補償金等の徴収・分配に係る指定法人制度の新設

 法律又は政令の名称

 著作権法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 補償金等の徴収・分配に係る指定法人制度の新設

 規制の区分

 新設

 担当部局

 文化庁著作権課

 評価実施時期

 令和3年2月

 

1 規制の目的、内容及び必要性

(1) 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)

 【補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設(著作権法第31条における図書館等による著作物等の公衆送信等に対応するための規定の整備に伴い創設する補償金請求権の行使に関する制度)】
 著作権法(以下「法」という。)第31条に規定する図書館関係の権利制限規定については、従来から、デジタル化・ネットワーク化に対応できていない部分があるとの指摘がなされてきたところ、今般の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等により、インターネットを通じた図書館資料へのアクセスなどについてのニーズが顕在化している。本課題については、図書館関係者や研究者から強い要望が寄せられており、その解決が求められている。
 今般の改正では、法第31条を改正し、図書館等による著作物等の公衆送信等を許諾なく行うことができるようにしつつ、権利者の利益保護を図るため、今般の改正により権利制限の対象となった公衆送信を行う場合には、図書館等の設置者が権利者に対して補償金を支払わないといけないこととしている。その際、既存の補償金(私的録音録画補償金及び授業目的公衆送信補償金)と同様、当該補償金の請求権を行使するに当たっての手続きコストに鑑み、一つの指定管理団体による集中管理を行わなければ、今般の改正の趣旨を実現できないと考える。
 今般の制度改正を行わない場合、多種多様な権利者が個別に図書館等に対して補償金の請求を行うのは困難であり、図書館等にとっても個別の請求に応じてその都度支払いを行うのは、事務負担が過重となり現実的でない。個々の権利者が補償金を確実に受け取れる保証がなければ、そもそも公衆送信を認めること自体が困難となるところ、今後5~10年後、新型コロナウイルス感染症等の再度の流行により図書館が余儀なく休館する状況が再来することも想定され、また今後デジタル化・ネットワーク化がますます推進される状況において、このことが要因となり図書館資料への迅速かつ簡便なアクセスが不可能となれば、国民全体の情報アクセスが十分に確保されず、我が国における調査研究や学術の振興を図っていく上での障壁となってしまう。

【補償金等の徴収・分配に係る著作権等管理事業者の指定制度の新設(放送同時配信等における著作物等の利用円滑化のための措置等に伴い創設する補償金等請求権の行使に関する規定)】
 放送番組のインターネットでの同時配信等は、高品質なコンテンツの視聴機会を拡大させるものであり、視聴者の利便性向上や、コンテンツ産業の振興・国際競争力の確保等の観点から非常に重要な取組である。他方、放送番組には多様かつ大量の著作物等が利用されているところ、放送同時配信等に関して権利者からの許諾が得られないことを理由に「フタかぶせ」(放送番組に用いている音楽・画像・映像等を差し替えること)などが生じる場合も多く存在しており、今後、放送同時配信等を推進していくに当たっては、著作物等をより円滑に利用できる環境を整備する必要がある。本課題については、放送事業者から強い要望も寄せられており、その解決が求められている。
 今般の改正では、以下①②の通り、放送同時配信等について、放送と同様の円滑な権利処理を実現することとしている。
①円滑に許諾を得ることが困難な実演・レコードの利用円滑化
 放送同時配信等における実演・レコードの利用について、放送(事前許諾は不要だが、報酬の支払いが必要)と同等の円滑な権利処理を可能とするために、著作権等管理事業者による集中管理がされていないこと等により円滑に許諾を得られない実演・レコードについては、放送同時配信等に当たっての事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に補償金等を支払わないといけないこととしている。
②権利者と連絡することができない場合の映像実演の利用円滑化
 放送同時配信等における映像実演の利用の円滑化を図るために、相当の努力を払っても実演家と連絡することができないことについて文化庁長官が指定する著作権等管理事業者による確認を受け、当該事業者に補償金を支払ったときは、映像実演について再放送の放送同時配信等を行うことができる制度を設けることとしている。
 上記①②においては、放送を行う場合の報酬(二次使用料)と同様、当該補償金等請求権を行使するに当たっての手続きコストに鑑み、文化庁長官が指定した著作権等管理事業者による集中管理を行わなければ、今般の改正の趣旨を実現できないと考える。
 今般の制度改正を行わない場合、多種多様な権利者(実演家及びレコード製作者)が個別に放送事業者に対して補償金等の請求を行うのは困難であり、放送事業者にとっても個別の請求に応じてその都度支払いを行うのは、事務負担が過重となり現実的でない。個々の権利者が補償金等を確実に受け取れる保証がなければ、そもそも利用円滑化を行うこと自体が困難となるところ、今後5~10年後、放送同時配信等がより広く行われるようになり、視聴者の利便性向上及び我が国のコンテンツ産業の振興がますます重要となる状況において、このことが要因となり放送同時配信等に係る権利処理の円滑化が不可能となれば、視聴者の利便性向上が達成されず、かつ放送同時配信等の取組も停滞し、我が国のコンテンツ産業の振興を図っていく上での障壁となってしまう。
 

 

(2) 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較により規制手段を選択することの妥当性)

【補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設(著作権法第31条における図書館等による著作物等の公衆送信等に対応するための規定の整備に伴い創設する補償金請求権の行使に関する制度)】
[課題及びその発生原因]
 現行法第31条第1項第1号では、図書館等は、営利を目的としない事業として、調査研究を行う利用者の求めに応じ、公表された著作物の一部分を一人につき一部提供する場合に限り、図書館資料を複製して提供することが可能となっている。この点、同項では、可能な行為が複製及び複製物の提供(譲渡)に限定されているため、図書館等から利用者に対して、FAXやメール等による送信(公衆送信)を行うことはできない。現行規定においても、遠隔地にいる利用者に資料コピーを届けようとする場合に、紙媒体等で複製した上でその複製物を郵送することは可能であるが、郵送サービスを実施している図書館等は多くなく、複製物の入手までに時間がかかることなどもあり、デジタル・ネットワーク技術の発展を踏まえた国民の情報アクセスの確保等が十分に図られていないという課題が従来から指摘されてきたところ、今般の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等により、インターネットを通じた図書館資料へのアクセスなどについてのニーズが顕在化している。本課題については、図書館関係者や研究者から強い要望が寄せられており、その解決が求められている。

[規制以外の政策手段の内容]
 これを解決するにあたっては、例えば補償金制度の設計を(1)図書館等の設置者から個別に権利者に支払いを求める方法や(2)権利者団体が自発的に集まって構成される管理団体によって補償金の徴収・分配を行う方法、また(3)複数の指定管理団体によって補償金の徴収・分配を行う方法等の政策手段が考えられる。
 しかし、法第31条の権利制限規定による利用については、図書館等において利用される著作物の内容が多種多様であること、及び本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になることが予想される。図書館等に対し、個々の権利者に補償金請求権の行使を個別に行うことを求めると、図書館等における権利者の捜索や金額交渉等の一連の手続に係るコストが過大なものとなるため、図書館等が自発的にその処理を適切に行うことが期待できない一方、権利者側においても個々の図書館等の著作物利用行為を把握することは困難であるため、個々の権利者による形では権利の実効性が確保できなくなる。
 さらに、第31条の適用を受ける可能性がある図書館等は、例えば公共図書館で3,360館、大学図書館で1,519館に上るなど、その数は膨大である。また、同条により利用される著作物は、図書館等の種類や設置されている地域等によって多種多様であり、本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になることが予想される。
 このような特質や実際上の便宜からも、補償金の徴収は、個別の権利者や個別の管理団体では困難であり、権利者の委託等によらず指定管理団体が補償金請求権を行使しうることとする必要があるとともに、補償金の支払義務を負う図書館等側の便宜も考慮すれば、当該補償金徴収団体は、単一の団体とする必要がある。
 以上の理由より、上記(1)~(3)の政策手段では今般の補償金制度を設ける趣旨を達成できないとの理由から、単一の団体による指定管理団体制度を採用することが妥当である。なお、本制度は、我が国に定着し適切なものとして受け入れられている既存の補償金制度(私的録音録画補償金、授業目的公衆送信補償金)との整合性も取られている。

[規制の内容]
 本法律案は、法第31条を改正し、図書館等による著作物等の公衆送信等を許諾なく行うことができるようにしつつ、権利者の利益保護を図るため、今般の改正により権利制限の対象となった公衆送信を行う場合には、図書館等の設置者が権利者に対して補償金を支払わないといけないこととするものである。その際、当該補償金の請求権を行使するに当たっては、権利処理に係る手続きコストを低減するため、以下のような指定管理団体制度を設けることとしている。
1.補償金請求権を有する者のためにその権利を行使することを目的とする団体であって、全国を通じて一個に限りその同意を得て文化庁長官の指定するもの(指定管理団体)がある場合には、指定管理団体のみが補償金請求権を行使することができるものとする。
2.指定管理団体は、一般社団法人であること、補償金請求権を有する者を構成員とする団体であって当該権利者の利益を代表すると認められるものを構成員とすること、補償金関係業務を的確に遂行するに足りる能力を有すること等の要件を備えなければならない。
3.指定管理団体は、あらかじめ図書館等を設置する者の団体でその意見を代表すると認められるものの意見を聴いた上で、補償金額の案を決定し、文化庁長官の認可を受けなければならない。文化庁長官は、文化審議会に諮問した上で、補償金額が権利者の利益に与える影響等を考慮した適正な額であると認めるときは、認可を行うこととなる。(変更時も同様。)
4.指定管理団体は、補償金関係業務を開始しようとするとき、補償金関係業務の執行に関する規程を定め、文化庁長官に届け出なければならない。(変更時も同様。)
5.指定管理団体は、徴収した補償金の一部(政令で定めるところにより算出した額)を、著作権等の保護に関する事業等に支出しなければならない。文化庁長官は、当該事業等に係る業務の適正な運営を確保するため必要があると認められるときは、指定管理団体に対して必要な命令をすることができる。
6.文化庁長官は、指定管理団体の補償金関係業務の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、指定管理団体に対して当該業務に関して報告をさせ、資料の提出を求め、又は当該業務の執行方法の改善のため必要な勧告をすることができる。

【補償金等の徴収・分配に係る著作権等管理事業者の指定制度の新設(放送同時配信等における著作物等の利用円滑化のための措置等に伴い創設する補償金等請求権の行使に関する規定)】
[課題及びその発生原因]
 上記1.(1)の通り、放送番組には多様かつ大量の著作物等が利用されているところ、放送同時配信等に関して権利者からの許諾が得られないことを理由に「フタかぶせ」(放送番組に用いている音楽・画像・映像等を差し替えること)などが生じる場合も多く存在しており、今後、放送同時配信等を推進していくに当たっては、著作物等をより円滑に利用できる環境を整備する必要がある。本課題については、放送事業者から強い要望が寄せられており、その解決が求められている。

[規制以外の政策手段の内容]
 これを解決するにあたっては、例えば補償金等の制度設計を(1)放送事業者から個別に権利者に支払いを求める方法や(2)権利者団体が自発的に集まって構成される管理団体によって補償金等の徴収・分配を行う方法、また(3)複数の著作権等管理事業者によって補償金等の徴収・分配を行う方法等の政策手段が考えられる。
 しかし、権利処理に係る手続コストを踏まえると、多種多様な権利者(実演家やレコード製作者)が個別に放送事業者に対して補償金等の請求を行うのは困難であり、放送事業者にとっても個別の請求に応じてその都度支払いを行うのは現実的でないと考えられる。
 さらに、本改正の適用を受ける可能性がある放送事業者の数は膨大である(地上波テレビのほか、ラジオ、有線放送、衛星放送も対象となり、いわゆるキー局のほか、ローカル局やミニFMなども対象となる)。また、利用される実演やレコードは、放送同時配信等の種類等によって多種多様であり、本制度に係る補償金等請求権を有する権利者も無数になることが予想される。このような特質や実際上の便宜からも、補償金等の徴収は、個別の権利者や個別の管理団体では困難であり、権利者の委託等によらず、文化庁長官が指定した著作権等管理事業者が補償金等請求権を行使しうることとする必要があるとともに、補償金等の支払義務を負う放送事業者側の便宜も考慮すれば、当該補償金等の徴収団体は、単一の著作権等管理事業者とする必要がある。
 以上の理由より、上記(1)~(3)の政策手段では今般の補償金等制度を設ける趣旨を達成できないとの理由から、文化庁長官が指定した単一の著作権等管理事業者が窓口となって補償金等の徴収・分配を一元的に担うことができる制度を採用することが妥当である。なお、本制度は、我が国に定着し適切なものとして受け入れられている既存の制度(レコード実演・レコードの二次使用料)との整合性がとられている。

[規制の内容]
①円滑に許諾を得ることが困難な実演・レコードの利用円滑化
 本法律案では、放送同時配信等における実演・レコードの利用について、放送(事前許諾は不要だが、報酬の支払いが必要)と同等の円滑な権利処理を可能とするために、著作権等管理事業者による集中管理がされていないこと等により円滑に許諾を得られない実演・レコードについては、放送同時配信等に当たっての事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に補償金等を支払わないといけないこととしている。その際、当該補償金等請求権については、放送を行う場合の報酬(二次使用料)と同様、権利処理に係る手続きコストを低減するため、以下の通り、文化庁長官が指定した著作権等管理事業者が行使する制度を設けることとしている。
1.文化庁長官が指定した著作権等管理事業者がある場合には、当該事業者のみが補償金等請求権を行使することができるものとする。
2.文化庁長官が指定する著作権等管理事業者は、①営利を目的としないこと、②その構成員が任意に加入・脱退できること、③その構成員の議決権及び選挙権が平等であること、④補償金等関係業務を的確に遂行するに足りる能力を有することという要件を備えなければならない。
3.文化庁長官は、指定を受けた著作権等管理事業者に対して、補償金等に係る業務に関する報告をさせ、資料の提出を求め、又は当該業務執行の改善のため必要な勧告をすることができる。
4.補償金等の額は、毎年、指定を受けた著作権等管理事業者と放送事業者又はその団体との間で協議して定める(当該協議に関しては独占禁止法の規定は適用しない)。協議が成立しないときは、当事者は補償金等の額について文化庁長官の裁定を求めることができる。

②権利者と連絡することができない場合の映像実演の利用円滑化
 本法律案では、放送同時配信等における映像実演の利用の円滑化を図るために、相当の努力を払っても実演家と連絡することができないことについて文化庁長官が指定する著作権等管理事業者による確認を受け、当該事業者に補償金を支払ったときは、以下の通り、映像実演について再放送の放送同時配信等を行うことができる制度を設けることとしている。
1.文化庁長官が指定した著作権等管理事業者がある場合には、当該事業者のみが補償金等請求権を行使することができるものとする。
2.文化庁長官が指定する著作権等管理事業者は、①営利を目的としないこと、②その構成員が任意に加入・脱退できること、③その構成員の議決権及び選挙権が平等であること、④実演家と連絡することができないことについての確認、補償金等関係業務を的確に遂行するに足りる能力を有することという要件を備えなければならない。
3.補償金を受領した著作権等管理事業者は、再放送の放送同時配信等が行われた実演に係る権利者から請求があった場合には、補償金を支払わなければならない。
4.著作権等管理事業者が、権利者のために自己の名をもってその権利に関する裁判上又は裁判外の代理権限を有する。
5.文化庁長官は、指定を受けた著作権等管理事業者に対して、補償金等に係る業務に関する報告をさせ、資料の提出を求め、又は当該業務執行の改善のため必要な勧告をすることができる。
6.補償金等の額は、毎年、指定を受けた著作権等管理事業者と放送事業者又はその団体との間で協議して定める(当該協議に関しては独占禁止法の規定は適用しない)。協議が成立しないときは、当事者は補償金等の額について文化庁長官の裁定を求めることができる。

2 直接的な費用の把握

(3) 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)

【共通】
 本規制により、指定管理団体や著作権等管理事業者は指定のために必要となる要件を備えた上で文化庁長官の指定を受ける必要がある。
 したがって、本規制によって生ずる遵守費用・行政費用には以下の内容が考えられるが、それらはいずれも軽微であると考える。
○指定管理団体や著作権等管理事業者の指定に必要となる要件を具備するための調整に係る人件費や時間費用(調整の対象となる、指定管理団体の構成員となり得る団体は、約10団体となることが見込まれる)。
○文化庁長官の指定を受けるための申請書の作成及びその提出に係る準備及び人件費や時間費用。

 

(4) 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、「行政費用」の増加の可能性に留意

 (規制緩和ではないため、該当なし)

 

3 直接的な効果(便益)の把握

(5) 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要

【共通】
 上記1.(2)のとおり、今般の制度改正が実現され、指定管理団体や文化庁長官の指定する著作権等管理事業者により補償金等の徴収・分配が行われることにより、これまで著作物毎に、利用の都度許諾を得ることが必要とされていたことによって生じていた権利処理に係る負担、すなわち、権利者との連絡や許諾の申請、使用料の支払いといった膨大な手続コストが劇的に低減され、図書館等や放送事業者側における著作物利用の円滑化が図られるとともに、そのような著作物の利用に応じて権利者に適切に対価が還元されることとなる。
 また、補償金等を個別に権利者と図書館等や放送事業者がやりとりする場合と比べ、劇的に事務処理コストが軽減されるため、図書館等や放送事業者にとっては無用な費用をかけずに済み、権利者にとっては補償金等として実際に得られる対価が増大することが見込まれる。
 

 

(6) 可能であれば便益(金銭価値化)を把握

【共通】
 今般の制度改正による便益は、著作物の利用による効用を享受する利用者の便益や、権利者に正当な対価が還元されることによる経済的な便益、そしてそれらが将来の文化の発展に繋がることによる社会的な便益等の総和であることから、網羅的・定量的にその便益を示すことは困難である。

 

(7) 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計

 (該当なし)

 

4 副次的な影響及び波及的な影響の把握

(8) 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握することが必要

【共通】
 今般の補償金等制度では、本規制による集中管理制度を設けなければ制度改正の趣旨を達成できないことから、上記2.(3)及び(4)の費用以外に負の影響はないと考える。また、「競争評価チェックリスト」にも記載の通り、今般の規制は事業者の競争状況に負の影響を与えるものではないと考える。

 

5 費用と効果(便益)の関係

(9) 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化できるか検証

【共通】
 上記2.(3)及び(4)のとおり、指定管理団体や文化庁長官の指定を受けた著作権等管理事業者に係る遵守費用と行政費用は軽微である一方で、便益については、上記3.(5)及び(6)のとおり、今般の制度改正が実現され、指定管理団体や著作権等管理事業者により補償金等の徴収・分配が行われることにより、利用者(図書館等、放送事業者)及び権利者の負担となる膨大な手続コストが劇的に低減され、著作物利用の円滑化が図られるとともに、権利者に適切に対価が還元されることとなる。
 これら費用と便益を比べると、便益が費用を上回ることから、当該規制を導入することが妥当である。

 

6 代替案との比較

(10) 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から比較考量し、採用案の妥当性を説明

【共通】
 上記1.(2)のとおり、今般の法改正を実現するために採用可能な規制の代替案としては、補償金等制度の設計について、(1)利用者(図書館等の設置者、放送事業者)から個別に権利者に支払いを求める方法や(2)権利者団体が自発的に集まって構成される管理団体によって補償金の徴収・分配を行う方法、また(3)複数の指定法人によって補償金の徴収・分配を行う方法等の政策手段が考えられる。
 しかし、今般改正される規定による利用については、利用される著作物の内容が多種多様であること、及び本制度に係る補償金等請求権を有する権利者も無数になることが予想される。権利処理に係る手続コストを踏まえると、多種多様な権利者が個別に利用者(図書館等の設置者、放送事業者)に対して補償金等の請求を行うのは困難であり、また利用者(図書館等の設置者、放送事業者)にとっても個別の請求に応じてその都度支払いを行うのは現実的でない。
 このように、上記(1)~(3)の代替案については、利用者や各管理団体等にとって個々の権利者の捜索や連絡、補償金等の支払いなどに係る事務負担が過重となるという点で「費用」が甚大なものとなる一方で、著作物利用の円滑化による利用者の「便益」や権利者に適切な対価が還元されることによる経済的な「便益」、ひいてはそれらが将来の文化の発展に繋がることによる社会的な「便益」はほとんど得られないと想定される。このため、これらの代替案については「費用」が「便益」を上回ることから、導入することは妥当でなく、採用案の導入が妥当と考える。

 

7 その他の関連事項

(11) 評価の活用状況等の明記

(該当なし)

8 事後評価の実施時期等

(12) 事後評価の実施時期の明記

【補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設(著作権法第31条における図書館等による著作物等の公衆送信等に対応するための規定の整備に伴い創設する補償金請求権の行使に関する制度)】
 当該規制については、著作権法の改正案に見直し条項の規定がないことから、見直し周期を5年として実施することとする。

【補償金等の徴収・分配に係る著作権等管理事業者の指定制度の新設(放送同時配信等における著作物等の利用円滑化のための措置等に伴い創設する補償金等請求権の行使に関する規定)】
 放送同時配信等については、著作権法の改正案の附則において、施行後のサービスの実施状況や対価還元の実態等を踏まえ、施行後3年を目途とした見直しを行う検討条項の規定を設けることから、それと併せて当該規制の見直し周期も3年として実施することとする。

 

(13) 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあらかじめ明確にする。

【共通】
 今般の制度改正の趣旨が著作物利用の円滑化と権利者への適切な対価還元である点を踏まえると、補償金等の徴収・分配状況を事後評価の指標として設定し、評価を行うこととする。

 

以上

補償金等の徴収・分配に係る指定法人制度の新設(要旨)

 法律又は政令の名称

 著作権法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 補償金等の徴収・分配に係る指定法人制度の新設

 規制の区分

 新設

 担当部局

 文化庁著作権課

 評価実施時期

 令和3年2月

 規制の目的、内容及び必要性

 【補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設(著作権法第31条における図書館等による著作物等の公衆送信等に対応するための規定の整備に伴い創設する補償金請求権の行使に関する制度)】
[規制の目的]
 法第31条の図書館関係の権利制限規定については、従来から、デジタル化・ネットワーク化に対応できていない部分があるとの指摘がなされてきたところ、今般の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等により、インターネットを通じた図書館資料へのアクセスなどについてのニーズが顕在化した。本課題については、図書館関係者や研究者から強い要望が寄せられており、その解決が求められている。
[規制以外の政策手段の内容]
 法第31条の規定による利用は、図書館等において利用される著作物が多種多様であること、本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になること、同条の適用を受ける可能性がある図書館等の数が膨大に上ることなどから、権利者に個別に補償金を支払う方法や、複数の指定管理団体によって補償金を管理する方法等では、今般の補償金制度を設ける趣旨を達成できない。
[規制の内容]
 法第31条を改正し、図書館等による著作物等の公衆送信等を許諾なく行うことができるようにしつつ、今般の改正により権利制限の対象となった公衆送信を行う場合には、図書館等の設置者が権利者に対して補償金を支払うこととする。その際、当該補償金の請求権を行使するに当たっては、権利処理に係る手続きコストを低減するため、全国を通じて一個に限りその同意を得て文化庁長官の指定する指定管理団体のみが補償金請求権を行使することができる制度を設ける。

【補償金等の徴収・分配に係る著作権等管理事業者の指定制度の新設(放送同時配信等における著作物等の利用円滑化のための措置等に伴い創設する補償金等請求権の行使に関する規定)】
[規制の目的]
 放送同時配信等は、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興・国際競争力の確保等の観点から非常に重要な取組である。他方、放送番組には多様かつ大量の著作物等が利用されているところ、放送同時配信等に関して権利者からの許諾が得られないことを理由に「フタかぶせ」(放送番組に用いている音楽・画像・映像等を差し替えること)などが生じる場合も多く存在しており、今後、放送同時配信等を推進していくに当たっては、著作物等をより円滑に利用できる環境を整備する必要がある。本課題については、放送事業者から強い要望が寄せられており、その解決が求められている。
[規制以外の政策手段の内容]
 利用される著作物が多種多様であること、本制度に係る補償金等請求権を有する権利者も無数になること、本改正の適用を受ける可能性がある放送事業者の数が膨大に上ることなどから、権利者に個別に補償金を支払う方法や、複数の指定管理団体によって補償金を管理する方法等では、今般の補償金制度を設ける趣旨を達成できない。
[規制の内容]
①円滑に許諾を得ることが困難な実演・レコードの利用円滑化
 放送同時配信等における実演・レコードの利用について、放送と同等の円滑な権利処理を可能とするために、著作権等管理事業者による集中管理がされていないこと等により円滑に許諾を得られない実演・レコードについては、放送同時配信等に当たっての事前許諾を不要としつつ、放送事業者が権利者に補償金等を支払うこととする。その際、当該補償金等請求権については、放送を行う場合の報酬(二次使用料)と同様、権利処理に係る手続きコストを低減するため、文化庁長官が指定した著作権等管理事業者が行使する制度を設けることとする。
②権利者と連絡することができない場合の映像実演の利用円滑化
 放送同時配信等における映像実演の利用の円滑化を図るために、相当の努力を払っても実演家と連絡することができないことについて文化庁長官が指定する著作権等管理事業者による確認を受け、当該事業者に補償金を支払ったときは、映像実演について再放送の放送同時配信等を行うことができる制度を設けることとする。
 

 直接的な費用

 遵守費用

 以下の内容が考えられるが、いずれも軽微であると考える。

 ○指定管理団体や著作権等管理事業者の指定に必要となる要件を具備するための調整に係る人件費や時間費用(調整の対象となる、指定管理団体の構成員となり得る団体は、約10団体となることが見込まれる)。
 ○文化庁長官の指定を受けるための申請書の作成及びその提出に係る準備及び人件費や時間費用。

 行政費用

 (規制緩和ではないため、該当なし)

 直接的な効果(便益)

 権利者との連絡や許諾の申請、使用料の支払いといった膨大な手続コストが劇的に低減され、図書館等や放送事業者側における著作物利用の円滑化が図られるとともに、そのような著作物の利用に応じて権利者に適切に対価が還元される。

 副次的な影響及び波及的な影響

 本規制による集中管理制度を設けなければ制度改正の趣旨を達成できないことから、上記の直接的な費用以外に負の影響はないと考える。

 費用と効果(便益)の関係

 上記費用と便益を比べると、便益が費用を上回ることから、当該規制を導入することが妥当である。

 代替案との比較

 代替案については、費用が便益を上回ることから導入することは妥当でなく、採用案の導入が妥当と考える。

 その他の関連事項

 該当なし

 事後評価の実施時期等

【補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設(著作権法第31条における図書館等による著作物等の公衆送信等に対応するための規定の整備に伴い創設する補償金請求権の行使に関する制度)】
 当該規制については、著作権法の改正案に見直し条項の規定がないことから、見直し周期を5年として実施することとする。

【補償金等の徴収・分配に係る著作権等管理事業者の指定制度の新設(放送同時配信等における著作物等の利用円滑化のための措置等に伴い創設する補償金等請求権の行使に関する規定)】
 放送同時配信等については、著作権法の改正案の附則において、施行後のサービスの実施状況や対価還元の実態等を踏まえ、施行後3年を目途とした見直しを行う検討条項の規定を設けることから、それと併せて当該規制の見直し周期も3年として実施することとする。

 

お問合せ先

文化庁著作権課