ユネスコ70周年日本ユネスコ国内委員会会長ステートメント(案)

ユネスコ70周年 日本ユネスコ国内委員会会長ステートメント(案)
「表題:未定」

 「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」という一文から始まるユネスコ憲章が1945年11月16日に採択されてから、今年は70周年という記念すべき年に当たります。70年の間、ユネスコは教育、科学、文化の協力を通じて国際平和と人類共通の福祉の促進に努めてきました。
 我が国は、ユネスコに加盟する以前より、国民の間で自発的にユネスコ活動への参加の機運が高まり、1947年に民間ユネスコ運動が発足した歴史があります。その後、国連加盟に先立ち1951年にユネスコに加盟して以降、教育、科学、文化及びコミュニケーション分野の交流・協力を通じて多くのことを学ぶとともに、世界各国の人づくりと相互理解の推進に貢献するとの観点から、ユネスコに対して積極的に協力してきました。
 一方で、70年前と比べ、情報技術の発達やグローバル化などユネスコや私たちを取り巻く環境は大きく変化しました。ユネスコの国際平和の実現という普遍的な目的は変わらないものの、その主体や実現の方法が複雑化、多様化していると言えます。
 このような状況において、ユネスコの役割を再確認し、ユネスコ及びその加盟国に対する期待を表明するとともに、わたしたち日本国民、特に若い世代に対して、ユネスコの意義と日常とのつながりを明らかにすることでユネスコに対する関心の向上を図るために、本ステートメントを発信します。

1.ユネスコ今までの役割とこれからの方向性

〇ユネスコを取り巻く環境の変化
 ユネスコは第二次世界大戦の惨禍を経験した人々が二度と悲惨な戦争を繰り返さないという思いが生み出したものです。憲章が採択されてから70年の間、ユネスコは「人の心に平和のとりでを築く」という理念のもと、教育、科学及び文化分野の協力と交流を通じた国際平和と人類の共通の福祉の促進を目的とした活動に取り組んできました。
 70年の歳月は、私たちやユネスコを取り巻く環境を大きく変えてきました。経済成長や富の創造に伴う生活の改善、人々の教育へのアクセスの向上、IT分野を含む科学技術の発達、国際的な人権擁護の枠組みの強化など、ユネスコの扱う分野は大きな発展を遂げました。他方、国際的なテロリズムの台頭、地球温暖化や環境の悪化、文化的・宗教的不寛容を始め、グローバリゼーションが引き起こす新たな問題などにも直面しています。

〇ユネスコの役割の変化
 このような状況の中で、ユネスコの理念及び目的の意味を改めて問い直す時期に来ているのではないでしょうか。つまり、70年前のユネスコの役割は、教育、科学、文化を普及促進することに重点がおかれていましたが、現在では、例えば教育の質の向上、持続可能な社会の構築に貢献する科学の推進、文化多様性の向上など、70年前には想定しなかった、教育、科学、文化の普及に伴う新たな課題が顕在化しており、それらの複雑な課題に取り組むことが求められています。
 一方、地球上における戦争や紛争、貧困や飢えに苦しむ人々がいなくなったわけではなく、むしろ紛争による犠牲者は増え、貧富の差はますます広がっているとさえ言われています。新たな課題に配慮しつつも、引き続き紛争や騒乱を生み出す深刻な貧困や飢餓に直面する国や地域の課題の解決に尽力することがユネスコの重要な責務です。

〇人々のつながりを導く「知的リーダー」として、国際社会における役割の向上
 では、これからのユネスコはどのような役割が求められているのでしょうか。
 ユネスコ憲章の前文には、「政府の政治的及び経済的取極のみに基づく平和は、世界の諸民族の一致した、しかも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かねばならない」と述べられているように、平和が「人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない」ことを再認識し、平和と持続可能な地球社会の構築に努めていくことではないでしょうか。知識の醸成とともに、思いやりや良心、寛容な心を育む教育の推進、地球環境の持続可能性と人間社会の持続可能性を考慮した発展の実現、科学と思想、哲学、芸術などの文化のつながりの強化により、平和と持続可能性に資する新しい世界観・生命観を打ち出していくことが、これからのユネスコの先進的な役割になると考えます。
 70年の間で最も大きな変化の一つに、NPOやNGO、一人一人の人間のつながりが国境を越え、国家という枠組みを超えて大きな力を発揮しうるようになったことが挙げられます。特に教育、科学、文化の推進は政府のみではなく、一人一人の人間のネットワークによって進められるものです。ユネスコにはそれらの人と人とのつながりを導く「知的リーダー」としての役割が設立当時以上に求められていると考えます。
21世紀の初頭、ユネスコは中期戦略の中で「アイディアの実験室(a laboratory of ideas)」「規範の制定(a standard-setter)」「クリアリングハウス(a clearing house)」「加盟国の能力開発(a capacity-builder in Member States)」「国際協力の触媒(a catalyst for international cooperation)」の5つの機能を明確化しました。しかし、現在は教育・科学・文化に関する情報収集、優良事例の共有といったクリアリングハウス的機能に事業が集中しており、例えばかつて生涯教育(lifelong learning)を定義し広めたような、世界に影響を与える「アイディアの実験室(a laboratory of ideas)」の機能は徐々に衰退していっていると言えます。
 しかし、国連の専門機関として、政府のみでなく、NPOやNGO、若者等の参画を広く得ながら、最先端の研究や知に基づいた21世紀のパラダイムシフトを促すとともに、教育・科学・文化に関する取組の指針を示し、加盟国や国際社会、世界の人々を導くことこそ、ユネスコに求められていることではないでしょうか。

2.サステイナビリティと多様性を推奨するための取組

 これからのユネスコの取組は、中期目標にあるように、教育、科学、文化のすべての領域において「平和の構築」と「公平で持続可能な開発」を目指すものであると考えます。また、現在の多様で複雑化した社会において、「多様性の尊重と維持」は健全な地球社会を担保する上で不可欠であり、ユネスコの取組の重要な柱に据えるべきであると考えます。
 我が国は、古来より多種多様な外来文化を受容しつつ独自な文化様式を形成し発展させてきました。また、資源の乏しい我が国では、以前より循環型社会を形成してきたほか、高度経済成長期における公害問題を克服して環境保護と経済発展を両立させてきた歴史があります。これらの知見と経験をユネスコの取組に積極的に生かしたいと考えています。
 教育を受けることは昔も今も人々の重要な権利であり、尊重されるべきものです。経済発展に果たす教育の実利的役割を越えて、教育を受ける権利と教育そのものが人々が共有すべき重要な財産ととらえることが必要です。つまり、教育を経済発展だけで測るのではなく、いろいろな指標をもって、統合的な幸福や豊かさに教育がどのように貢献しているかを考え、共通の利益としての教育、知識の重要性を再認識することが期待されます。
 また、持続可能な開発のための教育(ESD)は、持続可能で多様性を尊重する社会の実現に貢献する智恵を育む教育と言えます。さらに、グローバル化が進む社会において、地球市民としての倫理、価値観を醸成するグローバル・シチズンシップ教育も大きな意味を成してくるでしょう。
 こうした教育は、人類の知識、智恵、倫理観を総合的に高めるものでなくてはなりません。
 さらに、持続可能性を確保するための統合的アプローチも不可欠です。地球規模の課題に取り組む際には、多様な人間の価値観を考慮しながら、人類全体に奉仕するべきものであると同時に、生態系を損なうことなく、地球、社会、人といった異なる時空間スケールでの持続可能性及び幸福の追究を目指した統合的な科学の取組が必要です。
 多様性の尊重と維持に向けて、文化的多様性を実現することは、異なる文化間の相互理解を深め、世界の平和と安全に結びつけるために有効です。創造性という面での多様性を開花させるためには、「世界人権宣言」及び「経済的、社会的及び文化的権利に関する規約」に定義された文化的権利の完全実施が必要ですが、文化的権利とは何か、ユネスコが文化的権利を具現化し、各国を主導していくことが求められます。あわせて、ユネスコが今まで実績をあげてきた、文化財の保護・保全と活用を引き続き進めることも有意義であると考えます。
 情報技術の進歩における情報コミュニケーションは、教育の普及・向上、科学の進化、異文化理解・交流ほか、あらゆる分野・領域に大きな影響を与えています。ユネスコは、こうした最先端技術に加え、人間のコミュニケーションの原点に立ち返って、対話の重要性を説くと共に、国家間、人と人をつなぐ平和構築のための有効な手段として積極的に活用するなど、新たなコミュニケーション事業にも取組む必要があると考えます。

3.おわりに

 ユネスコの理念は70年たった現在においても色褪せず、むしろ現在の不安定な社会においてはその理念は設立当初より大きな意味をなすと言っても過言ではありません。一方で平和の実現への道程は複雑化、高度化しており、今まで以上に教育・科学・文化の多様で包括的なアプローチから取り組んでいくことが必要であると考えます。
 そのためにも、ユネスコは加盟国や国際社会を主導し、ユネスコに係るあらゆるステークホルダーとの協力関係を強化し、更には人類の総合的な意識の向上をめざし、先進的で柔軟な開かれた組織として、平和という理念の達成のために不断の努力を続けることを期待します。
 我が国は、国家としてユネスコに正式加盟する以前より民間レベルでユネスコ活動に参画しており、国民一人一人は平和に対する強い思いを抱いています。この思いを将来世代の若者に引き継ぐとともに、引き続きユネスコと協力しつつ、国際社会を平和にし、豊かにし、人々の幸福を実現していく上において、より大きな役割を果たしていくことをここに表明するものであります。

 

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