科学研究者の地位に関する勧告(2017年に「科学及び科学研究者に関する勧告」に改訂)

科学研究者の地位に関する勧告(仮訳)

1974年11月20日 第18回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の総会は、
 1974年10月17日から同年11月23日までパリにおいてその第18回会期として会合し、
  ユネスコが、同機関憲章前文の最終項の規定により、特に科学の分野における世界の諸人民の協力を促進することにより、国際連合の設立の目的であり、かつ、国際連合憲章が宣言している国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進することを希求していることを想起し、
 国際連合の総会が1948年12月10日に採択した人権に関する世界宣言、特に、何人も自由に社会の文化生活に参加し及び科学の進歩とその恩恵とにあづかる権利を有することを規定している同宣言第27条1の規定を考慮し、
 (a)科学的発見並びにそれに伴う技術の開発及び適用が、特に、人類の利益、平和の保持及び国際的緊張の緩和のための科学及び科学的方法の最も効果的な利用によりもたらされる大いなる発展の見通しを開くものであり、同時に、特に、科学研究の結果が人類の重大な利益に反して大量破壊を伴う戦争の準備のため又はある国に対する他国による搾取のために使用される場合には脅威となる危険をもたらすものであり、いずれの場合においても複雑な倫理的及び法律的な問題を提起するものであること、また、
 (b)このために加盟国が考えられる危険を避けること並びに科学的発見並びに技術の開発及び適用の有する積極的な側面を十分に開発することを目的とする適切な科学・技術政策の策定及び実行のための機構を発展させ又は創設しなければならないことを認識し、
 また、
 (a)有能なかつ訓練された人々が、自国の研究及び実験的開発能力の礎石であり、また、他国で行われた研究の利用及び開発に不可欠であること、
 (b)「学問の自由」によって示唆されるように、研究結果、仮説及び意見の自由な交流が、科学の過程の本質をなし、また、科学的成果の正確性及び客観性の強力な保証であること、また、
 (c)研究及び実験的開発を遂行するためには、適切な支援及び欠くことのできない設備が必要であること
を認識し、
 世界のあらゆる場所で政策形成のこの側面が加盟国にとつて次第に重要性を増しつつあることを看取し、広く国際的立場で各種の世界的問題を解決するために科学及び技術の有する価値が増大していることについての加盟国による認識を示し、このことによって、諸国間の協力を強化し、かつ、開発を促進しているこの勧告の附属書に掲げる政府間の活動を考慮し並びにこうした傾向が加盟国に対し適切な科学・技術政策の導入と追求のための具体的措置をとることを必要ならしめていることを確信し、
 このような政府の活動が、人間とその環境に対する高められた責任意識をもつて行う自国の研究及び実験的開発能力を鼓舞し、かつ、強化する条件の創造を大いに助長し得るものであることを確信し、
 これらの条件のうち最も重要なものの一が、科学及び技術における研究及び実験的開発に携わっている人々に対し、その仕事の遂行に伴う固有の責任及び必要な権利を考慮に入れた正当な地位を保証することでなければならないことを信じ、
 科学研究活動が、特殊な勤労条件の下で行われ、かつ、科学研究者側にその仕事及びその国並びに国際連合の理想と目的に対する高度な責任のある態度を要求するものであり、したがつてこの職業に従事する人々が適正な地位を享受すべきであることを考慮し、
 政府、科学界及び社会の現在の意向からみて、それらの人々に正当な地位を保証することを希望する加盟国を援助するための原則を総会が策定する適当な時期であると確信し、
 勤労者一般特に科学研究者に関しては、この勧告の前文及び附属書に掲げられている国際文書及び他の文書において既に多くの価値ある仕事が行われていることを想起し、
 しばしば科学研究者の「頭脳流出」として知られている現象が過去において広く懸念を引き起こしていること及び若干の加盟国にとつては現在なお重大な関心事であり続けていることを意識し、
 この点に関し、開発途上にある国の最高の必要に留意し、したがつて、科学研究者に対し、その役務を最も必要としている国及び地域に奉仕する強い動機を与えることを希望し、
 科学研究者の地位に関する類似の問題がすべての国において生じており、また、これらの問題が共通の手段を採用し並びにこの勧告の目的である共通の基準及び措置をできる限り適用することを必要としていることを確信し、
 しかしながら、この勧告の採用及び適用に当たり、科学及び技術における研究活動及び実験的開発の形態及び組織を定める法令及び慣習には国によって大きな相違があることを十分に考慮し、
 このため、すべての国の法令に定められ、かつ、慣習によって是認された基準及び勧告並びにこの勧告の前文及び附属書に掲げられる国際文書及び他の文書に含まれている基準及び勧告を科学研究者の主要な関心事に関する諸規定によって補完することを希望し、
 この会期の議事日程の第26議題である科学研究者の地位に関する提案を審議し、
 その提案が第17回会期で加盟国に対する勧告の形式をとるべきであると決定して、
 1974年11月20日にこの勧告を採択する。
 総会は、加盟国がこの勧告に示されている原則及び基準をその領域内において適用するために必要な立法措置又は他の措置を講ずることによって次の諸規定を適用すべきであることを勧告する。
 総会は、加盟国がこの勧告について研究及び実験的開発の実施並びにその成果の応用に責任を有する当局、研究所及び企業に対し並びに科学研究者の利益を代表し又は促進する種々の団体及び他の関係者に対し注意を喚起すべきであることを勧告する。
 総会は、加盟国がこの勧告を実施するためにとつた措置につき、総会が決定する期限及び様式で、総会に報告すべきであることを勧告する。

I 適用範囲

1 この勧告の適用上、
 (a)(i)「科学」とは、人間が、個人又は大小の集団として、観察された現象の客観的研究により、事物の因果関係を発見し及び修得するために組織的な試みを行い、結果として生ずる知識の下位体系を、数学記号で表されることの多い体系的な思考及び概念化によって総合的な形態に集約し、それによって自然及び社会に起こる過程及び現象についての理解を開発する機会を提供する企てをいう。
       (ii)「諸科学」とは、事実と仮説との複合物であつて理論的要素が順当に証明されることができるものをいい、その限りにおいて、社会的事実及び現象に関する諸科学を含む。
 (b)「技術」とは、物又は役務の生産又は改善に直接関係するような知識をいう。
 (c)(i)「科学研究」とは、1(a)(i)及び(ii)にいう科学的知識の形成に含まれる研究、実験、概念化及び理論証明の過程をいう。
       (ii)「実験的開発」とは、実際的適用を可能にするような適合、実験及び精密化の過程をいう。
 (d)(i)「科学研究者」とは、科学又は技術について特有の分野の研究に責任を有する人々をいう。
       (ii)この勧告の規定を基礎として、各加盟国は、科学研究者として認定すべき者の範囲についての基準(例えば、資格証書、学位、学術上の称号又は職務を有していること。)及びその例外を定めることができる。
 (e)科学研究者に関して用いられる「地位」とは、第一に科学研究者の職務に固有な義務及び責任並びにその職務を遂行する能力の評価の程度により、第二に科学研究者がその職務を遂行するに当たって享受する権利、勤労条件、物質的援助及び精神的支持によって認められる地位又は敬意をいう。
2 この勧告は、次の事項にかかわりなく、すべての科学研究者に適用する。
 (a)使用者の法的地位又は科学研究者が勤務する組織若しくは機関の形態
 (b)科学研究者の科学的又は技術的専門分野
 (c)科学研究者が従事する科学研究及び実験的開発の動機
 (d)科学研究及び実験的開発が直接に関係する適用の種類
3 この勧告は、パート・タイム制で科学研究及び実験的開発に従事する科学研究者について、そのような科学研究者が科学研究及び実験的開発活動に従事している時間及びその関係においてのみ適用される。

II 科学研究者と国の政策の立案との関係

4 各加盟国は、科学的及び技術的知識を自国民の文化的物質的福利の増進のために用い、かつ、国際連合の理想と目的を促進することに努めるべきである。この目的の達成のため、各加盟国は、科学それ自身に適正な位置を与えつつ、科学研究及び実験的開発の努力が国の諸目標の達成に寄与することを目的とする国の科学・技術政策を開発し及び実施するために必要な人員、施設及び機構を備えるべきである。加盟国は、科学及び技術に関し採用する政策により、一般的に、政策の立案に当たって科学及び技術を使用する方法により、特に、科学研究者の待遇の仕方によって、科学及び技術が孤立して行われる活動ではなくより人間的で真に公正な社会を築くための人類の総合的努力の一部であることを実証すべきである。
5 加盟国は、国の計画一般、特に、科学及び技術の計画の適当なすべての段階において、次のことを行うべきである。
 (a)科学研究及び実験的開発のための公的融資を収益の回収に多くの場合長期間を必要とするような公共投資として取扱うこと。
 (b)そのような支出が正当なものであり、かつ、真に不可欠なものであることが常に世論の前に提示されることを確保するためにすべての適当な措置をとること。
6 加盟国は、一国の関心事にとどまらない種々の特定の分野、すなわち、国際平和の保持、欠乏の除去その他汚染の監視及び管理、天気予報、地震予報等国際的基礎においてのみ有効に処理することができる問題のような広範で複雑な諸問題に、科学及び技術を適用することが必要であるとの認識を国際的な政策及び実施にとり入れるためにあらゆる努力を行うべきである。
7 加盟国は、科学研究者が国の科学研究及び実験的開発の政策の輪郭形成に参加する機会を醸成すべきである。特に、各加盟国は、この輪郭形成の過程が科学研究者及びその専門家組識から十分な助言と助力を受け得る適当な制度的機構によって支援されることを確保すべきである。
8 各加盟国は、科学研究者が公的に支持された科学研究及び実験的開発の遂行に当たって各自の職務と科学及び技術の進歩にふさわしい一定の自治を享受しつつその公的な責任を尊重することを確保するため、自国の必要に適合した手続をとるべきである。科学研究者の創造的な活動が科学の進歩に必要な研究の自治と自由に対する十分な尊重を基礎とする国の科学政策の中で振興されるべきであるということは、十分に考慮されるべきである。
9 加盟国は、前記の諸目的に留意し、かつ、科学研究者の移動の自由の原則を尊重して、科学研究者に対する精神的及び物質的な支持及び奨励のため、次のことが行われるような一般的風潮をつくり出すこと及び個別の措置をとることを考慮すべきである。
 (a)国の科学及び技術関係要員の不断の十分な再生産を維持するため、高度の才能を有する若い人々が科学研究者としての職業に十分な魅力を感じ、かつ、科学研究及び実験的開発が適度の将来性とかなりの安定性のある職業であるという十分な確信を得ることを確保すること。
 (b)科学及び技術の国際社会における価値ある一員として自らも認め、かつ、世界中の同僚からも認められるような科学研究者群が国民の中に生まれることを助け、かつ、その適当な成長を促進すること。
 (c)科学研究者の大多数又は科学研究者を志望する若い人々に対し自国のために働くため、また、自己の教育、訓練若しくは経験を外国で得ようとする場合でも自国における仕事に戻るために必要な誘因が与えられるような状況を助長すること。

III 科学研究者としての初期的教育及び訓練

10 加盟国は、実効的な科学研究が道徳的かつ知的に高い素質を備えた高潔で成熟した科学研究者を必要とするものであるということを認識すべきである。
11 高度な才能を有する科学研究者が生まれることを助成するために加盟国がとるべき措置には、次のものが含まれるべきである。
 (a)人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身又は経済的条件又は出生の理由で差別されることなく、すべての国民が科学研究の仕事に従事する資格を得るために必要な初期的な教育及び訓練への平等の機会を享受することを確保すること並びにそのような資格を得たすべての国民が科学研究に従事することができる平等の機会を享受することを確保すること。
 (b)このような教育及び訓練における重要な要素として社会への奉仕の精神を助長すること。
12 加盟国は、教育者の必要かつ適正な独立性と両立する限り、この精神の助長を目的とした次のようなすべての教育上の創意に支持を与えるべきである。
 (a)自然科学及び技術の教育課程において、社会科学及び環境に関する科学の要素をとり入れ又は開発すること。
 (b)次のような個人的な素質及び性格を目覚めさせ、かつ、刺激するための教育技術を開発し及び使用すること。
       (i)無私な態度及び知的誠実
       (ii)ある問題又は状況を、すべての人間的関連性を見失うことなく、見通しと調和の観点から考察する能力
       (iii)新知識の追求に関連する問題で、一見したところ単に技術的性質のみの問題のように見えるものについて公民的かつ倫理的な関連性を取り出す技能
       (iv)科学研究及び実験的開発活動による社会的生態学的影響の蓋然性及び可能性に対する警戒
       (v)科学及び技術に関する集団のみならず外部の人々と進んで交流する態度(チームとしてまた多種の業務が関連する状況の中で進んで仕事をする態度を意昧する。)

IV 科学研究者の使命

13 加盟国は、科学研究者がその仕事を自国民と人類一般との両者への奉仕であると認識することを助長するならば科学研究者の使命感が大いに強められるということを銘記すべきである。加盟国は、科学研究者の待遇及び科学研究者に対する態度において、社会への奉仕というこの広い精神によって遂行される科学研究及び実験的開発に対し激励を表明するよう努力すべきである。

科学研究の公民的及び倫理的な側面
14 加盟国は、科学研究者が公的機関の支持を得て次の責任及び権利を有し得るような条件を助長するよう努力すべきである。
 (a)知的自由の精神にのっとって科学的真理を見るがままに追求し、解釈し及び弁護すること。
 (b)科学研究者が携わっている計画の目的の決定並びに人道的、社会的及び生態学的な責任に基づく方法の決定に貢献すること。
 (c)関係する事業の人道的、社会的及び生態学的な価値について自由に意見を表明し、最後の手段として良心に従って当該事業から身を引くこと。
 (d)自国における科学、文化及び教育の組織に対し並びに国の諸目標の達成、自国民の福利の増進及び国際連合の理想と目的の助長に対し積極的かつ建設的に貢献すること。
  ただし、加盟国が科学研究者の使用者であるときは、加盟国は、(a)から(d)までの原則から離れることが必要であると認められる場合をできる限り明確かつ厳密に明示すべきである。
15 加盟国は、科学研究者の他のすべての使用者に対し14に含まれる勧告に従うようあらゆる適当な措置をとるべきである。

科学研究の国際的側面
16 加盟国は、科学研究者が従事している科学研究及び実験的開発が国際的な規模を有するような状況に科学研究者がますます頻繁に遭遇するということを認識すべきであり、かつ、科学研究者がこのような状況を国際平和、国際協力及び国際理解の促進並びに人類の共通の福祉のために利用することを支援するよう努力すべきである。
17 加盟国は、特に、人類全体の生存及び福利に係る諸要因についての正しい理解の探求に当たり科学研究者が試みる創意に対しあらゆる可能な支持を与えるべきである。
18 各加盟国は、世界における科学及び技術の研究のための努力に対し自己の資源が許す限り惜しみなき貢献をするという任務において、自国民の科学研究者、特に、若い世代の科学研究者の知識、勤勉及び理想主義の協力を求めるべきである。加盟国は、純粋な文化及び国家主権の強化に寄与するための社会経済的発展の努力に際し、科学研究者が供与し得るすべての助言と助力を歓迎すべきである。
19 加盟国は、科学及び技術の知識が有するすべての可能性を速やかにすべての人々の利益に適合させるようにするために、科学研究者に対し16 から18 までの原則に留意するよう勧奨すべきである。

V 科学研究者の成功のための諸条件

20 加盟国は、
 (a)科学研究者及び公共の利益のために科学研究者の行う科学研究及び実験的開発の遂行を成功に導く精神的支援及び物質的助力が要請されているということに留意すべきであり、
 (b)この点に関し、科学研究者の使用者として指導的な責任を有し、かつ、科学研究者の他の使用者に対して範を示すよう試みるべきであることを認識すべきであり、
 (c)特にこの章のすべての規定に関して、科学研究者のために満足な勤労条件を供与することに細心の注意を払うよう科学研究者の他のすべての使用者に対し勧奨すべきであり、
 (d)科学研究者が性、言語、年齢、宗教及び国民的出身の理由で差別されることなくその地位及び業績につり合った勤労及び報酬の条件を享受することを確保すべきである。

適当な経歴開発の可能性及び便宜
21 加盟国は、特に次のことによって、科学研究者の要求を適切に包含した雇用に関する諸政策をなるべく国の総合的人材政策のわく内で作成すべきである。
 (a)必ずしも科学研究及び実験的開発の分野にのみ限る必要はないが適当な経歴開発の可能性及び便宜を自己が直接雇用している科学研究者に対し供与すること。また、同様な供与が行われるよう政府以外の使用者に勧奨すること。
 (b)回避することが可能な困難に科学研究者がその仕事の性質のみの理由でさらされることがないよう科学研究及び実験的開発を企画するに際しあらゆる努力を行うこと。
 (c)常用の科学研究者に対する別の仕事への再訓練と配置換えの便宜のために必要な財源の準備を科学研究及び実験的開発計画の不可欠の一部として考慮すること。特に期間の限られた計画又は事業(これらに限ることを要しない。)については、このようなことがなされるべきである。また、この種の便宜が不可能である場合には、適当な補償の措置を準備すること。
 (d)若い科学研究者がその能力に応じて有意義な科学研究及び実験的開発を行う機会を提供すること。

恒久的な自己再教育
22 加盟国は、次のことを奨励するよう努力すべきである。
 (a)科学研究者が、類似の問題に直面している他の種類の仕事に従事する者と同様に、会議への出席、図書館その他の情報源の自由な利用及び教育若しくは職業コースへの参加によって、自己の専門分野及びそれに関連した分野において進歩に後れないようにする機会を享有すること。また、科学研究者が、必要な場合には、科学活動の他の部門へ移動する目的で更に科学訓練を受ける機会を享有すべきであること。
 (b)この目的のために適当な便宜が供与されること。

移動性一般及び特に公務員における場合
23 加盟国は、高級人材に関する総合的国家政策の一部として、政府の科学研究及び実験的開発並びに高等教育機関及び生産企業内の科学研究及び実験的開発の間におけるような科学研究者の交流又は移動を奨励し助長するための措置をとるべきである。
24 加盟国は、また、あらゆる段階における行政機関が科学研究者によって提供される特殊な技能及び洞察によって利益を受けることができるということに留意すべきである。したがつて、すべての加盟国は、科学研究者のために特別に計画された俸給表その他の雇用条件を既に導入している加盟国において得られた経験を、このような計画がどの程度自国の必要の充足を助けるかを決定するため、注意深く比較検討することによって利益を得ることができるであろう。これに関して特別の注意を払う必要があると思われる事項は、次のとおりである。
 (a)高級人材に関する総合的国家政策のわく内で科学研究者を最適に利用すること。
 (b)科学研究者の物質的条件が科学研究者と同等の経験及び資格を有する他の仕事に従事する者の物質的条件と均衡のとれたものであり、かつ、自国における生活水準を維持することができるものであることを確保するため、科学研究者の物質的条件を定期的に検討するために必要なあらゆる保証を伴う手続を用意することが好ましいこと。
 (c)公的研究機関において適正な経歴開発を準備することの可能性並びに科学的及び技術的に高度の能力を有する科学研究者に対し科学研究及び実験的開発の職から行政の職への移動のための選択の自由を与えることの必要性
25 加盟国は、更に、科学及び技術が自国の他の分野の活動との緊密な接触によって刺激を受け得るものであり、かつ、その逆も可能であるという事実を利用すべきである。したがつて、加盟国は、科学研究者が厳密な意昧での科学研究及び実験的開発の環境において初期的に培われた個人的好み及び才能によって同系統の活動へと進んでゆくことを邪魔しないよう配慮すべきである。むしろ、加盟国は、科学研究者が科学研究及び実験的開発の初期的な訓練及びその後に獲得された経験によって科学研究及び実験的開発の管理のような分野又はこれより広い科学・技術政策全体のような分野における潜在的能力を現す場合には、当該科学研究者がこのような方面にその才能を十分に発揮するよう奨励することに常に注意すべきである。

科学及び技術に関する国際的集会への参加
26 加盟国は、科学及び技術の健全な発展にとつて極めて重要である世界中の科学研究者の間における意見及び情報の相互作用を積極的に促進すべきである。加盟国は、この目的のために、科学研究者がその経歴を通して科学及び技術に関する国際的集会に参加し、また、海外へ旅行することができることを確保するために必要なあらゆる措置をとるべきである。
27 加盟国は、更に、科学研究及び実験的開発を遂行し又はその遂行を所管するすべての政府機関又は準政府機関が経常的に予算の一部をその雇用下にある科学研究者によるこのような科学及び技術に関する国際的集会への参加のための財源に充てるよう配慮すべきである。

一層高度の責任及びそれに対応する一層高い報酬を有する職への科学研究者による接近
28 加盟国は、国に雇用されている科学研究者による一層高度の責任及びそれに対応する一層高い報酬を有する職への接近に関する決定が、そのような科学研究者によって獲得された公的又は学術的な学識証明及び立証された技能に基づくのみならず、現在又は最近の業績によって証明されるそのような科学研究者の能力についての公平かつ現実的な評価に本質的に基づいてなされるよう実際的に奨励すべきである。

健康の保護及び社会保障
29(a)加盟国は、科学研究者の使用者として、国に雇用されている科学研究者の健康及び安全並びに当該科学研究及び実験的開発によって悪影響を受けるおそれのある他のすべての人々の健康及び安全を―国内法令及び厳しい環境あるいは危険な環境からの勤労者一般の保護に関する国際文書に従って―合理的に可能な限り保障する責任があるということを容認すべきである。したがつて、加盟国は、科学的施設の管理者が適切な安全基準を実施することを確保し、国に雇用されているすべての人々に対し必要な安全措置について訓練し、危険にさらされるすべての人々の健康を監視し、かつ、保護し、特に科学研究者自身によって国の注意が喚起された新しい(又は潜在的な)危険の警告に正当に留意し、かつ、適宜行動し及び労働日と休日の期間を適切なものとし、かつ、年次有給休暇を後者に含めることを確保すべきである。
 (b)加盟国は、同様な措置を他のすべての科学研究者の使用者に対し奨励するためにあらゆる適当な措置をとるべきである。
30 加盟国は、科学研究者がその年齢、性、家族状況、健康状態及びその遂行する仕事の性質にふさわしい適当かつ正当な社会保障の措置を(他のすべての仕事に従事する者と共に)享受することができるよう準備がなされることを確保すべきである。

創造性の促進、評価、公表及び承認
促進
31 加盟国は、科学及び技術の分野におけるすべての科学研究者による創造的遂行を刺激するよう積極的に配慮すべきである。

評価
32 加盟国は、国に雇用されている科学研究者に関して次のことを行うべきである。
 (a)科学研究者の創造性の評価に関するすべての手続において、恒常的な形態で現れることのほとんどない個人的才能を測定することには固有の困難性があることに正当な考慮を払うこと。
 (b)(a)の才能が次のいずれかのことによって有益に刺激されると思われる科学研究者に対しそのことをできるようにし、適当な場合には、そのことを奨励すること。
       (i)科学又は技術の新しい分野へ転ずること。
       (ii)科学研究及び実験的開発の仕事から、経験及び証明された他の個人的才能が新しい環境の中でよりよく生かされ得るような他の職業へ前進すること。
33 加盟国は、科学研究者の他の使用者に対し同様の措置を奨励すべきである。
34 加盟国は、創造性の評価に関連する要素として、次のことができるよう科学研究者に対し確保することに努力すべきである。
 (a)全世界の同僚からあてられた質問、批評及び示唆並びにこのような交流及び意見交換によってもたらされる知的刺激を支障なく受けること。
 (b)科学的功績に基づく国際的賞讃を平穏裡に享受すること。

公表
35 加盟国は、科学研究者が相応の名声を得るよう助力すること並びに科学・技術、教育及び文化一般の進歩を促進することを目的として、科学研究者が達成した成果を公表することを奨励し助長すべきである。
36 このため、加盟国は、科学研究者の科学的及び技術的著作物が適当な法的保護特に著作権法によって与えられる保護を享受することを確保すべきである。
37 加盟国は、科学研究者の組織と協議の上かつ標準的慣行として次のことを行うよう使用者に対し奨励し、また、使用者としての国自らも努力すべきである。
 (a)科学研究者が自己の仕事の成果を公表する自由を有し、かつ、公表するよう奨励されることを規範とみなすこと。
 (b)公共の利益並びに科学研究者の使用者及び同僚の科学研究者の権利と矛盾しないように、科学研究者がその成果を公表する権利に対する制限を最小限にすること。
 (c)(b)の制限が適用されることとなる場合を雇用条件の中に文書で可能な限り明確に表現すること。
 (d)同様に、37にいう制限が特定の場合に適用されるかどうかについて科学研究者が確認する手続及び異議申立ての手続を明確にすること。

承認
38 加盟国は、科学研究者がその職務で示した創造的努力に対し適当な精神的支持及び物質的補償を受けることに高い重要性を与えることを表示すべきである。
39 したがつて、加盟国は、
 (a)次のことに留意すべきである。
      (i)科学研究者がその証明された創造性に対し名誉と承認を受ける度合は、その仕事への満足感の度合に影響するであろうということ。
      (ii)仕事への満足感は、一般に科学研究の遂行に影響しそうであり、また、特にその遂行における創造的要素に影響するであろうということ。
 (b)証明された創造的努力について科学研究者に適当な待遇を与え、また、与えることを奨励すべきであること。
40 同様に、加盟国は、次の標準的慣行を採用し、また、採用するよう奨励すべきである。
 (a)科学研究者が行う科学研究及び実験的開発の過程で生じ得るすべての発見、発明及び技術的知識の改善に関し科学研究者(及び、適当な場合には、その他の利害関係者)にいかなる権利(もしあるとすれば)が属すべきかを明瞭に述べる書面による規定が科学研究者の雇用条件に含まれること。
 (b)科学研究者の雇用前に、使用者によって、このような書面による規定に科学研究者の注意が常に喚起されること。

科学研究者の雇用条件を定めた文書の解釈及び適用における合理的な弾力性
41 加盟国は、科学研究及び実験的開発の遂行が全く型にはまつたものにならないことを確保するように努力すべきである。したがつて、加盟国は、科学研究者の雇用条件又は勤労条件を定めたすべての文書が科学及び技術の要請に合致したあらゆる合理的弾力性をもつて作成され、かつ、解釈されるよう取り計らうべきである。しかしながら、この弾力性は、同等の資格及び責任を有する他の仕事に従事する者が享受する条件よりも劣る条件を科学研究者に課するために援用されてはならない。

団体としての科学研究者による各種利益の増進
42 加盟国は、科学研究者が、仕事に従事する者一般の権利であってこの勧告の附属書に掲げられた国際文書に定められている諸原則により示唆されたものに従い、労働組合、職業団体及び学会のような団体の形で個人的及び集団的利益を保護し促進するために協同することが完全に合法的であり、また、実際に望ましいことであるということを認識すべきである。科学研究者の権利を保護することが必要であるすべての場合に、これらの諸団体は、科学研究者の正当な要求を支持する権利を有すべきである。

VI この勧告の利用

43 加盟国は、この勧告の範囲と目的の中で活動するあらゆる国内的及び国際的諸機関特にユネスコ国内委員会、国際機関、科学・技術教育者を代表する諸団体、使用者一般、諸学会、科学研究者の諸職業団体及び労働組合、科学著作者団体並びに青年団体と協力することによって、科学研究者の地位に関する自己のとる措置を拡充し及び補完するよう努力すべきである。
44 加盟国は、最適な手段によって、43にいう諸団体の仕事を支持すべきである。
45 加盟国は、科学研究者が社会への奉仕の精神に沿つて効果的にその責任を引き受け、諸権利を享受し及びこの勧告に明示された地位の承認を得ることを確保するために科学研究者を代表するすべての団体の注意深いかつ積極的な協力を得るべきである。

VII 最終条項

46 科学研究者がある事項についてこの勧告で定められた地位より有利な地位を享受している場合には、この勧告の規定は、すでに得た地位を低下させるために援用されてはならない。

附属書

勤労者一般又は特に科学研究者に関する国際文書及び他の文書
A 国際条約
 国際労働機関の国際会議で採択されたもの
  結社の自由及び団結権の保護条約(1948年)
  団結権及び団体交渉権条約(1949年)
  同一報酬条約(1951年)
  社会保障(最低基準)条約(1952年)
  差別待遇(雇用及び職業)条約(1958年)
  放射線防護条約(1960年)
  業務災害給付条約(1964年)
  障害、老齢及び遺族給付条約(1967年)
  医療及び疾病給付条約(1969年)
  ベンゼン条約(1971年)

B 勧告
 国際労働機関の国際会議で採択されたもの
  労働協約勧告(1951年)
  任意調停及び任意仲裁勧告(1951年)
  放射線防護勧告(1960年)
  協議(産業的及び全国的規模)勧告(1960年)
  業務災害給付勧告(1964年)
  障害、老齢及び遺族給付勧告(1967年)
  企業内コミュニケーション勧告(1967年)
  苦情審査勧告(1967年)
  医療及び疾病給付勧告(1969年)
  労働者代表勧告(1971年)
  ベンゼン勧告(1971年)

C 他の政府間活動
  国際連合経済社会理事会が1973年8月10日に、その第55回会期において採択した「国の開発における近代的な科学及び技術の役割及び国家間の経済的、技術的及び科学的協力を強化する必要」に関する決議第1826号
  同理事会の主催する会議で作成された「開発への科学及び技術の適用のための世界行動計画」
  1972年6月に、ストックホルムで宣言された「国際連合人間環境会議の宣言」

D 世界知的所有権機関(WIPO)で作成されたもの
  発明に関する開発途上にある国のためのモデル法(1965年)

E 国際学術連合会議(ICSU)で作成されたもの
  次の表題の文書
   I 科学の基本的性格に関する声明
   II 科学者憲章
   III 科学によって与えられた能力の不均衡な適用から生ずる危険について
  これらの文書は、国際学術連合会議の科学及びその社会的関係に関する委員会(CSSR)によって作成され、同会議の総会(第5回会期  1949年)の要請によって同会議のすべての加盟国に伝達された。
    次のことに関する決議
   科学者の自由な交流
  この決議は国際学術連合会議総会の第14回会期(ヘルシンキ 1972年9月16日から21日まで)において採択された。

F 世界科学者連盟(WFSW)で作成されたもの
  1948年2月の世界科学者連盟総会によって採択された科学者憲章
  1969年4月の世界科学者連盟総会によって採択された科学者の権利に関する宣言

  以上は、国際連合教育科学文化機関の総会が、パリで開催されて1974年11月23日に閉会を宣言されたその第18回会期において、正当に採択した勧告の真正な本文である。

  以上の証拠として、我々は、1974年11月25日に署名した。

  総会議長
  マグダ・ヨボル
  事務局長
  アマド=マハタール・ムボウ


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