種々の授業改善のカギは「全員参加」×「自律的に動機づけ」された組織にあり

宮城県仙台第三高等学校

 全県1学区制。男女共学。定員未充足の危機。10年ほど前に「仙台第三高校」は岐路を迎えた。今ではSSHに指定され授業改善を行うだけでなく、よい授業を提供できる「学校づくり」までを教職員全員参加で行っている。このような改革の背景にあるは、スーパーティーチャーの存在か、それともどの高校でも明日から取り入れられる小さな工夫の積み重ねか。その秘訣とは。

※本記事は2018年12月の取材を基に作成しており、記事中の役職、氏名については2018年12月時点のものである。

目次

サマリー(事例のポイント)

各論点のポイント

  • ビジョン

    「生徒の置かれた現状」と「三高生として育てたい力」のスタート・ゴールの両方向からの全員参加のビジョン設定

  • ミッション

    希望聴取等により自律的動機付けの条件を整えたうえでの、全教職員への明確な役割配分

  • アクション

    SSHや外部機関の仕組みを使い、今の三高に必要な「目的達成に実効性のある」取組の実施

  • リフレクション

    手段が目的化していないか、取組が目指したい目標のどこに位置づけられているかを見える化

  • プロモーション

    目の前の子どもをよく見て微妙な変化に気付きさらに前に。大学以外の外部機関との一層の連携を!

ロジックモデル

ロジックモデル

挑戦者からのメッセージ

何を目指す?(ビジョン)

生徒の置かれた現状は?そして、育てたい力は?

 「最初の課題認識の議論を『全員参加』にしたこと、それがポイントだったと思います」、そう話してくれるのは改革のキーマンである滝井主幹教諭だ。  
  現在ではSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校、授業改善の取組を種々展開する、仙台第三高等学校、通称「三高」だが、10ほど年前には、全県1学区制の導入により、「三高ならではのプレゼンス」を上げる必要があった。しかしこの問題意識を持っていたのは、ごく一部の教員に留まっていた。こうした一部の教員を中心に構成された「授業づくりプロジェクトワーキングチーム」であったが、チーム立ち上げから約半年計画を練った上で、教職員全員参加でのブレインストーミングの場を設けた。この議論の場のキーポイントは、①全員参加であること、②「現在の生徒の状況」というスタートと、「生徒に身に付けさせたい力」というゴールの両側をテーマとして設定したこと、であった。  
 「現在の生徒の状況」については、まず「目の前の生徒の状況はどうなのか」という、授業づくりのスタート地点の認識共有を徹底的に行った。 そしてその2か月後に、再度全員参加でのブレインストーミングを行った。今度のテーマは、「生徒に身に付けさせたい力は何なのか」という、ゴール地点の認識共有だ。いずれのテーマ設定も、外部環境の変化ではなく、あくまで「三高にいる生徒」を中心にしている。
 「危機意識を煽る形では進まず、自らがやりたいと思える形を作ることが大切。」との考えから、三高の教職員が自分事として関心を持つ「生徒の変化」をキーにしたことが、全員参加の場づくりを可能としたと考えられる。
最初の取り掛かりから全員参加にすることで、伝統ある学校での「変えてはならない不易」と「変えるべき流行」を見極め、協働する雰囲気を醸成していった。

どのように進めていく?(ミッション)

希望選択によって決まる、通常の分掌+「一役」 

 学校改革や授業改善の場面でとかく陥りがちなのが、「教員間の温度差」による軋轢だが、三高の場合も例外ではなかった。そこで心がけたのは「いかに主体意識を持てるような仕組みを構築するか」という点だ。部分的であっても「希望選択」制により自己決定することで、自律的に動機付けられた教員たちの火が消えないように注意した。また、全員が通常の分掌+「一役」を担うことで、不公平感を払拭し、同時に「出る杭」を伸ばせる雰囲気を醸成していった。
 しかし、「全員参加」を実現するには2つの懸念があるだろう。1つは、前述したように全員を同じようにはモチベートできないのではないかという懸念。もう1つは、大きな組織になり機動性が悪くなってしまうのではないか、という懸念だ。
 1つ目について、進学校である三高ゆえこれまでの授業スタイルにプライドを持った教員も多く、「授業改善を人から押し付けられた」と授業づくりプロジェクトに違和感を持っていた教員も少なくなかったという。しかしそもそも、全員が同じようにモチベートされることはなく、全員に同じ言葉が響く訳ではない。それを前提に、 「教員全員が『+一役』を担う」という大きな方針はぶらさぬまま、少しでも自律的に取り組めるよう、ミッションは希望聴き取り型で、希望に即したミッションが割り当てられるようにした。
 「自分で選んだミッション、自分の関心の向く分野であれば動機付く。ミッションの中で各人が考える仮説が出来上がる。教員ならその仮説を検証してみたくなるものですよ。」滝井氏はこのように話してくれた。
 各ミッションは構造化されており、「ミッション=取り組み」と直結しているため、分かり易い仕組みと言える。各教員は自身の取組が学校のその他の取組とどう関係し、またどう貢献しているのかを構造的に可視化できる。2つ目の懸念点についても、可視化できる分かり易い仕組みによって、大きな組織であっても自律的に動機付けられた教員たちが、自律的に、そして機動的に動けるようになっている。

組織構造の見える化

仙台第三高校では、授業改善のための組織を、構造図に落とし込み、各教員の受け持つ取組が全体の中でどういった位置づけになるか、一目で理解できるようにしている。また、三高の取り組む2つのプロジェクト(GS(グローカルサイエンス)とJD(授業づくりプロジェクト))を横断した一体的な組織構造を形成している。

GS(グローカルサイエンス)・JD(授業づくりプロジェクト)研究センターの組織図

GS(グローカルサイエンス)・JD(授業づくりプロジェクト)研究センターの組織図

出典)仙台第三高等学校提供資料

全員参加はコアとなるビジョン設定まで

 2つ目の、改革組織が大きくなりすぎて機動的がなくなるのではないかという懸念について、仙台三高は、「全員一致はビジョン設定まで」とし、各ミッション(=各取り組み)については、担当者に責任を持たせることで、機動性を保っている。全員で決めるビジョンに基づいた取組ゆえ、その取組の必要性などコアとなる理念については、教職員全員が共通して持つことが出来ている強さがある。裏を返せば、ミッション、取組はあくまでビジョンに根付いたものであるから、「ビジョンが変わればミッション、取組が変わる」ということは当たり前の認識となっている。

何をする?(アクション)

取組を続けるためのマンパワーを如何に捻出し続けるか

 三高の進め続ける取組は、授業だけで見ても、構成的アクティブラーニング、RBP、ルーブリック評価、ICT活用パフォーマンス評価…本当に多岐にわたり、今回の記事で全てを紹介することは到底出来ないほどだ。これらのアクションは、SSH指定を受けている期間、SSH指定外となった期間、どちらも活用できる制度や外部環境に応じ、新たな取組を続けている。
 新たな取組を続ける鍵には、東北大学、宮城教育大学等の外部機関との連携、優先度の低い業務を徹底的になくす「チームX」の取組などがありそうだ。これらの取組は、アクションを牽引するガソリンである、マンパワーを如何に広げるか、という工夫とも言えよう。

外部機関との連携

 三高の重要なパートナーとして宮城教育大学の存在がある。例えば、三高が実施している「多元的パフォーマンス評価」では、その「評価者」としての役割を果たしている。アクティブラーニング(以下ALという。)の成果を検証する際には、従来手法とAL手法との比較実験を行う実験設計者としての役割を果たす。その役割はケースに応じて様々ではあるが、三高の新たなチャレンジを教育学の専門的見地からサポートしている。
 「高校の先生は、とにかく面白い授業が出来ます。これは大学の教授と比べても遜色ないと自負しています。でも、大学の先生たちには、学校には足りない専門的な知見が豊富にあるんです。」滝井先生はこのように話してくれた。

チームXの取組

 三高の取り組みはとにかく多いが、基盤にある「教育文化の不易と流行の見極め」の理念のもと、今の社会環境や、今の三高の生徒の状況からは必ずしも優先度の高くない取組は、どんどん見直しが行われる。この見直しを引っ張る組織として、校長直轄で「チームX」という組織がある。チームXは、各教員から寄せられる「これは無駄じゃない?」という意見を精査し、見直し案を作成し、校長に打診をする。改革マインドの強い校長ゆえ、見直しはスピード感をもって進められる。
 このような勢いのあるスクラップアンドビルドは、ややもすると組織内に自己防衛意識やモチベーション低下(自分の取り組みがカットされるのでは・・・など)をもたらす可能性も想起されるが、三高ではビジョンを全員参加で決定しているため、ビジョンに基づく取捨選択であれば、理解が得られるようだ。
 例えば、ICTを活用した会議の簡素化、文書決裁等の手順の簡略化、図書館の運営改善など多方面に渡って再検討がなされ、実効性を持つと判断されたものは即時に実施された。チームXがスタートした28年度には19の案件が提出され、30年度にも5つの案件が検討されている。現在では、職員会議や朝の打ち合わせの時間は大幅に短縮された。また、教員が勤務時間外に担当していた図書館運営は、「生徒の自主管理」制度を採用することで、開館時間は延長され、生徒にとって利用しやすい図書館になった。今では完全下校の19時まで自習する生徒が常にいる状況だ。

アクティブラーニングの目的ごとの使い分け

三高では、定義の曖昧なアクティブラーニング(AL)について、「三高にフィットしたAL型授業の開発をする」、との目標で2つのALを設定している。非構成的ALと構成的ALの2つのALはその目的や振り返りの方法が異なることから、状況に応じて使い分け、活用している。

構成的ALとこれまでの学習の違いの整理

構成的ALとこれまでの学習の違いの整理

出典)仙台第三高等学校提供資料

教員同士の協働による単元計画作成

これまでの単元計画、授業設計は教員がそれぞれ、個別に「一人で」行うのが普通だった。しかし、現在の仙台三高ではいくつかの教科において、教員同士が協働して単元計画を作成している。例えば国語科1年教科担任団では、以下のような単元計画を、「主担当」or「サポター」と役割を分担しながら協同して作成している。場合によっては、国語科以外の教科教員が国語科の単元計画にアドバイスをすることもある。

徒然草 授業計画

徒然草 授業計画

出典)仙台第三高等学校提供資料

どう振り返る?(リフレクション)

授業のフルオープン 〜日常的なリフレクション文化〜

 「授業改善のきっかけは、自分で授業を見るか、人に授業を見てもらうか、人の授業を見るか、このどれかでしか得られない。自覚の機会、さらされる経験、外からの刺激がなければ向上はないと思います。」滝井氏の豊富な経験に裏打ちされた、この言葉には重みがあった。
 三高では、基本的に「いつでもだれでも授業に入れる」状態になっている。それまでは、年間行事としてのイベント的な授業公開週間や、授業アンケートなどで部分的な授業の評価やグッドプラクティスのシェアをしていた。しかし、毎日行われる授業なのだから、毎日、授業はオープンに、そして違う教科の教員が見ることで新たな発見が生み出される仕掛けだ。

現代版「建学の精神」と各取組のマッピング 〜定期的な学校全体でのリフレクション文化〜

 三高が9年前に始めた「授業づくりプロジェクト」は、授業改善だけでなく、授業改善を通じた学校改善にも繋がっていた。次期指導要領、新共通テスト、カリキュラムマネジメントなど、高校現場で対応すべき直近の課題は多い。迫りくる状況変化にも対応すべく、三高では改めてビジョンの見直しを行った。それが、「建学の精神」の現代版解釈だ。
 不易ともいえる建学の精神について、現在の三高の生徒の置かれた状況を踏まえた現代版の解釈をし、11の「育てたい力」としてリニューアルをした。このリニューアルのための議論にはやはり教員全員が参加しており、「学校づくりプロジェクト」と称される。
 教員全員で再検討・再構築した「育てたい力」について、現在の取り組みはどの力の発展に寄与しているかのマッピングをし始めている。これにより、現在の取り組みが、「ゴールへの最善の選択か?」という振り返りを学校全体で出来ていると言えそうだ。「今後はこのリフレクションに生徒も巻き込みたい」と滝井氏は意気込んでいた。

もう一歩先へ!(プロモーション)

上昇傾向の中で見つける「躓き」、この「躓き」を乗り越えて更なる挑戦へ

 三高は、9年前の授業づくりプロジェクトをきっかけに、大きく躍進を遂げた。「日本一の高校にしたい」と校長、滝井氏は言うほどにまで、目覚ましい上昇傾向にある。
順調に見えるが、滝井氏このように話してくれた。
 「こういう順調な時にも、既に小さな課題や躓きがあるんです。順調な時こそこの躓きに気付けないといけないんですよね。例えば、学力がついてこない生徒への支援は、まだまだ足りていない。順調だから、それで良いのではなく、躓きを見つけ挑戦し続けないと。
 授業と探究の構造化、ICTの活用による新しい授業の構築や一層の学校業務の効率化、さらなる大学との連携強化、民間企業とのネットワークの拡大など、三高のチャレンジはまだまだ続く。