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2002/06/13
平成十四年度国立大学長会議における文部科学大臣挨拶要旨

平成十四年度国立大学長会議における文部科学大臣挨拶要旨

平成14年6月13日(木)

  本日の国立大学長会議の開催に当たりまして、学長の皆様方の日頃の御尽力に感謝申し上げますとともに、私の所見の一端をお話させていただきます。

  第一に、国立大学の法人化について申し述べます。
  この問題につきましては、多くの国立大学関係者も参画いただいた「調査検討会議」から、本年三月に最終報告が公表され、その直後に皆様方にお集まりいただき、様々な歴史的経緯を含め、私の考えをご説明申し上げました。
その後、国立大学協会におかれても総会を開催され、最終報告について「二十一世紀の国際的な競争環境下における国立大学の進むべき方向としておおむね同意できる」と評価され、「この最終報告の制度設計に沿って、法人化の準備に入る」ことを明らかにされました。法人化の当事者である皆様方の御理解をいただきましたことに敬意を表しますとともに、私どもといたしましても、新たな制度の構築に向けていよいよテイクオフする時が来たものと、気の引き締まる思いがいたします。
  これからは新制度への移行を具体的なスケジュールに乗せて、時を移さず対応すべき段階となりました。文部科学省としては、来年の通常国会への関係法案の提出、平成十六年四月の法人への移行というスケジュールを想定して、必要な準備作業を進めていきたいと考えており、今後、円滑な移行を目指して、国立大学協会や各大学との連携を密にしつつ、準備に遺漏無きを期したいと考えております。
  すでに各大学でも、法人化に向けて学内体制の整備や準備作業に着手されていると伺っておりますが、私からも若干のお願いを申し上げたいと存じます。
  まず一点目は、最終報告の冒頭でも指摘されている通り、法人化とは「国立大学の改革と新生」の大きな契機となるべきものと理解しております。どうか、法人化を契機に、過去の経緯や前例にとらわれることなく、新しい大学像を念頭に、志高く、諸準備に当たられることをお願いしたいと存じます。
  二点目は、そうした「新しい大学像」の検討を始め、諸準備を進めるに当たっては、学部など部局の枠を越え、教官・事務職員など職種の違いを越えて、学長を中心に全学的な観点からご検討いただきたい、という点であります。申すまでもなく、法人化後の大学は、学長を中心に全学が一体的に運営されることが前提となります。準備作業は、その試金石となるものと考えております。
  三点目は、準備作業の段階で、既に大学間の良い意味での競い合いが始まっているということを学内の関係者に広く周知し、御理解いただきたい、ということです。法人化に向けた学内の準備体制、大学としての目標や計画の検討、運営組織の設計などを通じて、各大学がそれぞれ個性を競い合い、存在感を高らしめていただくことになるよう、期待しております。
  前回の会議でも申し上げましたとおり、私は、法人化の問題は、我が国の大学制度百二十有余年の歴史の上で、一大転換点と位置付けられるものであると認識しております。その具体化に向け、担当大臣としての責任の重さを痛感するとともに、この歴史的な事業に、関係方面の理解と協力を得つつ、全力を尽くす所存であります。引き続き皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

  第二に、国立大学の再編・統合について申し述べます。
  グローバル化が進展し、また、「知」の果たす役割が増す中で、大学への期待にはますます大きなものがあります。同時に、大学は国内のみならず、国際的な競争の波にさらされつつあるのも事実です。そのような中で、国立大学が、「競争的環境の中で個性輝く大学」として、今後、教育や研究等をさらに発展させ、より大きな役割を果たすためには、従来の各大学や学部の枠にとらわれず、人的・物的資源を最大限に活用し、教育研究基盤を整備して足腰を強化したり、教育研究分野の厚みや広がり、特色の強化を図ることが重要であり、各大学において、再編・統合について幅広く、かつ、積極的に検討いただくことが不可欠であります。
  これまでの検討の成果として、既に統合が決定されたり、合意に達した大学も増えつつあることは大いに評価したいと思っております。この際、各大学におかれては、国立大学の置かれている厳しい現状を真摯に受け止めていただき、危機感を持ちつつ、大胆な再編・統合も視野に入れた、真剣で戦略的な改革への取組がなされなければ、今後の発展は覚束ないと言わざるを得ません。
  もとより、国立大学の再編・統合は、大学の数の削減自体を目的とするものではなく、教育や研究の高度化、新たな学問領域への展開、地域や社会への貢献機能の強化など、個性と特色ある大学づくりのためであることは、繰り返し申し上げている通りであります。学長の皆様方におかれましては、その本来のねらいを十分に吟味された上で、引き続き多様な可能性を御検討いただきたいと考えております。

  第三に、教員養成大学・学部の再編・統合について申し述べます。
  国の最重要課題の一つが教育であり、なかんずく初等中等教育の充実は、国民の大きな関心事であります。その成否の鍵を握るのが教員であることは申すまでもありません。今日の様々な教育課題に的確に応えることのできる力量ある教員を学校現場に送り出すことは、我が国の教育にとって極めて重要なことであり、その中核を担う国立の教員養成大学・学部の果たすべき役割はますます大きくなっております。
  しかし、教員養成大学・学部の現状を見ますと、近年の少子化の影響による教員就職率の低下やこれに伴う学部の小規模化、教員養成を目的としない新課程の増加による学部の目的のあいまい化などの様々な問題を抱えており、今後ともその役割を十分に果たしていくためには、近隣の複数の教員養成学部を再編・統合し、そのパワーアップを図っていくことが不可欠であります。
  それぞれの教員養成学部が長い歴史を持ち、これまで各都道府県の教育に大きな役割を果たしてきたことは紛れもない事実でありますが、今回の再編・統合は、都道府県という枠や既得権益的な思惑を乗り越え、我が国全体の教員養成機能をいかに充実し、これからの初等中等教育を担うにふさわしい人材を輩出していくかという観点から検討されるべきものであります。関係大学では、その理念を十分御理解いただき、より大きな視点から、教育内容面の抜本的改善も含む積極的な御検討をお願いいたします。

  第四に、高度専門職業人養成について申し述べます。
  グローバル化が進展し、国際競争力の一層の強化が求められる時代を迎え、社会において指導的な役割を担い、国際的にも通用する高度専門職業人を養成していくことの重要性がますます高まってきております。そして、高度専門職業人養成の場としての大学に対する社会の期待も増しつつあります。
  高度専門職業人養成については、従来から、大学院を中心に取り組んで頂いており、文部科学省としましても、平成十一年の専門大学院制度創設など、制度的な整備を進めてきているところであります。
  現在、中央教育審議会においては、こうした取組みを一層推進する観点から、高度専門職業人養成に特化した新たな形態の大学院である専門職大学院(仮称)について御審議頂いており、近く答申が得られる予定となっております。各所で話題に上っている法科大学院についても、この専門職大学院(仮称)の一形態として位置付けることが予定されております。このような大学院の整備については、まさに、大学が社会の要請や期待に応えて、いかに知の再構築を図り、教育機能の強化を図ることができるかが問われているものであります。関係大学におかれては、既存の教育組織や教育内容のあり方を抜本的に見直した上で、新たな仕組みを設計されるよう期待しております。その際、外部との積極的な連携・協力を図りつつ、意欲的な取り組みがなされることが肝要と考えております。

  第五に、産学官連携について申し述べます。
  各大学におかれては、産学官連携に積極的に取り組んで頂いており、大学と企業との共同研究などでは近年目に見えて実績が表れていることは喜ばしい限りです。文部科学省としても、大学発の技術革新の創出を推進すべく積極的に支援をしておりますが、基本的認識として大事なことは、産学官連携の推進が、大学における自由で独創的な基礎研究の重要性や意義を変更するものではないということです。基礎研究はあらゆる分野の基盤となる重要なものであり、その成果は新たな知を切り拓くとともに社会発展の基礎となるもので、一層重視し着実に推進していく必要があります。他方、産学官連携は、大学において生み出された「知」を社会に活かすことだけではなく、大学における教育研究活動の活性化をもたらすものであり、社会と大学の双方にとってメリットが大きいものであると考えます。それは、社会的存在としての大学が持つ地域社会への貢献という大切な機能を実質化することであります。こうした観点から、学長の皆様方におかれましては、大学に対する社会の期待に応え、また、大学の活動の幅を広げ得る産学官連携について、一層の取り組みをお願いいたします。

  以上、今回は一般論を割愛し、目下重要と考える五つの点に絞って所見を申し述べました。これら以外にも、法人化に関してさらに付言すると、中期目標や中期計画の立て方、大学評価のあり方をはじめ、人事、財務、経営のあらゆる段階における十全な設計が必要であります。これらについては、「大学の自主性、自律性」が十分発揮できるよう考慮しながら、逐次、文部科学省としても方向性を明らかにし、各大学とともに、国立大学法人という新たな制度を構築していく気構えと努力が必要であると考えております。
  国立大学を取り巻く諸情勢には極めて厳しいものがありますが、他方、我が国及び人類社会の発展の上で重要な役割を果たす存在として、経済界をはじめ社会一般の大学に対する期待はますます高まってきております。学長の皆様方におかれましては、多事多難な中、御苦労をおかけいたしますが、当省としても必要な支援は最大限にいたす所存でありますので、リーダーシップを十二分に発揮され、新たな世紀に、より活発で充実した大学を創るため、一層の御尽力と御協力を賜りますようお願い申し上げまして、私の挨拶といたします。

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