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宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全対策について(接近・係留・離脱フェーズ)

平成21年6月12日
宇宙開発委員会 安全部会

はじめに

 宇宙ステーション補給機(以下「HTV」と言う。)はH-ⅡBロケットにより打ち上げられ、国際宇宙ステーション(以下「ISS」と言う。)に係留され、ISSを運用するために必要な物資を補給することを目的としている。物資補給後は、大気圏への再突入により廃棄される。

 宇宙開発委員会は、我が国がISSに提供する要素及び搭載物が安全要求を満たしていることと、認証する上で必要となる評価を行うことを求められており、HTVに関する安全評価もこの観点から行っている。

 今般、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」と言う。)においては、HTVの安全検証を終了したことから、安全部会は、宇宙開発委員会の付託により、安全対策の妥当性について、「宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全評価のための基本指針(平成17年9月)」(以下「基本指針」という。)及び「宇宙ステーション補給機(HTV)の詳細設計終了段階における安全対策について(平成19年5月)」に基づき調査審議を実施した。本調査審議においては、平成21年5月から6月にかけて計3回の会合を開催した。本報告書は、HTVの接近・係留・離脱フェーズに係る安全対策の妥当性について調査審議を行った結果をとりまとめたものである。

 1.評価の対象範囲

 HTVは、主に与圧キャリア、非与圧キャリア/曝露パレット、電気モジュール、推進モジュールから構成され、最大6トンの物資をISSに輸送する能力を有している。

 HTVの運用は、打上げ、接近、係留、離脱、再突入の各段階に分けられる。HTVは、H-ⅡBロケットによる打上げの後、自律飛行によりISSに接近し、ISSのロボットアームにより把持・係留される。物資を補給した後は、ISSから離脱し、自律飛行により大気圏に再突入して廃棄される。

 今回の安全評価は、HTVのISSへの接近・係留・離脱に係る事項を評価の対象としている。打上げ及び再突入に係る事項については、「ロケットによる人工衛星等の打上げに係る安全評価基準」に基づき別途安全評価を実施することとし、今回の評価の対象範囲外とした。

  なお、HTVにより輸送・補給される搭載物の安全については、搭載物の内容に応じて、必要があれば、別途調査審議を行うこととする。

2.安全確保の基本的な考え方

  HTVの安全確保の対象はISSの搭乗員の安全であり、搭乗員の死傷が未然に防止されなくてはならない。HTVの安全確保の考え方、安全審査プロセス、課題抽出の手法等については、JAXAにおいて以下のような対応がとられており、「基本指針」に照らし妥当であると評価した。

(1)安全確保の方法

  HTVにおいては、直接あるいは間接的に搭乗員に被害を与えるハザードを考慮し、対策をとることで、搭乗員の死傷を未然に防止する方法がとられている。ここで、ハザードとは事故をもたらす原因が顕在又は潜在する状態をいう。

以下にJAXAにおいて実施された作業内容を示す。

1)ハザードの識別

1.対象システムの理解

対象システム、運用、ミッション、環境条件、他のシステムとのインターフェース等が十分に理解された。

2.ハザ-ドの識別

対象となるシステム及びその運用について、ハ-ドウェア、ソフトウェア、運用、誤動作等のヒューマンエラー、インターフェース、環境条件等を考慮して、予測可能なすべてのハザ-ド及びその原因が体系的かつ論理的に抽出された。

3.ハザードの被害の度合いの分類

ハザードの被害の度合いは、以下のカテゴリーに分類された。

Ⅰ:カタストロフィック(致命的)ハザード

人員の能力の喪失に至る傷害又は人員の致命的な傷害となり得る状態

Ⅱ:クリティカル(重大)ハザード

人員の重度な傷害・疾病をもたらす状態

Ⅲ:マージナル(軽微)ハザード

人員の軽度な傷害・疾病をもたらす状態

2)ハザードの除去・制御

  ハザ-ドは可能な限り除去されたが、困難な場合には、1.ハザードを最小とする設計、2.安全装置、3.警報装置・非常設備等、4.運用手順、5.保全の優先順位でハザ-ドの制御が行われた。

  ハザードを最小化する設計としては、ハザード解析によってハザードが識別された後、故障許容設計の採用の可否が判断され、故障許容設計が合理的でないようなものについては、リスク最小化設計が採用された。なお、故障許容設計において、カタストロフィックハザードに対しては2故障許容設計、クリティカルハザードに対しては1故障許容設計が採用された。

  冗長系の独立性については、電気系のみならず、機械的、熱的にも配慮し、ワイヤーハーネスや配管の空間的な分離、コネクタの分離、ワイヤーハーネスの熱設計、帯電、電磁干渉等を考慮することで、共通故障原因を排除して冗長系の独立性を確保するように設計された。

3)ハザ-ド制御方法の検証

  設定されたハザ-ド制御の有効性は、開発工程の適時適切な段階で、1.試験、2.解析、3.検査、4.デモンストレ-ションのいずれか、あるいは組み合わせによって検証された。

4)運用への準備

  ハザード制御方法として、地上要員あるいは搭乗員の操作(運用)を用いる場合には、運用制御合意文書にその制御方法が記載され管理される。運用担当部門により運用制御合意文書に基づき運用手順や運用上の取り決めに反映され、運用担当部門とは独立したJAXA運用安全担当及び、NASA内の運用安全担当により、運用開始前までにその妥当性が評価される。

  種子島宇宙センターにおいてフライト品について安全が確認されるべき項目は、安全検証追跡ログに整理され、打上げ整備作業中に全て完了することが確認される。

(2)安全審査プロセス

1)安全審査の時期

HTVの安全確保に係る安全審査は、主にハザード解析の進捗に応じて以下に示す複数のフェーズに分けられ、実施された。

1.フェーズ0/1審査;基本設計終了後のタイミング

ハザード識別方法及び適用すべき安全要求の確認(2.(1)1)①)と、全ハザード及びハザード原因の識別結果の確認、並びにハザード制御方法・検証方法の妥当性の評価(2.(1)1)②、③)を目的として実施された。

2.フェーズ2審査;詳細設計終了後のタイミング

全ハザード及びハザード原因の識別結果の確認、並びにハザード制御方法が設計上実現されていることの確認と、検証方法が詳細に設定されているかの確認(2.(1)2))を目的として実施された。

3.フェーズ3審査;認定試験終了後のタイミング

製品が全ての安全要求に合致していることの確認と、検証が終了し、全てのアクションアイテムが完了していることの確認(2.(1)3))を目的として実施された。

2)安全審査の体制

JAXAにおけるHTVの安全審査は、以下に示すような体制の下に実施されており、開発及び運用の担当部門から独立した部門においても、安全に関わる活動が行われている。

1.  開発メーカ及び開発担当プロジェクトにより、設計、製造を行う立場から安全検証が実施された。

2.  運用に依存するハザード制御については、 HTVプロジェクトチームの運用担当部門により、運用制御合意文書に基づき運用実現性が合意された。

3.  開発及び運用の担当部門から独立した有人システム安全・ミッション保証室により、解析結果等の評価、開発メーカの体制の監査・評価、運用制御合意文書等の安全検証データが評価された。

4.  有人システム安全・ミッション保証室長を議長とするJAXA有人安全審査会において、上記のハザードに関する安全設計結果及び検証結果の妥当性が個々に審査された。

5.  ISS全体の安全責任を担うNASAにより、設計及び検証結果が審査された。

6.  副理事長を議長とするJAXA安全審査委員会においてJAXAとして包括的に安全が審査された。

3.安全設計・検証結果

HTVでは、火災、減圧、汚染、衝突、爆発、構造破壊、電気・電磁、人間工学、ソフトウェアの各項目に対応したハザードが識別された。識別されたハザードに対する安全設計及び検証結果は「基本指針」の各項目に対応してJAXAから示され、それぞれについて安全対策が妥当であると評価した。
以下にカタストロフィックハザードについて、「きぼう」と同様な制御方法により対応した事項と、HTV特有のハザードへの対応から抽出された事項に分別し、JAXAにより実施されたそれぞれの安全設計と検証結果の概要を示す。

(1)「きぼう」と同様な制御方法により対応した事項

1)火災

  非金属材料の燃焼により火災が発生し、船内活動搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策として、非金属材料には難燃性の材料が選定され、実際に不燃性・難燃性材料が使用されていることが、材料識別及び使用リストで確認された。また、ヒータまたは電子機器の温度がモニタされ、異常時に電力が遮断されることで加熱が防止される設計となっており、適切な熱設計・故障検知分離システムが適用されていることが、解析・試験により確認された。

2)減圧

  HTVの船内と船外の間のシール部、または排気弁からの空気の漏洩により、船内が減圧し、船内活動搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策として、シール部は二重となっており、排気弁の意図しない開放を防止するため2つのスイッチが直列に設けられ、実際に二重シールを用いていることが検査により確認されるとともに、排気弁の2つの直列のスイッチが有効であることが試験により確認された。また、万が一漏洩したとしても、搭乗員の退避時間が確保できる設計となっており、漏洩時に搭乗員が退避する時間を確保できることが解析により確認された。

3)分離機構から放出する機器との衝突

  HTVの分離機構の意図しない動作により機器が放出され、他のISS機器へ衝突し、居住モジュールの破損により搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策として、意図しない時期に分離機構が動作することを防止するために、分離機構のアクチュエータに3つのスイッチが直列に設けられ、機能試験によりスイッチの健全性が確認された。また、射場へ輸送され分離機構が再組立てされた後にも上記のスイッチ機能が正常であることが確認される計画である。

4)隕石・スペースデブリの衝突

  隕石・スペースデブリがHTV与圧キャリアへ衝突すると船内活動員への致命的な事象に至る可能性がある。また、HTV推進モジュールの圧力容器への衝突が、容器破裂による破片の発生要因やHTV自体の姿勢異常等によるISSへの衝突ハザードの原因となる可能性がある。
  この対策として、直径1cm以下のデブリについては、一次、二次構造またはバンパによる貫通防御対策がとられることとされており、与圧キャリアについてはバンパが装着されていること、推進モジュールについては一次、二次構造およびバンパで圧力容器が覆われていることが検査にて確認された。また、要素試験にてバンパが有効であることが確認された。直径10cm以上のデブリに対しては、ISSの軌道制御により衝突回避することとされており、その手順が手順書(フライトルール)に記載されていることが確認された。さらに、直径1cm~10cmのデブリに対しては、衝突により予圧モジュールをデブリが貫通した場合でも搭乗員は安全なモジュールへ退避が可能な設計となっており、その手順が手順書により確認された。

5)HTVキャビンファンの破損による破片の衝突

  HTVキャビンファンの破損により飛散した破片が、他のISS機器へ衝突し、居住モジュールを破損することにより搭乗員の死傷に至る可能性がある。また、破片が直接搭乗員に衝突することにより死傷に至る可能性がある。
この対策として、ファンは破片の飛散を防止するためにハウジング等により覆われ、その対策の妥当性が検査により確認された。

6)構造破壊

  軌道上荷重により構体の破損や把持構造が損傷することでISSを損傷し、搭乗員に致命的な影響を与える可能性がある。
  この対策として、全ての荷重モードに対し十分な剛性・静強度・疲労強度を持つように設計され、その妥当性はハードウェアとの相関性が試験により確認された構造数学モデルを用いた構造解析により確認されるとともに、静荷重試験により確認された。また、耐熱性・耐食性・対応力腐食性・耐電食性等を考慮し、過去の実績のある構造材料が選定され、その妥当性が材料識別使用リストにより評価された。さらに、与圧構造の許容圧力を超えないように適切な熱制御を行う設計となっており、熱解析により、最悪条件でも許容圧力を超えないことが確認された。

7)感電

  搭乗員が高電圧表面に触れることにより感電し、搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策として、高電圧露出表面を無くし、適切に接地する設計となっており、その設計の妥当性が検査により確認された。

8)電波放射

  HTVからの意図しない電波放射により、船外活動用宇宙服の誤動作に至る可能性がある。
  この対策として、船外活動を行う搭乗員に対しHTVアンテナからの安全距離を考慮したキープアウトゾーンが設定され、これが手順書等に反映されていることが確認された。

9)電磁干渉

  ISSからの電磁波による電磁干渉により安全上の機器が誤動作する可能性があり、また、HTVから発せられる電磁波により、ISSあるいは他装置の安全上重要な機器が誤動作する可能性がある。
  この対策として、ISSあるいは他装置の放射・伝導電磁環境にマージンを加えた環境に対し、誤動作しないことと、発生する放射・伝導による電磁波がISSあるいは他装置が許容できる電磁環境レベルより十分に低くなることが要求として設定され、実際に電磁干渉試験により要求値内であることが確認された。また、関連機器は射場で再度ボンディングされるため、最終コンフィギュレーションでボンディング抵抗が計測される計画である。

10)退避不能

  減圧、火災等の発生時に船内搭乗員の退避路が確保できず、搭乗員の死傷に至る可能性がある。
 この対策として、搭乗員の退避に必要な経路はISS共通基準に基づき設定されるとともに、警告・警報は隣接モジュールの機能に依存することとし、退避に必要な設計であることが検査により確認され、隣接モジュールの警告・警報音がHTV内でも認識可能であることが解析により確認された。

11)シャープエッジ

  装置の鋭利端部・突起物により、船外活動中の搭乗員の手袋、衣服に穴が開き、搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策として、ISS共通の安全標準に基づき、許容できない鋭利端部・突起物がないよう装置が設計され、面取りや突起防止に関する共通の要求に合致していることが現品検査により確認された。

12)挟み込み

  装置の隙間、または可動機構に搭乗員が挟み込まれ、船内に帰還できず、死傷に至る可能性がある。
  この対策として、機器の隙間は、ISS共通基準に基づく大きさとし、検査により機器の隙間が設計どおりであることが確認された。また、可動機構の意図しない動作により搭乗員が挟み込まれないように、キープアウトゾーンが設定され、そのキープアウトゾーンが手順書に記述されていることが確認された。

13)ソフトウェア

  飛行管制、分離機構等のHTVの安全上重要なソフトウェア機能の誤動作により、HTVのISSへの衝突や、機器の意図しない分離による他のISS機器への衝突が原因で、居住モジュールの破損による搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  この対策のため、ソフトウェア機能の喪失がカタストロフィックハザードとなる場合については、独立した複数の機能を独立した複数の制御装置に搭載し、一つのソフトウェアの故障により、全ての安全機能が失われることの無いようになっている。一方、機能の不意の起動がカタストロフィックハザードとなる場合については、三重の指令により初めて装置が機能するシステム設計となっている。
  これらの対策については、ソースコードの審査、ソフトウェア単体試験、シミュレータによる試験により確認されるとともに、開発部門とは独立した部門による独立評価が実施された。さらに、検証後のソフトウェアをハードウェアに搭載したシステムとしての機能試験等により、その対策の妥当性が確認された。

 

(2)HTV特有のハザードへの対応から抽出された事項

  HTVは、ISSへの接近・係留・離脱を行うために必要な推進系、誘導制御系、電源系を有している点で「きぼう」とは異なっている。JAXAにおいては、これらの機能に起因するHTV特有のハザードとして、推進薬による汚染、ISSへの衝突、推進薬システムの爆発、電池セルの破裂を識別している。識別されたハザードに対する安全設計及び検証結果は「基本指針」の各項目に対応してJAXAから示され、それぞれについて安全対策が妥当であると評価した。
以下にそれぞれHTV特有のハザードの制御として、推進系、誘導制御系、電力系等について、JAXAにより実施された安全設計と検証結果の概要を示す。

1)汚染

  HTVの推進薬は燃料・酸化剤ともに人体には有害であるため、宇宙飛行士の船外活動中にHTVから大量に推進薬が漏洩した場合、宇宙服に付着し、船内に持ち込まれ宇宙飛行士が死傷する可能性がある。
  この対策として、船外活動領域に近い前方スラスタ系統は、漏洩を避けるためにバルブを三重にし、バルブが図面どおり施行されていることが製品検査で確認され、バルブ単品及び配管系統の漏洩性能試験により、規定を超えた漏洩がないことが確認された。また、船外活動中は、不慮のスラスタ開放指令を出さないよう、制御系が停止される運用とし、手順書に記述されていることが確認された。

2)HTVのISSへの衝突のハザードへの対応

  ISSの周囲において、ISSに衝突する軌道に入った場合や、推進系の不意な噴射・停止が発生した場合に、HTVがISSへ衝突し、ISSを損傷することで、搭乗員の死傷に至る可能性がある。
  そのような衝突を生じる要因として、誘導制御系の故障、センサ系の異常、推進系の故障、推進系配管の凍結による破損を原因とする漏洩、電源系異常、ISSロボットアームによる不適切な把持領域での把持、HTV近傍域通信システム(PROX)とのリンク遮断があげられた。
  以下にそれぞれの要因に対する対策と検証結果を示す。

 

1.誘導制御系の故障

  誘導制御計算機は3つのCPU(中央処理装置)を有し、それぞれが、各センサ、情報をもとにHTVの制御情報を算出し、推進系の駆動を行う指令を同時に入出力コントローラに出力している。誘導制御計算機は3つのCPUからの出力を比較し、1つのCPUだけ情報が異なる場合には他の2つの情報を正として制御を継続する。さらに1台のCPUが異なる情報を出す場合には、入出力コントローラが持つ離脱制御機能により退避が可能である。また、2台の入出力コントローラのうち1台が故障しても他系が処理を行える設計となっており、更に入出力コントローラに故障が発生した場合(2故障時)には緊急離脱制御装置に切り替わり緊急離脱する設計となっている。
  これらの設計については製造工程、図面及び製品検査が実施され、誘導計算機が品質に係る要求事項を満足していることが確認された。また、ソフトウェアを組み合わせた機器単体レベルの試験が実施され、故障検知機能が適切に機能することが確認された。さらにサブシステム及びシステムレベルの試験が実施され、適切に緊急離脱系切り替えが実行できることが確認された。

 

2.センサ系の異常

  誘導制御に必要なセンサは全て2個以上設置される設計となっており、1故障許容設計である。ランデブーセンサ1故障時には近傍域通信システムを用いたISSに対する相対的な位置測定や、ISSからカメラを用いて測定した距離データとの比較等を用いて運用が継続できる設計となっている。2故障時には誘導制御計算機から緊急離脱制御装置に切り替わり緊急離脱できる設計となっている。
  これらの設計は、センサの品質検査、1故障模擬で誘導制御機能が継続できることの確認試験、センサ故障時の切り替え機能の作動確認により検証された。

 

3.推進系の故障

  姿勢制御系統を構成するバルブ・推進系の圧力・温度センサ等の機能部品は2系統となっており、1故障許容設計である。2故障時にはメインエンジン系に切り替え緊急離脱を実施する、2故障許容設計となっている。
  これらの設計は、バルブやスラスタ等の試験、製造工程及び製品の品質検査や誘導制御計算機の試験における系統切り替え試験にて検証された。

 

4.推進系配管の凍結による破損を原因とする漏洩

  姿勢制御系統、メインエンジン系統がつながっている主要な配管・バルブ・推進薬タンクのヒータ制御の三重化設計により、2故障許容設計となっている。
  これらの対策については、熱解析によりヒータ1系統で凍結を十分に防止できることが確認され、製品検査等により品質に係る要求事項を満足していることが確認されるとともに、システム試験、熱真空試験等によりヒータシステムが適切に機能することが検証された。

 

5.電源系異常

  HTVは、単独飛行中も単一の故障により、安全に関わるシステムへの電力供給が停止しないように、2故障許容を達成する複数の一次電池を並列に搭載し、電源バスを並列化するとともに、太陽電池及び二次電池からも電力を供給する設計となっている。
  これらの対策については、一次電池の容量が十分なマージンを有することが解析で確認され、電池を含む電力系の素材等が有人宇宙機の要求に適合していることが確認され、製品検査等により電池やハーネス等の品質に係る要求事項を満足していることが確認された。さらにバッテリの性能が良好であることが単体試験で確認され、電源系統に異常が発生した場合に冗長系への切り替えが実行されることがシステム試験で確認された。

 

6.ISSロボットアームによる不適切な把持領域での把持

  所定の把持可能領域以外で把持された場合、最悪の状態ではHTVはISSロボットアームを損傷させ、結果的にISSに衝突する可能性が生じる。
  この対策として、姿勢やセンサの誤差を考慮した把持領域が設定され、ロボットアームの把持が行えずにHTVが漂流することを防止するため、ISSの搭乗員又は地上要員がHTVの制御機能を起動してHTVが独自に姿勢制御を実施できるように設計されている。
  この対策については、NASA、カナダと協力した把持領域の妥当性解析、個々の部品の開発試験、性能試験、製造工程の検査、図面確認等の品質検査により確認され、HTVの起動が適切に実行できることが試験等により確認された。

7.HTV近傍通信域通信システムとのリンク遮断

  HTVはISS近傍運用段階となるとJEMとの間で近傍域通信システムによる通信を実施しながら接近する。この近傍域通信システムは冗長設計となっており、1故障許容設計となっている。またバックアップとして衛星間通信衛星とのリンクを確保しており、二重故障を起こした場合でも通信手段を失わないように設計されている。HTV側で2故障を検知した場合は、自動で接近を中止し、緊急離脱を行う2故障許容設計となっている。
  これらの対策については、個々のコンポーネントの製造工程の検査、図面確認等による品質検査、機能試験による性能の確認、JEMに搭載するPROXコンポーネントとHTVに搭載する通信・データ処理系との間で通信試験が実施され、問題なく通信できることが確認された。また、故障状態を模擬した状態で、系統切り替えができることが機能試験で確認された。さらに、通信・伝送系統の全体の確認として、NASA側との協力のもと、NASAの地上局やISS側の通信装置を模擬した設備を用いて、HTVとの全体的な系統試験が実施され、対策が妥当であることが確認された。

 

3)推進薬の爆発

  推進薬が爆発した場合、ISSへの構造破壊を引き起こし、宇宙飛行士が死傷する可能性がある。
  この対策として、推進系の過大な加圧を防ぐために、ヘリウムガスの燃料・酸化剤タンクへの供給配管までに2直列の調圧弁を持ち、更に遮断弁を二重に配置することで、2故障許容設計となっている。またヒータ系統の異常加熱を防ぐために、温度センサが規定の温度以上になった場合にヒータ制御装置内の2つのスイッチ及びその上流のデータ中継装置がヒータの電力供給を停止する設計となっている。
  これらの対策は、単体での品質検査、性能試験、ヒータ制御装置の機能試験における模擬異常試験により検証された。

 

4)電池セルの破裂

  電池の破裂によりHTVの構造破壊を引き起こし、船外活動中の宇宙飛行士の宇宙服を破損することで、死傷する可能性がある。
  この対策として、配電経路における短絡に起因する電池温度の上昇に伴う内圧上昇を防ぐために、個々の電池セルは短絡時のヒューズ機能を有し、一次電池の放電を行うバッテリ制御ユニットは保護回路を有する設計となっている。この検証として、個々の電池セルに対し、品質検査が実施され、保護回路が適切に作動することが機能試験で確認された。
  また、逆電圧や過充電等の不適切な電圧制御を防止するために、一次電池に対しては、多段の逆流防止回路により逆電圧を防止すると共に、二次電池については、充電回路やバス電圧監視機能を冗長化する設計となっている。これらの対策は、品質検査、機能試験により検証された。
  さらに、容器の不適切な耐圧設計で破裂しないように、適切な安全率を確保した容器設計を行うとともに、万が一の内圧上昇時に圧力リリースを行うための破断機構が設置されている。この検証のために破断機能確認試験が実施され、フライトに使用する電池に対して品質検査が行われ、適切に品質に係る要求事項を満足していることが確認された。

 

4.総合評価

  以上のとおり、HTVの接近・係留・離脱フェーズにおけるJAXAによる安全確保の考え方、安全審査プロセス、課題抽出の手法等、及びJAXAが実施した安全審査プロセスにおいて抽出された課題への対処の方向性について、「基本指針」に照らして調査審議を行った結果、ISSへの接近・係留・離脱フェーズにおけるJAXAによる「宇宙ステーション補給機(HTV)」に係る安全対策は妥当であると評価する。

 

(参考1)

宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全の確保に関する調査審議について

 

平成21年5月13日
宇宙開発委員会

 

1.調査審議の趣旨

  宇宙ステーション補給機(以下「HTV」という。)の安全対策については、宇宙開発委員会が「宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全評価のための基本指針(平成17年9月)」(以下「基本指針」という。)に沿って、総合的かつ系統的に調査審議を行うこととしている。
  このたび、HTVについては、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」という。)による安全検証が終了したことから、安全部会において次のとおり調査審議を行うこととする。

2.調査審議の対象

  HTVの国際宇宙ステーションへの接近・係留・離脱に係る安全評価 

3.調査審議の観点

  「基本指針」に照らして、以下の観点から、安全対策の妥当性について調査審議を行う。
(1)JAXAによる安全確保の考え方、安全審査プロセス、課題抽出の手法等が妥当であるか。
(2)上記の安全審査プロセスにおいて抽出された課題への対処の方向性が妥当であるか。

4.日程

  調査審議の結果は、6月中を目途に宇宙開発委員会に報告するものとする。

5.安全部会の構成員

  本調査審議に係る安全部会の構成員は、別紙のとおり。

 

宇宙開発委員会安全部会構成員

 

(委員)

部会長  池上 徹彦  宇宙開発委員会委員

部会長代理 青江  茂  宇宙開発委員会委員

                  森尾  稔   宇宙開発委員会委員(非常勤)

 

(特別委員)

飯田 光明 独立行政法人産業技術総合研究所爆発安全研究コア代表

工藤  勲 北海道大学名誉教授

熊谷  博 独立行政法人情報通信研究機構理事

栗林 忠男 慶應義塾大学名誉教授

河野 通方 独立行政法人大学評価・学位授与機構教授

佐藤 吉信 国立大学法人東京海洋大学海洋工学部教授

下平 勝幸 前日本大学理工学部非常勤講師

首藤 由紀  株式会社社会安全研究所取締役副所長

竹ヶ原春貴 公立大学法人首都大学東京大学院システムデザイン研究科教授

中村  順 警察庁科学警察研究所法科学第二部長

花田 俊也 国立大学法人九州大学大学院工学研究院准教授

雛田 元紀 宇宙科学研究所名誉教授

馬嶋 秀行 国立大学法人鹿児島大学大学院医歯学総合研究科教授

松尾亜紀子 慶應義塾大学理工学部教授

宮沢 与和 国立大学法人九州大学大学院工学研究院教授

宮本  晃 日本大学大学院総合社会情報研究科教授

 

 

●宇宙開発委員会の運営等について   (平成十三年一月十日宇宙開発委員会決定)

文部科学省設置法及び宇宙開発委員会令に定めるもののほか、宇宙開発委員会(以下「委員会」という。)の議事の手続きその他委員会の運営に関して、以下のとおり定める。

 

第一章 本委員会

(開催)

第一条 本委員会は、毎週1回開催することを例とするほか、必要に応じて臨時に開催できるものとする。

 

(主宰)

第二条 委員長は、本委員会を主宰する。

 

(会議回数等)

第三条 本委員会の会議回数は、暦年をもって整理するものとする。

 

(議案及び資料)

第四条 委員長は、あらかじめ議案を整理し必要な資料を添えて本委員会に附議しなければならない。

2 委員は、自ら必要と認める事案を議案として本委員会に附議することを求めることができる。

 

(関係行政機関の職員等の出席)

第五条 委員会の幹事及び議案に必要な関係行政機関の職員は、本委員会の求めに応じて、本委員会に出席し、その意見を述べることができる。

2 本委員会は、必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者の出席を求め、その意見を聞くことができる。

 

(議事要旨の作成及び配布)

第六条 本委員会の議事要旨は、本委員会の議事経過の要点を摘録して作成し、本委員会において配布し、その確認を求めるものとする。

 

第二章 部会

(開催)

第七条 部会は、必要に応じて随時開催できる。

2 部会は、部会長が招集する。

 

(主宰)

第八条 部会長は、部会を主宰する。

 

(調査審議事項)

第九条 部会において調査審議すべき事項は、委員会が定める。

 

(関係行政機関の職員等の出席)

第十条 委員会の幹事及び議案の審議に必要な関係行政機関の職員は、部会の求めに応じて、部会に出席し、その意見を述べることができる。

2 部会は、必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の出席を求め、その意見を聞くことができる。

 

(報告又は意見の開陳)

第十一条 部会において調査審議が終了したときは、部会長は、その結果に基づき、委員会に報告し、又は意見を述べるものとする。

 

(雑則)

第十二条 本章に定めるもののほか、部会の運営に関し必要な事項は、部会長が定める。

 

第三章 会議の公開等

(会議の公開)

第十三条 本委員会及び部会の議事、会議資料及び議事録は、公開する。ただし、特段の事情がある場合においては、事前に理由を公表した上で非公開とすることができる。

 

(意見の公募)

第十四条 本委員会又は部会における調査審議のうち特に重要な事項に関するものについては、その報告書案等を公表し、国民から意見の公募を行うものとする。

2 前項の公募に対して応募された意見については、本委員会又は部会において公開し、審議に反映する。

 

(雑則)

第十五条 本章に定めるもののほか、公開等に関し詳細な事項は、委員長が委員会に諮って定める。

 

第四章 その他

(雑則)

第十六条 前条までに定めるもののほか、議事の手続きその他委員会の運営に関し必要な事項は、委員長が委員会に諮って定める。

 

 

 

(参考2)

宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全の評価に関する安全部会の開催状況

 

【第1回安全部会】

日時:平成21年5月18日(月曜日)13時30分~16時30分

議題:(1)国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」(JEM)の

            実験装置に係る安全評価について

        (2)宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全評価について

        (3)その他

 

【第2回安全部会】

日時:平成21年6月4日(木曜日)14時~16時

議題:(1)国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」(JEM)の

             実験装置に係る安全評価について

        (2)国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」(JEM)の

            実験装置に係る安全対策について

        (3)宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全評価について

        (4)その他

 

【第3回安全部会】

日時:平成21年6月12日(金曜日)10時~12時

議題:(1)宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全評価について

        (2)宇宙ステーション補給機(HTV)に係る安全対策について

        (3)H-ⅡBロケット試験機による宇宙ステーション補給機(HTV)

            技術実証機の打上げ及びHTV技術実証機の再突入に係る安全評価について

       (4)その他

 

お問合せ先

宇宙開発委員会事務局

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(研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付)

-- 登録:平成21年以前 --