(b)子育て支援・預かり保育
近年,少子化,核家族化等の社会状況の変化により,保護者の子育てへの不安や孤立感の高まりなどの様々な状況が指摘されている。そのため,幼稚園では,幼児の家庭や地域での生活を含めた生活全体を豊かにし,健やかな成長を確保していくことを目指し,地域の実態や保護者及び地域の人々の要請などを踏まえ,地域における幼児期の教育のセンターとしてその施設や機能を解放し,子育ての支援に努めていくことが大切である。
このような状況を踏まえ,平成6年度から,地域に開かれた幼稚園づくり推進事業として市町村に対して地方交付税措置されるとともに,平成7年度から「幼稚園の子育て支援活動の推進」として私立幼稚園に対して私学助成を措置している。この助成措置は,教育機能又は施設を広く開放することを積極的に推進する私立の幼稚園に対する助成を実施する都道府県に対して国がその助成額の1/2を補助しているものであり,平成20年度においては,11億5千万円を計上している。
また,平成19年6月には学校教育法が改正され,新たに幼稚園の役割として子育て支援が位置づけられた。さらに,平成20年3月には,子育て支援の一層の充実を目指した幼稚園教育要領の改訂が行われた。
幼稚園では,教育課程に係る教育時間の前後や休業日などに,地域の実態や保護者の要請に応じて,当該幼稚園の園児のうち希望者を対象に教育活動を行っている(図2−11〜2−12)。このような活動は,職業などはもっているが,子どもを幼稚園に通わせたいという保護者に対する必要な支援策であるとともに,家庭や地域の教育力を補完し,その再生・向上につながるという意義を持っている。このような状況を踏まえ,平成9年度から私立幼稚園に対して「預かり保育推進事業」として私学助成を措置するとともに,平成14年度からは市町村に対して地方交付税が措置されている。この助成措置は,幼稚園の教育時間終了後等に「預かり保育」を実施する私立幼稚園に対する助成を実施する都道府県に対して国がその助成額の1/2を補助しているものであり,平成20年度においては,34億7千5百万円を計上している。
また,平成19年6月には学校教育法が改正され,預かり保育が法律上に位置づけられるとともに,平成20年3月には,幼稚園教育要領が改訂され,預かり保育が教育活動として適切な活動となるよう具体的な留意事項が示された。
第3 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動など
幼稚園は,地域の実態や保護者の要請により教育課程に係る教育時間の終了後等に希望する者を対象に行う教育活動について,学校教育法第22条及び第23条並びにこの章の第1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ実施すること。また,幼稚園の目的の達成に資するため,幼児の生活全体が豊かなものとなるよう家庭や地域における幼児期の教育の支援に努めること。
第2 教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などの留意事項
近年,都市化,核家族化,少子化,情報化の進展などの社会状況が変化する中で,子どもにどのようにかかわっていけばよいのか悩んだり,子育てに必要な支援が得られなかったりして,孤立感を募らせる保護者の存在(図2)などといった様々な状況が指摘されている。このような中,保護者の子育てに対する不安やストレスを解消し,その喜びや生きがいを取り戻して,子どものより良い育ちを実現するような子育て支援活動が求められている。
そのため,幼稚園では,幼児をとりまく家庭や生活環境を整えつつ,幼児の健やかな成長を確保していくことを目指し,保護者の要請や地域の実態・などを踏まえ,地域における幼児期の教育のセンターとしてその施設や機能を解放し,子育ての支援に努めていくとともに,預かり保育の充実を図っていく必要があり,これらの取組を国としても促進する必要がある。
図2−1 子育てを通じてよかったと感じたこと(平成20年文部科学省調べ)
(調査の概要については48〜49頁を参照。以下,図2−19まで同じ)
図2−2 子育てを通じて不安を感じたり,困ったりしたこと(平成20年文部科学省調べ)
現在,全国の幼稚園において実際に行われている子育て支援活動の具体例としては,子育て相談の実施(現職教員,教職経験者,大学教員,カウンセラーなどによるもの),子育てに関する情報の提供(子育て便りなど),親子登園などの未就園児の保育活動,子育て井戸端会議などの保護者同士の交流の機会の企画などがある。これらの事例の他にも,園庭・園舎の開放,子育て公開講座の開催,高齢者,ボランティア団体,子育てサークルなどとの交流など,様々な活動が行われており,また,保護者も様々な子育て支援活動を活用している(3.施策の効果及び貢献度(1)幼稚園における子育て支援活動 図2−4〜2−6)。また,預かり保育の実施率は年々上昇しており,実施日数では週5日,終了時間では5時から6時としている幼稚園が多い(3.施策の効果及び貢献度(2)預かり保育 図2−11〜2−12,2−13〜2−14)。このような取組に対して私学助成等を通じて支援する事業を実施しており,子育て支援及び預かり保育の実施率は年々着実に上昇している。
幼稚園は,幼児期の教育に必要な施設設備が集積された施設であるとともに,幼児期の教育の専門家である教員からなる組織である。幼稚園の既存の施設や人的資源を活用して子育て支援事業を行うことは,新たに施設をつくったり,人材を育成したりすることに比べ効率的であると考えられる。特に,保護者は子どものことを一緒に考えてくれる人,自分の子どもの日常の様子を知っている人などに子育ての相談をしたいと思っていることから,幼稚園教員等が子育て相談に応じることは有意義である。更に,教育課程に係る教育時間の終了後も引き続き幼稚園で園児を預かる預かり保育については,園児の移動がないことから,送迎が不要であり,かつ安全である。
図2−3 どのような人に子育てについて相談したいと思うか(平成20年文部科学省調べ)
実施率は上昇しており,また保護者の要請や地域の実態等に応じて,各幼稚園において多様な活動が展開されていると考えられる。
表2−1 幼稚園における子育て支援事業実施状況 | (園数・割合) | |||||||||||||||||||||
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(平成19年文部科学省調べ) |
図2−4 在園児及びその保護者だけを対象とした支援活動の具体的な内容(平成19年文部科学省調べ)
図2−5 在園児以外の幼児及びその保護者も対象(在園児以外及びその保護者だけ対象も含む)とした支援活動の具体的な内容(平成19年文部科学省調べ)
保護者は様々な子育て支援活動を活用しており,子育て支援活動を活用したことのない保護者はほとんどいない。
図2−6 幼稚園から受けたことのある子育て支援活動(平成20年文部科学省調べ)
必要な時に子どもを預かってほしいと思っている保護者が一番多くなっている。
図2−7 一層の充実を望む子育て支援活動(平成20年文部科学省調べ)
子育て支援活動を活用してよかったと感じたことのない保護者はほとんどいなかった。
図2−8 子育て支援活動を受けてよかったと感じたこと(平成20年文部科学省調べ)
国が私学助成で措置している「幼稚園の子育て支援活動の推進」について,約3/4の都道府県が,私立幼稚園における子育て支援の推進に役立っていると回答していることから,国庫補助を継続していくことは必要不可欠である。なお,どちらともいえない及び無回答と回答した11県のうち9県は当該国庫補助を申請していない。
図2−9 都道府県での私立幼稚園における子育て支援の推進に対する国の財政支援の寄与(平成20年文部科学省調べ)
国の財政支援に対し,国庫補助率や予算の増を要望する都道府県が多い。
図2−10 私立幼稚園における子育て支援の推進に対する国への要望(平成20年文部科学省調べ)
図2−11 預かり保育の実施園数の推移(平成19年文部科学省調べ)
図2−12 預かり保育の実施率の推移(平成19年文部科学省調べ)
表2−2 預かり保育の受入れ幼児数
公立 | 私立 | 合計 | |
---|---|---|---|
平成16年 | 19,085人 | 89,108人 | 108,194人 |
平成17年 | 20,582人 | 97,418人 | 118,000人 |
平成18年 | 22,260人 | 103,262人 | 125,522人 |
平成19年 | 24,801人 | 108,692人 | 133,493人 |
公立,私立ともに週5日実施している幼稚園が最も多い。
図2−13 長期休業中以外の実施日数(平成19年文部科学省調べ)
公立では午後3時から4時の間まで実施している幼稚園が一番多く,続いて,5時から6時となっている。私立では,5時から6時まで実施している幼稚園が一番多くなっている。
図2−14 預かり保育の終了時間(平成19年文部科学省調べ)
長期休業中も実施している幼稚園は,公立で48パーセント私立で75パーセントなっている。
表2−3 長期休業期間における実施状況(平成19年文部科学省調べ)
公立 | 私立 | 計 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
夏季休業日のみ | 259 | 10.4% | 776 | 10.6% | 1,035 | 10.6% |
冬季休業日のみ | 0 | 0.0% | 17 | 0.2% | 17 | 0.2% |
春季休業日のみ | 2 | 0.1% | 5 | 0.1% | 7 | 0.1% |
夏季及び冬季休業日 | 188 | 7.5% | 351 | 4.8% | 539 | 5.5% |
夏季及び春季休業日 | 6 | 0.2% | 130 | 1.8% | 136 | 1.4% |
冬季及び春季休業日 | 6 | 0.2% | 19 | 0.3% | 25 | 0.3% |
夏季,冬季及び春季休業日 | 741 | 29.6% | 4,181 | 57.2% | 4,922 | 50.2% |
計 | 1,202 | 48.0% | 5,479 | 75.0% | 6,681 | 68.1% |
公立,私立ともに8時間以上実施している幼稚園が一番多くなっている。
図2−15 長期休業期間中における預かり保育実施時間数(平成19年文部科学省調べ)
国が私学助成で措置している「預かり保育推進事業」について,約9割の都道府県が,私立幼稚園における預かり保育の推進に役立っていると回答していることから,国庫補助を継続していくことは必要不可欠である。
図2−16 私立幼稚園の預かり保育の推進に対する国の財政支援の寄与(平成20年文部科学省調べ)
国の財政支援に対し,国庫補助率や予算の増を要望する都道府県が多い。一方で,国の「幼稚園の子育て支援活動の推進」に比べ,補助対象範囲の拡大や申請手続きの簡素化を要望する都道府県が多く見受けられる。
図2−17 私立幼稚園の預かり保育の推進に対する国への要望(平成20年文部科学省調べ)
子育て支援の実施に当たっては,経費の確保や教職員の負担軽減のための人的措置,子育て支援事業に対応した施設整備の充実に関する課題を挙げている幼稚園が多い。
図2−18 幼稚園における子育て支援の実施の課題(平成19年文部科学省調べ)
預かり保育の実施に当たっては,経費の確保や教職員の負担軽減のための人的措置に関する課題を挙げている幼稚園が多い。
図2−19 預かり保育の実施の課題(平成19年文部科学省調べ)
子育て支援活動の実施率は年々上昇している。また,子育て支援については,一層の充実を望む子育て支援活動(図2−7)では,「必要なときに子どもを預かってほしい」に続いて,「幼稚園が行う子育て支援活動に十分満足しており,これ以上のサービスは望んでいない」が高くなっており,これは,保護者のニーズに対応した子育て支援活動が展開されているためと考えられる。このことは,各幼稚園が多様な子育て支援活動を展開していること(図2−4〜2−5),保護者は様々な子育て支援活動を活用していることからもうかがえる(図2−6)。子育て支援活動を活用してよかったと感じたことのない保護者はほとんどいないこと(図2−8)からも,子育て支援活動は有効であるといえる。さらに,よかったと感じる内容について,子どもの遊ぶ場所ができた,子育ての不安や悩みを相談できる友達が増えた,リフレッシュできた,不安やストレスが軽くなったなど多様であり(図2−8),子育て支援活動は多様な効果が期待できるといえる。
預かり保育の実施率は年々上昇しており,預かり保育を受けている幼児数も増加している(表2−2)。平成9年度から13年度間の増加率は他に比べて大きく,事業の効果が一定程度現れているものと判断できる。さらに,一層の充実を望む子育て支援活動の充実を望む内容(図2−7)では,「必要なときに子どもを預かってほしい」との要望が高いことから,保護者のニーズの高さがうかがえる。
子育て支援活動,預かり保育については,実施率が年々増加していること,活動内容について満足している保護者もいるが,一層の充実を望む保護者も多いことから一層の推進が望まれる。
当該事業の評価において活用したデータの調査概要は次のとおり。
-- 登録:平成21年以前 --