新しい裁定制度等における業務・事務の実施に係る指定等法人制度の新設

 法律又は政令の名称

 著作権法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 新しい裁定制度等における業務・事務の実施に係る指定等法人制度の新設

 規制の区分

 新設

 担当部局

 文化庁著作権課

 評価実施時期

 令和5年3月

 

1 規制の目的、内容及び必要性 

(1) 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)

 デジタル技術の進展・普及に伴うコンテンツ市場をめぐる構造変化を踏まえ、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC(いわゆる「アマチュア」のクリエーターによる創作物)、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、簡素で一元的な権利処理を可能とすることが求められている。
 現在、著作権者不明等の場合における著作物等の利用に係る裁定制度(以下「現行裁定制度」という。)があるが、本法律案では、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合に、文化庁長官の裁定を受け、かつ、文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより、当該著作物等の利用を可能とする新たな裁定制度(以下「新しい裁定制度」という。)を創設することとしている。その創設に当たって、より迅速な手続を実現するため、以下<1>のとおり、新しい裁定制度における裁定及び補償金の額の決定に係る事務の一部(裁定の申請の受付、申請に係る要件の確認、使用料に相当する額の算出に関する事務等)を文化庁長官の登録を受けた者(以下「登録確認機関」という。)に行わせることとしている。
 また、現行裁定制度及び新しい裁定制度においては、補償金の供託が必要であるところ、供託のための手続負担を解消し、著作物の利用円滑化を図るために、以下<2>のとおり、補償金の管理に関する業務を文化庁長官の指定を受けた者(以下「指定補償金管理機関」という。)に行わせることとしている。なお、この補償金はその一部を権利者全体の利益となるような支出(以下「著作物等保護利用円滑化事業」という。)に充てることとする。

【<1>新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を行わせる登録確認機関に関する制度】
 仮に、本登録制度を設けない場合、文化庁や利用者自身による要件充足のための確認等の作業が必要となる上、現行裁定制度よりも多くの利用申請が見込まれるところ、現行裁定制度の裁定手続に要する期間(約2か月、事情によってはそれ以上)と同等若しくはそれ以上裁定手続に時間を要し、膨大かつ多種多様な著作物等について利用者のニーズに対応した、迅速な手続及び著作物等の利用円滑化を実現することは困難である。今後、デジタル化・ネットワーク化がますます推進されていく状況において、過去のコンテンツのアーカイブ・配信等や一般ユーザーが創作したデジタルコンテンツ等の二次利用が十分にできず、コンテンツの利用機会を逸失して、利用者・著作権者等双方の利益の損失につながりひいては我が国における文化の発展を進めていく上での障壁となってしまう。

【<2>現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を行わせる指定補償金管理機関に関する制度】
 仮に、本指定制度を設けない場合、従前通り供託所に補償金を供託しなければならず、利用者・権利者双方にとって手続的な負担が重い。また、著作権者等が現れない場合には著作権者等への還元が実現しない上、供託された補償金が活用されず、クリエーターの支援や著作物等の創作の振興につなげることができない。今後、デジタル化・ネットワーク化がますます推進されていく状況において、過去のコンテンツのアーカイブ・配信等や一般ユーザーが創作したデジタルコンテンツ等の二次利用のための裁定が十分に機能せず、著作物の利用円滑化・権利者への適切な対価還元、ひいては我が国における文化の発展を進めていく上での障壁となってしまう。

(2) 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較により規制手段を選択することの妥当性)

【<1>新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を行わせる登録確認機関に関する制度】
[課題及びその発生原因]
 現行裁定制度においては、補償金の額の決定は文化庁長官が行うこととされており、文化庁長官が要件を確認することや、補償金の額を決定するために個々の裁定案件ごとに、利用者である申請者から様々な資料を提出させ、文化審議会に諮問することが必要であることから、裁定手続に要する時間が長い(申請から裁定までの標準的処理期間は約2か月。海外著作物等、諸般の事情により2か月以上かかる場合あり。)といった課題が指摘されている。新しい裁定制度においては、商用の著作物等に加え、過去のコンテンツのアーカイブ・配信等や一般ユーザーが創作したデジタルコンテンツ等を利用できることから、潜在的なニーズが非常に大きく、現行裁定制度よりも多くの利用が見込まれるところ、著作権等の権利処理を円滑にするとともに、迅速な手続を実現するための仕組みが求められている。
 
[規制以外の政策手段の内容]
 規制以外の政策手段としては、例えば、現行裁定制度と同様、文化庁が新しい裁定手続に係る事務の全てを担う方法が考えられる。
 しかし、今般創設する新しい裁定制度による利用については、上述のとおり膨大かつ多種多様な著作物等が対象となることから、潜在的なニーズが非常に大きく、現行裁定制度よりも多くの利用申請が見込まれるところ、人員・リソースが限られた文化庁だけでは、現行裁定制度の手続と並行しつつより適切・迅速な手続を実現することは困難である。
以上の理由から、この政策手段では、新しい裁定制度における裁定手続の迅速化・著作物の利用円滑化といった今般の改正目的を達成できないことから、登録確認機関が窓口となって新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を担うことができる制度を採用することが妥当である。
 
[規制の内容]
 新しい裁定制度の運用に当たって、利用者にとってより迅速な手続を実現するため、裁定の申請の受付に関する事務や、裁定の要件に該当することの確認に関する事務、裁定に係る補償金の額の決定のための通常の使用料の額に相当する額の算出に関する事務を登録確認機関に行わせることとする。

 具体的には、以下のとおり。
 
(1)新しい裁定制度においては、以下の事務(以下「確認等事務」という。)を登録確認機関に行わせることとする。
 ○裁定の申請の受付に関する事務
 ○裁定の要件に該当することの確認に関する事務
 ○裁定に係る補償金の額の決定のための通常の使用料の額に相当する額の算出に関する事務
(2)これらの事務については、文化庁長官が法律上行う事務の代行であって、中立・公正に行うことを担保する必要があるものの、いずれも定型的・形式的な事務であることから、特定の者に限って行わせる指定ではなく、確認等事務を行おうとする者の申請により、登録の方式を採ることとする。
(3)登録に当たっては、一般社団法人又は一般財団法人であること、確認等事務に関し専門的な知識・経験を有する者が置かれていること等といった基準を満たさなければならないものとする。ただし、登録を取り消されてから一定の期間を経過していないこと等の欠格事由に該当する場合には登録の対象外とする。
 
 上記の規制は、迅速な手続を実現するとともに、著作権等の権利処理を円滑にすることにつながり、その点で、「デジタル化の視点を踏まえた規制の検討状況チェックリスト」を踏まえた内容となっている。
 
【<2>現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を行わせる指定補償金管理機関に関する制度】
[課題及びその発生原因]
  現行裁定制度では、補償金を供託することとされているが、一件当たりの補償金の額は通常低額(文化庁「著作権者不明等の場合の裁定補償金額シミュレーションシステム」によると、例えば、本の挿絵として写真を数枚商用利用する場合、補償金額は約15,000円程度)であるのに比して供託のための手続的な負担が重いといった課題が指摘されている。また、著作権法上の他の補償金のように、供託ではなく、文化庁長官の指定を受けた法人が補償金を管理し、クリエーターの支援や著作物等の創作の振興につなげることが適当であるといった点が指摘されている。これを踏まえ、現行裁定制度及び新しい裁定制度に係る補償金等の管理については、権利者への利益分配を円滑にしつつ、供託のための手続負担を解消するための仕組みが求められている。
 
[規制以外の政策手段の内容]
 これを解決するに当たっては、例えば、従前通り供託所に供託させる方法が考えられる。
 しかし、今般の制度改正の趣旨に照らせば、一件当たりの補償金の額が通常低額であるのに比してその支払のための書類作成や払戻しのための証明など手続的な負担が利用者・権利者双方にとって重く、また、利用者・権利者双方のためには補償金の一部を権利者全体の利益となるような支出(例えば、著作権者等がより見つかりやすくするためのデータベースの構築など)に充てるといった仕組みがより適当である。
 以上の理由から、著作物の利用円滑化・権利者への適切な対価還元といった今般の改正目的を達成するためには、現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を一元的に担うことができる指定法人(指定補償金管理機関)制度を採用するとともに、補償金の一部を権利者全体の利益となるような支出(著作物等保護利用円滑化事業)に充てるといった仕組みを設けることが妥当である。なお、著作権法上の他の補償金(特定実演家と連絡することができない場合の放送同時配信等に係る補償金など)についても、指定管理団体が受領・管理するなどといった仕組みが設けられている。
 
[規制の内容]
 現行裁定制度及び新しい裁定制度においては、補償金の供託が必要であるところ、供託のための手続負担を解消し、著作物等の利用円滑化を図るため、補償金の管理に関する業務を指定補償金管理機関に行わせることとする。
 
 具体的には、以下のとおり。
 
(1)指定補償金管理機関があるときは、現行裁定制度及び新しい裁定制度において供託されるべき補償金等は、指定補償金管理機関に支払うものとする。
(2)安定的かつ確実な補償金の管理が行われるようにするため、補償金等を管理する業務(以下「補償金管理業務」という。)を行おうとする者の申請により、全国を通じて一に限り、文化庁長官が指定することとする。
(3)指定に当たっては、一般社団法人又は一般財団法人であること、補償金管理業務を適正かつ確実に行うことができることといった基準を満たさなければならないものとする。ただし、指定の取消しを受けてから一定の期間が経過していないこと等の欠格事由に該当する場合には指定の対象外とする。
(4)指定補償金管理機関については、役員の選解任、事業計画・収支予算及び業務規程の認可並びに業務の廃止の許可を受けることや帳簿の備付け等の義務を課すことや、文化庁長官による指定補償金管理機関に対する報告徴収・検査・命令、指定の取消し等を可能とすること、補償金管理業務に係る会計の区分経理等の規律を設けることとする。
(5)補償金はその一部を権利者全体の利益となるような支出(著作物等保護利用円滑化事業)に充てることとする。この事業の内容を決定しようとするときには、その内容について学識経験者の意見を聴くものとする。
 
 上記の規制は、供託のための手続負担を解消するとともに、権利者への利益分配を円滑にすることにつながり、その点で、「デジタル化の視点を踏まえた規制の検討状況チェックリスト」を踏まえた内容となっている。

2 直接的な費用の把握

(3) 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)

【共通】
 本規制により、指定補償金管理機関又は登録確認機関は指定又は登録のために必要となる要件を備えた上で文化庁長官の指定又は登録を受ける必要がある。

[遵守費用]
 本規制によって生ずる遵守費用には以下のものが考えられるが、いずれも軽微であると考える。
○指定・登録に必要となる要件を具備するための調整に係る人件費や時間費用
 仮に類似事例を基に推計するとすれば、「時給(約2,100円(※1))×約3人×約80時間(約20日×各日約4時間の作業と仮定)」×対象となる数と想定される。
○文化庁長官の指定・登録を受けるための申請書の作成及びその提出に係る人件費や時間費用
 仮に類似事例を基に推計するとすれば、「時給(約2,100円(※1))×約3人×約6時間(約3日×各日約2時間の作業と仮定)」×対象となる数と想定される。
(※1)約2,100円=320,846円(毎月勤労統計調査 令和4年11月分結果確報の第1表 月間現金給与額の一般労働者の調査産業計の所定内給与)÷151.6時間(毎月勤労統計調査 令和4年11月分結果確報の第2表 月間実労働時間及び出勤日数の一般労働者の調査産業計の所定内労働時間)

[行政費用]
 本規制によって生ずる行政費用には以下のものが考えられるが、軽微であると考えられる。
○指定又は登録に必要な要件を具備しているかどうかの確認・審査に係る人件費や時間費用
 仮に類似事例を基に推計するとすれば、「時給(約2,100円(※2))×約2人×約21時間(約7日×各日約3時間の作業と仮定)」×対象となる数と想定される。
(※2)約2,100円=323,711円(令和4年国家公務員給与等実態調査(概要)の行政職俸給表(一)の平均俸給額)÷((365日-125日)×7.75時間÷12か月)(月平均所定労働時間数)

(4) 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、「行政費用」の増加の可能性に留意

【共通】
 (該当なし)

3 直接的な効果(便益)の把握

(5) 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要

【共通】
 上記1(2)のとおり、今般の制度改正が実現され、登録確認機関により裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部が行われるとともに、指定補償金管理機関により補償金の管理に関する業務が行われることにより、裁定の申請、補償金の支払といった膨大な手続コストが低減され(※)、裁定手続の迅速化、著作物の利用円滑化が図られるとともに、その利用に応じて権利者に適切に対価が還元されることとなる。
 また、指定補償金管理機関が管理する補償金については、その一部が著作物等保護利用円滑化事業に充てられることにより、クリエーターの支援や著作物等の創作の振興につながることが見込まれる。
(※)例えば、申請手続に要する時間(仮に1申請において5つの著作物を利用したい場合)については、例えば、登録確認機関による手続が1つにつき約30日(1日約2時間の作業を想定)要するのに対し、利用者自身による手続が約60日(1日約2時間の作業を想定)要するとすると、延べ300時間程度削減されると考えられる。

(6) 可能であれば便益(金銭価値化)を把握

【共通】
 今般の制度改正による便益は、著作物等の利用による効用を享受する利用者の便益や、権利者に正当な対価が還元されることによる経済的な便益、そして、それらが将来の文化の発展につながることによる社会的な便益等の総和であることから、網羅的・定量的にその便益を示すことは困難である。

(7) 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計

【共通】
 (該当なし)

4 副次的な影響及び波及的な影響の把握

(8) 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握することが必要

【共通】
 今般の制度では、本規制による指定・登録制度を設けなければ新しい裁定制度による裁定手続の迅速化や著作物の利用円滑化等の目的を達成できないことから、上記2(3)の費用以外に負の影響はないと考える。
 また、「競争評価チェックリスト」にも記載のとおり、今般の規制はいずれも、事業者の競争状況に負の影響を与えるものではないと考える。

5 費用と効果(便益)の関係

(9) 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化できるか検証

【共通】
 上記2(3)のとおり、指定補償金管理機関又は登録確認機関に係る遵守費用は軽微である一方で、便益については、上記3(5)及び(6)のとおり、今般の制度改正が実現され、登録確認機関により裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部が行われるとともに、指定補償金管理機関により補償金の管理に関する業務が行われることにより、裁定の申請、補償金の支払といった膨大な手続コストが低減され、裁定手続の迅速化、著作物の利用円滑化が図られるとともに、その利用に応じて権利者に適切に対価が還元されることとなる。
 上記費用と便益を比べると、便益が費用を上回ることから、当該規制を導入することが妥当である。

6 代替案との比較

(10) 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から比較考量し、採用案の妥当性を説明

【<1>新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を行わせる登録確認機関に関する制度】
 上記1(2)のとおり、今般の法改正を実現するために考えられる規制の代替案としては、現行裁定制度と同様、文化庁が新しい裁定手続に係る事務の全てを担う方法が考えられる。
 しかし、今般創設する新しい裁定制度による利用については、商用の著作物等に加え、過去のコンテンツや一般ユーザーが創作したデジタルコンテンツ等、膨大かつ多種多様な著作物等が対象となることから、潜在的なニーズが非常に大きく、現行裁定制度よりも利用が見込まれるところ、人員・リソースが限られた文化庁だけでは、現行裁定制度の手続と並行してより多くの利用者に対してより適切・迅速な手続を実現することは困難である。
 この代替案については、利用者にとって裁定の手続にコストがかかる点で「費用」が高く、一方で、著作物の利用円滑化による利用者の「便益」、ひいてはそれらが将来の文化の発展につながることによる社会的な「便益」は十分得られないと想定される。このため、この代替案については「費用」が「便益」を上回ることから、導入することは妥当でなく、採用案の導入が妥当と考える。

【<2>現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を行わせる指定補償金管理機関に関する制度】
 上記1(2)のほか、今般の法改正を実現するために考えられる規制の代替案としては、複数の指定法人によって補償金の徴収・管理・分配を行う方法が考えられる。
 しかし、今般の制度改正の趣旨に照らせば、権利者としてはその払戻しがどの指定法人から受けられるかを探索しなければならず、手続的な負担が重い上、補償金が1つの指定法人に集約されないことになり、権利者全体の利益に鑑みても補償金の管理方策として現実的ではない。
 この代替案については、利用者・権利者双方にとって補償金の支払に係る事務負担を要する

7 その他の関連事項

(11) 評価の活用状況等の明記

【共通】
 (該当なし)

8 事後評価の実施時期等

(12) 事後評価の実施時期の明記

【共通】
 いずれの規制についても、本法律案に見直し条項を設けないことから、見直し周期を施行日から5年として実施することとする。

(13) 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあらかじめ明確にする。

【共通】
 今般の制度改正の趣旨が著作物の円滑化と権利者への適切な対価還元である点を踏まえ、事後評価に際しては、新しい裁定制度の申請件数(著作物の利用個数を含む。)や、補償金の徴収の件数・金額や分配の実績など補償金の管理状況(著作物等保護利用円滑化事業のための支出の金額・実績など当該事業の実施状況を含む。)を指標として設定することとする。

以上
 

新しい裁定制度等における業務・事務の実施に係る指定等法人制度の新設(要旨)

 法律又は政令の名称

 著作権法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 新しい裁定制度等における業務・事務の実施に係る指定等法人制度の新設

 規制の区分

 新設

 担当部局

 文化庁著作権課

 評価実施時期

 令和5年3月

 規制の目的、内容及び必要性

※新しい裁定制度の創設について
 デジタル技術の進展・普及に伴うコンテンツ市場をめぐる構造変化を踏まえ、著作物の利用円滑化と権利者への適切な対価還元の両立を図るため、過去コンテンツ、UGC(いわゆる「アマチュア」のクリエーターによる創作物)、権利者不明著作物を始め、著作権等管理事業者が集中管理していないものを含めた、膨大かつ多種多様な著作物等について、簡素で一元的な権利処理が可能となるよう、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合に、文化庁長官の裁定を受け、かつ、文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより、当該著作物等の利用を可能とする新たな裁定制度(以下「新しい裁定制度」という。)を創設することとしている。その創設に当たっては、より迅速な手続を実現するため、以下<1>のとおり、新しい裁定制度における裁定及び補償金の額の決定に係る事務の一部を文化庁長官の登録を受けた者(以下「登録確認機関」という。)に行わせることとしている。
 また、著作権法第67条第1項の著作権者不明等の場合における著作物の利用に係る裁定制度(以下「現行裁定制度」という。)及び新しい裁定制度においては、補償金の供託が必要であるところ、供託のための手続負担を解消し、著作物の利用円滑化を図るために、以下<2>のとおり、補償金の管理に関する業務を文化庁長官の指定を受けた者(以下「指定補償金管理機関」という。)に行わせることとしている。
【<1>新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を行わせる登録確認機関に関する制度】
[規制の目的・内容]
 上記のとおり、新しい裁定制度の運用に当たって、利用者にとってより迅速な手続を実現するため、裁定の申請の受付に関する事務や、裁定の要件に該当することの確認及びそのための調査に関する事務、裁定に係る補償金の額の決定のための通常の使用料の額に相当する額の算出に関する事務を登録確認機関に行わせることとする。
[規制の必要性]
 現行裁定制度においては、補償金の額の決定は文化庁長官が行うこととされており、文化庁長官が要件を確認することや、補償金の額を決定するために個々の裁定案件ごとに、利用者からその算定の基礎となる資料を提出させ、文化審議会に諮問することが必要であることから、裁定手続に要する時間が2か月程度かかる等長いといった課題が指摘されている。新しい裁定制度においては、商用の著作物等に加え、過去のコンテンツのアーカイブ・配信等や一般ユーザーが創作したデジタルコンテンツ等を利用できることから、潜在的なニーズが非常に大きく、現行裁定制度よりも多くの利用が見込まれるところ、著作権等の権利処理を円滑にするとともに、迅速な手続を実現するため、文化庁長官が行う裁定手続の一部を登録機関に行わせることができるといった仕組みとする必要がある。
【<2>現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を行わせる指定補償金管理機関に関する制度】
[規制の目的・内容]
 上記のとおり、現行裁定制度及び新しい裁定制度においては、補償金の供託が必要であるところ、供託のための手続負担を解消し、著作物等の利用円滑化を図るため、補償金の管理に関する業務を指定補償金管理機関に行わせることとする。なお、この補償金はその一部を権利者全体の利益となるような支出(著作物等保護利用円滑化事業)に充てることとする。
[規制の必要性]
 現行裁定制度では、補償金を供託することとされているが、一件当たりの補償金の額は通常低額であるのに比して供託のための手続的な負担が重いといった課題が指摘されている。また、著作権法上の他の補償金のように、供託ではなく、文化庁長官の指定を受けた法人が補償金を管理し、クリエーターの支援や著作物等の創作の振興につなげることが適当であるといった点が指摘されている。これを踏まえ、現行裁定制度及び新しい裁定制度に係る補償金等の管理については、権利者への利益分配を円滑にしつつ、指定法人に行わせることができるといった仕組みとする必要がある。

 直接的な費用

 遵守費用

 以下のものが考えられるが、いずれも軽微であると考える。
  ○指定・登録に必要となる要件を具備するための調整に係る人件費や時間費用
  ○文化庁長官の指定・登録を受けるための申請書の作成及びその提出に係る人件費や時間費用

 行政費用

 以下のものが考えられるが、軽微であると考えられる。
  ○指定又は登録に必要な要件を具備しているかどうかの確認・審査に係る人件費や時間費用

 直接的な効果(便益)

 裁定の申請、補償金の支払といった膨大な手続コストが低減され、裁定手続の迅速化、著作物の利用円滑化が図られるとともに、その利用に応じて著作権者等に適切に対価が還元される。

 副次的な影響及び波及的な影響

 本規制による指定・登録制度を設けなければ新しい裁定制度による裁定手続の迅速化・著作物の利用円滑化の目的を達成できないことから、上記の直接的な費用以外に負の影響はないと考える。

 費用と効果(便益)の関係

 上記費用と便益を比べると、便益が費用を上回ることから、当該規制を導入することが妥当である。

 代替案との比較

【<1>新しい裁定制度における裁定・補償金の額の決定に係る事務の一部を行わせる登録確認機関に関する制度】
 代替案としては、現行裁定制度と同様、文化庁が新しい裁定手続に係る事務の全てを担う方法が考えられる。しかし、今般創設する新しい裁定制度による利用については、膨大かつ多種多様な著作物等が対象となることから、現行裁定制度よりも利用が見込まれるところ、人員・リソースが限られた文化庁だけでは、現行裁定制度の手続と並行してより多くの利用者に対してより適切・迅速な手続を実現することは困難である。このため、利用者にとって裁定の手続にコストがかかる一方で、著作物の利用円滑化による利用者の便益、ひいてはそれらが将来の文化の発展につながることによる社会的な便益は十分得られないと想定される。したがって、代替案については、費用が便益を上回ることから導入することは妥当でなく、採用案の導入が妥当と考える。
【<2>現行裁定制度・新しい裁定制度における補償金の管理に関する業務を行わせる指定補償金管理機関に関する制度】
 代替案としては、複数の指定法人によって補償金の徴収・管理・分配を行う方法が考えられる。しかし、今般の制度改正の趣旨に照らせば、権利者としてはその払戻しがどの指定法人から受けられるかを探索しなければならず、手続的な負担が重い上、補償金が1つの指定法人に集約されないことになり、権利者全体の利益に鑑みても補償金の管理方策として現実的ではない。このため、利用者・権利者双方にとって補償金の支払に係る手続コストがかかり、制度の利用を控える動きも想定され、著作物利用の円滑化による利用者の便益や権利者への適切な対価還元による経済的な便益、ひいてはそれらが将来の文化の発展につながることによる社会的な便益はほとんど得られないと想定される。したがって、代替案については、費用が便益を上回ることから導入することは妥当でなく、採用案の導入が妥当と考える。

 その他の関連事項

 該当なし。

 事後評価の実施時期等

 いずれの規制についても、本法律案に見直し条項を設けないことから、見直し周期を施行日から5年として実施することとする。

 

お問合せ先

文化庁著作権課