4.BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトJAXA(ジャクサ)担当分の事前評価結果

(1)目的(意義の確認)

 BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトは、水星の磁場・磁気圏・内部・表層を観測し、太陽系内縁部における初期惑星形成に係わる水星の起源と進化の解明を目指すと共に、惑星の磁場・磁気圏の普遍性や特異性の解明を目指すことを目的としている。その中でJAXA(ジャクサ)が担当するMMOでは、水星固有磁場の成因、特異な磁気圏の解明、希薄大気の生成・消滅過程、太陽風との相互作用の観測を目的としている。
 このMMOの目的は、日本の得意とする磁気圏探査を中心に設定されており、大きな成果が期待できる。水星周辺の磁場を高い精度で計測することで、水星の内部構造と進化の理解を進めることができる。また、水星の特異な磁気圏の解明により、地球との比較による惑星磁気圏の普遍性と、水星磁気圏の特異性の解明が期待される。さらに、ナトリウムを主成分とする激しく変動する希薄な大気の生成・消滅過程を観測することにより、水星大気の放出・散逸機構の解明を目指すと共に、惑星間空間の観測により、太陽風、磁気圏、表面観測との相互作用を解明し、惑星間環境の理解が増進することが期待される。これらに加え、ESA(イサ)が担当するMPOと共同観測することにより、1機では困難な水星の固有磁場の成因の解明、磁気圏の現象に対する水星本体の役割の解明を目指すことができ、太陽系探査科学において重要な科学的意義を持つものと考えられる。
 また、水星周回軌道の厳しい高温・高放射線環境で1年間の高性能観測を実現するための技術開発により、今後の太陽系探査における到達可能・計測可能な領域を拡大することに貢献し、技術的意義も大きい。
 さらに、宇宙科学における日欧国際共同プロジェクトの推進によって、国際社会における日本の科学技術力を大きくアピールできると共に、日本国民からの強い関心に応えることも社会的意義として認められ、有意義なプロジェクトである。
 一方、メッセンジャー衛星により予想される科学成果は、BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトが目指す成果を、より充実させる可能性があるものと期待され、ミッションの意義を減じるものではない。
 以上により、BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトのJAXA(ジャクサ)担当分の目的は、地球型惑星の磁場・磁気圏の知見に大きな飛躍をもたらすものと考えられ、「我が国における宇宙開発利用の基本戦略」及び「宇宙開発に関する長期的な計画」に規定された宇宙開発利用の意義、目標及び方針等を踏まえ、的確に具体化されている。

(2)目標

 JAXA(ジャクサ)が担当するMMOでは、磁場、磁気圏、希薄大気、衝撃波について目標が明確に設定されている。成功基準については、観測の具体的な目標がミニマムサクセス、フルサクセス、エクストラサクセスとして段階的に記述され、目標とする観測期間が水星の公転周期との関連で設定され、可能な範囲での定量的検討に基づき、予測される現象を解明するのに十分と思われる精度で計測精度、時間間隔が設定されている。これらの目標は、前項の目的に照らして十分に意欲的であり、プロジェクトの達成度を客観的に判断できるものとなっている。
 なお、内部起源・外部起源の磁場の分離や内部構造の推定等のBepiColombo(ベッピコロンボ)計画全体の目標は、ESA(イサ)が担当するMPOの成果と相まって達成されるものであるためエクストラサクセスとして設定されているが、プロジェクトチームとしてはこれら共同観測により得られる成果についても、BepiColombo(ベッピコロンボ)計画全体の目標の中心をなすものと認識し、ESA(イサ)との共同開発において高い意識で取り組むことが望まれる。
 以上により、プロジェクトの目標は、設定された目的に照らし的確であると判断する。
 なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

(3)開発方針

 開発方針については、過去の開発経験を継承した信頼性の向上、世界最高レベルの観測装置の開発、研究者とメーカーが緊密に協力する旧宇宙科学研究所の伝統的な開発方式の維持、我が国初の本格的国際共同惑星探査ミッションとしての確実な開発等が示されている。
 これらは、地球磁気圏観測衛星(GEOTAIL)などこれまでの地球電磁気学衛星の経験を継承し、開発リスクを低減する一方、観測装置については国内外の研究機関でそれぞれ得意な機器を分担開発する体制となっており、ミッションの目的達成及び信頼性向上の点で有効な方針であり、開発に当たっての基本的な事項をまとめたものとなっている。
 なお、本プロジェクトの成否はESA(イサ)との十分な連携に大きくよるものである。情報の共有の努力は行われているが、さらにいっそうの緊密な連携を期待する。

(4)システム選定及び設計要求

 システム選定及び基本設計に当たっては、技術の成熟度の分析を踏まえ、高温耐性、観測性能向上、小型軽量化や将来に向けての標準化の観点から、高利得アンテナ、トランスポンダー、スペースワイヤー、熱制御系等の新規開発品や、高効率太陽電池、スピン分離機構等の改良品を選定している。これらは、いずれもフロントローディングにより実現性が確認されており、十分な見通しが得られているものと認められる。さらに科学観測機器については国際公募の結果として選定され、日本担当の観測機器については、十分な実績を踏まえた上で、観測性能向上のための改良を図ったものとなっており、成熟度は高いと見なされる。
 以上より、システムの選定及び基本設計は、設定された目標の達成に対し、的確であると判断される。

(5)開発計画(スケジュール、資金計画、実施体制及び設備の整備計画等)

 開発スケジュールについては、ESA(イサ)側の予算プロファイルの問題から、打上げ年度を当初計画の平成22年度から平成24年度に変更し、更に質量・コストの制約によるESA(イサ)側スケジュール遅延に伴い平成25年打上げ、平成31年到着に変更している。このBepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトは日欧国際共同プロジェクトであり、これ以上の遅延を防ぐためにも、ESA(イサ)との円滑な共同推進体制の下に、レビューの時期や各試験用のモデルの搬入時期について遅れの発生しないようにきちんとした管理が必要である。
 資金計画については、JAXA(ジャクサ)が負担する衛星開発費と運用費で約150億円を目標としており、諸外国の惑星探査機との資金計画の比較からも、資金計画は概ね妥当といえる。
 実施体制については、プロジェクトマネージャを中心とした責任体制とJAXA(ジャクサ)内の技術支援体制、国内の大学及び研究機関の研究者の参加、MPOを計画するESA(イサ)との協力等が示されており、明確な体制が構築されている。なお、開発に不慣れな研究者や大学院生等が実務を行う場合でも問題が生じないように留意が必要である。
 以上により、開発計画については、特段の問題は認められず、スケジュール、資金計画、実施体制等は概ね妥当であると判断する。
 なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

(6)リスク管理

 リスク管理計画として「MMOリスクマネジメント計画書」をまとめ、これに基づきリスク管理を行うこととしている。開発研究移行段階で識別された熱環境や水星周回軌道投入までの経年変化、遠距離に起因する通信リンクの喪失等のリスクに対しては、影響する部分の設計の見直しや冗長設計の採用、試験等のフロントローディングによりリスクを低減することができている。
 またMMOは、ESA(イサ)の責任の下にESA(イサ)の開発するMPO・MTM(電気推進モジュール)・サンシールドと結合した状態で、打上げ・巡航軌道運用・水星周回軌道投入等のフェーズを経て、MMOの軌道へ移行した後に分離されるため、ESA(イサ)とのインタフェースにリスクが想定される。これらのリスクについてはESA(イサ)側との密接な情報交換を実施し、設計・試験・運用においてダメージを最小とするように対策が採られている。
 以上よりリスク管理の手法及び抽出されたリスクは適切に計画され、処置されていると認められる。
 なお、今後に向けた助言は、以下のとおりである。

(7)総合評価

 BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトは、我が国初の日欧共同探査計画として、水星の磁場・磁気圏・内部・表層にわたる総合観測で水星の現在と過去を明らかにする極めて意欲的な計画である。その中でJAXA(ジャクサ)は、日本の得意な分野である磁場・磁気圏の分野の探査機を担当し、水星の固有磁場の成因の解明や磁気圏の現象に対する水星本体の役割の解明を目指している。これにより惑星の磁場・磁気圏の知見に大きな飛躍をもたらすことができ、太陽系に関する根源的な知識・知見を獲得し、知の創造に大きく貢献するものである。
 推進部会は、今回のBepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトJAXA(ジャクサ)担当分における「開発」への移行のための評価において、プロジェクトの目的、目標、開発方針、システム選定及び設計要求、開発計画及びリスク管理について審議を行い、現段階までの計画は、具体的かつ的確であると判断した。
 以上を踏まえ、推進部会としては、BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトJAXA(ジャクサ)担当分が平成20年度から「開発」に移行することは妥当であると評価する。
 なお、今回の評価においては、BepiColombo(ベッピコロンボ)プロジェクトの目標について、現時点では妥当なものと判断しているが、先行するメッセンジャー衛星の成果を踏まえ、必要に応じ適切に見直す柔軟性が求められた。また、内部起源・外部起源の磁場の分離や内部構造の推定等のBepiColombo(ベッピコロンボ)計画全体の目標は、本計画の中心をなすものであり、JAXA(ジャクサ)としてもその達成に向けてESA(イサ)との共同開発に高い意識で取り組むことが望まれる。さらに、本プロジェクトは長期にわたるのでサイエンスチームの世代交代を含めた維持・充実に特段の注意が必要であるとの提言があった。JAXA(ジャクサ)においては、これらの助言について今後適切な対応がなされることを望む。

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