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山田尚子監督 プロフィール画像
山田尚子監督

TVアニメ「けいおん!」で初監督を務め、映画「たまこラブストーリー」で第18回(2014年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を獲得。京都アニメーション所属。

Q

「山田監督は、文化庁メディア芸術祭で新人賞を受賞され、これまでも思春期の少年少女を丁寧に描く作品を手がけられてきましたが、映画「聲の形」を監督されるに当たって特に気をつけたことはありますか?」

A

山田監督「いじめや障害を描いている作品ではあるんですが、実際にこの作品に触れてみると、そのことだけがすべてではなくて、もっとその根っこにある、相手を知りたい思いとか、わからないものに対して手を伸ばしてみるような、すごく不器用だけれども人を知ろうとする、つながろうとする心が大切に描かれている作品だなと思いました。それで、とてもやってみたい題材だなと感じました。

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「聴覚障害者である硝子が非常にリアルに描かれているなと感じたのですが、映画製作に当たり事前に相当準備をされたのですか?」

A

山田監督「硝子について知っておくべき情報としては耳が不自由ということですが、それに対して何か気をつかうような描き方をしたいと思わなかったので、まず一人の女の子、女性として向き合おうと思いました。私が大学生のときに特別支援学校に一週間行ったことがあって、実際に自閉症の子や聴覚障害がある子に接したのですが、お話したり、触れ合ったりすることが楽しかったですし、そのときの感覚がすごく残っていて。なんというか勝手にこちらが何かを慮(おもんぱか)って、勝手に距離をとる、というようなことが不自然だな、とその時の自分に対して感じたことがあったので。」

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「硝子をめぐる演出の中で特にこだわった部分はありますか?」

A

山田監督「硝子が受け取る音って、どのようなものなんだろうかというふうに思いました。音って振動だったり、目で見えるものだったり、体自体で感じることだったり、心臓が脈を打っていたら、それは鼓動を感じているということで、そういう具体的に見えるものというところで、硝子の音ってどういうものなんだろうかと思って、そのあたりは大切に描きたいなと思いました。」

Q

「初めて障害に対して考えたり向き合ったりした経験は、特別支援学校に行ったことだったのでしょうか?」

A

山田監督「そんなに長い期間一緒にいられたわけではなく、分かったようなことは言えないのですが、そのときの思いが残っていて、それが下敷きになっていると思います。」

Q

「文部科学省では、聴覚障害をはじめ障害のある子供たちが、それぞれもっている力を最大限発揮できるように取組を行っています。また障害のある人やない人がお互いに理解し合える社会の実現を目指して「インクルーシブ教育システム」の構築を進めています。今回の作品の中で、要素として障害というものが織り込まれている中で、どのような思いで作品に向き合われたのですか?」

A

山田監督「人と人として向き合うために、必ず知っておかなければいけない相手の状況や状態があると思うんですけど、それに対して同情するということではなくて、その人個人をちゃんと尊重して、お互いが尊重できるというか、ただただ人と人が出会うだけの根っこの部分をちゃんと見ていければとは思います。この映画では、表面的なところだけでは、なかなか理解は難しいかもしれないですが、最初に感じてしまう“気を遣っちゃう”とか“触れちゃいけないんじゃないか”というような思いをそれぞれのキャラクターがどのように考えて、行動したのか、どう向き合おうとしているのか、というところを彼らと一緒にひとつひとつ考えていこうと思いました。」

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「文部科学省は、いじめはどの子にも起こりうるものと考えていて、今回の作品には、いじめる側(がわ)、いじめられる側(がわ)が両方描かれているんですが、こういうテーマについてはどのように向き合われたのでしょうか。」

A

山田監督「今回に関して言えば、将也という男の子のセンセーショナルな出会い、この子が見たことないもの、感じたことのないものに対する興味っていうところが入り口だったので、そこに打算とかがあるようには描きたくなくて、すごく純粋で無垢(むく)なものだったのかなと思います。そうするしかなかった、というか。もっと触りたかったし、もっとしゃべりたかったし、「あなたに対して興味があるんです」ということを伝えたかっただけなんだろうなというふうに思いました。」

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「この作品を通して、主人公たちと同じような状況に悩んでいるような子供たちに対して、どういったことを伝えたいと思われますか。」

A

山田監督「特に義務教育のときは世界が本当に狭くって、自分が見えているものしかなくて、だから隣にいる友達がいきなり敵になるっていうか、いきなりそっぽ向いたりすることもあるし、それが世の中の全てだと思ってるからすごく悩んじゃったりして、ふさぎ込んだりしたこともいっぱいありましたし、全然、引いた目で物事を見られなかった。もちろん子供だからそうなんですけど、そういうときの気まずかった気持ちとか、悲しかったこととかが、この作品にはすごく描かれていて、そういう思いをしていたのは自分だけじゃなかったと救われたんですよね。人に対して羨ましがったりとか、全然うまく伝えられなかったりとか、言い方が悪くて失敗しちゃったりとか。全部自分にとっての恥の部分で、これを持っていることが自分としては罪深いなと思っていることがあったので、原作ではそれを全部、すっと開けてきて。周りのお母さんや、愛のある人たちもちゃんと描いていて、「あなたを無償で愛し続けますよ」って言う人のことまで描いていて。本人を求めてくる子たちもいて。自分が当事者で、世界が狭かったときに、全然気づけなかったところもちゃんと描いていてくれていて、本当に救われた気がしたし、ちょっと人の目を見てしゃべれる勇気をもらえたというところがあるなと思いました。それで、それをちゃんと映画にして伝えていけることができたらなと思いました。「そこだけじゃないよ」って、みんな悩んでいるし、みんな不器用ながら、なんとかして生きていこうとしてるし、次の朝を向かえようとしてるし。少し視点を変えてみると、全然まだまだ良いことっていっぱいあって、愛してくれてる人もいて、っていうことがちゃんと伝えられればなと思いました。」

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「学校で学ぶ子供たちが、勇気を持って、抱えている思いを相手に伝えられるような、ちょっと勇気が出るようなメッセージを是非ください。」

A

山田監督「大変恐れ多いですが…。「私自身、人と話すことがすごくへたくそでしたし、言わないでいいなら言いたくなかったし、目立たずに生きていければいいなって思ってたし、自分のことを隠そうとして生きてきたんで…なんか暗い話になってきた気がする。あの、なので、勇気をもって言葉を伝える…「大好きです。」本当にただただ好きなだけだったと思ったりすることも多いし、それが上手くいかなくて、言い方間違っちゃって、誤解招いてっていうことが、本当にいっぱいあるので、素直になるっていう言葉の意味も分からないぐらいだったんですけど、ほんとに考えたら、「あなたと喋りたいだけでした」っていうところに行きつくのかな、と思います。そういう思いが少しでも伝わる作品になるといいな、それがみなさんのちょっとした勇気になるといいなと思います。」

映画『聲の形』キャプチャ
Q

「ありがとうございます。最後に、タイアップポスターなんですが、フキダシの中に言葉は入れていなくて、見たお子さんが、自分なら誰にどんな言葉を伝えようかなっていうことをイメージしてほしいという意図なんですが、山田監督でしたら、どのような相手をイメージして、どういったことを伝えてみたいですか。」

A

山田監督「まさに今言ったようなことになりますが、上手くいかなかった友達とかに、「本当に好きなだけだったんです」、「もっと喋りたかっただけでした」、っていう感じでしょうか。「もっと喋りたい、あなたともっと喋りたいです」っていう感じです。」

「ありがとうございました。このインタビューを見た子供たちの励みになると思います。」

「聲の形」と文部科学省が伝えたいこと。

タイアップポスターを作りました

「勇気をもって心の声を伝えよう」というメッセージを掲載したポスターを、全国の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校に送りました。

フキダシの中は真っ白?

映画「聲の形」主人公の少年が、少女に何かを伝えようとしていますが、フキダシの中は真っ白です。みなさんなら、誰に、何を伝えますか?

映画『聲の形』 文部科学省タイアップポスター

文部科学省の取組

文部科学省は、子供のSOSに対する取組や、特別支援教育を推進しています。