鈴木大地スポーツ庁長官 一周年記者会見

平成28年10月3日

昨年10月1日にスポーツ庁が発足し,私が長官に就任して1周年を迎えました。この機会に,スポーツ庁のこれまでの1年の活動成果と,今後の取組方針についてお話ししたいと思います。
スポーツ庁は,スポーツを通じた社会の発展を目指し,関係省庁の中核となって,スポーツ行政を総合的・一体的に行うことを使命として創設されました。
私は,選手,大学教授,競技団体役員等の様々な立場からスポーツに関わってきた経験を生かし,この1年間,スポーツの現場にできるだけ足を運び,「戦う長官」としてスポーツ行政に全力で取り組んできました。
我が国スポーツ界の「顔」となるべく,国内の各競技団体やアスリート,地方公共団体はもとより,IOCを始め国際スポーツ団体の役員とも積極的に交流し,各分野の政策課題や対応策について議論を重ねてきました。
日本スポーツ振興センター(JSC),日本体育協会,日本オリンピック委員会(JOC),日本障がい者スポーツ協会とスポーツ庁のトップが集う五者懇談会を随時開催し,我が国のスポーツ界の意思疎通にも努めてきました。
また,民間出身者として「霞が関を変える」ため,スポーツの関係省庁との連携を強化し,スポーツ行政の一体化に努めるとともに,ゆう活の機会や出勤前の時間などを活用し,スポーツ庁職員自らの働き方改革も進めています。
スポーツ庁は「ごく一部のトップアスリートのためだけではなく,すべての国民のための役所」であると強く意識しています。
国民の皆様にスポーツの価値を広げていくことが重要と考え,facebookでスポーツ庁の日々の動きを発信するなど,スポーツのすばらしさに関する「広報」にも力を入れ,着実にアクセス数を伸ばしてきました。

このように私自身が先頭に立って動いてきましたが,スポーツ政策を巡る各課題についてのこれまでの取組と今後の方向性について説明したいと思います。

記者会見模様

【スポーツを通じた健康増進】

第一に,スポーツを通じた健康増進についてです。
スポーツが健康増進のために有益であり,中長期的に国民医療費の抑制や生活の質(QOL)の向上につながる可能性を秘めていることから,そのエビデンスの蓄積に努め,厚生労働省と連携し,運動・スポーツガイドラインの策定に向けて検討を始めています。
また,国民のスポーツ実施率は現在約40%ですが,これを5年後には65%にまで伸ばすことを目標としています。この大幅な改善のためには「仕組みや意識の大きな変革」が必要であると考えています。
 特に,企業において働き方を見直し,運動・スポーツ習慣づくりに取り組んでもらうことにより,「健康経営」を推進したいと考えています。また,例えば,スポーツ習慣のある人の健康保険料を軽減するような取組についても応援していきます。

【国際競技力の向上】

第二に,国際競技力の向上についてです。
今年のリオデジャネイロ・オリンピックでは,金メダル12個,過去最高の総獲得メダル数41個・入賞数88という成果を収めることができました。
日本が得意としてきた柔道,体操,レスリング,競泳の復調・堅持に加え,史上初のメダル獲得となったカヌーや卓球男子,競歩など,メダル獲得可能な競技の幅が広がり,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて大きく弾みをつけることができました。
また,リオデジャネイロ・パラリンピックでは,近年,諸外国が,パラリンピック競技への支援に力を入れている中,金メダルは獲得できなかったものの,ボッチャやウィルチェアーラグビーが初めてメダルを獲得するなど,総メダル数では前回ロンドン大会を8個上回る24個を獲得することができました。
この結果は,選手自身の並々ならぬ努力はもちろん,選手を支える皆様の全面的な支えがあってこそのものであり,改めて敬意を表したいと思います。
国としても,各競技団体が行う強化活動への支援や,ナショナルトレーニングセンター及び国立スポーツ科学センターの機能強化など,様々な選手強化への支援を行ってきたところです。
今大会の成果や課題を踏まえつつ,2020年東京大会やそれ以降に向けた今後の選手強化支援方策について,私なりに基本的な方針をまとめましたので,後ほど御説明したいと思います。

【スポーツを通じた国際交流・協力】

第三に,スポーツを通じた国際交流・協力についてです。
長官就任以来,12か国,のべ85日間,国際競技大会・スポーツ関連施設の視察や国際会議への参加等で海外を飛び回り,国際社会における我が国のプレゼンスを高める活動をしてきました。
国際競技大会の招致・開催については,2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピック等の準備を進めるとともに,今年1月に開催が決定した2021年の水泳世界選手権大会の招致活動を支援しました。
今後も継続的に大規模な国際競技大会等を日本で開催できるよう,外務省等とも連携し,各立候補都市や各競技団体の招致活動を応援していきます。
また,我が国の国際的地位の向上のため,国際競技連盟の役員ポストに日本人が就き,情報収集力と発信力を高めていく取組を始めており,今年6月に国際スキー連盟の副会長ポストを獲得するなど成果を上げつつあります。
この秋にも国際体操連盟の会長ポストなど幾つかの国際競技連盟の役員選挙が控えており,スポーツ庁としてもロビー活動などを通じ全面的に支援していきます。
更に国際的な活動として,先月韓国(平昌)において,初めての日中韓スポーツ大臣会合を開催し,今月19~21日にはスポーツ・文化・ワールド・フォーラム,特に21日のスポーツ大臣会合を開催するとともに,2017年には初めての正式な日・ASEANスポーツ大臣会合が開催されるなど,国際スポーツ界との連携協力を進めていきます。
オリンピック・パラリンピック・ムーブメントの推進については,2020年東京大会を機にこれから日本全国でスポーツの価値や共生社会等を学ぶオリパラ教育を組織委員会と連携して展開していきます。
また,大会の開催国として,国際公約である100か国以上の国において1,000万人以上を対象に,スポーツの価値を届けるという「スポーツ・フォー・トゥモロー」プログラムに取り組んでいきます。

【障害者スポーツ】

第四に,障害者スポーツについてです。
私は就任以来,「東京パラリンピックの会場を満員にしたい。満員の観客の中で選手たちにプレーしてほしい。」と述べてきました。
障害者スポーツへの理解・関心が更に高まり,障害の有無に関わらず誰もがスポーツを楽しめる「共生社会」を実現する必要があります。
そのため,トップアスリートの競技力強化への支援はもとより,一般の障害者の方々も障害の程度に応じてスポーツを楽しめるような環境づくりに取り組み始めています。
各地域において,スポーツ関係団体が障害福祉関係団体との連携を強化する取組を促すとともに,特別支援学校を拠点とした障害児のスポーツ環境の整備,スポーツ・文化・教育の全国的な祭典である「Specialプロジェクト2020」を行っていきます。

【スポーツビジネスの拡大】

第五に,スポーツビジネスの拡大についてです。
「これからはスポーツで稼ぐ時代だ」と私が声を上げてはや1年がたち,多くの方々の意識が変わってきたことを肌で感じております。
私がこれまで訴えてきたのは,スポーツにはビジネスとしての潜在力があり,スポーツ市場を拡大し,その収益をスポーツ団体や環境の充実に再投資する,という好循環を生み出し,国民の健康増進や地域の活性化を図ることができる,ということです。
スポーツ庁では,スポーツ市場規模を現在の5.5兆円から2025年までに15兆円にすべく,経済産業省と共同で,今年2月にスポーツ未来開拓会議を立ち上げ,スポーツ産業の活性化の方策について議論を行い,6月に中間報告を公表しました。また,政府の成長戦略にも,スポーツの成長産業化を位置付けました。
今後,経済産業省をはじめとする関係省庁との連携をより強化しながら,スポーツ施設の魅力・収益性の向上,スポーツ経営人材の育成,スポーツと他産業との融合などの具体的な取組を進めてまいります。

【スポーツを通じた地域活性化】

第六に,スポーツを通じた地域活性化についてです。地方では過疎化も危惧されていますが,南北に長く,自然に恵まれた日本では「その土地でしかできないスポーツ」が数多くあり,スポーツの力で多くの人を地域に呼び込むことが可能です。スポーツ市場規模の目標である15兆円に向けて,スポーツツーリズムも大きな期待を寄せている分野です。
スポーツを観光資源としてまちづくりを進めるため,地域スポーツコミッションの活動を支援するとともに,スポーツ庁,観光庁,文化庁の3庁連携により,スポーツ文化ツーリズムアワード2016として,全国の44件の取組から先月10件を選定しました。
今後は関連産業界と連携し,スポーツツーリズムを新しいレジャースタイルとしてトレンド化させるプロモーションを展開していきます。

【大学スポーツ】

第七に,大学スポーツの振興についてです。
大学が持つ指導者,学生,スポーツ施設などのスポーツ資源,そして人材育成機能は大きな潜在力を有しており,今年8月に大学スポーツの振興に関する検討会議の中間まとめを公表し,これらを生かすための方策を提言しました。
大学におけるスポーツ教育・研究を充実する一方で,大学スポーツの収益力向上や地域貢献等に取り組むため,日本版NCAAを創設に向けた議論を進めていきます。

【学校体育】

第八に,学校体育についてです。
国民がスポーツに親しむ基盤として,スポーツの楽しさを,幼児期を含むできるだけ早い段階から子供たちに実感してもらうことが極めて重要であり,運動をする子としない子の二極化を改善し,体育の授業や運動部活動をより楽しいものにしていかなくてはなりません。
次期学習指導要領の改訂では,技能の指導に偏ることなく,運動が苦手な子供への指導に配慮し,運動やスポーツの多様な楽しみ方を味わわせたり,オリンピック・パラリンピックを題材としてスポーツの価値を学ばせたりする方向で検討をしています。
運動部活動については,学校教育の一環として重要な役割を担っており,生徒の心身の健全な成長と教員の負担軽減の観点から,地域のスポーツ指導者等が単独で指導や引率ができる環境の整備や,各学校における適切な休養日の設定が進むよう取り組んでいきます。
日本の未来を担う児童生徒にとって,よりよいスポーツ指導の在り方はどのようなものか。常にそのような視点を学校現場にも投げかけながら,これらの課題解決に臨みたいと思います。

【新国立競技場】

第九に,新国立競技場についてです。
2020年東京大会のメインスタジアムとなる新国立競技場の整備計画は,丸川オリパラ担当大臣を議長とする関係閣僚会議でJSCの整備プロセスを点検しながら,2019年11月の完成に向け,着実に進めているところです。
スポーツ庁においては,昨年12月の関係閣僚会議において決定された財源スキームを実現するための法案を今年の通常国会に提出し,成立をすることができました。
また,大会後のレガシーとしての利活用について,文部科学副大臣を座長とするワーキングチームを立ち上げ,JSCがスポーツ振興の業務を行う上での運営の在り方や,民間事業化への移行に向けた論点整理を先月取りまとめました。
今後とも,JSCの主務省庁として,JSC及び関係府省と連携しながら,適切に対応してまいります。

【スポーツのインテグリティ】

第十に,スポーツの高潔性・健全性,いわゆるインテグリティの徹底についてです。
アンチ・ドーピングについては,世界で組織的なドーピングが問題となる中,スポーツ庁としてはアンチ・ドーピング体制の強化に向けたタスクフォースにおいて法的措置の必要性を含め検討し,今年8月に中間報告を公表しました。
ラグビーワールドカップ2019や2020年東京大会等に向けて,我が国の検査体制の強化も行っていきます。
今年4月には,違法薬物の使用やばくちについてスポーツ選手の違法行為が相次いだことを踏まえ,各競技団体を集め,コンプライアンスの徹底について要請しました。
今後,対応が不十分な団体についてはさらなる改善を加速し,実効性のあるコンプライアンス体制の構築を図ります。
私は常々「日本はスポーツ・インテグリティのチャンピオンであるべきだ」と申し上げてきました。そして「日本にはズルをしてまで勝とうという選手はいない」とも述べてきました。
2020年東京大会のホスト国として,日本のスポーツ界の誇りにかけて,我が国のスポーツ・インテグリティを世界トップレベルを維持するために,一層取組を強化していきます。

スポーツ庁長官表彰

このようなスポーツに対する信頼確保を図る一方,スポーツの振興に優れた成果や業績を上げた方をたたえる仕組みとしてスポーツ庁長官表彰を今年1月に設け,各種競技大会における優秀者へ授与を行っています。
今後,スポーツ界でイノベーションを起こし,新たなフロンティアを切り開くような業績を上げられた方についても表彰していきたいと考えています。

第2期スポーツ基本計画

さて,スポーツ庁の発足とともに,スポーツ政策全般について検討するスポーツ審議会を立ち上げました。
国のスポーツ基本計画は,今年度で期限を迎えるため,平成29年度からの第2期スポーツ基本計画の在り方について,スポーツ審議会で検討を行っており,年末に中間報告を,年度末には答申を得る予定です。
次期計画は,スポーツ庁として初めて策定するものであり,2020年東京大会等の開催を含む重要な期間となることから,「スポーツの価値」を国民の皆様にわかりやすく伝え,それが広がるための具体策をしっかり盛り込みたいと考えています。
現行計画の7つの政策目標については,組み替えて新たな政策の柱を打ち出したいと考えています。

スポーツ庁標語

先日,スポーツ庁の目指す方向性を表す標語を決定しました。「スポーツが変える。未来を創る。Enjoy Sports, Enjoy Life 」というものであり,早速,体力つくり強調月間やタイアップ映画のポスター等に掲げています。
スポーツの価値を広げ,スポーツで人生や社会を変え,未来を創るという思いを込めています。全ての人がスポーツを楽しみ,生き生きとした人生を送れる社会を目指すという方向性を,職員一同で共有し取り組んでいきます。

以上説明してきたように,スポーツ庁の始動1年ではスポーツ庁やスポーツのすばらしさを広めることに努め,様々な現場の声を聞きつつ新たなスポーツ行政の土台づくりに取り組んできました。
2年目では,これまで得てきた様々なスポーツ関係者や国民の声から明らかになった諸課題について,具体の政策に生かしていくフェーズに入っていきます。
将来,スポーツ庁をつくって良かったと思っていただけるような基盤をつくるため,更にギアを上げてまい進していきますので,皆様の一層の御協力をよろしくお願いします。

お問合せ先

スポーツ庁政策課

(スポーツ庁政策課)