資料1 スポーツ国際戦略中間まとめ(案)溶け込み

スポーツ国際戦略中間まとめ(案) 2018年2月6日

1.    「スポーツ国際戦略」を策定する意義:
     平成29年3月、「第2期スポーツ基本計画」が策定された。同計画においては、「スポーツ基本計画は、国の施策を中心に国が定めるものであるが、あくまでもスポーツの主役は国民であり、また、国民に直接スポーツの機会を提供するスポーツ団体等である」こと及び「スポーツの価値は、国民や団体の活動を通じて実現されるものであり、第2期計画に掲げられた施策は、国や地方公共団体がこれらの活動を支援し、スポーツの価値が最大限発揮されるためのものである」ことが規定されており、今回のスポーツ国際戦略においても、この基本方針に従うものである。
     その上で、スポーツ国際戦略は、第2期スポーツ基本計画に基づいて、今後、その中の基本方針の一つである「スポーツで世界とつながる」を実現するものとして、スポーツの国際交流・国際協力に関する戦略的かつ具体的な施策の展開を促進するためのものである。また、スポーツ基本計画においては、「スポーツに係る国際的動向を国内施策へ還元すること」と、「国内のスポーツに関する取組事例を国際社会へ紹介すること」、つまり総称して「スポーツ国際展開」を実施することによって、「世界とつながる」ことを達成する旨が掲げられており、スポーツ国際戦略はこれに貢献するものである。
    我が国は、今後、2019ラグビーワールドカップや2020東京オリンピック・パラリンピック大会等、数年間で多くの国際競技大会を控え、スポーツ分野での国際的プレゼンスを向上する上で、またとない絶好の機会を迎える。
     この絶好の機会において、スポーツ国際展開を進めるにあたって、現在、スポーツ庁をはじめとした中央省庁や、スポーツ関係団体、競技団体、また地方公共団体等は、それぞれの目的に基づいて活動している状態にあるが、限られた人的資源・物的資源・金銭的資源の中で、効率的かつ効果的に成果を上げるためには、戦略的な関係機関間での連携が不可欠である。その上で、1つの戦略の下で、それぞれの関係機関が自律的に活動するとともに、相互に連携しながら活動することで、国際的には、日本として一貫性のある施策を打ち出すことができるし、国内的には、それぞれの取組の充実・拡大に寄与し、ひいては我が国のスポーツを通じた社会変革に貢献しうるものと考えられる。これが、本戦略を策定する理由である。

2.    スポーツ国際戦略の主なビジョン:
     我が国は、人口減少期でありかつ少子高齢化社会の中で、「高齢化社会における健康長寿」・「人口減少期におけるソーシャル・キャピタルとヒューマン・キャピタルの向上」・「成熟社会における経済振興及び地方活性化」・「国際社会におけるプレゼンスの向上」等の諸課題を抱えている。
これら諸課題の解決には様々な対策がありうるが、第2期スポーツ基本計画の「世界とつながる」というコンセプトにおいては、スポーツの力を活用して、「多様性を尊重する社会」、「持続可能で逆境に強い社会」及び「クリーンでフェアな社会」を実現することが提示されている。
これら3つの方向性は、平成29年7月のユネスコのスポーツ大臣会合(第6回、通称「MINEPS」)において、各国のスポーツ大臣によって採択された同会合の成果文書である「カザン行動計画」の3つの方向性とも合致している。

     この3つのスポーツを通じた社会づくりの方向性の実現に関し、第2期スポーツ基本計画では、「全ての人々がスポーツの力で輝き、活力ある社会と絆の強い社会を作る」ことが掲げられている。
 このため、今回のスポーツ国際戦略に基づくスポーツ国際展開においては、上記の3つのスポーツを通じた社会づくりの方向性の実現に向けて、「人々の社会参画や社会的連帯を強化すること」及び「個々人の健康増進と能力開発等に貢献すること」をビジョンとしたい。

     このビジョンの実現に向けて、短期的には、「2021年までに第2期スポーツ基本計画に掲げるビジョンと施策の達成を図ること」を目指すとともに、中長期的には、「2030年までに国際連合の「持続可能な開発目標」(以下「SDGs」)に掲げる社会課題の解決に対してスポーツが貢献していくこと」を目指すこととしたい。

3.    スポーツ国際戦略のミッション:
     スポーツ基本法においては、スポーツ国際展開を通じて、1.国際的な地位の向上、2.国際相互理解の増進及び3.国際平和への貢献等を図ることを目的(=「国際的な目的」)とするとともに、スポーツを通じた1.国民の心身の健全な発達、2.健康長寿社会及びバリアフリーの実現等の明るく豊かな国民生活の形成、3.地方創生・地域社会の再生への寄与、4.経済発展等を通じた活力ある社会の実現及び5.国際的競技力の向上等を図ることをも目的(=「国内的な目的」)としている。

    スポーツ国際戦略のミッションとしては、「スポーツ国際展開」の実行において、単に国際的な目的の達成を図るのみならず、国内的な目的の達成にも貢献するため、1.関係団体がそれぞれの活動を行う上で共有すべき「(日本としての)共通のメッセージ」を設けること、2.国際スポーツコミュニティへの日本人による積極的な関与を促進すること、3.国際的な目的と国内的な目的との効果的な連携・接続を図るためのネットワーク構築を促進すること、4.スポーツ国際展開に向けた体制整備と人材育成を推進すること、5.スポーツ国際展開の効果を他分野へ拡大するための対話枠組みの構築、及び6.限られたリソースを効率的かつ効果的に投入するためのターゲットの明確化を行うことが必要である。

4.    スポーツ国際戦略のミッション達成に向けた対策の方向性:

     上記のビジョン及びミッションの達成に向けて、本戦略では、以下の5.つの観点を、具体的な方策を実施する上での方向性としたい。

(1)スポーツ国際展開における共通のメッセージ・スローガン:
   国際社会において日本が打ち出したい強み(例:規律、他者への尊重、礼儀、ルール順守、団体活動への参画等)の特定化を行い、その言葉を国際的にも通用するような形にする(例:「SDGsへの貢献」)とともに、誰にでもビジョンが理解しやすい端的なスローガン(例:「Sport for Tomorrow」等)を掲げることが必要。そのスローガンの下で、それぞれの関係団体の活動が「チーム・ジャパン」として一体感のあるメッセージとなる工夫が必要。
   また、アスリートの協力を得て、関係機関の海外拠点や海外展開に関する事業の現場においてメッセージを発出して頂くような仕組みの検討も考えられる。

(2)国際スポーツ界への積極的な参画とそれを促進・支援する仕組み:
 国際的な動向を把握し国内に還元するためにも、我が国の好事例を世界に共有し国際的プレゼンスを向上させるためにも、様々な段階でのスポーツの国際会議等の国際コミュニティに積極的に参画し、又はそのような場面を自ら開催し、国際的なスポーツ政策の策定に貢献する必要がある。
その一環で、戦略的かつ中長期的な視野で、ユネスコ等のスポーツの国際コミュニティにおいて有力なポストを獲得するとともに、IOCやIPC等の統括団体を含めた国際競技団体等に日本人役員・スタッフをより多く派遣することで、国際スポーツ界の意思決定に積極的に参画する必要がある。そのためには、スポーツ団体等における国際人材の戦略的かつ計画的な育成を行っていく必要がある。
また、スポーツに関する国際会議(スポーツ大臣会合等)や大規模な国際競技大会等の招致や開催支援を戦略的に行い、他分野にその開催効果が波及するような工夫行うことも重要である。

(3)国内外のネットワークの構築:
スポーツに関係する省庁・地方自治体・スポーツ関係団体・大学や学会間民間企業等のネットワークを構築し、それぞれの活動について相互に情報共有し連携することで、限られたリソースの中で、効率的かつ効果的な業務遂行を図ることができる。加えて、国がイニシアティブを取って、スポーツに関する国際機関や諸外国のスポーツ担当省庁等とのネットワークを構築し、国際的動向について把握・展開する必要がある。
また、我が国はこれまで多くの国とスポーツに係る2国間覚書を締結してきたが、今後はより一層計画的・戦略的に締結することが必要である。

(4)スポーツ国際展開のための体制整備と人材育成:
  現在、国内関係機関では、スポーツ国際展開に対応できる体制が十分に整っていない上に、国としてもスポーツに関する海外拠点も少ない状況であるが、限られたリソースの中で効率的かつ効果的にスポーツ国際展開を推進するためには、スポーツ国際展開に関係する機関の既存の枠組みや海外拠点等のリソースを活用して、スポーツの国際的潮流や好事例を国内の諸施策に反映したり、国内の好事例を国際的に展開したりするための環境整備(*海外拠点の整備や情報収集・共有のプラットフォーム等)が必要である。
加えて、大学等と連携しつつ、中長期的な視野で計画的かつ意識的にスポーツに係る国際的業務に対応できる人材を発掘及び育成を行っていくこともまた重要である。

(5)スポーツ国際展開の効果の他分野への拡大に向けた対話枠組み:
  スポーツ国際展開の効果を、社会発展・開発、経済活性化又は地域振興等の多様な分野に拡大するような仕組みを意識的に設定するとともに、そのための関係者の特定と具体的なプロジェクト形成に向けた対話枠組みを構築する必要がある。
その際、事業の多様性や持続可能性を確保するとともに効果的な実施を図る観点から、民間活力との早期からの連携が必要である。
また、スポーツ基本計画及び未来投資戦略等で掲げられているとおり、スポーツ産業の成長産業化を促進する観点において、スポーツ産業のインバウンド及びアウトバウンドの両面において、スポーツ国際展開が貢献できるものがある。そのためにも、スポーツに関する情報提供をはじめとして、民間企業の参画を促すような基盤作り、ネットワーク及び対話枠組みの構築が必要である。


5.    具体的方策を実施する際の工夫・取組:

     今後、スポーツ国際展開をするための具体的方策を実施する上では、それぞれの関係者が行動計画を定めて具体的な行動を行うことが必要である。
その際、以下のとおり、1.行動計画作りに向けた枠組み、2.日本のセールスポイントの特定化と共通のメッセージ・スローガンの設定、3.国際競技大会等の戦略的な招致、4.国際スポーツコミュニティへの積極的な参画、5.現地のニーズ把握と関係者との対話枠組みの構築、6.事業のプライオリティの設定(ターゲットの特定化とスケジュール)、7.多様な関係者の特定化と連携、8.民間企業等との連携を含めた事業の継続性の確保、9.計画的な人材育成、10.指標作り・評価活動を含むモニタリングと評価枠組みの設定、11.スポーツ国際展開の基盤整備等について、留意する必要がある。

(1)「関係機関による行動計画作りに向けた枠組み」:
     スポーツ国際戦略を具体的な活動に展開するためには、各関係機関による行動計画の策定が必要である。
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・「スポーツ国際戦略」作成後の具体化(例:行動計画へのブレイクダウン)

(2)「日本の強み(=セールスポイント)の特定化と共通のメッセージ・スローガンの設定」:
     スポーツ国際展開の具体的な活動においては、日本の強み(=セールスポイント)を特定化し、それぞれの活動において共通のメッセージとなるような工夫(例:共通のスローガン・キャッチコピー等)が必要である。
【論点】
・日本の強みとなりうるスポーツの分野の設定:(例:武道、ウィンタースポーツ、パラスポーツ等)
・日本の強みとしてのスポーツのインテグリティの確保でのイニシアティブ
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・共通のメッセージ・スローガンの設定
(例:「スポーツが変える。未来を創る。」(=第2期スポーツ基本計画)、
「未来のためのスポーツ」(=「Sports for Tomorrow」)、など。)

(3)「国際競技大会及び国際会議の戦略的な招致・開催支援」:
     国際的な動向を把握し国内に還元するためにも、我が国の好事例を世界に共有し国際的プレゼンスを向上させるためには、自ら国際競技大会や国際会議を戦略的に招致・開催し、国際的なスポーツ政策の策定に自ら関与する場面を設定していく必要がある。
このため、定期的に大規模の国際競技大会やスポーツに関する国際会議等の招致や開催支援を戦略的に行い、他分野にその開催効果が波及するような工夫を行うことが必要である。
【論点】
 ・大規模の国際競技大会や国際スポーツ会議(スポーツ大臣会合等)等の定期的な招致や開催支援に係る目標の設定
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・ユネスコのMINEPS(体育・スポーツ担当大臣等国際会議)の次回会議(時期未定)の招致の是非に関する検討
・日中韓スポーツ大臣会合(2年に1度・偶数年に開催)の継続開催
・日ASEANスポーツ大臣会合(2年に1度・奇数年に開催)の継続開催
・上記以外の国際競技大会や国際スポーツ会議の招致の可能性の検討

(4)「国際スポーツコミュニティへの積極的な関与」:
     上記(3)と併せて、様々な段階でのスポーツ国際コミュニティに積極的に参画し、国際的なスポーツ政策の策定に自ら関与していく必要がある。
 このため、IFや国際スポーツ関係機関への役員派遣やスタッフ派遣の促進を図るのみならず、そこでの情報や知見の共有の図ることが必要である。
【論点】
・中長期的かつ戦略的なIF等の役員ポストの獲得
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・ユネスコのCIGEPS(政府間委員会)の会議への積極的な関与
 ・IOC、IPC、WADA及びユネスコ等への日本人スタッフの派遣促進
・IF等の役員選挙に向けたメンターの実施やマニュアルの作成
・JOCやJPCと連携したIF役員不在のスポーツ団体への相談活動

(5)「スポーツ国際展開の事業対象者のニーズ把握と協働」:
     効果的な事業実施のためには、海外の現地関係者や地方自治体関係者等を含めたスポーツ国際展開における事業対象者のニーズ把握、スポーツ国際戦略の関係者・団体の持っているリソースとのマッチング、及び現地コミュニティやNGOや現地の日系法人・企業等との協働が必要であり、そのための対話枠組みの構築が必要である。
【論点】
 ・在外公館、現地関係機関、国際NGO、政府機関等からのニーズ把握
 ・関係者間の対話枠組みの創設(スポーツ大臣会合の実施等)
 ・双方向的な交流プログラムの創設
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・日中韓スポーツ大臣会合及び実務者会合における対話
・日ASEANスポーツ大臣会合及び実務者会合における対話

(6)「事業のプライオリティの決定(ターゲットとスケジュールの設定)」:
 それぞれの具体的な活動においては、限られたリソースの効率的かつ効果的な活用に向けて、事業におけるプライオリティ、ターゲット及び作業のスケジュールの設定が必要である。
【論点】
・具体的な活動を行う上でのターゲットとする地域の設定
・戦略的な2国間交流の仕掛け(例:仏(パリ)、中、韓、露、印等)
・ターゲットとする期間・スケジュールの設定
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・政策対象ごとのターゲット地域・国及びスケジュール等の設定

(7)「多様な関係者・リソースの特定化と連携枠組み(ネットワーク)の構築」:
    スポーツ国際展開の具体的な活動においては、政府機関・独立行政法人・スポーツ関係団体・地方公共団体のほかに、民間企業、NGO、大学、学会等の多様な関係機関が関与しうる。これら関係機関を特定化し、スポーツ国際戦略が実施されるような連携の構築とネットワークの構築が必要である。
【論点】
・SFTコンソーシアムにおける多様な関係者のネットワークの継続・維持
・スポーツのネットワークの他分野(外交、産業振興、地方振興等)との連携
・IOCのオリンピック・ソリダリティの動きとの連携
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・「スポーツ国際戦略連絡会議」(中央の関係機関ネットワーク)の活用
・JSCの「ジャパン・スポーツ・ネットワーク」や「ASIA」の活用
・JOCと連携したNF国際フォーラム等の関係セミナーの活用

(8)「事業の継続性・多様性の確保と民間活力との連携」:
     国際的プレゼンスを維持しつつ信頼性を損なわないためには、事業の継続性を確保が必要不可欠である。そのためには、民の活力を活用した事業の持続性の確保に向けた連携が不可欠である。そのためにも、スポーツ国際展開の価値を他分野にも拡大し、民間企業等の関与を促すようなインセンティブの設定とビジネスモデルを構築する必要がある。
【論点】
・民間活力の活用に向けたインセンティブの創出とビジネスモデルの構築
 ・ポストSFT事業の検討
 ・IOCのオリンピック・ソリダリティの支援等の外部資金の活用

(9)「中長期での計画的な人材発掘及び育成の推進」:
     スポーツ国際戦略の海外で行う活動においては、事業対象となる人々の人材育成の仕組み作りを意識した活動が必要であり、そのためには、大学からの人材育成に加えて、国内の国際経験のある人材(例:帰国したJICAの協力隊員等)へのスポーツ国際人材となるような再トレーニングの可能性についても検討する必要がある。
【論点】
 ・計画的な人材育成プログラムの検討(*例:JOC・国際人養成アカデミー)
 ・国際NGO等との連携
 ・大学及びスポーツ・アカデミーとの連携(*学位プログラムとの連携)
 ・スポーツ界以外の他分野における人材発掘の仕組みの構築
(例:外務省のJPO派遣制度のスポーツ版等)

(10)「指標作り・評価活動を含むモニタリングと成果評価の枠組みの構築」:
     スポーツ国際展開において、当該活動がビジョンの達成にどのくらい効果があったのかについて、その成果をモニタリングし、評価するための指標作りや評価活動のための枠組みの構築が必要である。
【論点】
・KPIの設定
・PCM手法やPDM手法等の検討

(11)「関係機関の具体的活動の支援に向けたスポーツ国際戦略の基盤形成」:
     以上の留意点に加え、スポーツ国際戦略の諸活動を支えするため、ソフト・ハード両面の基盤整備が必要である。
【論点】
・スポーツに関する海外拠点の整備・拡充(NFで共同利用できる海外拠点の設置の検討)
・最先端のスポーツ科学やデジタルデータの活用・分析
・スポーツ団体のガバナンス強化
【スポーツ庁が行うべき取組み(例)】
・国際競技大会や国際会議等の国際イベントカレンダーの共有
・「国際交流状況調査」の見直しと有効活用
・関係機関が持っている国際的な調査及び情報の関係機関間での共有化
・スポーツ国際展開に係る研究活動の促進(他国(特に英・仏・豪)の国際戦略の情報等)
・スポーツ国際戦略に係る諸活動の広報活動
(以上)

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