博物館の登録制度の見直しと学芸員補の資格要件の整備

 法律又は政令の名称

 博物館法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 博物館の登録制度の見直しと学芸員補の資格要件の整備

 規制の区分

 改正(拡充、緩和)

 担当部局

 文化庁企画調整課

 評価実施時期

 令和4年2月

 

1 規制の目的、内容及び必要性 

(1) 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)

 博物館法は、資料の収集・保管、展示・教育、調査・研究といった博物館の基本的な機能を果たすために必要な要件を備えた施設を登録し、登録された施設について税制上の優遇措置等の振興策を講ずることによって、当該施設の健全な発達を図るものである。
 現行の登録制度においては、博物館の設置主体を地方公共団体や一般社団・財団法人等に限定し、登録要件として、必要な博物館資料を有していること、必要な学芸員その他の職員を有すること等を設け、都道府県等教育委員会の審査を経たものを、博物館として登録することとされている。
 しかしながら、法の制定から約70年が経過し、民間の会社等が設置した施設においても、博物館の基本的な機能を有するものが増加しており、これらが国民の教育、学術及び文化の振興に果たす役割に鑑みれば、これらの施設も登録の申請を行うことができることとし、博物館法の対象として振興策を講ずることが適当である。
 このため、登録制度の対象となる設置者の範囲を拡大するとともに、博物館に求められる役割の多様化・高度化を踏まえた登録要件及び登録審査の手続き等の見直しを行うこととしている。また、学芸員補の資格要件についても、進学率の上昇や求められる水準の高まりを受けて見直しを行うこととしている。
 以上の通り、法制定当時からの社会状況の変化を受け、制度と実態との乖離を是正するための改正を行うものであり、仮に本改正を行わない場合は、登録制度が実態と乖離し続け、適切な博物館振興策の実施に支障を及ぼすと考えられる。

(2) 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較により規制手段を選択することの妥当性)

[課題及びその発生要因]
 上記(1)の通り、博物館法制定から約70年が経過し、博物館設置主体の制限などの制度と実態の乖離が生じていることが指摘されている。そこで、今般の制度改正では、博物館の設置主体の多様化を図りつつその適正な運営を確保するための登録要件の見直しを行うこととしている。
 また、登録制度は、博物館の基本的な機能を確保するための仕組みであるところ、登録後も一定の水準を確保されるべきであるが、現行制度においてはこのための仕組みが十分に機能していないという指摘があることを踏まえて、登録時の博物館活動の水準が維持されるための措置を講ずることとしている。
 加えて、学芸員補の資格要件について、法制定時と比較して大学等進学率が大きく向上したこと、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる水準が高まっていることから、学芸員補の資格要件を見直すこととしている。
 
[規制以外の政策手段の検討]
 登録の要件については、法に規定されている要件自体を見直すものであることから、他の政策手段による措置は困難。また、登録を受けた博物館に対する定期報告については、博物館に対する啓発・キャンペーンを通じて自発的な取組を求めることが考えられるが、各博物館が自発的に定期報告を行うインセンティブは大きくないと想定され、課題に十分に対応することはできないと考えられる。
 学芸員補の資格要件については、資格要件を見直さずに講習等を通じて課題の解決を図ることが考えられるが、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる知識と技術の基礎の水準が高まり、一定の専門性が求められるようになってきていることを踏まると、短期大学士を有し、大学等で博物館に関する科目の単位を取得することを要件とする本制度改正は妥当であることが文化審議会において提言されている。
 
[規制の内容]
(1) 博物館の登録制度の見直し
(ア)登録の要件の見直し
 ・博物館の設置者を地方公共団体、一般社団法人・財団法人等の一定の種類の法人に限定していた要件を改めるとともに、新たに設置者の要件として、博物館の運営に必要な経済的基礎を有すること、博物館の運営を担当する役員が社会的信望を有すること等を規定する。
 ・博物館が備えるべき要件として、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究に関し博物館が講ずべき体制、学芸員その他の職員の配置、施設及び設備が文部科学省令で定める基準に適合していることを定める。
(イ)登録を受けた博物館に対する措置の見直し
 ・博物館の設置者は、博物館の運営の状況について、定期的に都道府県等教育委員会に対して報告しなければならないこととする。
 ・都道府県等教育委員会は、博物館の適正な運営を確保するため必要があると認める場合には、博物館の設置者に対して報告徴収を行うことができることとする。
 ・都道府県等教育委員会は、博物館が登録基準に該当しなくなったと認める場合には、博物館の設置者に対して必要な措置をとるべきことを勧告することができることとし、勧告を受けた博物館の設置者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該博物館の設置者に対して、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができることとする。

(2) 学芸員補等の資格要件の整備
 ・学芸員補の資格要件として、現行法においては大学入学資格を有する者としているところ、短期大学士等の学位を有する者で博物館に関する所定の科目の単位を修得したものと定める。

2 直接的な費用の把握

(3) 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)

   本規制により、以下のような遵守費用、行政費用が生じると考えられる。
  (遵守費用)
  • 博物館法上の登録を希望する博物館の設置者は登録のための要件を備えたうえで、都道府県等教育委員会による審査を受ける必要がある。そのため、その準備のための事務費等が生じることが考えられるが、登録の具体的な基準は各都道府県等で今後定めることに加え、登録審査のために必要な時間・体制はそれぞれの博物館の目的、館種、規模等によって大きく異なることから、金銭化は困難。
  • 新制度において学芸員補の資格要件が厳格化されることに伴い、学芸員補になるための学費等の費用が追加的に生じることが考えられる。博物館に関する科目を修得し、短期大学士を取得するために必要な費用の推計値は以下の通り。
  •   公立短期大学(昼間部):1,014,043円(入学検定料、入学料、授業料×2年(令和元年度))
      (出典:文部科学省WEBサイト「公立短期大学授業料等について」)
      私立短期大学:2,017,557円(入学料、(授業料+施設設備費)×2年(令和3年度))
      (出典:私立大学等の令和3年度入学者に係る学生納付金等調査(文部科学省))
  (行政費用)
  • 都道府県等教育委員会において、文部科学省令で定める基準を参酌しつつ、登録博物館が満たすべき基準を定める必要があり、その準備のための人件費等の費用が生じることが考えられる。
  • 都道府県等教育委員会において、改正法施行から5年間の移行措置期間中に、既に登録を受けている博物館についても、新制度における登録の審査を行う必要がある。また、博物館の登録及び登録の取消し等を行う際、学識経験者の意見を聴取するとともに、登録事項をインターネット等で公表する必要がある。これらの手続きに対応するための費用が生じることが考えられる。

 なお、これらの行政費用については、各都道府県は文部科学省令を参酌しながらそれぞれ基準を定めることになっており、現時点で文部科学省令は定まっていないこと、各都道府県等教育委員会において個別に基準が定められることから金銭化は困難である。

(4) 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、「行政費用」の増加の可能性に留意

 上記(1)の通り、登録博物館の設置主体を拡大することにより、都道府県等において、新制度において新たに認められる法人からの登録申請に対応する必要が生じることが考えられる。なお、規制緩和に伴う費用については、上記③の通り把握することは困難。

3 直接的な効果(便益)の把握

(5) 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要

 上記(1)に記載したように、本制度改正は、民間の会社等が設置した施設においても、博物館の基本的な機能を有するものが増加していることを踏まえ、制度と実態の乖離を是正しようとするものであり、本改正により、これまで博物館法が包含することができていなかった多様な主体が設置する施設に対しても、博物館法の対象として振興策を講ずることができるようになる。
 また、設置者の要件を拡大することに伴い、登録要件として博物館の活動の内容や公益性に係るものを定めることで、税制上の優遇をはじめとした措置が適用される登録博物館において、社会教育施設としての水準を維持することが可能になる。さらに登録後も、都道府県等教育委員会に対する定期的な報告等を通じて、一定の水準を維持することができるようにすることで、博物館の基本的な機能が維持されていることを担保することとする。加えて、学芸員補の要件を見直すことで、より高度で専門的な知識を備え、博物館活動の高度化・複雑化に対応できる人材の登用が可能になる。これらの措置により、博物館の設置主体の多様化を図りつつ、その適切な運営を確保し、博物館施策の一層の振興が可能になる。

(6) 可能であれば便益(金銭価値化)を把握

 本制度改正によって、上記(5)の通り、より実態に即した博物館制度を構築することが可能になるが、そのことによる便益を金銭化することは困難である。

(7) 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計

 登録主体は拡大するが、登録自体は引き続き行う必要があるので、遵守費用の削減はないと考えられる。

4 副次的な影響及び波及的な影響の把握

(8) 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握することが必要

 登録制度の要件については、本規制による副次的な影響及び波及的な影響は想定されない。一方、学芸員補の要件については、一部事業者の競争に当たって負の影響を生じさせうると考えられるが、現在の大学等進学率の向上に加え、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる知識と技術の基礎の水準が高まり、一定の専門性が求められるようになってきていることを踏まると、妥当な規制である。

5 費用と効果(便益)の関係

(9) 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化できるか検証

 上記(3)の通り、登録の要件の見直し、登録を受けた博物館に対する措置の追加、学芸員補等の資格要件の整備に伴う費用が生じることが想定されるが、これらの措置は博物館の設置主体の多様化を図りつつその適正な運営を確保するために必要な措置であり、本制度改正により一層の博物館振興策の推進が可能になる便益に比べ、その費用は小さいと考えられる。

6 代替案との比較

(10) 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から比較考量し、採用案の妥当性を説明

 登録を受けた博物館の水準を維持する措置の代替案として、文化審議会博物館部会においては、登録を更新制とし、定期的に登録審査を行うことが提案されたが、都道府県等教育委員会に対するアンケート調査等を踏まえて、より事務的負担の少ない定期的な報告等の導入を行うこととした。
 また、学芸員補の資格要件については、短期大学士を有することのみを要件とする代替案が考えられるが、現在の大学等進学率の向上に加え、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる知識と技術の基礎の水準が高まり、一定の専門性が求められるようになってきていることを踏まると、短期大学士を有したうえに大学等で博物館に関する科目の単位を取得することを要件とする本制度改正は妥当であることが文化審議会において提言された。

7 その他の関連事項

(11) 評価の活用状況等の明記

 (該当なし)

8 事後評価の実施時期等

(12) 事後評価の実施時期の明記

本規制には見直し条項の規定がないことから、規制改革実施計画(平成26年6月24日閣議決定)を踏まえ、本規制に係る規定の施行の日からおおむね5年を目途に実施することを想定している。

(13) 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあらかじめ明確にする。

・登録博物館数
・学芸員補の職員数 等

以上
 

博物館の登録制度の見直しと学芸員補の資格要件の整備(要旨)

 法律又は政令の名称

 博物館法の一部を改正する法律案

 規制の名称

 博物館の登録制度の見直しと学芸員補の資格要件の整備

 規制の区分

 改正(拡充・緩和)

 担当部局

 文化庁企画調整課

 評価実施時期

 令和4年2月

 規制の目的、内容及び必要性

(目的)
博物館の設置主体の多様化を図りつつその適正な運営を確保すること。
(内容)
地方公共団体等に限定されていた博物館法上の博物館の設置者を拡大するとともに、登録のための要件の見直し、登録を受けた博物館に対する都道府県教育委員会等の勧告及び命令等の制度の創設を行う。加えて、学芸員補の資格の要件の整備を講じる。
(必要性)
博物館法上の設置者の拡大は、民間の会社等が設置した施設においても、博物館の基本的な機能を有するものが増加している実態に鑑み、制度と実態の乖離を是正しようとするもの。また、登録を受けた博物館に係る規制は、設置者の拡大後も社会教育施設としての水準を維持し、博物館の適切な運営を担保するために最低限必要なものである。また、学芸員補の資格要件に関しては、昭和25年の法制定時の進学率を前提とした現行法の資格要件について、進学率が飛躍的に上昇したこと、博物館活動の多様化・高度化により学芸員補に求められる水準が高まっていることを踏まえて最低限必要な見直しを図るものである。

 直接的な費用

 遵守費用

 ・都道府県教育委員会等による登録の審査を受ける費用
 ・新制度において学芸員補の資格要件が厳格化されることに伴い、学芸員補になるための学費等の追加的費用

 行政費用

・都道府県教育委員会等において、登録博物館が満たすべき基準を定める費用
・新制度における登録の審査の実施に要する費用、登録及び登録の取消し等を行う際に学識経験者の意見を聴取し、公表する費用

 直接的な効果(便益)

 多様な主体が設置する施設に対しても、一定の水準を維持しつつ、博物館法の対象として振興策を講ずることができるようになる。加えて、学芸員補の要件を見直すことで、より高度で専門的な知識を備え、博物館活動の高度化・複雑化に対応できる人材の登用が可能になる。

 副次的な影響及び波及的な影響

 学芸員補の要件に関して、事業者の競争に当たって負の影響を及ぼすことが考えられるが、現在の大学等進学率の向上に加え、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる知識と技術の基礎の水準が高まり、一定の専門性が求められるようになってきていることを踏まると、妥当な規制である。

 費用と効果(便益)の関係

 登録の要件の見直し、登録を受けた博物館に対する措置の追加、芸員補等の資格要件の整備に伴う費用が生じることが想定されるが、これらの措置は博物館の設置主体の多様化を図りつつその適正な運営を確保するために必要な措置であり、本制度改正により一層の博物館振興策の推進が可能になる便益に比べ、その費用は小さいと考えられる。

 代替案との比較

 登録を受けた博物館の水準を維持する措置の代替案として、文化審議会博物館部会においては、登録を更新制とし、定期的に登録審査を行うことが提案されたが、都道府県等教育委員会に対するアンケート調査等を踏まえて、より事務的負担の少ない定期的な報告等の導入を行うこととした。
 また、学芸員補の資格要件については、短期大学士を有することのみを要件とする代替案が考えられるが、現在の大学等進学率の向上に加え、博物館活動の高度化・複雑化に伴い、学芸員補に求められる知識と技術の基礎の水準が高まり、一定の専門性が求められるようになってきていることを踏まると、短期大学士を有したうえに大学等で博物館に関する科目の単位を取得することを要件とする本制度改正は妥当であることが文化審議会において提言された。

 その他の関連事項

 特になし。

 事後評価の実施時期等

 本規制には見直し条項の規定がないことから、規制改革実施計画(平成26年6月24日閣議決定)を踏まえ、本規制に係る規定の施行の日からおおむね5年を目途に実施することを想定している。

 

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文化庁企画調整課