政策目標10 科学技術の戦略的重点化

概要

 国家的・社会的課題に対応する研究開発の重点化した推進と振興・融合領域への先見性、機動性をもった対応を実現する。このため、9つの施策によってその目的の達成を目指す。

主管課(課長名)

 研究振興局振興企画課(生川浩史)、研究開発局開発企画課(田口 康)

評価

 科学技術の戦略的重点化を実現するための8つの施策全てについて、十分な進捗が得られた、または着実な進展が見られたと判断でき、各施策目標は想定通り達成された。

24年度実施施策の取組状況

○ライフサイエンス分野の研究開発の重点的推進及び倫理的な課題への取組(施策目標10-1)
モニタリングとしたため、モニタリング結果を参照。

○情報通信分野の研究開発の重点的推進(施策目標10-2)
 情報科学技術は、今後様々な社会的・科学的課題の達成に向けて科学技術が貢献していく上で重要な鍵を握る共通基盤的な技術である。情報科学技術を用いて次世代IT基盤を構築することは、これからの経済社会、科学や産業の持続的発展、イノベーションの創出、安全・安心な社会の実現のために必要不可欠であり、解決すべき技術的課題について国が戦略的な観点から取り組むため、本事業による研究開発プロジェクトは重要な役割を担っている。
 本施策において開発されたイノベーション基盤シミュレーションソフトウェアは、民間企業における車体やファン等の設計時のシミュレーションに利用されるなど、産業界で利活用が図られ、また、ソフトウェアの事業化においても、商用ライセンスを付与した企業が22社にのぼる等の成果が出ている。
 また、Web社会分析基盤ソフトウェアにおいては、Web上の多様な情報を収集・蓄積・解析する基盤となる技術と高水準のソフトウェア群が開発され、世界一位の精度をもつ画像・映像キーワード抽出技術の確立や、アジア最大級のアーカイブの構築等、着実に成果が創出されている。
 平成24年度に開始された、「社会システム・サービスの最適化のためのIT統合システムの構築」、「イノベーション創出を支える情報基盤強化のための新技術開発」においても、当初の計画通りに事業が実施されて、事業開始初年度から積極的に研究成果を対外的に公表するなど着実に進捗している。
 事業に参画する研究代表機関は、外部有識者により構成される審査会を経て、公正に選定されている。また、それぞれの事業にはプログラムオフィサーを設置し、着実な事業の遂行に向けた進捗管理を行っている。
また、それぞれの事業は文部科学省の審議会において、事前評価、中間評価を実施し、事業の効果的・効率的な運営に向けた委員からの指摘等を事業に反映している。
 施策目標の達成に向けて、引き続き着実な事業の推進を進める上で、プロジェクトごとの参画機関の間の密な連携を図るとともに、実用化を視野に入れ、それぞれの事業成果を、産業界等での利活用につなげるべく各プロジェクトを進めることが求められる。

○環境分野の研究開発の重点的推進(施策目標10-3)
モニタリングとしたため、モニタリング結果を参照。

○ナノテクノロジー・材料分野の研究開発の重点的推進(施策目標10-4)
モニタリングとしたため、モニタリング結果を参照。

○原子力分野の研究・開発・利用の推進(施策目標10-5)
モニタリングとしたため、モニタリング結果を参照。

○宇宙・航空分野の研究・開発・利用の推進(施策目標10-6)
 宇宙開発利用は産業の発展、安心・安全で豊かな社会の実現のほか、宇宙に関する人類共通の知的財産の拡大等にも貢献する分野であり、国家戦略の一つとして政府を挙げて推進すべきものである。平成25年1月に宇宙開発戦略本部において宇宙基本計画が策定され、「安全保障・防災」「産業振興」「宇宙科学等のフロンティア」の3つの課題に重点を置くこととされた。文部科学省としても、科学技術・学術審議会宇宙開発利用部会において宇宙分野の推進方策について取りまとめたところであり、宇宙基本計画を踏まえ、国民生活の向上や経済社会の発展等に寄与する宇宙利用に貢献する必要がある。
平成24年度は、我が国の基幹ロケットであるH-IIA及びH-IIBロケットの全ての打上げに成功し、打上げ成功率は世界最高水準の96%に達した。平成24年5月に打上げられた水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)は既に観測を開始しており、気候変動分野における研究利用、気象予報、漁場把握など幅広い分野での活用が期待されている。国際共同プロジェクトである国際宇宙ステーション(ISS)については、平成24年7月に打上げられた「こうのとり」3号機(HTV3)がISSへの物資輸送ミッションを無事成功させたほか、星出宇宙飛行士が日本人最長記録となる平成24年7月から11月までの期間をISSで過ごし、3回に及ぶ船外活動を実施するなどの効果を上げている。また、現在開発中の「はやぶさ」後継機「はやぶさ2」、X線天文衛星「ASTRO-H」等の衛星について、所期の打上げを確実なものとするべく開発を推進するほか、小型固体燃料ロケット「イプシロンロケット」の平成25年度打上げを確実に成功させるべく取り組んでいるところである。
 効率性の観点でも、JAXAは米国航空宇宙局(NASA)の約10分の1の予算規模で運営されているにもかかかわらず、「はやぶさ」の地球帰還、基幹ロケットの打上げ連続成功など世界に冠たる成果を上げており、十分な取り組みがなされているといえる。

○海洋分野の研究開発の推進(施策目標10-7)
  モニタリングとしたため、モニタリング結果を参照。

○新興・融合領域の研究開発の推進(施策目標10-8)
(達成目標1・2)
 光・量子科学技術については、第4期科学技術基本計画において「領域横断的な科学技術の強化」として、「複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進する」ことが明記されている。
 また、光・量子ビーム技術は、基礎科学から産業応用に至るまで共通基盤であり、イノベーションを支える基盤技術としてその果たす役割と重要性は益々高まっており、先導的な技術開発や利用研究を推進するとともに、分野融合や境界領域の開拓及び高度な研究人材の育成を促進し、我が国の優位性を確固とすることが必要である。
 よって、先導性や発展性等の観点から科学的・技術的意義は高く、産業応用や国際競争力の向上等の観点から社会的・経済的意義、国や社会の課題解決への貢献等の観点から国費を用いた研究開発の意義についても高いものであったといえる。
 本事業は、我が国の光・量子ビーム技術のポテンシャルと他分野のニーズを結合させ、産学官の多様な研究者が連携・融合するための研究・人材育成拠点の形成を推進するものであり、光・量子ビーム技術による分野融合や境界領域の開拓とともに、研究開発と一体として、当該分野を支える若手人材の育成が図られることが期待され、研究開発の質の向上への貢献や実用化への貢献、人材の養成等に対し非常に貢献するものであり、有効性は高いといえる。
 本事業では、PD・POによるプロジェクトマネジメント、シンポジウム等を通じた情報共有や研究人材の交流等による連携・協力を強化することとしており、効率的な成果の確実な創出に向け、強力な推進体制を構築した。
 また、事業の推進に際しては、毎年度進捗を確認、中間評価を実施して、内外の研究動向や諸状況も踏まえ、計画の見直しや必要に応じた予算の傾斜を行い、成果の着実な創出を意識したものとなっており、効率的であったといえる。
光・量子ビーム技術は、広範な科学技術や産業応用に必要不可欠な基盤技術であり、新しい原理・現象の解明にとどまらず、既存の産業分野の高度化や新たな産業の創出により我が国の国際競争力を強化するキーテクノロジーである。そのため、先端的な基盤技術開発を継続し、将来の研究開発の礎とするとともに、課題解決に向けた研究開発を強化し、開発の成果を社会に還元していくことが求められる。
 これを実現するために、光・量子ビーム技術の新たな展開として期待されている、光・量子ビームの技術のポテンシャルと他分野のニーズとを結合させ、産学官の多様な研究者が連携融合するための研究・人材育成拠点形成を推進し、複数の光・量子ビーム技術を横断的に利用した研究開発により、我が国でしか実現できない新しい成果を創出するとともに、広く光・量子ビーム技術を活用できる人材を育成していく必要がある。

(達成目標3)
 第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)においては「領域横断的な科学技術」の1つとして「数理科学」が明記されている。施策目標は、数学・数理科学の領域横断的な科学技術の特性を生かしたものであり、今後も継続する必要がある。
 平成24年度には数学・数理科学が主体となり、諸科学・産業と連携した研究集会等を45件実施している。報告書から一部の研究集会では、諸科学・産業における課題とその解決に向けた数理的手法の可能性が示されつつある。より具体的な解決方法の提示、共同研究の実施に向けては、一定の期間集中的に課題について討議することが有効と考えられる。
 諸科学・産業における数学・数理科学が貢献できる課題は、課題を抱える諸科学・産業側では気づきにくい。そのような課題を発掘することが第一に必要であり、そのために、数学・数理科学分野の幅広い研究者が集まり、自由に討議する研究集会は効率的である。  発掘された課題から解決に向けた数理的手法、共同研究につなげていくためには、課題に関連する数学・数理科学の研究者が一定期間集中して討議することも効率性をあげると考えられる。
 施策を通じて発掘された課題に対する数理的手法の提示、共同研究に向けては、課題に関連した数学・数理科学の研究者を集め、一定の期間集中的に討議する研究集会(スタディグループ形式)も有効な手段と考えられる。今後はこのような研究集会も取り入れながら施策を進める必要がある。

○安全・安心な社会の構築に資する科学技術の推進(施策目標10-9)

25年度以降の政策への反映方針

○情報通信分野の研究開発の重点的推進(施策目標10-2)
(達成目標1)
 達成目標1については、世界最先端の実用的なシミュレーションソフトウェアを開発し、民間企業において車体やファン等の設計時に利用され、また、開発したソフトウェアは公開され既に多くの利活用が図られるなど、成果を上げており、当初の目的を達成したため、平成24年度を以て終了した。
 ソフトウェアの研究開発は情報科学技術分野において重要な位置づけであることから、平成25年度以降は達成目標(3)において、超複雑形状の三次元モデリング技術の開発や社会システム・サービスの最適化のためのIT統合システムの構築に向けた研究開発等関連した取組について、事業推進のために必要な予算要求を行うとともに、事業を着実に推進していく。

(達成目標2)
 達成目標2については、多様な社会分析ニーズに応じることを目指しWeb情報の解析を行うための要素技術を開発し、企業との実証実験等を通して社会分析が可能であることを示すなど、成果を上げており、当初の目的を達成したため、平成24年度を以て終了した。
Web情報を含む多種多様で大量なデータ(ビッグデータ)の効率的な利活用を可能とする基盤技術については、今後ますます重要な研究開発領域となっていくことから、平成25年度から新規に設定する達成目標において、ビッグデータを利活用するためのシステム研究開発や、ビッグデータ利活用のための人材育成ネットワーク形成等の取組について、事業を着実に推進していくと共に、事業推進のために必要な予算要求を行う。

(達成目標3)
 「社会システム・サービスの最適化のためのIT統合システムの構築」については、評価結果を踏まえ、課題達成型IT統合システムの構築に向けてプロジェクトに参画している4機関の連携を更に強化し、引き続き着実な事業実施に取組むとともに、必要な予算を要求する。
 「イノベーション創出を支える情報基盤強化のための新技術開発」については、情報基盤の耐災害性強化、超低消費電力化、高機能化等、被災した東北地方の復興への貢献のための新技術開発に向け、評価結果を踏まえて、実用化を視野にいれた産学官の連携をより密にした事業実施に取り組みつつ、適切な予算要求をする。

○宇宙・航空分野の研究・開発・利用の推進(施策目標10-6)
(達成目標1)
 平成24年度は、準天頂衛星の衛星技術基盤の確立、超高速インターネット衛星「きずな」を用いた国や地方自治体等との連携による実証実験、宇宙利用促進調整委託費による人材育成等の取組を実施した。今後は、ユーザと連携して防災分野を中心とした利用技術の実証実験等を行うとともに、超高速インターネット衛星(WINDS)については民間と連携して新たな利用を開拓することにより、将来の利用ニーズの把握に努める必要がある。また、宇宙利用促進調整委託費による内局事業により大学や研究機関における人材育成等の取組を実施し、宇宙開発利用の裾野拡大のための取組を行う必要がある。特に平成26年度については、防災・減災に資するために開発すべき衛星技術を明らかにするため、技術試験衛星Ⅷ型(ETS-Ⅷ)や超高速インターネット衛星(WINDS)を用いて技術課題の検証を行う。また、委託費による内局事業については、これまでの方向性を引き継ぎつつ、様々な分野において、宇宙航空科学技術の新たな利用方法を開発し、将来の国民社会へ活用し得る技術への到達、国内外の様々な宇宙航空開発利用の場において今後活躍が期待される宇宙航空人材の育成等を主眼として取り組む。なお、行政レビューシートにおいて指摘を受けた不用については、内閣府設置法等の一部改正(平成24年7月12日施行)による文部科学省の所掌変更に伴う平成24年度公募に係る募集要項の見直しや予算執行の抑制等による事業実施期間の短縮が主な要因と考えられ、当要因は毎年度発生するものでなく、その影響は平成25年度以降に波及するものではない。

(達成目標2)
 広義の安全保障を含めた宇宙利用の拡大及び我が国が自律的に宇宙活動を行う能力を維持・発展させ、国際競争力を強化するため、平成25年度におけるH-ⅡA/Bロケット及びイプシロンロケット試験機の着実な打上げ成功を達成することを目標とする。また、新型基幹ロケット開発への着手、基幹ロケット高度化等の取組を実施。特に、新型基幹ロケット開発については、JAXAが民間企業の総力を結集して技術開発プロジェクト全体の統括を適切に行えるよう、政策的な位置づけを判断するとともに、開発体制や開発費を含めたシステム全体についての在り方の検討及び開発の推進体制の強化が早急に必要となる。

(達成目標3及び4)
 人類の知的資産の蓄積、活動領域の拡大等の多くの可能性を秘めた宇宙分野におけるフロンティアの開拓や、宇宙先進国として我が国の宇宙開発利用を維持発展させるため、国際協働の枠組みの中で、国家戦略として実施する意義等について、外交・安全保障、産業競争力の強化、科学技術水準等の向上等の様々な観点から検討し取り組む。特に、平成26年度は小惑星探査機「はやぶさ2」やX線天文衛星「ASTRO-H」等の開発、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の運用・研究等を実施する。

(達成目標5~7)
 平成25年1月に新たに決定された宇宙基本計画に基づき、「安全保障・防災」「産業振興」「宇宙科学等のフロンティア」等を支える技術基盤の強化、人材育成等に取り組むことにより、宇宙開発利用を促進する。

○新興・融合領域の研究開発の推進(施策目標10-8)
(達成目標1.2)
本事業については、計画を一部見直して消耗品費等の経費の削減を図るなど、引き続き事業の効率的・効果的な実施に努める。

(達成目標3)
 「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」では、諸科学・産業側が気づきにくい課題を発掘するため、数学・数理科学分野の幅広い研究者が集まり、自由に討議する研究集会を行った。今後は、これに加えて、発掘された課題に対する数理的手法の提示や共同研究までを視野に、課題に関連した数学・数理科学の研究者を集め、一定の期間集中的に討議する研究集会(スタディグループ形式)を取り入れることを検討するなど、評価結果を踏まえて着実に事業を推進していく。

○安全・安心な社会の構築に資する科学技術の推進(施策目標10-9)
(達成目標1)
 大規模な自然災害に対する防災力の向上に貢献するため、将来甚大な被害を及ぼし得る南海トラフの地震や首都直下地震、調査が未了域となっている日本海側の地域を対象に、地震発生メカニズム解明のための調査研究や、地震・津波のシミュレーション研究等を実施するとともに、研究者、自治体等が集まり、研究成果を普及するため地域研究会を開催するなど、防災・減災対策に資する調査研究を重点的に実施する。また、地震本部で実施する地震の長期予測(長期評価)に必要となる調査観測データを収集するための、海陸の活断層を対象とした調査観測等を実施する。

(達成目標2)
 安全・安心な社会の実現のための課題解決に向け、バイオセキュリティ分野については、バイオテロ対策の先進国である米国との協働のみならず、ここから得られた知見の我が国の感染症研究者への展開や、当該知見をもとにした人材育成、普及・広報等を行うことが必要であることから、感染症研究の国際ネットワークの枠組みの中で推進していくことを検討する。また、食品分野では、現代型食生活に対応した食品成分の情報を充実させるとともに、食品成分データベースについては、個々の利用者のニーズに応じた、より効率的、効果的な改善を検討する。

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大臣官房政策課評価室

-- 登録:平成25年12月 --