文化財の国際交換に関する勧告

文化財の国際交換に関する勧告(仮訳)

1976年11月26日 第19回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1976年10月26日から11月30日までナイロビにおいてその第19回会期として会合し、
 文化財が文明及び国民文化の基本的要素であることを想起し、
 文化の種々の分野において達成された業績についての相互理解を目的とした文化交換の拡大及び促進が、それぞれの国の文化的特質及び全人類の文化遺産を構成している他の国の文化の価値を正当に評価することにより、各国の文化を豊かにすることに貢献することを考慮し、
 文化財の流通が文化財の不正取引及び損傷を防止するための法的、科学的及び技術的条件によって規制される場合には、文化財の交流が、諸国民の間の相互の理解及び評価のため、有力な手段となることを考慮し、
 文化財の国際的流通が今なお多分に自己本位の関係者の活動にゆだねられており、そのため、文化財の価格騰貴を引き起す投機的傾向があること並びにそのことが資金に恵まれない国及び施設にとつて文化財を手の届かない存在にするとともに、文化財の不正取引のまん延を助長していることを考慮し、
 文化財の国際的流通の背後にある動機がたとえ私利私欲のないものである場合においても、通常とられる行為が短期賃貸、中期的又は長期的取決めに基づく寄託、贈与等の一方的な供与に結果としてなっていることを考慮し、
 このような一方的な行為も、まだ、経費の点から並びに関係のある規則及び慣行が多様かつ複雑であることから、数及び範囲において制限されていることを考慮し、
 その進展に対する障害を緩和し又は除去することにより、このような行為を助長することが切望されるとともに、すべての施設が平等な立場で相互に取引することができるようにするため、相互信頼に基づく行為を促進することも、また、極めて重要であることを考慮し、
 多くの文化施設が財源のいかんを問わず、記録が十分に整っている確実な質及び出所の文化財の同一又は類似の物件を幾つか重複して所有しており、これらの物件のうちには、沢山あるがために当該施設にとつては余り重要ではないが、他の国の施設においては貴重品として歓迎されるものがあることを考慮し、
 足りないもののために余分なものを分け合うことによる文化施設間の組織的な交換政策は、すべての当事者を豊かにするとともに、すべての国の遺産の集積である国際社会の文化遺産の一層良い利用をもたらすことを考慮し、
 この交換政策がユネスコの事業の結果締結された種々の国際取極において既に勧告されていることを想起し、
 これらの点については前記の文書の効力が限定されていること、及び一般的に、利益を追求しない文化施設の間での交換が広範囲に行われておらず、実際に行われている交換がしばしば秘密に行われており又は公表されずに行われていることに留意し、
 したがつて、賃貸、寄託又は贈与等の一方的行為に限らず、同時に、2者又は多者間の交換をも推進することが必要であることを考慮し、
 この会期の議事日程の第26議題である文化財の国際的交換に関する提案を審議し、
 その第18回会期において、この問題が加盟国に対する勧告の形式をとるべきであると決定して、
 1976年11月26日にこの勧告を採択する。
 総会は、加盟国が、この勧告に規定する原則を自国の領域内において実施するため、必要とされる立法措置その他の措置を自国の憲法上の制度又は慣行に従ってとることにより、次の諸規定を適用すべきことを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告につき適当な当局及び機関の注意を喚起すべきことを勧告する。
 総会は、加盟国が、この勧告に従つてとつた措置につき、総会が定める時期に及び様式で総会に報告書を提出すべきことを勧告する。

I 定義

1 この勧告の適用上、
 「文化施設」とは、文化財の保存、研究、整備及び公衆への公開を目的とした一般的な利益のために管理される常設の営造物で、各国の権限のある公的当局が認可し又は承認したものをいう。
 「文化財」とは、人間の創作又は自然の進化の表現若しくは証拠である物件であつて、各国の権限のある機関が歴史的、美術的、科学的若しくは技術的な価値及び重要性を有し又は有することとなると認めるものをいい、特に、次の種類に属するものを含む。
(a)動物学、植物学及び地質学的標本
(b)考古学的物件
(c)民族学的に興味のある物件及び資料
(d)美術品及び応用美術品
(e)文学、音楽、写真及び映画の作品
(f)古文書及び記録文書
 「国際交換」とは、賃貸、寄託、売却又は贈与の形式のいかんを問わず、当事者間で合意する条件に従って行う国家間又は異なる国の文化施設の間における文化財の所有権、使用権又は保管の移転をいう。

II 勧告される措置

2 加盟国は、すべての文化財が人類の共通の文化遺産の構成要素であること及びこの点について各加盟国が単に自国民に対してのみではなく国際社会全体に対しても責任を有することに留意して、異なる国の文化施設の間における文化財の流通を必要に応じて地域及び地方の当局と協力して推進するため、自国の権限の範囲内で次の措置をとるべきである。
3 加盟国は、専ら文化施設間における文化財の国際交換を目的とする場合に限り次のことを実施することを可能にし又は容易にするため、自国の法令及び憲法上の制度又は慣行並びに自国の特殊な事情に従い、相続、租税及び関税に関し現行の法律若しくは規則を改正し又は新たな法令若しくは規則を採択し並びにその他必要な措置をとるべきである。
(a)文化財の一時的又は最終的な輸入又は輸出及び通過
(b)公共団体又は文化施設に属する文化財についての所有権の移転又は制限の解除
4 加盟国は、適当と認めるときは、自らの権限で直接に、又は文化施設を通じて、国際交換に提供することができる文化財の交換に関する要請及び申出の一覧表の作成を促進すべきである。
5 交換の申出は、当該物件の法的地位が国内法令に適合していること及び申出を行つた施設がそのための法的権原を有していることが確定された場合に限り、一覧表に記入すべきである。
6 交換の申出には、当該物件の文化的利用、保存及び修理のために最も有利な条件を確保するため、十分な科学的及び技術的資料並びに要求に応じ法的資料をも含めるべきである。
7 交換のための取決めには、受入れ施設が当該文化財の適切な保護のために必要なすべての保存措置を講ずる用意がある旨を明示すべきである。
8 国際交換の実施を促進するため、文化施設に対する追加の財政援助を供与し又は現行の財政援助の一部を留保することを考慮すべきである。
9 加盟国は、賃貸の期間(輸送に費す期間をも含む。)を通じて文化財がさらされる危険に対する保証の問題に特に留意すべきであり、特に、高価な物件の賃貸については、既に一部の国に存在するような政府による保証及び補償の制度を制定する可能性を検討すべきである。
10 加盟国は、自国の憲法上の慣行に従い、文化財の国際交換に伴う種々の諸活動の調整の任務を適当な専門機関に行わせることの可能性を検討すべきである。

III 国際協力

11 加盟国は、すべての権限のある機関(地域機関、国内機関、国際機関、政府間機関又は非政府機関のいずれの機関であるかを問わない。)の援助を得て、自国の憲法上の慣行に従い、すべての国の文化施設並びに行政、人文学及び科学等のすべての分野の専門の職員で国又は地方の段階で自国の文化財を担当するものを対象として、文化財のあらゆる形態における国際流通を発展させることが、諸国民の間の相互理解を一層増進することに多大の貢献をなし得るものであることについて注意を喚起し、このような交換への参加を奨励するよう大規模な広報運動及び奨励運動を展開すべきである。
12 11の運動には、特に次の諸点を含めるべきである。
(1)文化財の国際流通に関する取決めを既に締結した文化施設に対し、一般的性格を有し、かつ、ひな形として役立つすべての規定を公表することを勧奨すべきである。ただし、当該物件の個々の説明、評価、その他特定の技術的細目のような特別の性格を有する規定は、除外する。
(2)権限のある専門的機関、特に国際博物館会議は、文化財の流通のあらゆる可能な形態を解説し及びそれぞれの特色を明記した実用的な手引書を作成し又は改訂増補すべきである。手引書には、取決めのあらゆる可能な形態のため、契約(保険契約を含む。)のひな形を含めるべきである。手引書は、国の権限のある当局の援助を得て、諸国の関連のあるすべての専門的な機関に広く配布すべきである。
(3)交換取決めの締結のための準備的な検討を容易にするため、広くすべての国に次のものを配布すべきである。
 (a)文化財を管理する施設が製作する各種出版物(書籍、定期刊行物、博物館所蔵品目録、展覧会用目録及び写真資料)
 (b)各国で作成した交換の申出及び要請の一覧表
(4)連続的賃貸制度により現に分散している文化財を再び収集して、所有権を移転することなしに作品を保有しているそれぞれの施設が順番に作品の全貌を展示することができるような機会について、すべての国の文化施設の特別の注意を喚起すべきである。
13 文化財の国際交換の当事者は、その交換を実施するに当たつて技術的困難に遭遇した場合には、ユネスコ事務局長と協議した後に当該当事者の指名する1人又は2人以上の専門家の意見を求めることができる。

IV 連邦制の国家

14 憲法制度上連邦制又は非単一制の制度をとる加盟国は、この勧告の実施に当たって、第17回総会で採択された世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約第34条に規定する原則に従うことができる。

Ⅴ 文化財の不正取引に対する措置

15 国際交換の増進を通じて、加盟国の文化施設は、その文化的意義を十分に明示する資料を伴った合法的な出所の文化財を取得することにより、その収集品を拡充すことができるようになるべきである。したがつて、加盟国は、その交換の増進が文化財のあらゆる形態の不正取引に対してとられる措置の拡大と平行して行われることを確保するため、関係国際機関の援助を得て、すべての必要な手段を講ずるべきである。

 以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、ナイロビで開催されて1976年11月30日に閉会を宣言されたその第19回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

 以上の証拠として、我々は、署名した。

 総会議長
 タイタ・トエット
 事務局長
 アマド=マハタール・ムボウ


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