第38回ユネスコ総会について(文部科学大臣への答申案)

27受ユ国統第  号
平成27年7月  日

文部科学大臣 下村博文 殿

日本ユネスコ国内委員会会長 安西  祐一郎

第38回ユネスコ総会について(答申)

 平成27年6月18日付け27文科統第66号で諮問のありました標記のことについて、第137回日本ユネスコ国内委員会(平成27年7月14日開催)の議を経て、日本ユネスコ国内委員会は、下記のとおり答申します。

第38回ユネスコ総会におけるユネスコ2016-2017年の事業・予算に関する審議に関する方針について

1.第38回ユネスコ総会における基本的方針

 1945年にユネスコ憲章が採択されてから、ユネスコが70年の間「人の心に平和の砦を築く」という理念のもと、教育、科学及び文化分野の協力と交流を通じた国際平和と人類の共通の福祉の促進を目的とした活動に取り組んできたことを高く評価する。我が国は、1951年にユネスコに加盟し、教育、科学、文化及びコミュニケーション分野の交流・協力を通じて多くのことを学ぶとともに、世界各国の人づくりと相互理解の推進に貢献するとの観点から、ユネスコに対して積極的に協力してきたところである。
 一方、教育、科学、文化の普及やグローバル化の進展に伴い、70年前には想定しなかった地球規模の複雑な課題が顕在化しており、それらに取り組む上で、ユネスコが国連の専門機関として教育・科学・文化に関する取組の指針、方向性を示し、加盟国や国際社会を導いていくことが求められている。
 ユネスコにおいては、米国の資金拠出停止(分担率:22%)による厳しい財政状況が継続しており、我が国としてはボコバ事務局長の力強いリーダーシップにより、人員再編計画や各種節減努力が確実に実行されてきたことを高く評価するとともに、引き続き効率化が図られることを期待する。
 また、次期二カ年予算に関する議論に関し、我が国は最も効率的且つ効果的な予算策定を重視しており、実質的な最大財政貢献国として、他の加盟国と協働しつつ、ユネスコがポスト2015年開発アジェンダへの貢献を含め、前述のユネスコの使命を十分に果たすことを求める。

2.2016-2017年事業・予算案(38C/5)等に関する方針

1.総論

1)今次総会の主要議題である38C/5案は、前回総会で定められた、現中期戦略(37C/4:2014-2021)を踏まえ、現行の事業予算(37C/5:2014-2017)を調整したものである。

2)ユネスコが現在直面している財政難を、構造的な問題に対して取り組む好機と捉え、事業の精選化・重点化、管理運営の合理化及び財政の健全化等が一層進められることを期待する。

3)現中期戦略における包括的目標は「平和(持続的な平和への貢献)」と「持続可能な開発(持続可能な開発と貧困撲滅への貢献)」の二つに絞り込まれており、引き続きこの二つの目標達成のため、他の国連機関及び国際機関と調整・連携しつつ、教育、科学、文化及び情報・コミュニケーション分野においてユネスコが比較優位を有する取組を一層推進すべきである。特に、持続可能性に関する課題に取り組むに当たっては、分野横断的な取組が不可欠であり、多岐にわたる分野を所掌するユネスコの特質を最大限生かし、包括的に取組を推進すべきである。

4)また、持続可能な社会の構築に向けた取組としては、我が国が提唱しユネスコが国連システムにおける主導機関として推進している「持続可能な開発のための教育(ESD)」と、我が国から提案した「サステイナビリティ・サイエンス」について、重点的に推進すべきである。

2.教育分野

 教育を受ける権利は、人類の重要な権利の一つであり尊重されるべきである。経済発展に果たす教育の実利的役割を越えて、様々な指標をもって統合的な幸福、豊かさに教育がどのように貢献しているかを考え、共通の利益としての教育、知識の重要性を再認識することを期待する。

1)将来の国際教育アジェンダ
37C/4の戦略目標3の「万人のための教育(EFA)の促進と将来の国際教育アジェンダの形成」は、今後の世界の教育を方向付ける、ユネスコにとって最重要の検討事項の一つであり、EFAダカール行動枠組(FFA)の後継行動枠組の策定・実行において、ユネスコは主導的役割を果たすべきである。また、ポスト2015年開発アジェンダの教育分野の目標である質の高い教育の保証について、ESDは大きく貢献するものであることから、ポスト2015年開発アジェンダの実行過程に、ESDを強固に位置付けていくことが重要であり、その意味で、2016年3月の国連統計委員会で策定されるポスト2015年開発アジェンダの指標については、教育分野の目標であるゴール4のうち,特にESDに言及しているターゲット4.7の指標の作成過程において、ユネスコによる検討結果の積極的なインプットがなされるべきである。

2)持続可能な開発のための教育(ESD)
 ESDは戦略目標2の中で言及される持続可能な社会の実現のために重要な要素であることを踏まえ、ESDが各国の教育政策、計画及びカリキュラムに一層盛り込まれるとともに、ポスト2015年開発アジェンダに強固に位置付けられることが重要である。我が国は、これまでユネスコへの信託基金等により、ESDの推進に積極的に貢献してきた。また、昨年11月には、我が国で「ESDに関するユネスコ世界会議」を開催し、各ステークホルダーがESDを更に強化し、そのための行動を起こすことを宣言する「あいち・なごや宣言」が採択された。ユネスコは、本会議の成果を十分に踏まえ、グローバル・アクション・プログラム(GAP)という新たな枠組に沿って、世界でESDの取組がさらに推進されるよう、リーダーシップを発揮し、ユネスコ事務局内での予算・人員の両面において体制の強化を図るべきである。

3.自然科学及び人文・社会科学分野

 ユネスコの科学事業は、ポスト2015年開発アジェンダの実施において先導的な役割を果たすべきである。特に、ユネスコは自然科学と人文・社会科学の両方を所管する国際機関として、「サステイナビリティ・サイエンス」の考えのもと、教育セクターを含む分野横断的かつ統合的なアプローチを取り入れることにより、持続可能な地球社会の実現に貢献すべきである。
 また、「サステイナビリティ・サイエンス」の重要性について、科学コミュニティーや政策立案者に対し、唱導していくべきである。
 なお、本総会において、ユネスコの正式事業化が審議されるグローバル・ジオパークについて、当該事業が地域の振興と持続可能な社会の実現に貢献することを期待したい。

4.文化分野

 文化分野において「遺産の保護、理解増進及び周知」及び「創造性の涵養及び文化的表現の多様性」の二つの戦略目標の下に更なる取組が促進されることを求める。
 特に、文化多様性を実現することは、異なる文化間の相互理解を深め、世界の平和と安全に結びつけるために有効である。
 また、ユネスコが今まで実績をあげてきた、世界遺産条約事業、無形文化遺産保護条約事業を通じて、文化財の保護・保全と活用を引き続き促進することが必要である。
 さらに、「創造性の涵養及び文化的表現の多様性」の戦略目標の下、クリエイティブ・シティーズ・ネットワークの一層の拡大を期待する。

5.コミュニケーション・情報分野

 ユネスコの設置目的である国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進するために、知識とアイデアを世界に流通させ、また、人類の貴重な記録に関する保存とアクセスを推進することは重要である。
ユネスコ記憶遺産事業が、ユネスコと加盟国の協力により、上述の理念を実現するための事業として発展していくことを期待する。

6.普及分野

 ユネスコ事業の実施・普及を効果的に推進するために、加盟国政府・国内委員会とともに各国のユネスコクラブ・協会、NGO、学校・教育機関、メディア及び民間企業とパートナーシップを構築し、連携・協力を一層強化していくことが必要である。また、ユネスコ活動を若者にとって大きな魅力と訴求力を有するものとしていくことが、ユネスコの将来を決定付ける重要な鍵を握っていると言っても過言ではない。
 我が国では、ユネスコ加盟前から民間によるユネスコ活動が発足しており、日本ユネスコ協会連盟、ユネスコアジア文化センターが国内外のユネスコ活動の推進において中心的な役割を担ってきた。さらに、国内のユネスコスクールの数も900校を超え、学校におけるユネスコ活動の推進や若者に対するユネスコの理念の理解を図っているところである。
 ユネスコが、各国における民間ユネスコ活動の推進や、ユネスコスクール・ネットワークを通じた学校レベルでのユネスコの理念及び活動の普及、若者や企業のユネスコ活動への参加促進やユネスコ活動への理解と認知度を高めるための役割を一層果たしていくことが重要である。

 

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