付録3

光衛星間通信実験衛星(OICETS(オイセッツ))プロジェクトの事後評価 質問に対する回答

平成20年2月26日
宇宙航空研究開発機構

【本資料の位置付け】

 本資料は、平成20年2月12日に開催された第3回推進部会における光衛星間通信実験衛星(OICETS(オイセッツ))プロジェクトの説明に対する構成員からの質問に対し、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))の回答をまとめたものである。

●評価項目1(成果)に関連する質問

1−1 「だいち」に搭載された通信機器について
1−2 光衛星間通信での誤りについて
1−3 衛星間光通信について内外の研究動向について
1−4 次世代データ中継衛星の光通信部分に関して
1−5 今後の光衛星間通信の見通しについて
1−6 国際標準仕様の策定について

●評価項目3(効率性)に関連する質問

3−1 OICETS(オイセッツ)の実験計画について

●評価項目1(成果)に関連する質問

【質問番号 1−1】「だいち」に搭載された通信機器について

【質問内容】

 光衛星間通信機器は、口径26センチメートル、質量150キログラム、速度50Mbps(メガビットパーセカンド)とあるが、「だいち」に搭載された機器の質量、情報速度はどの程度か。

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 17ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 「だいち」に搭載された通信機器は以下の通りです。

  • 機器の質量:157.1キログラム
  • アンテナ口径:135センチメートル
  • データ伝送速度:278Mbps(メガビットパーセカンド)(「だいち」と「こだま」の衛星間通信)

 OICETS(オイセッツ)は共同実験として、ARTEMIS(アルテミス)で設定した2〜50Mbps(メガビットパーセカンド)規格を採用したため、現時点でKaバンドにより実現されている通信速度に比べて低くなっています。また、OICETS(オイセッツ)に搭載された光衛星間通信機器の質量は、「だいち」とほとんど差はありませんが、OICETS(オイセッツ)では実験衛星ということでマージンを十分にもたせた設計としました。軌道上の通信結果より、光アンテナには十分にマージンがあることが確認されたため、小型・軽量化は可能と考えております。
 OICETS(オイセッツ)で獲得した要素技術に地上の光通信技術を盛り込むことで、次世代の光衛星間通信機器では、アンテナ口径10〜15センチメートル、質量50キログラム、通信速度2.5Gbps(ギガビットパーセカンド)といった小型大容量化を目標に研究を継続しています。

【質問番号 1−2】光衛星間通信での誤りについて

【質問内容】

 光衛星間通信での誤りの発生について2件質問があります。

(1)BERの大幅な改善

 2005年12月9日の実験データでは1かける10^5個毎秒の誤りがあったが、2006年2月9日以降大幅に改善されている。どのような対策を施したのか。

(2)周期的に発生する誤りの原因推定

 50/150秒間隔で周期的な誤りの発生が見受けられる。衛星姿勢制御、リアクションホイール動作、などを含め原因究明はどの様な状況か。
 補足:工学的な視点では実用上問題ないが、その周期性が気になった。

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 別紙13ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

(1)BERの大幅な改善について
「きらり」が送信するレーザ光

 軌道上での実験において、「きらり」の出射レーザ光の指向バイアス補正実験を実施しております。本実験は,「きらり」の送信レーザ光にオフセット角をスパイラル状に与え,ARTEMIS(アルテミス)の受光電力の変化を測定した結果から得られた強度分布を評価し,指向バイアス誤差を推定・補正する実験です。この実験により得られた補正角はマイナスX軸方向2.5μrad(マイクロラジアン),プラスY軸方向に1.8μrad(マイクロラジアン)であり、「別紙 補足資料」P13に示しているのは、指向バイアス補正により、ARTEMIS(アルテミス)の受光電力の増加と安定化により、ビット誤りが改善した結果です。下図に補正前後のARTEMIS(アルテミス)の受光電力の測定結果を示します。

(2)周期的に発生する誤りの原因推定

 ビット誤りの発生とその周期については、衛星の姿勢制御系、捕捉追尾系の動作も含めて検証しましたが、明確な原因は得ておりません。

【質問番号 1−3】衛星間光通信について内外の研究動向について

【質問内容】

 平成14,15年の打上げを予定していたが約3年打上げが延期された。この間、衛星間光通信について内外の研究動向に変化はなかったのか。
 また、現時点で2〜50Mbps(メガビットパーセカンド)の衛星間光通信は世界のトップレベルにある技術と考えて良いのか。TerraSARでの実験概要を知りたい。

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 14、24ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 衛星間光通信衛星は、ARTEMIS(アルテミス),SPOT-4,OICETS(オイセッツ)(この3つの衛星は同じ通信方式)であり、打ち上げ延期の期間に研究動向の変化はなかったと考えます。OICETS(オイセッツ)とARTEMIS(アルテミス)との光衛星間通信は双方向通信であり、現時点では唯一のものです。(ARTEMIS(アルテミス)/SPOT-4は一方向通信)
 TerraSAR-Xはドイツの地球観測衛星で、2007年6月15日に打ち上げられました。TerraSAR-Xに搭載されているLCT(Laser Communication Terminal)は、衛星と地上局間の光通信実験を行うもので、その伝送速度は5.6Gbps(ギガビットパーセカンド)です。
 現時点では、衛星−地上間の通信実験において捕捉追尾に成功したものの、データ伝送には至っていないと公表されています。また将来的に別の地球周回衛星との間で光衛星間通信実験を行う計画も示されています。

【質問番号 1−4】次世代データ中継衛星の光通信部分に関して

【質問内容】

 「きらり」は周回衛星、ARTEMIS(アルテミス)は静止軌道衛星と、実験には非対称性がありました。次世代データ中継衛星をわが国として考えていくに当たっては、ARTEMIS(アルテミス)が担った光通信機能のための技術も必要になるわけですが、「きらり」の実験で、それらも併せて修得できたと考えていいのでしょうか。残っている部分はありませんか。

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 5、7、23ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 ご指摘のとおり、静止衛星搭載用と周回衛星搭載用では必要な技術は若干異なります。ARTEMIS(アルテミス)が担った光衛星間通信のための技術のうち、「きらり」で習得できなかった技術は、光衛星間通信の相手方を探して回線を成立させるための、1高出力ビーコン光源と2ビーコン光を広範囲に走査する機構になります。従って、次世代データ中継衛星(静止衛星)に向けては、この2点が開発課題として残っていますが、OICETS(オイセッツ)で獲得した技術の延長線上にあるもとの考えています。

【質問番号 1−5】今後の光衛星間通信の見通しについて

【質問内容】

 最近Kaバンド衛星の実用化が進んでいますが、Kaバンドの次のステップは光通信と理解してよいのでしょうか?光通信のメリット(データ伝送量、Security等)を生かした実用見通しはどのように考えていますか。23ページに示されている将来像は余り現実的では無いのでは?ビームが絞れるなら深宇宙の高速通信等には使えないか?またOICETS(オイセッツ)/ARTEMIS(アルテミス)の成果をいかした国際標準化への動きは具体化していますか?

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 22、23ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 現在「だいち」から「こだま」にKaバンドにより278Mbps(メガビットパーセカンド)でデータ伝送を実現していますが、今後の地球観測衛星では、より高分解能な観測と大容量のデータ伝送が求められることから、光衛星間通信はそのための有力な手段となりうると考えています。加えて、高速データ伝送、非干渉性といった光通信の特性を生かすことにより、同時に複数の衛星を運用することが可能になります。次世代のデータ中継衛星として光通信は有力な候補と考えておりますが、光通信単独にするかKaバンドと併用するかは今後さらに検討を進める必要があります。
 深宇宙の高速通信の利用も考えられますが、我が国では現段階で具体的な計画はありません。

 国際標準化への動きについては、質問1−6の回答を参照してください。

【質問番号 1−6】国際標準仕様の策定について

【質問内容】

 「今後の光通信分野における国際的なイニシアチブ」の項に、国際的標準仕様の策定が例として挙げられています。現在、国際標準仕様の策定は、国際的に、どのような状況にあるのでしょうか。また、今後、どのように進んでいくと見通されますか。

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 22ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 現況としましては、国際電気通信連合(ITU)Radiocommunication Sector (ITU-R)の第7研究部会(Study Group 7)において、自由空間における光通信の共用検討ための勧告文書が議論されております。
 JAXA(ジャクサ)からは、2006年以降、同研究部会に対し、OICETS(オイセッツ)/ARTEMIS(アルテミス)の光通信仕様をベースにしたITU勧告文書案を総務省を通じて提出し、その後、同文書が勧告文書の形でITUから配付されております。
 空間光通信(にて適用する周波数)については、現状、無線通信規則における分配の範疇外となっていますが、この様に、国際標準仕様に対する議論が活発化しており、また、昨年の2007年世界無線通信会議(WRC-07)におきましては、ITU-R研究部会の成果を基に、空間光通信の利用手続きを検討していくことが、次のWRC-11会議の議題として、採択されており、国際標準仕様が策定されていくと考えています。
 また、日ESA(イサ)会合においても標準仕様について引続き連携を取っています。

●評価項目3(効率性)に関連する質問

【質問番号 3−1】OICETS(オイセッツ)の実験計画について

【質問内容】

 ARTEMIS(アルテミス)との共同研究であるのにARTEMIS(アルテミス)が打ちあがった時点でOICETS(オイセッツ)は未だ完成しておらず、またARTEMIS(アルテミス)静止化が完了して実験が出来る段階になった後2年後に打上げと言うのは共同実験としては不自然に思われますが、その理由は何ですか?
 更に1年間で計画していた実験は全て終了したと言うことでOICETS(オイセッツ)は本来の目的からは既に不要となったと言うことでしょうか?或いは後期段階運用ではどのような作業が行われ、またどのような成果が期待できるのでしょうか?

【資料の該当箇所】

 推進3−3−3 10、12ページ

【回答者】

 JAXA(ジャクサ)

【回答内容】

 OICETS(オイセッツ)の設計寿命は軌道上1年と規定されていたため、ARTEMIS(アルテミス)が打ちあがった平成13年7月時点では、ARTEMIS(アルテミス)軌道上初期チェックアウトが終了する平成13年度冬期にOICETS(オイセッツ)を打ち上げる計画で開発を進めており、平成13年度末に衛星開発が終了しました。しかしながら、ARTEMIS(アルテミス)の静止衛星軌道投入の大幅遅延が明らかになったため、平成13年8月の宇宙開発委員会にて、当面OICETS(オイセッツ)の打上げを見合わせることとなりました。
 ARTEMIS(アルテミス)静止化の見通しが立った平成14年8月に、平成17年度打ち上げを目標とした見直し要望を提案しました。平成16年12月の宇宙開発委員会にて、平成17年度の打上げを目指すことが了承されました。これにより共同実験の実施はARTEMIS(アルテミス)静止化から2年後となりました。

 当初計画したOICETS(オイセッツ)の光衛星間通信実験は1年間で全て終了しました。本来の目的は達成しましたが、平成18年10月以降の後期利用段階においては、主に衛星バス機器の軌道上データ取得・評価を実施しております。推進部会資料:推進3-3-3「光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS(オイセッツ))プロジェクトに係る事後評価について」の18頁に記載しておりますが、機構部品であり、過去様々な不具合で出ているリアクションホイールの軌道上環境下における経年劣化データの取得・評価を継続して実施しております。
 また、同じく推進部会資料:推進3-3-3「光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS(オイセッツ))プロジェクトに係る事後評価について」の24頁に記載しておりますが、NICT及びDLRから光衛星間通信機器を用いた衛星と光地上局間の追加実験要望があり、平成18年3月、5月、6月及び9月に実施しました。これらの実験で得られた大気ゆらぎデータ等は、衛星と光地上局との通信の実現性に向けた対策や検討に貢献しました。

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