補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設

法律又は政令の名称

 著作権法の一部を改正する法律案 

規制の名称

 補償金の徴収・分配に係る指定管理団体制度の新設

規制の区分

 新設

担当部局

 文化庁長官官房著作権課

評価実施時期

 平成30年2月

1 規制の目的、内容及び必要性

(1) 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)  

 ICT活用教育は、反転授業を通じた主体的な学び等による教育の質の向上や教育機会の拡大のために有効であるとされており、政府としてもこれを推進している。ICT活用教育において他人の著作物を利用する場合、例えば、授業の参考教材として新聞記事、文芸作品、写真、絵などを教材の一部に掲載して、ネットで送信する際には、利用する度に事前に著作権者からの許諾を得て使用料を支払う必要がある。
 しかし、その著作物の著作権者やその連絡先が不明である場合や、連絡がついても速やかに許諾が得られない場合があり、日々の教育活動にタイムリーに著作物の利用をできるようにするための権利処理の環境が整っていないという課題が指摘され、その解決が求められている。
 今般の改正では、現行法上許諾が必要とされている行為(例えば、対面授業の予習・復習用のプリントをメール等で生徒に送る行為や反転授業のために講義映像に写真や放送番組を一部収録して、家庭内でタブレット等で見せる行為など)について、許諾を不要とするとともに、権利者への適切な対価還元の観点から、当該利用行為について権利者に補償金請求権を付与し、教育機関の設置者に対して、補償金の支払い義務を課すこととしている。その際、当該補償金の請求権を行使するに当たっての手続きコストに鑑み、一つの指定管理団体による集中管理を行わなければ、今般の改正の趣旨を実現できないと考える。
 今般の制度改正を行わない場合、第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日閣議決定)で平成25年度~平成29年度の目標値として教育用PC1台当たりの児童生徒数3.6人、電子黒板・実物投影機を1学級当たり1台、超高速インターネット接続率及び無線LAN整備率100%等が掲げられている中、5~10年後、教育現場でICT活用教育がますます推進されている状況において、上記で指摘されている課題が要因となり教育現場が授業の過程で最適な著作物を利用できず、ICT活用教育を推進して教育の質の向上を図っていく上での障壁となってしまう。

(2) 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較により規制手段を選択することの妥当性)  

【課題及びその発生原因】
 (1)のとおり、ICT活用教育において他人の著作物を利用する場合、例えば、授業の参考教材として新聞記事、文芸作品、写真、絵などを教材の一部に掲載して、ネットで送信する際には、利用する度に事前に著作権者からの許諾を得て使用料を支払う必要がある。
 しかし、その著作物の著作権者やその連絡先が不明である場合や、連絡がついても速やかに許諾が得られない場合があり、日々の教育活動にタイムリーに著作物の利用をできるようにするための権利処理の環境が整っていないという課題が指摘され、その解決が求められている。

【規制以外の政策手段の内容】
 これを解決するに当たっては、例えば補償金制度の設計を(1)教育機関の設置者から個別に権利者に支払いを求める方法や(2)権利者団体が自発的に集まって構成される管理団体によって補償金の徴収・分配を行う方法、また(3)複数の指定管理団体によって補償金の徴収・分配を行う方法等の政策手段が考えられる。
 しかし、著作権法第35条の権利制限規定の利用については、教育機関において利用される著作物の内容が多種多様であること、及び本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になることが予想される。一方、個々の利用の規模は質的・量的に見てそれほど大きなものとはならず、補償すべき額はごく少額となる。
 このように法第35条の規定による利用は、膨大な数の著作物の少額の利用が、総体として大量に行われることから、教育機関に対し、個々の権利者に補償金請求権の行使を個別に行うことを求めると、教育機関における権利者の捜索や金額交渉等の一連の手続に係るコストが過大なものとなるため、教育機関が自発的にその処理を適切に行うことが期待できない一方、権利者側においても個々の教育機関の著作物利用行為を把握することは困難であるため、個々の権利者による形では権利の実効性が確保できなくなる。
 さらに、第35条の適用を受けることができる教育機関は、例えば学校教育法上の教育機関だけでも5万2千に上るなど、その数は膨大である。また、同条により利用される著作物は、教育機関の種類、教育内容及び設置されている地域等によって多種多様であり、本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になることが予想される。このため、第35条の規定による補償金制度は、教育機関における個々の利用実態に関わらない、包括的な支払方法を取りかつ事後的にも著作物等の利用の頻度や量その他の実態の把握、個々の権利者の特定、個々の権利行使、補償金の個別の権利者への分配などを厳密に行うことは限界があるという特徴を有している。したがって、権利者が一義的に特定されるというのが伝統的な権利の考え方であるのに対し、この場合の補償金については、従来の権利に比して抽象的性格が強いものと考えられる。このような特質や実際上の便宜からも、補償金の徴収は、個別の権利者や個別の管理団体では困難であり、権利者の委託等によらず指定管理団体が補償金請求権を行使しうることとする必要があるとともに、補償金の支払義務を負う教育機関側の便宜も考慮すれば、当該補償金徴収団体は、単一の団体とする必要がある。
 したがって、上記(1)~(3)の政策手段では今般の補償金制度を設ける趣旨を達成できないとの理由から、単一の団体による指定管理団体制度を採用することが妥当である。

【規制の内容】
 本法律案は、著作権法第35条を改正し、本条に規定する公衆送信権に係る権利制限規定を拡充することと併せて、今般の改正により権利制限の対象となった公衆送信を行う場合には著作権者に対して補償金の支払い義務を課すこととするものである。その際、当該補償金の請求権を行使するに当たっては、権利処理に係る手続きコストを低減するため、以下のような指定管理団体制度を設けることとしている。

1.補償金請求権を有する者のためにその権利を行使することを目的とする団体であって、全国を通じて一個に限りその同意を得て文化庁長官の指定するもの(以下「指定管理団体」という。)がある場合には、指定管理団体のみが補償金請求権を行使することができるものとする。
2.指定管理団体は、一般社団法人であること、補償金請求権を有する者を構成員とする団体であって当該権利者の利益を代表すると認められること、営利を目的としないこと、補償金関係業務を的確に遂行するに足りる能力を有すること等の要件を備えなければならない。

 今般の改正により権利制限の対象となった公衆送信を行う場合には、権利者に補償金請求権を付与するとともに、教育機関の設置者に対して、補償金の支払い義務を課すことしている。その際、第35条の適用を受けることができる教育機関の数が5万2千以上に上り、また、同条により利用される著作物は、教育機関の種類、教育内容及び設置されている地域等によって多種多様であって、本制度に係る補償金請求権を有する権利者も無数になることが予想ことを踏まえると、当該補償金の請求権を行使するに当たっての手続きコストに鑑み、一つの指定管理団体による集中管理を行わなければ、今般の改正の趣旨を実現できないと考える。
 また、今般の制度改正が実現され、指定管理団体により補償金の徴収・分配が行われることにより、教育機関及び権利者の負担となる膨大な手続コストが劇的に低減され、教育機関における著作物利用の円滑化が図られるとともに、権利者に適切に対価が還元されることとなる。

2 直接的な費用の把握

(3) 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)

 本規制により、指定管理団体となる団体は指定のために必要となる要件を備えた上で文化庁長官の指定を受ける必要がある。
 したがって、本規制によって生ずる遵守費用には以下の内容が考えられるが、それらはいずれも軽微であると考える。
 ・指定管理団体に必要となる要件を具備するための調整に係る人件費や時間費用。
 ・文化庁長官の指定を受けるための申請書の作成及びその提出に係る準備及び人件費や時間費用。

(4) 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、「行政費用」の増加の可能性に留意

 本規制においては、文化庁長官には所定の要件を備えた指定管理団体を指定する権限が与えられていることから、それらに係る人件費や手続費用等の行政費用が生ずると見込まれるが、それらはいずれも軽微であると考える。

      

3 直接的な効果(便益)の把握

(5) 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要

 上記(2)のとおり、今般の制度改正が実現され、指定管理団体により補償金の徴収・分配が行われることにより、これまで著作物ごとに、利用の都度許諾を得ることが必要とされていたことによって生じていた権利処理に係る負担、すなわち、権利者との連絡や許諾の申請、使用料の支払いといった膨大な手続コストが劇的に低減され、教育機関における著作物利用の円滑化が図られるとともに、そのような著作物の利用に応じて権利者に適切に対価が還元されることとなる。

(6) 可能であれば便益(金銭価値化)を把握  

 今般の制度改正による便益は、著作物の利用による効用を享受する利用者の便益や、権利者に正当な対価が還元されることによる経済的な便益、そしてそれらが将来の文化の発展につながることによる社会的な便益等の総和であることから、網羅的・定量的にその便益を示すことは困難である。
 なお、上記の一部要素として、試算の参考となるデータを把握することができた大学での利用に関して、権利者に支払われる補償金について、仮定に基づいて機械的かつ大まかに試算をおこなうと、以下のようになる。
 「ICT活用教育など情報化に対応した著作物等の利用に関する調査研究」におけるアンケート調査では、学生向けの授業科目において教員等による教材等のインターネット送信を「行っている」と回答した学部・学科は43.4%であり、「今後行う予定である」と回答した学部・学科は18.7%であった。「今後行う予定である」と回答した学部・学科については、そのうち半分が今般の補償金制度を活用すると想定すると、全国の大学の約50%が同制度を利用すると仮定することができる。
 この点、補償金の額が学生一人当たり年間A円となると仮定した場合、全国の大学の学部生約250万人の50%にA円を乗じて算出した額の補償金が支払われると試算される。
 したがって、大学における利用に係る権利者に支払われる補償金はA円×125万人となると考えられる。

(7) 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計

 該当なし

4 副次的な影響及び波及的な影響の把握

(8) 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握することが必要

 今般の補償金制度では、本規制による集中管理制度を設けなければ制度改正の趣旨を達成できないことから、上記(3)及び(4)の費用以外に負の影響はないと考える。

5 費用と効果(便益)の関係

(9) 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化できるか検証

 上記(3)及び(4)のとおり、指定管理団体に係る遵守費用と行政費用は軽微である一方で、便益については、上記(5)及び(6)のとおり、今般の制度改正が実現され、指定管理団体により補償金の徴収・分配が行われることにより、教育機関及び権利者の負担となる膨大な手続コストが劇的に低減され、教育機関における著作物利用の円滑化が図られるとともに、権利者に適切に対価が還元されることとなる。
 これら費用と便益を比べると、便益が費用を上回ることから、当該規制を導入することが妥当である。

6 代替案との比較

(10) 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から比較考量し、採用案の妥当性を説明

 上記(2)のとおり、今般の法改正を実現するために採用可能な規制の代替案は存在しない。

7 その他の関連事項

(11) 評価の活用状況等の明記

 該当なし

8 事後評価の実施時期等

(12) 事後評価の実施時期の明記

 当該規制については、著作権法の改正案に見直し条項の規定がないことから、見直し周期を5年として実施することとする。

(13) 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあらかじめ明確にする。

 今般の制度改正の趣旨が教育機関における著作物利用の円滑化と権利者への適切な対価還元である点を踏まえると、補償金の徴収・分配状況を事後評価の指標を設定し、評価を行うこととする。

お問合せ先

文化庁長官官房著作権課

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