青少年が自立した人間として成長することを支援するため,青少年の行動の原動力である意欲や,職業的自立の礎となる社会性を育む自然体験や社会体験など体験活動の充実を図り,青少年の自立への意欲を高めたり,社会的自立の遅れや不適応に対応した事業の推進を目的としている。
青少年育成施策大綱(平成15年12月閣議決定)においては,青少年をめぐる新たな課題である青少年の社会的自立の遅れに対し,青少年が社会的に自立した個人として成長するよう支援することとしている。
また,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」(平成16年6月閣議決定)においては,人間力の強化や若者の自立のために,宿泊を伴った共同生活を通じた体験活動の推進,地域における経験豊かな人材や施設を活用した職業教育及び体験活動等の積極的推進が求められている。
これらに基づき,青少年が自立した人間として成長することを支援するため,青少年の主体性・社会性をはぐくむ体験活動を推進するため,平成17年度から「青少年の自立支援事業」を開始した。
さらに,「次代を担う自立した青少年の育成に向けて」(平成19年1月中央教育審議会答申)においても,直接体験の不足(体を動かす体験,自然体験),生活習慣の乱れ(夜更かし,朝食欠食),希薄な対人関係(保護者の関与が少ない,地域の大人の関与が少ない,仲間との接触が少ない)等の理由により,ニート等自立への意欲に欠ける青少年の増加が懸念され,青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために,すべての青少年の生活に体験活動を根付かせ,体験を通じた試行錯誤・切磋琢磨を見守り支えることが求められている。この答申を受け,平成19年度より「青少年の意欲向上・自立支援事業」に変更し,意欲向上を促す施策と自立を支援する施策の2つの観点から事業を実施した。ここでは,「青少年の意欲向上・自立支援事業」の中の「自立に支援を要する青少年の体験活動」について評価する。
ひきこもりなど社会との関係が希薄な青年の福祉作業所などでの社会体験への参加を支援したり,不登校やいわゆるニートなどの悩みを抱える青少年に対し,自然体験や生活体験等の体験活動に取り組む機会を提供する。
本事業は,平成17年度から実施しており,これまで66件(平成17年度:18件,平成18年度:23件,平成19年度:25件)の事業を実施し,1,507人(平成17年度:379人,平成18年度:440人,平成19年度:688人)が参加した。
近年,青少年の意欲や責任感の低下,コミュニケーション能力の低下などが懸念され,特に大きな問題として,青少年の社会的自立の遅れや社会的不適応が生じている。例えば,不登校については,平成17年度間に30日以上学校を欠席した不登校児童生徒数は小学生で2万2,709人,中学生で9万9,578人,ニートについては,平成18年度の15〜34歳の非労働力人口のうち,通学も家事もしていない者の数は,62万人(平成14〜17年度は64万人)となっている。(総務省統計局「労働力調査」)。
これまで次代を担う青少年の育成を図るため,青少年育成施策大綱(平成15年度12月閣議決定)等を踏まえ,青少年の自立への支援等に関する施策を推進してきた。
また,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」において,他者への思いやりや命を大切にする体験活動の充実,不登校等の対応,ニートと呼ばれる若者の支援の強化を図ることが提言されている。
さらに,「次代を担う自立した青少年の育成に向けて」(平成19年1月中央教育審議会答申)においても,直接体験の不足(体を動かす体験,自然体験),生活習慣の乱れ(夜更かし,朝食欠食),希薄な対人関係(保護者の関与が少ない,地域の大人の関与が少ない,仲間との接触が少ない)等の理由により,ニート等自立への意欲に欠ける青少年の増加が懸念され,青少年の意欲を高め,心と体相伴った成長を促すために,すべての青少年の生活に体験活動を根付かせ,体験を通じた試行錯誤・切磋琢磨を見守り支えることが求められている。
以上のような状況を踏まえ,青少年が自立した人間として成長することを支援するため,青少年の主体性・社会性をはぐくむ体験活動に関する施策は重要であり,実施していく必要がある。
本事業の実施を通じて,ひきこもり青年や不登校児童生徒,ニートなど自立に支援を要する青少年を対象とする体験活動の効果や支援体制等を明らかにすることにより,自立に支援を要する青少年を対象とする体験活動を実施するための重要な知見が得られるとともに,青少年の主体性・社会性等の育成が一層図られると想定される。また,本事業の成果を全国に普及することを通じて,各自治体において青少年の自立のための支援体制の整備が推進され,我が国の青少年が自立した人間として成長することが期待される。
実際に,本事業の実施により,自立に支援を要する青少年として,ひきこもり青年,不登校児童・生徒,ニート等を対象とした事業を実施した平成19年度の都道府県数は,平成17年度からは9道府県増加(29パーセント)し,概ね順調に増加した。事業数については,42事業増加(44パーセント)し,それぞれの内訳についても,ひきこもり青年(10から15),不登校児童・生徒(29から35),ニート(4から15)と概ね順調に増加していることから,国が先導的に青少年の課題に対応した取組を実施し,成果や課題を普及することにより,各自治体が青少年の課題に対応した体験活動を実施できる体制を整備することができた(表11−2参照)。
また,参加者の変容については,ひきこもり青年は85パーセントの改善,不登校児童・生徒は86パーセントの改善,ニートは89パーセントの改善を示し,自立に支援を要する青少年に対する体験活動の高い有効性が示されている(表11−3参照)。
本事業の実施及び成果の波及を通じて,各自治体において青少年の自立のための支援体制の整備が推進され,我が国の青少年が自立した人間として成長することが期待される。
また,地方自治体の事業として実施することとした場合には,参考となる事例も少なく,県域を越えた波及効果が十分に期待できないことから,国の委託事業として実施していく必要がある。
本事業に投入されるインプット(平成19年度予算額46,278千円)を考慮すると,上記のような成果が上がっていることから投資効果は高い事業と考えられる。
ひきこもりなど社会との関係が希薄な青年が,将来の目標を設定し,社会の中で自ら行動することができるようになるために,福祉作業所などでの社会体験への参加を支援する「青年長期社会体験推進事業」及び,不登校やいわゆるニートなどの悩みを抱える青少年に対し,自然体験や生活体験等の体験活動に取り組む機会を提供する「悩みを抱える青少年の体験活動」を以下のとおり委託事業として実施した。
表11−1 青少年の自立支援事業の委託件数 | ||||||||||||||||
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(出典)文部科学省調べ |
委託事業を含め,自立に支援を要する青少年として,ひきこもり青年,不登校児童・生徒,ニート等を対象とした体験活動の取組を実施した都道府県数と事業数は以下のとおりであり,支援体制の整備が伺える。
表11−2 自立に支援を要する青少年を対象とした体験活動の取組を実施した都道府県数と事業数 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(出典)文部科学省調べ |
平成17〜19年度に実施した事業に参加した青少年の変容は以下のとおりであり,改善が見られた。(悩みを抱える青少年の体験活動(対象:ニートなど)については,18〜19年度)
表11−3 委託事業に参加した青少年の変容状況 (出典)文部科学省調べ
青年長期社会体験推進事業(対象:ひきこもり青年)
分類 | 人数 | ![]() |
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改善 | 進学 | 29 | 5![]() |
復学(通信制含む) | 49 | 8![]() |
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就職した | 36 | 6![]() |
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求職活動を始める | 84 | 14![]() |
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アルバイトに就く | 79 | 13![]() |
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ボランティア活動等を継続する | 70 | 12![]() |
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定期的な相談に通う | 101 | 17![]() |
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外出できる | 40 | 7![]() |
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家族と食事や対話ができる | 13 | 2![]() |
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具体的な行動まではつながらなかったが,意欲が向上したと臨床心理士等第三者が認めた | 8 | 1![]() |
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変化なし | 89 | 15![]() |
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合計 | 598 | 100![]() |
悩みを抱える青少年の体験活動(対象:不登校児童生徒)
分類 | 人数 | ![]() |
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改善 | 再登校 | 219 | 28![]() |
登校の改善(保健室,給食,早退等) | 181 | 23![]() |
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適応指導教室に通う | 115 | 15![]() |
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定期的な相談に通う | 34 | 4![]() |
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家族と外出できる | 32 | 4![]() |
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具体的な行動まではつながらなかったが,意欲が向上したと臨床心理士等第三者が認めた | 84 | 11![]() |
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変化なし | 107 | 14![]() |
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合計 | 772 | 100![]() |
悩みを抱える青少年の体験活動(対象:ニートなど)
分類 | 人数 | ![]() |
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---|---|---|---|
改善 | 進学 | 13 | 9![]() |
復学(通信制含む) | 9 | 7![]() |
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就職した | 10 | 7![]() |
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求職活動を始める | 6 | 4![]() |
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アルバイトに就く | 23 | 17![]() |
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ボランティア活動等を継続する | 27 | 20![]() |
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定期的な相談に通う | 11 | 8![]() |
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外出できる | 5 | 4![]() |
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家族と食事や対話ができる | 1 | 1![]() |
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具体的な行動まではつながらなかったが,意欲が向上したと臨床心理士等第三者が認めた | 17 | 12![]() |
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変化なし | 15 | 11![]() |
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合計 | 137 | 100![]() |
自立に支援を要する青少年として,ひきこもり青年,不登校児童・生徒,ニート等を対象とした事業を実施した平成19年度の都道府県数は,平成17年度の31道府県から40道府県に増加しており,支援体制の整備が伺える。また,事業数については,96事業から138事業に増加している。それぞれの内訳についても,概ね順調に増加しており,本施策については,順調に進捗した。
また,参加者の変容については,ひきこもり青年は85パーセントの改善,不登校児童・生徒は86パーセントの改善,ニートは89パーセントの改善を示し,自立に支援を要する青少年に対する体験活動の高い有効性が示された。
本事業により,支援体制の支援体制の整備が進んだが,まだ整備されていない都道府県もあることから,高い有効性が示される体験活動の事例等,当該事業の成果をさらに普及していく必要がある。
体験活動の効果については,すぐに効果が表れてこないケースや,効果があった青少年についても引き続きフォローしていくことも必要であることから,委託事業の対象となった青少年の情報を有する機関・団体(適応指導教室や立ち直り支援に取り組むNPO等)と連携し,青少年を支援していくことが重要である。このような連携方策についても工夫を促し,その成果を普及していく必要がある。
また,ひきこもり青年,不登校児童・生徒,ニート等を対象とした体験活動だけでなく,青少年の発達段階に応じた体験活動など,青少年の意欲向上・自立のための支援体制の整備を推進する必要がある。
-- 登録:平成21年以前 --