナー、国連機関、政府間機関、若者、民間部門の代表は、第7回国際成人教育会議(CONFINTEA VII)の参加者として、2022年6月15日から17日までモロッコ王国のマラケシュに、対面とオンラインにて集まった。この会議は、成人学習及び成人教育(ALE)を含む世界中の教育システムに多大な影響を及ぼしているパンデミックの最中に開催される。
 
2. 我々は、2009年の第6回国際成人教育会議(CONFINTEA VI)以降のALEにおける重要な課題と進捗状況を評価し、今後12年間(2030年に向けてとそれ以降)のALEの進展のためのロードマップを確立するために集う。
 
3. 我々は、2009年のベレン行動枠組み(BFA)において、ALEが教育を受ける権利の不可欠な要素であると認識されたことや、今日も関連するALEのための5つの行動分野(政策、統治、資金調達、参加・包括・公正、質)を特定したことなど、第6回国際成人教育会議(CONFINTEAVI)の功績を想起する。また、2009年にBFAで定められた、ALEの進展を定期的にモニターするユネスコの「ALEに関するグローバル・レポート」(GRALE)の価値も強調する。
 
4. GRALEのデータに基づき、2009年以降のALEと生涯学習を促進するための世界規模での主要な努力を回顧する。これには、国際社会によって生涯学習を促進する必要性をより強く認識された、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその持続可能な開発目標(SDGs)への国際社会の公約が含まれる。例えば、SDG4「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」、「教育の未来」国際委員会による報告書、そして、第1次から第5次にわたるGRALE、グローバル・エデュケーション・モニタリング・レポート、生涯学習の枠組みにおける識字のためのグローバル・アライアンス(GAL)を含む他のイニシアティブを通じた世界的なALEのモニタリングの改善、世界的な教育アジェンダ及び構造の中でALEの統合に向けて取られた措置も含まれる。よって、権利に基づくアプローチが、マラケシュ行動枠組みの実行を導くべきである。
 
5. 我々は、COVID-19パンデミックの長期的な構造的影響と、対照的なALEへの影響を強調する。このパンデミックは、政府とコミュニティが、知識、スキル、コンピテンシーの習得のための戦略と、若者と成人がこの危機の影響に対処することを支援する学習政策を策定し、実施する必要性へのさらなる注目を喚起している。また、特に、グリーン・デジタルへの移行によってもたらされる仕事の世界や社会のニーズの変化に対応するために必要となる、リスキリングとアップスキリングのための戦略を構築する必要性を強調する。
 
6. 我々は、2015年に国連(UN)総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を想起し、17のSDGsの達成を約束する。我々は、17の目標全てに生涯学習が不可欠であり、生涯学習の中核的な側面として、ALEがその達成の鍵を握っていることを認識する。我々は、加盟国が「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことを約束したSDG4に対する我々の公約を特に再確認する。我々は、2021年5月に採択された、持続可能な開発のための教育の重要性を再確認する「持続可能な開発のための教育に関するベルリン宣言」を想起し、成人学習者がその16の勧告達成に貢献するよう呼びかける。また、生涯を通じて質の高い教育を受ける権利を主張し、持続可能な未来を築くための教育の変革力を強調する、「教育の未来」国際委員会(ユネスコ、2021年)の報告書「私たちの未来を共に再構想する:教育の新たな社会的契約(仮訳)」も確認する。
 
7. 我々は、ジェンダー規範が教育において、学習者の効果的な関与の能力に影響を与えることを認識し、ALEにおいて、またそれを通して「ジェンダー平等とすべての人の権利」を保障するという委員会の呼びかけを強く支持する。ジェンダーを変革するALEは、教育関係者と保健、保護、司法などの部門を結びつけ、包括的、総体的に世代を超えたものでなければならない。
 
8. 我々は、2015年のユネスコ総会で採択された「成人学習及び成人教育に関する勧告(RALE)」を支持する。これには、ALEの定義(※1)と、識字と基礎スキル、継続教育と職業スキル、リベラル・民衆・コミュニティ教育及びシティズンシップ・スキルの3つの主要な学習分野の特定が含まれる。
 
9. 我々は、ALEが生涯学習(※2)の重要な要素であることを再確認し、ALEの政策と実践が幅広い年齢、教育レベル、学習空間と学習様式に適用されることに留意し、生涯学習が個人、家族、組織、職場、近隣、都市、地域が関わる様々なレベルでの学習社会の主要原動力であることを認識する。
 
10. 我々は、「教育の未来」国際委員会が主張するように、ALEを含む教育が基本的人権であることを強く確認する。このことは、教育を公共の努力と共通善として理解し形成する上で非常に重要である。
 
11. また、我々は、政府及び非政府の関係者を含む国際的なALEコミュニティが、地域及び小地域における準備会議を含めCONFINTEA VIIの開催に継続的に、豊かで多様な貢献をしたことを認める。これらの成果文書は、BFA、水原CONFINTEA VI中間レビュー報告、GRALE、RALE及びUNESCOの報告書「私たちの未来を共に再構想する:教育の新たな社会的契約」とともに、この行動のための枠組みへの基礎となってきたものである。
 
12.  狂信主義や暴力的過激主義の高まり、科学への不信の増大、国内及び国家間の不平等の拡大に社会が脅かされている今、ALEは社会的結束を固め、社会情動的スキル開発を強化し、平和を確保し、民主主義を強化し、文化理解を深め、あらゆる差別を排除し、平和的共生やアクティブ・シティズンシップ、グローバル・シティズンシップを促進するための強力な政策対応となることを再確認する。
 
13. 我々は、2022年9月に開催される「教育変革サミット」の不可欠な部分として、このマラケシュ行動枠組みの提言を促進することを約束する。我々は、サミットの参考文書となるこの行動枠組みの重要性を想起する。
 
原則と優先分野
 
14. 生涯学習の観点からのALEの推進:BFAの優先分野は引き続き適切であると認識しつつ、SDG4はALEを生涯学習の重要な構成要素として位置づけ、持続可能な開発及びユネスコ憲章にある平和の約束に貢献するユニークな機会を提供するものである。
 
15. 新しい社会契約の構築:
「我々の未来を共に再考する」の知見と提案に触発され、ALEは人権、民主的な社会、倫理原則、結集した集合知、学際的知識によるオープンな対話に基づく人間的対応を生み出す上で重要な役割を担っている。
 
16. 過去数十年間、女性の識字率向上など目覚ましい進展があったにもかかわらず、多くの国がいまだに、デジタルリテラシーを含む適切な識字レベルへの到達や、かなりのジェンダーギャップを埋めるために苦闘している。2021年には、7億7000万人以上の成人が基本的な識字能力を欠いており、その5人に3人は女性だった(UIS)。個人、家族、コミュニティ、社会、そして地球にとって識字がもたらす恩恵は既に証明されており、成人の識字は十分な政策的配慮と財政的支援を受ける必要がある。
 
17. 気候変動対策に向けたALEの可能性を引き出す:
 気候変動は、人類だけでなく、他の生物種にとっても大きな脅威である。気候変動は、現在の生産と消費のパターンに疑問を投げかけ、新しい産業を生み出し、将来の世代に対する道徳的責任を認めさせ、地球への配慮が世界的な義務にならなければならないことを認識させるものである。したがって、気候変動教育は生涯学習システムの主流となる必要がある。ALEはこの環境に配慮した変革の一翼を担わなければならない。ALEは、若者や成人にこの問題を理解させ、意識を高め、気候変動に適応し、それに対抗するために必要な知識とエージェンシーを身につけさせ、変革のための回復力とエージェンシーを身につけさせるものである。ALEは、成人や高齢の市民をエンパワーし、かれらが子どもたちの模範となり、地域、国、地球レベルで変化をもたらす存在となるために重要な役割を果たすことができる。コミュニティ学習とシティズンシップ教育は、農村開発を含む持続可能な開発と、気候変動の影響に対する意識を高めるための重要な要素である。さらに、ALEの教育機関自体が、カリキュラムや施設、運営を環境に配慮したものにすることで、環境配慮型社会への移行のモデルとして機能することができる。
 
18. 高齢者を含むすべての学習者のデジタル環境での学習への平等なアクセスを促進する:
 テクノロジーは、成人が学び、教わる方法、そして必要とされる能力やスキルに重要な変化をもたらしている。テクノロジーは個人の学習を強力に促進し、触媒の役割を果たすようになった。テクノロジーは教育における進歩の原動力となる一方で、社会的または集団的な学習をより困難にし、既存の社会的格差を広げるとともに新たな格差を生み出すといった、新たな障壁を生み出す可能性もある。すべての学習者のデジタル環境での学習への平等なアクセスは、これらに対処するための重要な前提条件である。このことは、成人が社会の積極的な一員としてどのように関わるかにも影響し、誤った情報や偽情報に対抗するためにオンライン環境を利用する際の批判的思考、コミュニケーション、共感、社会的スキルの重要性を高めている。効果的な戦略、政策、手段を構築し、デジタルデバイドを解消し、アクセスを増やし、オンラインの力関係に対処し、テクノロジーの乱用を防ぐことは、すべてALEの変革的、解放的な力を確立するために重要である。また、効果的なデジタル教育理論には、対面式や遠隔式、対面と遠隔の混合形式の新しい教育・学習モデルが必要である。
 
19. 未来の仕事のために成人を準備させる:
 人口動態の変化、第四次産業革命、グローバリゼーション、気候変動は、経済と労働市場を深く変容させつつある。これらの変革は、仕事の性質、雇用構造、仕事の内容、必要とされる能力や技能に大きな影響を及ぼしている。成人が職業人生の中でより複雑な軌跡をたどるようになり、数十年にわたり主流であった教育から仕事への直線的な移行ではなくなりつつある。このような状況において、ALEの課題は、関係者の共有された責任により、職業指導のほか雇用、ディーセントワーク、キャリア開発、起業のための学習支援を含め、人生を通じて関連する知識、能力、スキルの平等な習得を、柔軟な方法で提供することである。また、人口動態の傾向から、世界中の人々の平均寿命は伸び続けており、世界的な高齢化をもたらしてしている。したがって多くの国で、仕事をしない高齢者人口が増えるため、ALEは、高齢者が社会に有意義な貢献をし続けられるように、また、ウェルビーイングと、生活のあらゆる領域の楽しみをより重視するなど、退職後の活動に備えることに、一層焦点を当てて推進されなければならない。さらに、カーボンニュートラルと環境保護を達成するために必要な経済の変革によって、すでに労働市場にいる成人のリスキルとスキルアップが喫緊のニーズとなっている。
 
20. 生涯学習の文化を創造する:
 生涯学習は、COVID-19の大流行とそれが不平等を深刻にしている課題に加え、気候危機から技術の変化や人口動態の変化に至るまで、人類が直面する課題に取り組む鍵となる。これを達成するためには、あらゆるタイプのALE(フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル)、そしてあらゆるセクターや分野、対面式だけでなくオンラインや混合形式の学習も含めた様々な学習の場、多様な学習者グループを包含する全体的なアプローチが必要である。したがって、老若男女を問わず、仕事の世界だけでなく個人のウェルビーイングや公益にも役立つ、包括的で質の高い教育や生涯学習が公の努力として確立されることによって学習環境が創出される必要がある。
 

変革的ALEに向けた行動勧告
枠組みとガバナンスの仕組みの確立
 
21.  教育のための新たな社会契約の必要性を認識し、我々はユネスコに対し、生涯学習に関して既存の人権枠組みを強化する方法について、関連する専門家協議及び政府間対話を開始するよう求める。このプロセスは、ALEを中核とする生涯学習の権利のビジョンを実現するための最も適切な方法を模索し、それによって各加盟国に適合した生涯学習の文化を創造するべきである。
 
22. 我々は、ALEのガバナンスを支援するために、特に省庁、市民社会組織、若者、民間セクター、大学、ALE提供者を含むすべての関連する主要なアクターとのマルチセクタープラットフォームの価値を認識する。また、労働者と雇用者の対話と、その組織構造の重要性も強調する。これは、多くの国で、特に継続的な職業能力開発の面でガバナンスに寄与するものである。
 
ALEのためのシステムの再設計
 
23. 複雑な学習体系(ラーニング・エコシステム)の出現によりALE提供者の多様性が増していることを認識した上で、我々は、仕組みや規制の確立ALEの構造を支援するための財政的・人的資源の配分、そして、強化された公教育の提供においてALEを公共財として規制、奨励、刺激、調整、監視することに関する政府の役割を強化する必要性をあらためて表明する。

24. 我々は、学習プログラムの計画・設計・実施のための戦略的側面として、また、資格を持った成人教育者を十分に配置したコミュニティ学習センターのような訓練・学習イニシアティブを支援し(共同)資金提供するために、地域レベルでALEを強化することの重要性を認識する。我々は、職業技術教育訓練(TVET)や高等教育機関、図書館、博物館、職場、公共スペース、芸術・文化施設、スポーツ・レクリエーション、ピアグループ、家族など、学習する場所の多様性を認識する。これは、例えば、学習都市開発を奨励することはもちろん、学習者、地域団体、機関など地域の関係者の関与を促進することも含め、地域レベルで万人のための生涯学習を促進するための機関の能力を強化することを意味する。
 
25. さらに、職種内及び職種間の柔軟な学習経路を創出するという我々の公約に沿って、我々は、適切かつ関連性のある場合は、すべての人々、特に障害者のような不利で少数派のグループを開かれた柔軟な学習体系(ラーニング・エコシステム)に含めるために、事前学習の承認、並びにノンフォーマル及びインフォーマルな学習の検証・認定の重要性を強調する。この点について、すべての教育や生涯学習のプロセスに先住民族のコミュニティを含めることにも特別な注意を払う必要がある。柔軟な学習経路を確立することは、異なるプログラム、学習レベル、雇用部門間の移動を可能にし、学習者にとっては自分の才能と興味に応じて学習の軌跡を選択し、教育分野サブセクターと労働市場の橋渡しができることを活用するための鍵である。
 
学習の質の確保
 
26. 我々は、ALEに関わるボランティアの指導者及びその他の専門家を含む、教師及び教育者の重要な役割を強調する。我々は、大学や研究機関と連携して、現職前、現職中、継続的な訓練を通じて、また、給与、地位、専門能力開発の軌跡を含む労働条件を改善することによって、成人教育者のスキルアップとさらなる専門化と特化のための政策と戦略を実施することを約束する。さらに、我々は、ALE コンピテンシー・フレームワークを、教育者の専門化とその資格の強化に向けた戦略的な手段と認識する。

27. ALEにおける対面学習の重要な役割を強調した上で、我々は、グローバル・シティズンシップ教育や持続可能な開発のための教育、健康とウェルビーイングのための教育、社会情動的スキルや横断的かつ批判的な思考スキル、デジタルスキルに関する教育といった新しい学習分野を取り入れた、適切で差別のない、ジェンダー対応のカリキュラムと学習教材を推進することを約束する。
 
28. ALEの質を高めるために、我々は、包摂性や質、関連性をさらに高めるための政策と実践を導く、調査と評価の重要性を強調する。これには、ALEプログラムの設計者、教師、参加者を支援することを目的とした参加型の調査研究が含まれるべきである。
 
資金調達の増加
 
29. 我々は、ALE のために公的資金を増加し資源を結集させ、既存の予算配分の後退を防ぐことを約束する。生涯学習の一環として、ALEは、様々な省庁、雇用者及びその他の民間アクター、地方自治体、学習者など、幅広いステークホルダーの貢献によって資金を調達されるべきである。そのような資金調達の方式は、通常予算の公約と、女性や社会的弱者・周縁化されたグループの学習者を対象とした混合型資金調達やターゲット措置を含む他の財源や仕組みを組み合わせたものでなければならない。我々は、GDPの少なくとも4~6%、及び/または教育への公的支出全体の少なくとも15~20%の配分という国際的なベンチマークを段階的に満たすことを目指し、各国の状況に応じて成人教育への公的支出を増やすことを決意している(※3)。
 
30. 我々は、ALEのための適切なレベルの資金調達に国際協力が果たす役割を考慮し、また、ALEが17のSDGs全ての推進に貢献する可能性を念頭に置き、教育における開発協力への資金調達のためのグローバル・メカニズムがALEも支援するよう、その範囲を拡大することを求める。したがって、SDG4達成のために行った公約に沿って、我々は、既存のグローバル教育基金、特に「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)」と「教育を後回しにはできない基金」に対して、パートナー国に提供する戦略や優先順位、財政支援にALEを含めることを求める。我々は、SDG4の成人識字率目標を達成するための資金格差を埋めるための努力や、多くの先進国が国民総生産(GNP)の0.7%という途上国へのODAの目標を達成することを含め政府開発援助(ODA)に関する既存の公約の履行を通じて、技能訓練を統合することを約束する(※4)。
 
包摂性の推進
 
31. 我々は、言語の多様性を含む多様性、包摂性、アクセシビリティ、公正性を我々の努力の中心に据えることを約束する。これらが周縁化された人々や不利な立場にある人々、少数派並びに脆弱なグループやコミュニティのALEへのアクセスを向上させるうえでの優先事項であると認識する。また、公正性と包摂性を達成するうえで、特に先住民族の実状と先住民族に対する責任に留意することが重要である。この公約は、エンパワーメントとアクティブ・シティズンシップ、グローバル・シティズンシップを具現化する参加の権利を含む、人権としての教育を再確認することに由来する。
 
32. 我々は、ノンフォーマル及びフォーマルなALEプログラムへの参加を大幅に増やすことを約束し、多様な学習者グループの参加について野心的な基準を設定するよう各国に奨励する。脆弱層や現在働きかけることができていない成人を含めるために、我々は、学習機会に対する認識を高め、参加を拡大し、学習者の動機を高めるためのアウトリーチ及びガイダンス・システムを促進することを約束する。
 
33. 我々は、信頼性が高く、正当で、透明性が高く、アクセス可能な、ジェンダーに配慮したALEのための情報システムを施行し、学習支援が不足している人々を重視した参加と学習者定着の進捗の追跡を可能にすること、また、政府と非政府組織、学術界、市民社会、加盟国の間の知識の交換を促進することの重要性を再確認する。
 
学習領域の拡大
 
34. 我々は、ALEの基礎として、識字を学習の連続体並びにコンピテンシー・レベルとして構想することを再確認する。我々は、SDG4.6の達成に向けた施策を実施するための努力を大幅に強化することを約束する。これには、包括的で、エビデンスに基づくジェンダー変革的で、セクター横断的で、包摂的な識字政策と実施戦略の確立が含まれる。
 
35. 我々は、職場が重要な学習の場であることを認識する。職場において生涯学習の文化を確立することは、労働者が働きがいのある人間らしい仕事を確保・維持し、新たな職務要件に適応し、自己の成長と充実感を達成するために重要である。また、職場での学習は、より包摂的で公正な社会の構築に寄与するものでなければならないことを我々は認識する。ALEは、職場の効率性、生産性、ウェルビーイングを高めるので、我々は、雇用主が職場でALEに投資することを求める。
 
36. 持続可能性の観点から気候変動対策は喫緊の重要課題であることを認識した上で、我々は、すべての若者と成人が喫緊の持続可能な開発問題をよりよく理解し、消費パターンとライフスタイルを適応させ、環境を保護・保全するための民主的議論とイニシアティブに積極的に関与することによって、力をつけた市民として行動できるように、持続可能な開発のための教育(ESD)を促進し、気候変動の原因と影響に関する認識を高めることを約束する。
 
37. ALEにおいてテクノロジーが果たす強力な役割を認識し、加盟国は、デジタル格差を縮小し、デジタルリテラシーとスキルを促進する方法を特定するとともに、知識へのアクセス(オープン教育資源に関する2019年勧告とオープンサイエンスに関する2021年勧告)と学習のためのAI利用(AIの倫理に関する2021年勧告)を枠組みとするユネスコ規範文書に基づく学習提携の新しい方向付けを行うことを約束する。したがって、ALEを最も必要としている周縁化された人々やコミュニティに届ける効果的な手段である混合学習の推進と並行して、公益のためのオープン教育資源を推進し、学習のためのテクノロジーの使用に関連する公正性と包摂、プライバシー、倫理に関する懸念に対処していく。
 
38. COVID-19のパンデミックの影響を考慮し、我々は個人のウェルビーイングと公衆衛生のための学習の重要性を主張する。我々は、国レベルや地域レベルでのALEの政策やプログラムにおいてこの点を強化する必要性を認識し、高齢者を含む保健に対するALEの好影響を活かしていく。保健とウェルビーイングのための学習は、SDG3とSDG4の結びつきと、複数のセクターの政策とプログラムにおいて、ALEと保健を主流化する重要性を強調する。
 
39. 我々はさらに、社会と開発の課題に取り組む上で、アクティブ・シティズンシップ、グローバル・シティズンシップと、メディアと情報に関するリテラシーの重要性を強調する。したがって、我々は、学習者が情報を批判的に評価し、情報に基づいた意思決定を行い、エージェンシーを養い、地域社会や公での議論に大いに貢献する能力を育成することを目的とした、成人のためのシティズンシップ教育を強化するイニシアティブを奨励する。
 
40. 我々は、持続可能な開発のための2030アジェンダを横断的スキルの開発のためのロードマップとして活用することを約束する。このアジェンダが今後数年間のALEの多面的な目標に大きな結束と相乗効果をもたらすことを我々は認識している。質の高い教育と生涯学習は、SDG4実現のための重要なメカニズムであるだけでなく、貧困削減(SDG1)、健康と福祉(SDG3)、ジェンダー平等(SDG5)、不平等の縮小(SDG10)、有給雇用と働きがいのある人間らしい仕事(SDG8)、包摂的で、安全で強靭な持続可能な都市(SDG11)、公正で、平和で、包摂的で、暴力のない社会(SDG16)、気候変動対策(SDG13)を達成する前提条件でもある。さらに、成人教育は教育への権利の構成要素であり、すべての人権の実現に不可欠なものである。
 
 
制定とモニタリングのための国際協力
 
41. 本行動枠組に含まれるコミットメントを実現するため、また、知識及び優れた実践を継続的に交換し、相互学習を促進し、制度的能力の開発に貢献するため、そして国際連帯の精神に基づき、我々は、ALEの改善及び生涯学習の促進を目的とする国際協力イニシアティブを更に支援し、これに関与することを約束する。
 
42. 我々は、SDG4及びその他のSDGsの達成において特定の課題に直面している以下のカテゴリーの加盟国に特別な注意を払うことを約束する。

  • 難民や避難民を含むALEへの参加や能力開発に関する特定のニーズを考慮し、紛争の影響を受けた加盟国
  • 気候変動によって悪化した構造的な脆弱性がある小島嶼開発途上国(SIDS)
  • 持続的な教育課題に直面し、将来の発展に大きな機会を提供するアフリカ諸国
  • 引き続き特別な注意と的を絞った支援に値する後発開発途上国(LDC)

 
43. 我々は、ユネスコが、教育に関する国連の主導的機関として、加盟国と協力してこの行動枠組みの実施を支援し、進捗状況を定期的にレビューするよう求める。
 
44. 我々は、「ALEに関するグローバル・レポート(GRALE)」、「学習をモニタリングするグローバル・アライアンス(GAML)」、「識字のためのグローバル・アライアンス(GAL)」、「グローバル教育モニタリング・レポート(GEMR)」、SDG4教育2030ハイレベル運営委員会、持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム、非政府組織を含む国際パートナーの活動、国レベルのモニタリングなどのメカニズムやプラットフォームを含むSDG4のグローバル・アーキテクチャーを活用し、世界、地域、国、地方及び地域レベルの関連するメカニズムを通じてこの行動枠組みを前進させることを約束する。我々は、モロッコ王国のイニシアティブであるアフリカ生涯学習研究所の創設を歓迎する。
 
45. GRALEの伝統に則り、我々は、この行動枠組みの制定を定期的にモニタリングするための適切かつ正確な細分化されたデータを作成し、かつ、加盟国及び他の主要なALE構成員間の知識及びベストプラクティスの交換を促進するためのデジタルプラットフォームを支援できる信頼性、正当性、透明性が高くアクセス可能な情報及びジェンダーに配慮したモニタリング・システムの必要性を改めて表明する。
 
46. 我々は、ユネスコに対し、進捗を評価するため世界報告や2028年のCONFINTEA VIIの中間レビューを含む専用の手段を通じて、ALEにおける進捗状況を定期的に報告するためユネスコ生涯学習研究所を通じた世界レベルでのモニタリングプロセスを調整することを求める。
 
47. 我々はまた、本枠組みの勧告の効果的かつ参加型の実施を支援する観点から、ポストCONFINTEA VIIの閣僚間委員会を創設するとのモロッコ王国の提案を歓迎する。
 
48. したがって、我々は、すべての人々にとって社会的結束のある、充実した、包摂的かつ持続可能な未来のため生涯学習の観点において、ALEの変革の力を活用する際の指針となるマラケシュ行動枠組みを採択する。
 
脚注
(※1)成人教育は、生涯学習の中核をなすものである。すべての若者と成人が、社会と仕事の世界に参加できるようにすることを目的とした、あらゆる形態の教育と学習で構成される。成人教育とは、社会から成人とみなされた人々が、自分自身と地域・組織・社会の利益のために、生活と仕事のための能力を開発し、向上させるための、フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマルな学習プロセスの総体を指す。成人の学習・教育には、能力を獲得し、認識し、交換し、適応させる持続的な活動とプロセスが含まれる。若者期と成人期の境界線は、ほとんどの文化で変化している。この文書では、「成人」という用語は、たとえ法定成年に達していなくても、成人の学習・教育に携わるすべての人を指す。 (「成人学習及び成人教育に関する勧告」2015年、6頁)。
 
(※2)生涯学習は、学習と生活の統合に根ざしており、あらゆる年齢層の人々(子ども、若者、成人、高齢者、女子と男子、女性と男性)の幅広い学習ニーズや需要を満たす、あらゆる生活場面(家庭、学校、地域、職場など)と様々な様式(フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル)を通じた学習活動である。生涯学習を推進する教育システムは、すべての個人に対する学習機会の提供を確保するために、すべてのサブセクターとレベルを含む包括的かつセクター・ワイド・アプローチを採用している。
(教育2030行動枠組み Education 2030 Framework for Action, UNESCO 2015, p.30, 脚注 5)
 
(※3)これらの公約は、すでに2015年の世界教育フォーラム(仁川)や2018年、2020年、2021年のグローバル教育会合で行われたものである。
 
(※4)この公約は、SDG17のターゲット17.2の一部として既に約束されたものである。
 

お問合せ先

総合教育政策局生涯学習推進課

(総合教育政策局生涯学習推進課)