2.育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び

目次に戻る

(1) 2030年の社会と育成を目指す資質・能力

 平成28年答申では2030年の社会と子供たちの未来について、以下のように記載されています。[脚注1]

  • 社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となってきており、しかもそうした変化が、どのような職業や人生を選択するかにかかわらず、全ての子供たちの生き方に影響するものとなっている。社会の変化にいかに対処していくかという受け身の観点に立つのであれば、難しい時代になると考えられるかもしれない。
  • しかし、このような時代だからこそ、子供たちは、変化を前向きに受け止め、私たちの社会や人生、生活を、人間ならではの感性を働かせてより豊かなものにしたり、現在では思いもつかない新しい未来の姿を構想し実現したりしていくことができる。

 この答申を受けて改訂された学習指導要領では前文が設けられ、育成を目指す児童生徒の姿について、以下のとおり記載しています。

 これからの学校には、(略)一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。このために必要な教育の在り方を具体化するのが、各学校において教育の内容等を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程である。

 教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実現していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。

 その上で、学習指導要領においては、以下の事項を示しています。[脚注2]

 各学校においては、教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い、児童(生徒)の人間として調和のとれた育成を目指し、児童(生徒)の心身の発達の段階や特性(等、課程や学科の特色)及び学校や地域の実態を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。

 各学校においては、校長を中心として全教職員が連携協力しながら、学習指導要領を含む教育課程に関する法令の内容について十分理解するとともに、創意工夫を加え、学校として統一のあるしかも特色をもった教育課程を編成することが大切です。

 また、その際には児童生徒の発達の段階を踏まえつつ、児童生徒一人一人の多様な能力・適性、興味・関心、性格、学習経験等を的確に捉え、児童生徒一人一人の発達を支援していくことが重要です。教師が専門職としての知見を活用し、児童生徒の実態に応じて、学習内容の確実な定着を図る観点や、その理解を深め、広げる学習を充実させる観点から、カリキュラム・マネジメントの充実・強化を図ることが重要です。これまで以上に児童生徒の成長やつまずき、悩みなどの理解に努め、個々の興味・関心・意欲等を踏まえてきめ細かく指導・支援することや、児童生徒が自らの学習の状況を把握し、主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められます。

 さらに、学習指導要領では、児童生徒に知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」を育むことを目指すに当たって、児童生徒の発達の段階や特性等を踏まえ、「知識及び技能」の習得と、「思考力、判断力、表現力等」の育成、「学びに向かう力、人間性等」の涵養という、資質・能力の三つの柱の育成がバランスよく実現できるよう留意することを以下のとおり示しています。

3 (略)その際、児童(生徒)の発達の段階や特性等を踏まえつつ、次に掲げることが偏りなく実現できるようにするものとする。
 (1) 知識及び技能が習得されるようにすること。
 (2) 思考力、判断力、表現力等を育成すること。
 (3) 学びに向かう力、人間性等を涵養すること。

 学習指導要領では「何を学ぶか」という教育の内容を重視しつつ、児童生徒がその内容を既得の知識及び技能と関連付けながら深く理解し、他の学習や生活の場面でも活用できる、生きて働く知識となることを含め、その内容を学ぶことで児童生徒が「何ができるようになるか」を併せて重視しています。このため、各教科等の指導を通して育成する資質・能力を明確にすることの重要性を上記のとおり示すとともに、各教科等の目標や内容も、資質・能力の三つの柱で再整理して示しています。これにより、経験年数の短い教師であっても、各教科等の指導を通して育成を目指す資質・能力を確実に捉えられるようにするとともに、教科等横断的な視点で教育課程を編成・実施できるようにすること、さらには、学校教育を通してどのような力を育むのかということを社会と共有することを目指しています。

脚注

  • [1]平成28年答申p.10
  • [2]小学校学習指導要領(平成29年告示)第1章の第1,中学校学習指導要領(平成29年告示)第1章の第1,高等学校学習指導要領(平成30年告示)第1章第1款