4.OICETS(オイセッツ)プロジェクトの事後評価結果

(1)成果

 成果についてはアウトプット(結果)、アウトカム(効果)、インパクト(波及効果)の3つに分類して評価を実施した。アウトプット(結果)は具体的にどのような結果が得られたか、プロジェクトの目標がどの程度まで達成されたのかという直接的成果であり、平成17年3月の第4回推進部会における事前評価で設定した、サクセスクライテリアの各項目について具体的にどのような結果が得られ、目標がどの程度達成できたのかを評価した。また、アウトカム(効果)はアウトプットからもたらされた効果・効用であり、プロジェクトの目的に照らした本質的内容についての成果とし、OICETS(オイセッツ)プロジェクトで得られた成果が、現時点でどの程度効果があるのかについて評価した。更に、インパクト(波及効果)は意図していた範囲を越えた、経済的、科学技術的、社会的影響としての間接的成果であり、現時点で注目しておくべき事項について必要に応じて評価した。

<アウトプット(結果)>

 衛星間通信に先立ちシリウス等の恒星及び火星・木星を目標の精度で捕捉・追尾し、その後ARTEMIS(アルテミス)との双方向光衛星間通信実験を行い、フルサクセス基準である捕捉追尾シーケンス等の光衛星間通信の要素技術を実証した。さらに、100回以上のARTEMIS(アルテミス)との光衛星間通信を実施し、統計的データを取得すると共に、1年間を超える運用において光学系素子の長期的な変動特性を観測し、劣化傾向が無いことを確認した。また、衛星微小振動を計測し、捕捉・追尾特性に大きな影響を与えないことを確認した。
 上記のように、ミニマムサクセス、フルサクセス、エクストラサクセスまでの全ての評価基準を達成し、特に衛星間光通信で重要となる高精度の捕捉追尾シーケンスの確立や、目標としていたポインティング精度、追尾精度等を実証することで、この分野での我が国の技術力の高さを内外に示すことができ、十分に目標を達成していると判断できる。

判定:妥当

<アウトカム(効果)>

 OICETS(オイセッツ)プロジェクトにより、光衛星間通信の要素技術について、統計処理が可能なレベルまでデータを取得し、宇宙軌道上で実証することができた。この要素技術をベースに、現在の地上における光通信技術を反映することで、次世代の光衛星間通信機器として小型、大容量化を実現することが可能となると期待される。
 また、衛星バス機器の軌道上データを2年半にわたり取得したことで、リアクションホイール等、今後の衛星開発に寄与することが可能となると共に、衛星の擾乱管理技術や、コンタミネーション管理技術、電波による高速Sバンド通信方式等他衛星へ応用可能な技術を取得できた。
 更に、国際電気通信連合(ITU)において、JAXA(ジャクサ)から自由空間における光通信の共用検討のための勧告文書案を提示し、その文書がITUからの勧告文書として配付される等、光衛星間通信分野において国際的に主導的な立場に立っている。
 以上のように、光衛星間通信に必要な基盤技術を確立し、今後の小型化・大容量化の見通しをつけることができており、目的に見合う成果を得たものと判断する。
 今回の貴重な実証実験の成果は、次世代通信衛星の開発に繋がることでその意義を高めるものであり、そのためにも成果や更に改善を要する点を形式知として整理し、次なるプロジェクト及び衛星に生かす努力を期待したい。

判定:妥当

<インパクト(波及効果)>

 追加実験として衛星―地上間の光通信実験を、独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。)と共同で実施し、世界で初めて低高度周回衛星と地上間の光通信実験に成功した。その結果、大気ゆらぎの評価及び通信ビット誤り率の評価を行えるデータを取得した。将来的には人工衛星から大量のデータを地上に送信するニーズが出てくると考えられることから、今後も大気による減衰・ゆらぎの影響など、実用化に向けた課題について検討を継続するべきである。
 なお、今回実証した高精度の追尾精度を応用することにより、現在の衛星による測地・測位の精度を大幅に向上させる可能性があり、地殻変動等、地表面の変化の測定などへの応用も考えられる。

(2)成否の原因に対する分析

 プロジェクトの成否の原因として、円滑な国際共同開発と、様々な外的環境に適切に対応したプロジェクト管理が挙げられる。国際共同開発においてはJAXA(ジャクサ)とESA(イサ)が共同で設定した技術仕様(光衛星間通信インタフェース文書)に基づき、両機関が独自に衛星及び光衛星間通信機器を開発した初めてのケースとなった。最終的なEnd to End試験として、OICETS(オイセッツ)打上げ前に光通信機器の地上試験モデルと静止衛星軌道上のARTEMIS(アルテミス)との間で、光通信実験を実施して適合性を確認してリスクを減らすことができ、適切に国際共同開発がなされたものと評価できる。
 また、光衛星間通信は、前例の無い難度の高いものであったため、光衛星間通信機器の開発が難航したが、適切に技術課題を抽出し外部有識者の支援も得ることで、開発を遂行することができた。
 さらにARTEMIS(アルテミス)の静止衛星軌道への大幅遅延に対応し、想定を超えた保管期間に対処するため、定期的なシステムレベル試験や長納期の寿命切れ部品の交換を行う等により信頼性の維持を図ることができた。
 その後、ARTEMIS(アルテミス)の静止化に伴い、短期間でプロジェクトの再立ち上げと打上げ準備を実施することになったが、開発担当者のみならず、他衛星開発経験者および打上げ経験者を結集し、さらに有識者の参加を得てプロジェクト点検を実施する等、適切なプロジェクトマネジメントを実施することにより、成功に結びついたと評価される。

判定:妥当

(3)効率性

 効率性の評価は、プロジェクトの効率性と実施体制の2つの観点から行った。

<プロジェクトの効率性>

 技術開発項目の多いミッション機器については、段階を踏んだ試験の実施など確実な開発を期する中で、国内研究機関や大学との連携を図り、バス機器については、既存技術を極力活用することにより、開発試験の効率化を図ることで、経費を極力抑えることができている。
 また、国際共同研究として、衛星間通信実験の相手方となるARTEMIS(アルテミス)が静止軌道上にいる機会を得て実験することで、静止衛星の開発や打上げにかかる費用の負担、更に地上系の準備等を軽減することができ、少ない投資による効率的な成果を得ることができた。打ち上げ遅延・再開によって追加分が発生しているが、この追加分はやむを得ないものと認められる。

判定:妥当

<プロジェクトの実施体制>

 開発にあたり、JAXA(ジャクサ)のみならず国内研究機関・大学と連携し、わが国のリソースを効果的に有効に活用した。また、衛星保管時には大幅に縮小したプロジェクト体制とし、打上げに向けたプロジェクトの再立ち上げ時に、開発担当者のみならず、他衛星開発経験者および打上げ経験者を結集したプロジェクト体制とするなど、プロジェクトの状況に応じて効率的に体制を変化させることにより、最終的な成果につながったものと評価できる。

判定:妥当

(4)総合評価

 OICETS(オイセッツ)プロジェクトは、大容量観測データの伝送を可能とする高速光衛星間通信回線の実現を目指し、光衛星間通信技術の実証プロジェクトとして位置付けられたプロジェクトである。ESA(イサ)のARTEMIS(アルテミス)との間で捕捉・追尾・指向技術や双方向光衛星間通信等、設定された目標を十分に達成し、今後の光衛星間通信に必要な基盤技術を確立するという目的に見合う成果を上げることができた。本プロジェクトは、開発時点での技術的課題、ARTEMIS(アルテミス)の遅延による保管、短期間での再立ち上げという様々な状況に、フレキシブルな開発体制の設定や、適切な国際共同開発等により、効率よく対応することができた。
 今後、光衛星間通信が実利用上必要となる状況に備え、今回OICETS(オイセッツ)で得られた成果をきちんと整理、保持することが重要である。また、本成果を今後のデータ中継衛星等へどのように生かしていくのか、更には将来の地球観測衛星等の衛星間通信の開発をどうするのか、今後検討が深められることを期待する。

判定:期待通り

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