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宇宙開発に関する重要な研究開発の評価 月周回衛星「かぐや」(SELENE)プロジェクトの事後評価結果

平成21年6月26日
宇宙開発委員会 推進部会

1.評価の経緯

 独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」という。)による月周回衛星「かぐや」(SELENE)プロジェクト(以下「SELENEプロジェクト」という。)は、主衛星(月周回衛星)と2機の副衛星から構成され、月の起源と進化の探求及び月探査基盤技術の開発・蓄積等を目的としたプロジェクトである。

 このたび、主衛星の運用が終了したことから、「宇宙開発に関するプロジェクトの評価指針」(以下「評価指針」という。)に基づき、宇宙開発委員会 推進部会として事後評価を行った。推進部会の構成員は、参考1の別紙のとおりである。

 2.評価方法

 評価は、SELENEプロジェクトを対象とし、推進部会が定めた評価実施要領(参考2)に則して実施した。

 今回は、以下の項目について評価を行った。
(1)成果
(2)成否の原因に対する分析
(3)効率性 

 ただし、成果のうち一部のアウトカム(効果)、及びインパクト(波及効果)に係るものについては、その活用状況が把握できた時期を待って改めて評価することとした。評価の進め方は、まず、JAXAからSELENEプロジェクトについて説明を受け、各構成員から提出された評価票(参考2の別紙1)により、評価項目ごとに意見、判定を求めた。

 本報告は、各構成員の意見、判定を集約して、事後評価結果としてとりまとめたものである。

 なお、本報告の末尾に構成員から提出された全意見及びJAXAの説明資料を付録として添付した。

3.SELENEプロジェクトを取り巻く状況

  SELENEプロジェクトは、月科学及び月利用調査、基盤技術の開発と蓄積、宇宙開発や月探査の普及・啓発を目的とし、14種類の観測ミッション機器(ハイビジョンカメラを含む)を主衛星(月周回衛星)と2機の副衛星に搭載して、1年以上にわたり、元素分布、鉱物分布、地形・表層構造、月周辺環境、重力分布、精細画像等に係るデータを取得し、米国のアポロ計画以来の本格的な月探査を実施したプロジェクトとなった。

  このSELENEプロジェクトについては、平成7年に月周回衛星・着陸実験衛星として研究着手が了承され、平成10年に開発への移行が了承された。その後H-Ⅱロケットをはじめとする一連の事故・不具合が発生し、JAXA全プロジェクトについて、より確実な実施が求められ、SELENEプロジェクトとしては月面軟着陸を断念し、月の周回観測に特化することとした。その後ハイビジョンカメラを搭載することとし、平成19年9月に打ち上げられた。

  打上げ後、ミッション期間として予定していた約1年間にわたる定常運用、約7ヶ月にわたる後期運用が実施され、当初計画していたデータが取得されるとともに、ハイビジョンカメラによる満地球の出、入り、月面などの撮影、地球のダイヤモンドリングなどの撮影が行われた。平成21年6月11日に主衛星を月の表側に制御落下させ、ミッションが完了した。

4.SELENEプロジェクトの事後評価結果

(1)成果

 成果についてはアウトプット(結果)、アウトカム(効果)、インパクト(波及効果)の3つに分類して評価を実施した。アウトプット(結果)は具体的にどのような結果が得られたか、プロジェクトの目標がどの程度まで達成されたのかという直接的成果であり、平成17年6月の第6回推進部会における事前評価で設定された、サクセスクライテリアの各項目について具体的にどのような結果が得られ、目標がどの程度達成できたのかを評価した。また、アウトカム(効果)はアウトプットからもたらされた効果・効用であり、SELENEプロジェクトのアウトプットからもたらされた成果が、プロジェクトの目的に照らし、現時点でどのような効果をあげているかについて評価した。更に、インパクト(波及効果)は、意図していた範囲を越えた、経済的、科学技術的、社会的影響としての間接的成果であり、現時点で注目しておくべき事項について必要に応じて評価した。なお、科学的成果に関係する一部のアウトカム(効果)、及びインパクト(波及効果)に係るものについては、その活用状況が把握できた時期を待って改めて評価する。

<アウトプット(結果)>

 平成19年9月14日に打ち上げられ、10月18日に観測軌道投入後、10月20日までにクリティカルフェーズが、12月20日までに機器の初期機能確認等が完了した。その後、翌年の10月30日までの間、三軸姿勢制御、熱制御、軌道制御等の観測のための衛星運用が行われ、定常運用が実施された。その間における最初の、月が1回自転する期間(約27日)、高度約100kmの月周回軌道において、元素・鉱物分布、地形・表層構造、重力場・磁場等の内部構造に関する観測データが取得され、ミニマムサクセスが達成された。さらにその後の観測により、月の科学に貢献するデータとして、元素分布、鉱物分布、地形データ、表層構造、磁場異常、重力分布のデータが、月での科学に貢献するデータとして、電磁、宇宙線等の月周辺環境観測データが、月からの科学に貢献するデータとして、地球電磁気及び惑星電波の観測データが取得され、元素分布に係るデータ取得を除きフルサクセスが達成された。さらに、残存する推進薬を用いて、約7ヶ月の後期運用が実施され、元素分布に係る補完観測が行われて、フルサクセスが全て達成された。また、より低い高度で月での科学や月の科学に貢献するデータが取得され、エクストラサクセスが達成された。最終的に平成21年6月11日に主衛星を月の表側に制御落下させ、ミッションが完了した。なお、一部の計測機器に不具合が発生したが、他の観測との組合せにより目的のデータを取得している。

 以上のように、ミニマムサクセス、フルサクセス、エクストラサクセスまでの全ての評価基準を達成し、取得したデータの品質も十分優れていると認められ、目標達成度は極めて高いと評価できる。

判定:優れている 

(優れている/妥当/概ね妥当/疑問がある の4段階で評価)

<アウトカム(効果)>

 SELENEの観測データは現在世界で最も高精度なデータであり、月の起源と進化の解明に迫る最も有力な情報を有しているといえる。具体的な成果の発現には時間が必要なため、科学的成果についての評価は別途実施するが、初期科学成果として、月の内部構造や月の二分性、マグマオーシャンの分化・進化に関する先駆的な研究報告がなされ、大きな注目を集めている。また、月の地形図、日照率マップなど、今後の人類の月利用に資する優れた観測成果を挙げている。今後SELENEプロジェクトによって得られた多種・高精度の科学観測データをもとに、多大な科学研究成果が得られることが期待される。

また、月軌道投入技術や月周回衛星運用のために基本となる月心指向三軸姿勢制御、熱制御、軌道制御等に関する1年以上のデータが取得され、月探査のための衛星設計・運用技術のノウハウが蓄積された。

 更に、ハイビジョンカメラによる「11万km離れた場所から撮影した遠ざかる地球」や、「地球の出」、「ダイヤモンドリング」等の画像が数多くのメディアに取り上げられ、国民の関心を十分に喚起する結果となり、宇宙開発や月探査の普及・啓発の面で大きな貢献をしたものと評価できる。

判定:優れている

(優れている/妥当/概ね妥当/疑問がある の4段階で評価)

<インパクト(波及効果)>

 ハイビジョンカメラによる月面と対比した地球の画像、特に「満地球の出」は地球環境の大切さについての人々の意識に対する効果が大変大きく、G8洞爺湖サミットでの首脳のサインシートや、二酸化炭素削減を目指す国民的プロジェクトであるチームマイナス6%のポスターに採用されるなど、当初予定していた以上に国際的なシンボルとして利用された。また、教育教材としての利用を通じて子供たちの理科への関心を引くという波及効果もみられ、動画共有サイトでも大きな反響を呼んでおり、目的として設定していた範囲を越えたものと評価できる。

 なお、衛星本体や観測センサーなどの開発技術の中から、産業界への技術的波及効果が現れるようになることを期待したい。

判定:妥当

(優れている/妥当/概ね妥当/疑問がある の4段階で評価)

(2)成否の原因に対する分析

 開発中のプロジェクトの過程で明らかになった課題と発生した問題について、適切な要因分析がなされ、その結果多くのものは適切な対処がなされた。その中でも、開発要素の多い軟着陸ミッションを中止し、月周回機にリソースを集中投資したことは、本ミッションを確実な成功に導く上で適切な判断であったと評価できる。

 また、難易度の高い新規技術については宇宙実証を行うことがリスク低減のために有効であり、副衛星の分離機構をマイクロラブサットにより軌道上実証したことは適切であった。

 さらに、最先端の観測機器を14種搭載することは科学観測衛星としては異例の多さであり、プロジェクトを構成する研究者グループもそれだけ大きなものとなって、プロジェクトチームの形成・運営、プロジェクトの管理、プロジェクトの遂行において、関係者間の信頼関係の構築等、多くの工夫と努力が必要であったが、観測ミッションの成功はそれらが実った結果であると評価できる。

 軌道上で発生した問題への対応、その対処、他プロジェクトへの展開等は妥当なものと評価できる。なお、従来から衛星バスに関する課題の一つにリアクションホイールの高信頼化があったが、今回も外国製リアクションホイールに不具合が発生したことから、今後同様な不具合を繰り返さないための取り組みが必要である。また、一部の計測器において放射線の影響によると推定される不具合が発生したが、デバイスレベルでの耐放射線特性の研究が必要と考えられる。

判定:妥当

(妥当/概ね妥当/疑問がある の3段階で評価)

(3)効率性

効率性の評価は、プロジェクトの効率性と実施体制の2つの観点から行った。

<プロジェクトの効率性>

 平成8年度の研究要望の段階では平成15年度を打上げ目標としていたが、平成11年のH-Ⅱロケットをはじめとする一連の事故・不具合の発生等を踏まえて、平成19年の打上げに変更となった。打上げ延期により生じた状況を活かして、試験の充実、更なる信頼性向上に取り組んだことは本プロジェクトの目標達成にとってそれほど効率を落とすものではなく、コスト増額後でも米国の衛星や地上システムと比較して効率的であった。

 衛星システム及びロケットのコスト増については、スケジュールの遅れの中にあって、厳しい管理がなされたと推測される。一方、地上システムに関しては、14観測機器による複雑な観測運用に対する当初の見通しの甘さが指摘される。

判定:概ね妥当

(優れている/妥当/概ね妥当/疑問がある の4段階で評価)

<プロジェクトの実施体制>

 SELENEプロジェクトは旧宇宙科学研究所(ISAS)と旧宇宙開発事業団(NASDA)の共同プロジェクトを引き継いだものであり、JAXAとなった後も、衛星システム及びプロジェクトマネージメントにおける確実さと信頼性を重視するNASDA方式と、観測機器の開発における研究者主体で最先端のミッションを目指すISAS方式の組合せがより強化され、一本化された指揮命令系統の下、一体的なプロジェクトの実施体制が全期間を通じて適切に機能したものと評価される。

判定:妥当

(妥当/概ね妥当/疑問がある の3段階で評価)

(4)総合評価

 SELENEプロジェクトは、主衛星(月周回衛星)と2機の副衛星から構成され、月科学及び月利用調査、基盤技術の開発と蓄積、宇宙開発や月探査の普及・啓発を目的とし、平成19年9月に打上げられ、一連のデータ収集を終了し、平成21年6月に月面に主衛星を制御落下させてミッションが完了したプロジェクトである。

 月周回軌道(高度約100kmの極軌道)において、約1年間、「月の科学」、「月での科学」、「月からの科学」に大きく貢献するデータを取得し、その後残存する推進薬を用いて、観測ミッション期間の延長や低高度での観測を実施する等、設定された目標を十分に達成することができた。

 また、現時点でSELENEの観測データは世界で最も高精度なデータであり、月の起源と進化の解明に迫る最も有力な情報を有しており、基盤技術の開発と蓄積、宇宙開発や月探査の普及・啓発という、目的に見合う成果を上げたと評価できる。特に普及・啓発においてはハイビジョンカメラの功績が大きかった。その成果は「満地球の出」等日本の科学技術、環境への取組みをアピールする際に多く利用され、社会的な波及効果も認められた。

 科学的成果については、取得されたデータの活用状況が把握できた時期を待って、今後改めて評価する。

 さらに、本プロジェクトは、開発時点から運用中に至る技術的問題点への対応について、適切に成否の要因分析がなされ、SELENEプロジェクトの遂行に活かされるとともに、他プロジェクトへ適切に展開され、将来の宇宙科学の研究等への教訓として有効なものとなっていると評価できる。また、H-Ⅱロケットをはじめとする一連の事故・不具合等により、4年間の打上げ遅延や開発費用増加という影響があったが、JAXA全体に対する信頼性向上の要求を受けて、衛星特別点検、打上げ延期に伴う追加作業、ロケット打上業務移管、地上システム運用の確実化等、確実な開発、打上げ、運用のために必要な作業を実施し、効率よく対応することができた。

 今後、各計測機器データの解析研究や複数の観測データを統合利用する研究など、予定されている計画を着実に実施し、最終テーマである月の起源、月の進化に迫る研究成果を多数生み出していくことを期待する。

判定:期待以上

(期待以上/期待通り/許容できる範囲/期待はずれ の4段階で評価)

参考及び付録

お問合せ先

宇宙開発委員会事務局

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(研究開発局参事官(宇宙航空政策担当)付)

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