前回の記事に続いて、ポスター写真を撮影した荒井さんが通う、徳島県の阿南工業高等専門学校で行われている「起業体験」についてお話しを伺いました。
【起業体験は実社会そのもの】
― 荒井さんが社長というのはどういうことなんですか?
小松 私たちが所属する電気コースでは、「電気技術イノベーション実習」という実習を行っています。その実習では、学生がやってみたいと思うことをとにかくやってみる、をモットーに起業体験をしているんです。
― 起業、ということは実際に会社を設立するんですね。
小松 はい。この実習は2年生から4年生までが参加しています。4年生の中から社長を決めて、それぞれが会社の中でやりたいことを決めて、その会社の運営をすべて任せました。ですから、社長は社員を採用しますし、会社の運転資金を獲得するために事業をどうすれば拡大できるか、魅力のあるものにできるかを考えます。また、会社を運営するための組織作りも必要です。社長でない学生も、自分の資質、能力を活かせる会社、自分のやりたいことができる会社に採用してもらうために、履歴書を作って採用面接を受けることになります。
― 実社会そのものですね。でも、実社会では、希望する会社に受からなかったり、入社してから合わなくて転職、ということもありますよね。
小松 この実習でももちろんあります。社長も自分の会社に必要な社員なのかどうか見極めて採用しますし、採用しても必ずしも期待どおりに働いてもらえないこともありますから、お互い真剣です。
― 桑野さんも榊さんも荒井さんの会社の社員ということですが、どうしてこの会社を選んだのですか
榊 会社の説明を受けて、自分のやりたいことができる会社がどこかを考えて、この会社がいいな、と思いました。
― 桑野さんは4年生ですから社長ということは考えなかったんですか。
桑野 私は性格的に社長として前に出るよりは上の人を支える役回りのほうが合っていると思ったので社長にはなりませんでした。
― 自分のできること、やりたいことを自分で考えた結果なんですね。ところで荒井さんの会社の社名はあるんですか。
荒井 はい。ALICe(ありす)です。ロゴも作っているんですよ。新しい電気の実験の開発などを行っていますが、文化祭の実験とインスタに応募した写真もこの企業活動の一環でできたものなんです。
― 会社の収入というのは何をすると得られるんですか。
小松 実習では「ANETコイン」という電気コース内の仮想通貨を流通させて、いろんな活動を行っています。基本的には電気コース教職員に対する営業と大型事業の入札によって仕事を獲得することで得られます。また、今回の実験のように成果物を「売る」ことでも収入が得られます。会社ですから社員の給与はこのANETコインにより支払われますし、新しい活動を行うときの原資にもなります。なので、うまく活動ができれば会社も大きくなります。
― だから「売って」しまったんですね。すごく面白い取組ですね。このような会社は今何社あるんですか?
小松 5つの分野(電力、電子、ロボット、AI・IoT、エンタメ)があるんですが、各分野2社ずつ、合計10社あります。各会社には各学年から合計10名程度の学生が所属しています。とにかく、やりたいことをしてもらおう、そして、実社会で起こりうる失敗をこの会社の経験でやってもらおうという思いで実習を計画しています。
【eスポーツもやります】
― 確かに、失敗をするということは社会では逃げられないことですからね。実習でより実社会に近い失敗をして、そこから学んで成長できるというのは素晴らしいですね。ところで、会社は他にどのようなものがあるんですか。
小松 とにかく、やりたいことを起業してもらおうと思って始めましたので、いろいろな会社があります。中には学内のeスポーツ大会の運営をしている会社もあるんですよ。
― eスポーツですか!確かに、学内の大会運営となると、eスポーツそのものを楽しんでもらうことも必要ですが、苦手な人へのサポートや円滑に大会を進めるための準備が重要ですよね。
小松 実際にこれらの会社が活動している教室(Electrical Innovation Lab.)がありますので、ご案内しましょう。
小松 ここが実習室です。これはeスポーツで使っているものです。
小松 他にも3Dプリンタや、ホワイトボードのようにも使えるプロジェクタなども整備してみんなで議論して試行錯誤できる場となるように工夫しています。会社組織にして、学年の異なる学生を入れることで学年を超えたつながりができるとともに、会社を運営するという責任感、達成感を得ることを狙っています。
― あのリヒテンベルク図形にはこのような実習の取り組みがあったんですね。最後に、荒井さんの今後の夢や目標があれば教えてください
荒井 実験が好きでこの学校に入りましたが、もっと電気の勉強をしてみたいなと思っているので、大学への編入を考えています。あと、この実習で起業体験をして、大変さとともに楽しさも感じることができたので、起業を目指してもいいかな、とも考えるようになりました。
― ありがとうございました。
最後はリヒテンベルク図形から離れてしまいましたが、このような「科学の美」が生まれた背景には学生が自分のやりたいことを自ら考え、実行できる人と場があったからこそだと感じました。そして、写真に込められた背景がもしかしたら審査員の方に伝わったのかもしれません。
「科学の美」インスタ写真コンテストは、今後も引き続き実施していきます。科学は皆さんの身のまわりにありますので、ちょっとした科学の美を見つけて参加してみてください。
「科学の美」インスタ写真コンテストについての情報は、科学技術団体連合ホームページを御覧ください。http://uost.jp/