風光の美と特性の保護に関する勧告

風光の美と特性の保護に関する勧告(仮訳)

1962年12月11日 第12回ユネスコ総会採択

 国際連合教育科学文化機関の総会は、1962年11月9日から12日まで、その第12回会期として、パリで会合し、
 人類はその全歴史を通じ、時々人類の自然的環境の一部を構成する風光の美と特性に損害を与え、この損害が世界の全地域の文化的、美的さらには生命的遺産を貧しくしてきたことを考慮し、
 未開地の開拓、都市部の無秩序な発展、産業商業上の発展及びその施設のための大規模な作業ならびに広域計画の実施により、19世紀まではその進行が比較的緩慢であったこの傾向を、現代文明は加速度的に進めていることを考慮し、
 この現象が、自然的、人工的たるとを問わず、風光の美的価値及び野生生物の文化的、学術的意義に対して影響を及ぼしていることを考慮し、
 この勧告に定義されているような風光の美と特性の保護は、風光の美と特性が決定的な身体的、道徳的及び精神的影響を人類に及ぼし、また数限りなくかつ普遍的に立証されている実例のとおり、国民の芸術的、文化的生活に寄与していることから、人類にとって必要であることを考慮し、
 風光の美が、多数の国の経済的、社会的生活の重要な要素であること及びこれらの国の国民の健康を確保するに非常に役立つことを考慮し、
 一方、地域社会の生活の必要、その進展及び技術的進歩の急速な発展について正当な措置がとられるべきであることを認め、
 従って、可能であるならば場所のいかんを問わず、風光の美と特性の保護を目的とする必要な手段を検討し、採択することが極めて望ましく、かつ緊急を要するものであることを考慮し、
 風光の美と特性の保護に関する提案がこの会期の議題17.4.2として上提されており、
 第11回会期において、本件に関する提案が、加盟国に対する勧告の形で、国際的規制の主題とさるべきであるということをすでに決定しているので、
 1962年12月11日にこの勧告を採択する。
 総会は加盟国に対し、法律、または他の方法で、この勧告に収録された規範及び原則に、加盟国の主権の及ぶ領域内において、効力を与える措置を採択することによって、次の規定を適用することを勧告する。
 総会は、加盟国に対し、この勧告につき、風光の美の保護及び地域的開発に関する当局及び機関、自然の保護ならびに観光事業の発展を委任されている機関及び青少年関係団体の注意を要請するよう勧告する。
 総会は加盟国に対し、総会の決定する日限及び形式で、この勧告の実施に関する報告書を提出することを勧告する。

I 定義

1.この勧告の目的に従い、風光の美と特性の保護とは、文化的又は美的意義を有するか、あるいは典型的な自然的環境を構成する、天然あるいは人工的な、農村及び都市の景観の保存、及びもし可能ならばその復旧措置を意味する。
2.この勧告の規定は、自然保護のための措置をも補完する目的を有する。

II 一般的原則

3.風光の美と特性の保護のために採用される研究と措置は、一国の全領域に適用されるべきであり、特定の風光地に限定されてはならない。
4.採用されるべき措置の選択に際しては、関係風光地の相対的意義について、しかるべき考慮をはらうべきである。これらの措置は、風光地の特性と規模と位置及びそれがさらされている危険の性質に従って変化しうる。
5.保護は、自然の風光地のみに限定さるべきでなく、人間の手により、その全部又は一部が構成されている場合にも適用されるべきである。特に建物の建造及び土地の投機により、一般的に最も恐威にさらされている都市風光地の保護を確保するために特別の規定がなされなければならない。特別な保護は歴史的記念物に対する接近にも調和すべきである。
6.風光地の保護のためとられる措置は、予防及び補修の双方を含むものでなくてはならない。
7.予防措置の目的は、風光地を、それを脅かす可能性のある危険から保護することにある。
 これらの措置は、特に風光地に損害を与えるが如き作業及び活動の監督を含むべきである。
 例えば、
  (a)すべての様式の公共及び私用の建造物の建築。これらは建造物自身の美的要件に合致するよう建築されるべきである一方、伝統的、絵画的様式の安易な模倣を避けつつ、保護されることが望まれる一般的雰囲気にも調和するものでなくてはならない。
  (b)道路の建設
  (c)高圧及び低圧電線、発電所及び送電の施設と設備、空港、ラジオ及びテレビ放送局等
  (d)ガソリン・ステーション
  (e)広告板及び照明設備
  (f)森林の伐採、風光の美に寄与している、特に公道または街路にならんでいる樹木の伐採を含む。
  (g)空気及び水の汚染
  (h)炭鉱及び石山の作業ならびに同廃棄物の処理
  (i)泉水のパイプによる送水、かんがい作業、ダム、運河、水路、河川規整作業等
  (j)キャンプ
  (k)使いふるした資材及び廃物ならびに家庭、商業及び工業のくずの捨場
8.風光の美と特性の保護に際しては、騒音をともなう現代のある種の作業形式及びある種の活動に原因を有する危険に対しても配慮がなされなくてはならない。
9.他の方法で、計画または保護されている地域における風光地を害するが如き行動は、公共または社会福祉上、絶対的に要請される場合にのみ許可されるべきである。
10.補修的措置は、風光地が蒙った損害を復旧するとともに、できる限り原形に復元せしめることを目的とするべきである。
11.加盟国の風光地保護に責任を有する各種の公共機関の任務の達成を容易にするため、科学的研究機関が、本件に適切なる法律および規定を整備し法典化する目的で、権限を有する当局と協力するために設立されなくてはならない。これらの法規及び科学的研究機関により実施された作業結果は、定期的に更新される独立の政府刊行物により公にされなくてはならない。

III 保護措置

12.風光の保護は、次の方法の使用により確保されるべきである。
  (a)責任を有する当局による一般的監督
  (b)都市発展計画及び地域レベル、農村及び都市レベル等すべての段階における計画立案に義務条項を挿入すること。
  (c)「地帯による」包括的な風光地計画
  (d)隔離された風致地区の計画
  (e)自然保護区及び国立公園の設定と保持
  (f)地域社会による風致地区の確保

一般的監督
13.一国の全領域を通じて、風光地に損害を与えるがごとき作業及び活動に一般的監督がなされねばならない。

都市計画及び農村計画の概要
14.都市計画及び農村計画の概要は、影響をうける地域に存在している風光地(未計画の風光地も含む)の保護を確実にするための義務を明確に規定しなくてはならない。
15.都市計画及び農村計画の概要は、緊急を要する順に、特に、都市または地域の美的、絵画的特性の保護のため、かゝる概要の設定を必要とする急速な発展途時にある都市または地域のため作成されなくてはならない。

「地帯による」広範な風光地の計画化
16.広範な風光地は「地帯による」計画がなされなくてはならない。
17.計画された地域において、美的特性が第一義的重要性をもつとき、「地帯による」計画は、事業の規制および、一般的美的秩序―材料およびその色彩の規制、高さの基準、ダム建設および採石作業から生じる土壌の攪乱をおおう処置及び樹木の伐採の規制等を含む―の要請を守ることを含む。
18.「地帯による」計画は公にされなくてはならない。計画された風光地の保護のため守られるべき一般的原則が、規定され、それは公にされなくてはならない。
19.「地帯による」計画は、原則として、損害補償は含まない。

孤立した風致地区の計画
20.孤立した小さな風致地区は、自然的人工的たるを問わず、特殊な関心をひく風致地区の一部分と同じく計画化されなくてはならない。絶景を与える地域及び価値ある歴史的記念物をとりまく地区ならびに建造物も計画にいれなくてはならない。これら計画化された地区、地域、建造物の各々は特別の行政決定を受けるべきであり、その決定は所有者に正式に通告されるべきである。
21.計画は所有者がその保護の責任を有する当局の許可なしに風光地を破損すること、あるいはその状態や外観を変えることを防止する。
22.かゝる許可が与えられるときは、その許可には、風光地の保護に必要なあらゆる条件が付加されるべきである。通常の農作業または建造物の維持作業については許可は要しない。
23.官権による収容は、計画された風光地における公の作業の実施と同じく、保護の責任を有する当局の同意を得るべきである。何人も計画された風光地において、風光地の特性または地域の外観を変更せしめるが如き権利を取得できないよう規定されるべきである。当局の同意なしに特別の契約を結ぶ権利は所有者にも与えられない。
24.計画は、いかなる方法によっても土壌、空気または水を汚染することの禁止を含むが、鉱物の採取は、特別の許可によりなし得る。
25.すべての広告は、計画された地域およびそれに近接した地域においては禁じられるか、または、その区域の保護に責任を有する当局により決定されるべき特定の場所にのみ限定される。
26.計画された風光区におけるキャンプは、原則として禁止される。ただし、責任ある当局によって限定された地域内においては許可されるが、当局の視察に従うものとする。
27.風光地の計画は、それにより生じる直接的かつ限定的侵害の場合には、所有者に補償請求権を与えることもある。

自然保護区及び国立公園
28.加盟国は、条件が至当なときは、保護さるべき地帯及び地区において、公衆の教育を意図している国立公園、または完全なまたは特別の自然保護区を設定しなくてはならない。かゝる自然保護区及び国立公園は、景観の構成及び復旧ならびに自然保護の調査を目的とした実験地帯を構成しなくてはならない。

地域社会による風光地の設定
29.加盟国は、保護される必要のある景観又は風光地の部分を構成する地区の地域社会による設定を鼓舞しなくてはならない。必要あるときは、収用措置によってもその設定をなすことができる。

IV 保護措置の適用

30.加盟国における風光地の保護を規制する基礎的規範及び原則は、法的強制力を有すべきで、これらの適用措置は、法律に基づいて、責任ある当局に委任されるべきである。
31.加盟国は、行政的ないし諮問的性格を有する専門的機関を設立すべきである。
32.行政的機関は、中央ないし地方の特殊機関であり保護措置の実施を委任される。したがってこれらの行政機関は、保護及び計画化の問題を研究し、関係観光地の調査を実施し、またとられるべき決定事項の準備及びその実施を監督するなどの権限を有するものとする。ある種の作業により生じるかもしれない危険を軽減せしめるよう意図された措置及びかゝる作業により惹起された被害の復旧作業の提起も、ともに委任されるべきである。
33.諮問機関は、全国的、地域的及び地方的水準の委員会で構成され、保護に関する問題を研究し、中央または地方関係当局ならびに関係地域社会に、これら諸問題に関する意見表明をし得るべきである。これらの委員会の意見は、あらゆる場合に、また最も妥当と思われるときに、求められるべきである。特に高速度道路建設、河川工事又は新しい産業施設の設置など公衆の利害に関係する大規模な作業に際しては、第一次的計画の段階において求められなくてはならない。
34.加盟国は、国内及び地方の民間機関の形成及び運営について援助しなくてはならない。これら機関の一つの機能は、特に風光地に恐威を及ぼしている危険につき、公衆に通報するとともに関係行政部門に警告を発することにより、第31条~第33条に述べてある機関と協力することにある。
35.風光地の保護に関する関係法規に対する違反は、損害賠償または当該風光地を可能な限り原状に回復する義務を伴うものでなくてはならない。
36.行政処分または刑事処分は、保護さるべき風光地に故意に損害を与えた場合に適用されるべきである。

V 公衆教育

37.教育活動は、学校の内外において行なわれ、風光地に対する公衆の尊重をかん起し、保護を確保するため施行されている法規を広く知らしめる目的をになうものでなくてはならない。
38.学校においてこの任務を委託される教師は、中等及び高等教育機関において、特別な履修科目という形式で、特別な訓練を受けるべきである。
39.加盟国は、この目的のため、すでにとられている教育的行為をさらに効果あらしめるため、現在の博物館の機能を促進し、特定の風光地の自然的文化的特性の研究及び展示をするため、特別な博物館、または現存の博物館の特別部門の新設の可能性を考慮しなくてはならない。
40.学校外における公衆教育は、風光地の保護または自然保護のための民間団体、関係旅行業者団体及び青少年または成人教育機関の刊行物の任務とする。
41.加盟国は物質的援助の提供、映画、ラジオ、テレビ番組、常置、臨時または移動展覧会用資料、ならびに教育目的にそい、広く配付できるパンフレット、書籍などの適当な宣伝手段を諸団体及び教育者に利用可能ならしめることにより、公衆教育に便宜を与え、この仕事に携っている諸団体及び機関の活動を促進する。広範な宣伝は新聞、雑誌、地方の定期刊行物によっても行なわれる。
42.国内及び国際「日」、コンテスト及び類似の機会により、風光の美と特性の保護が地域社会にとって第一義的重要性をもつという事実について公衆の注意をかん起し、自然的人工的風光地の価値につき理解を深めさせる。


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